生活保護制度の概要 生活保護制度の概要 1 生活保護制度の目的 ○ 最低生活の保障 ⇒ 資産、能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する者に対し、困窮の程度に応じた保護を実施 ○ 自立の助長 最低生活の保障 ① 資産、能力等をすべて活用することが保護の前提 ・不動産、自動車、預貯金等の資産 ・稼働能力の活用 ・扶養義務者からの扶養 ・年金、手当等の社会保障給付 等 ◇保護の開始時に調査 (預貯金、扶養義務者の状況及び扶養能力、年金、手当 等の額、傷病の状況等を踏まえた就労の可否等) ◇保護適用後にも届出を義務付け ② 支給される保護費の額 ・厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費から収入を差し引いた差額を保護費として支給 最 低 生 活 年金等の収入 費 収入としては、就労による収入、年金等社会保障の給付、親族に よる援助等を認定。 預貯金、保険の払戻し金、不動産等の資産の売却収入等も認定 するため、これらを使い尽くした後に初めて保護適用となる。 支給される保護費 自立の助長 ・世帯の実態に応じて、年数回の訪問調査 ・就労の可能性のある者への就労指導、病院入院者の在宅への復帰促進 等 1 2 生活保護基準の内容 生活保護基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要 な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでな ければならない。(生活保護法第8条第2項) 生活を営む上で生じる費用 対応する 扶助の種類 支 給 内 容 生活扶助 基準額は、 ①食費等の個人的費用(年齢別に算定)と ②光熱水費等の世帯共通的費用(世帯人員別に算定) を合算して算出。 なお、特定の世帯については加算が上乗せされる。 → 母子加算、障害者加算等 アパート等の家賃 住宅扶助 定められた範囲内で実費を支給 義務教育を受けるために必要な学用品費 教育扶助 定められた基準額を支給 医療サービスの費用 医療扶助 費用は直接医療機関へ支払(本人負担なし) 介護サービスの費用 介護扶助 費用は直接介護事業者へ支払(本人負担なし) 出産費用 出産扶助 定められた範囲内で実費を支給 就労に必要な技能の修得等にかかる費用 生業扶助 〃 葬祭費用 葬祭扶助 〃 日常生活に必要な費用 (食費・被服費・光熱水費等) 2 3 生活扶助基準の例 (平成18年度) 東京都区部等 標準3人世帯(33歳、29歳、4歳)※ 地方郡部等 167,170円 130,680円 80,820円 62,640円 高齢者夫婦世帯(68歳、65歳) 121,940円 94,500円 母子世帯(30歳、4歳、2歳)※ 177,900円 142,300円 高齢者単身世帯(68歳) ※母子加算、児童養育加算含む。 4 生活保護の手続 事前の相談 ・生活保護制度の説明 ・生活福祉資金、障害者施策等 各種の社会保障施策活用の 可否の検討 保護の申請 ・預貯金、保険、不動産等の資産調査 ・扶養義務者による扶養の可否の調査 ・年金等の社会保障給付、就労収入等 の調査 ・就労の可能性の調査 保護費の支給 ・最低生活費から収入を引いた額を支給 ・世帯の実態に応じて、年数回の訪問調査 ・収入・資産等の届出を義務付け、定期的に 課税台帳との照合を実施 ・就労の可能性のある者への就労指導 5 保護の実施機関と費用負担 ○ 都道府県(町村部)・市(市部)が実施。 ○ 都道府県・市は、福祉事務所を設置し、被保護世帯に対して担当のケースワーカーを設定。 ○ 保護費については、国が3/4、地方自治体が1/4を負担。 3 6 生活扶助基準額算出方法 -東京都区部等に在住する母子世帯(母30歳、子2人〔4歳、2歳〕)の場合- 【生活扶助基準額=①+②+③】 ① 生活扶助基準(第1類費) ② 生活扶助基準(第2類費) + 第1類費:食費・被服費等個人単位に係る経費 年齢階層別・級地別に基準額を設定 第2類費:光熱費・家具什器等の世帯単位の経費 冬季(11月~翌年3月)には地区別に 冬季加算が別途計上 この世帯の場合、 40,270円(30歳)+26,350円(4歳)+20,900円(2歳) =87,520円 この世帯の場合、3人世帯であるため、 53,290円 年齢 1 級 地 2 級 地 (単位:円) 3 級 地 (単位:円) 1 級 地 2 級 地 3 級 地 人員 1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2 0~ 2 20,900 19,960 19,020 18,080 17,140 16,200 1人 43,430 41,480 39,520 37,570 35,610 33,660 3~ 5 26,350 25,160 23,980 22,790 21,610 20,420 2人 48,070 45,910 43,740 41,580 39,420 37,250 6 ~ 11 34,070 32,540 31,000 29,470 27,940 26,400 3人 53,290 50,890 48,490 46,100 43,700 41,300 12 ~ 19 42,080 40,190 38,290 36,400 34,510 32,610 4人 55,160 52,680 50,200 47,710 45,230 42,750 20 ~ 40 40,270 38,460 36,650 34,830 33,020 31,210 41 ~ 59 38,180 36,460 34,740 33,030 31,310 29,590 60 ~ 69 36,100 34,480 32,850 31,230 29,600 27,980 5人以上 1人を増す ごとに加算 する額 32,340 31,120 29,430 28,300 26,520 25,510 世帯構成員の数が、 4人の世帯の場合:第1類費の個人別の額を合算した額×0.96 5人以上の世帯の場合:第1類費の個人別の額を合算した額×0.93 440 440 400 400 = 生活扶助基準額 この世帯の場合、母子加算+児童養育加算 175,910円 =25,100円(児童2人)+5,000円×2(4歳、2歳) =35,100円 1級地-1 70 ~ ③ 加 算 額 + 360 加算できる対象 障 害 者 360 ①級地別に入院患者等を除いたすべての世帯員を合計 ②冬季(11月~翌年3月)には地区別に冬季加算が別途計上 ひ と り 親 世 帯 (単位:円) 加 算 額 1級地 2級地 3級地 身体障害者障害 程度等級表の1・ 2級に該当する 者等 26,850 24,970 23,100 身体障害者障害 程度等級表の3 級に該当する者 等 17,890 16,650 15,400 児童1人の場合 23,260 21,640 20,020 児童2人の場合 25,100 23,360 21,630 940 870 800 3人以上の児童 1人につき加える 額 (単位:円) 児 童 養 育 加 算 第1子及び第2子 小学校第6学年修了 前の児童 5,000 第3子以降 小学校第6学年修了 前の児童 10,000 ①該当者がいるときだけその分を加算 ②入院患者、施設入所者は別の基準 ③このほか、「妊婦・産婦」などがいる場合は、別途、妊婦加算等あり 4 7 保護費支給額の算定 ○ 保護費支給額 保護費支給額 = ○ 最低生活費 最低生活費 最低生活費 - 収入認定額 ※ 各扶助は、世帯の実状に応じ、必要がある場合に算定 = 生活扶助 + 住宅扶助 + 教育扶助 + 医療扶助 + 介護扶助 + 出産扶助 + 生業扶助 + 葬祭扶助 = 勤労収入 + その他収入 + ○ 収入認定額 収入認定額 ・超過勤務手当、通 勤手当等含む(勤労 控除後※) 扶養義務者からの扶養 ・児童扶養手当、年 金等の社会保障給 付 ※ 勤労収入がある場合の収入認定額の算定方法 勤労収入 - 勤労控除額 - 実費控除額 ・社会保険料や通勤費等 (勤労収入がある世帯の平均額) 65,830円 - 22,445円 - 4,863円 = 38,522円 平成16年 被保護者全国一斉調査 ○ 勤労控除の趣旨 ①勤労に伴う必要経費を補填 勤労収入を得るためには、勤労に伴って被服費や知識・教養の向上等のための経費が必要となることから、 勤労収入のうちの一定額を控除する。控除額は収入額により異なる(収入額8,340円までは全額控除)。 ②勤労意欲の増進・自立助長 5 生活保護と公的年金の役割の違い 生活保護 老齢基礎年金 機能 最低生活の保障(救貧) 対象者 限定的(資産・能力を活用しても 普遍的 なお生活に困窮する者) ・厳格な所得・資産調査あり ・所得・資産調査なし ・預貯金の保有認めず (自動車等) ・資産の保有認めず 給付水準の考え方 ・最低生活を保障する水準 (この水準内で生活を営む) ・地域差あり 稼得能力の減退を補填し、老後の 生活の安定を図る(防貧) ・現役時代に構築した生活基盤や 老後の備えと合わせて自立した 生活を可能とする水準 ・全国一律 実際の給付額 保護基準と世帯の収入の差額 (実績:保護基準の約7割) 一律(世帯の収入と無関係) 財源 全額公費(国 3/4、自治体 1/4) 保 険 料 及 び 公 費 ( 国 約 35.8 % (H18) ) 受給者の義務等 福祉事務所の指導・指示を受ける なし ・収入申告の義務 受給者数(H16 年度) 65歳以上の受給者 ※ 53 万人 65歳以上の受給者(※)2,355 万人 老齢基礎年金受給権者数には、老齢基礎年金のほか、旧法による老齢年金受給権者等、60 歳以上の基礎年金繰上げ受給者等を含む。 一方、老齢年金は受給していないが、遺族年金、障害年金、老齢福祉年金、恩給等を受給している者は含まれていない。 13 基礎年金と生活扶助基準額 高齢単身者(65歳) 高齢者夫婦(夫・妻とも65歳) 132,016円 121,940円 (1級地-1) ~ 94,500円 (3級地-2) 80,820円 (1級地-1) ~ 66,008円 62,640円 (3級地-2) 生活扶助基準 基礎年金 生活扶助基準 基礎年金 (平成18年度) (平成18年度) (平成18年度) (平成18年度) 14 生活保護の現状 被 保 護 世 帯 数 、 被 保 護 人 員 、 保 護 率 の 年 次 推 移 260 25 250 24 24.2 240 23 230 22 220 210 平成16年度 1,423,388 人 11.1 ‰ 998,887 世帯 21.6 2,046,646 200 被 保 護 世 帯 ( 世 帯 ) ・ 被 保 護 人 員 ( 人 ) 21 20 19 190 180 18 1,929,408 17.4 17 170 16.3 保 被保護人員 160 16 護 1,627,509 1,598,821 150 1.426,984 1,423,388 ‰ 1,431,117 140 14 ) 1,344,306 1,349,230 保 130 12.1 13.0 120 神 岩 武 戸 100 景 景 90 気 気 110 29 ~ 32 80 70 率 ( 15 1,469,457 699,662 景オ リ ン ピ ッ 気ク 33 ~ 35 45 54 661,036 50 30 資料:福祉行政報告例 ~ 746,997 643,905 611,456 40 12.2 第 2 次 石 油 危 機 第 1 次 石 油 危 機 48 ~ 49 60 昭和26年度 ~ 12.2 13 率 12 11.8 イ ザ ナ ギ 景 気 37 ~ 39 40 護 707,514 658,277 11.1 11 1,014,842 平 成 景 気 61 58 ~ 780,507 789,602 被保護世帯 882,229 3 7.2 8.2 60 998,887 9 8 7.0 7 585,972 623,755 50 10 898,499 6 601,925 平成 7 16 5 6 世帯類型別の保護世帯数と世帯保護率の推移 万世帯 保護率(‰) 120 240.0 その他世帯数 傷病・障害者世帯数 母子世帯数 高齢者世帯数 その他世帯保護率 母子世帯保護率 高齢者世帯保護率 世帯保護率(全世帯) 100 80 200.0 160.0 60 120.0 40 80.0 20 40.0 0 0.0 昭和55 56 57 58 59 60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 年度 7 被保護人員数等の前年同月比の推移 対前年同月比(%) 140.0 平成1 5 年9 月 被保護人員数の 対前年同月比 ピーク(108.6) 130.0 平成8年5月 被保護人員数増加 平成4年9月 開始人員数増加 120.0 平成18年3月現在 被保護人員数の 対前年同月比 (103.1) 110.0 100.0 90.0 80.0 70.0 60.0 昭和55 56 平成15年11月 開始人員数減少 被保護人員数 保護開始人員数 57 58 59 60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 年度 8 被保護人員の伸び率と失業率の推移 被保護人員対前年同月比(%) 失業率(%) 110.0 6.0 108.0 5.5 106.0 5.0 被保護人員対前年同月比 失業率(季節調整値) 104.0 4.5 102.0 4.0 100.0 3.5 98.0 3.0 96.0 2.5 94.0 2.0 92.0 1.5 90.0 昭和55 56 1.0 57 58 59 60 61 62 63 平成元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 年度 9 ○ 地域別保護率の比較 平成16年度 7年度 16年度 ‰ 全国 7-16 伸 び 7年度 ‰ 16年度 ‰ 7-16 伸 び ‰ 7.0 11.1 4.1 三重県 4.7 6.8 2.1 15.4 22.9 7.5 滋賀県 4.2 5.6 1.4 青森県 11.0 岩手県 5.2 宮城県 4.1 秋田県 7.0 山形県 3.4 福島県 4.0 茨城県 3.1 栃木県 3.1 群馬県 2.6 埼玉県 3.1 千葉県 3.2 東京都 8.1 神奈川県 5.7 新潟県 3.2 富山県 2.0 石川県 2.7 福井県 2.1 山梨県 2.2 長野県 2.3 岐阜県 2.0 静岡県 2.2 愛知県 3.4 15.3 7.3 7.3 10.6 4.2 6.8 5.2 6.0 4.1 6.9 7.1 14.9 11.1 5.2 2.2 4.3 2.6 3.7 3.1 3.0 4.0 5.7 4.3 2.1 3.2 3.6 0.8 2.8 2.1 2.9 1.5 3.8 3.9 6.8 5.4 2.0 0.2 1.6 0.5 1.5 0.8 1.0 1.8 2.3 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 鳥取県 島根県 岡山県 広島県 山口県 徳島県 香川県 愛媛県 高知県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県 14.3 11.4 7.9 7.8 7.3 6.1 4.5 6.9 6.3 7.8 11.3 7.4 7.8 15.3 16.4 5.8 10.8 7.5 9.4 8.5 10.5 12.9 18.3 23.2 13.7 10.6 10.5 7.5 5.2 9.7 11.0 10.5 13.7 9.3 10.2 19.9 18.1 6.7 14.5 8.2 12.6 11.1 13.8 14.5 4.0 11.8 5.8 2.8 3.2 1.4 0.7 2.8 4.7 2.7 2.4 1.9 2.4 4.6 1.7 0.9 3.7 0.7 3.2 2.6 3.3 1.6 北海道 資料:福祉行政報告例(平成16年度は速報値) 注:指定都市・中核市は都道府県に含む 日本(都道府県別) 13.8~23.2 (10) 10.5~13.8 (8) 6.9~10.5 (10) 5.6~6.9 (7) 2.1~5.6 (12) ○保護率の地域間格差は拡大傾向 平成16年度 最高 大阪府23.2‰ 10.5倍 最低 富山県2.2‰ 平成7年度 最高 福岡県16.4‰ 8.2倍 最低 岐阜県2.0‰ 富山県2.0‰ 10 保護費の構図 (平成18年度) 保護費の総額及び扶助の種別等の構成 総額:2兆6,888億円 生活扶助 8,623億円 32.1% 住宅扶助 3,440億円 12.8% 医療扶助 1兆3,939億円 51.8% 介護 そ 扶助 の 他 592 294 億 億 円 円 2.2% 1.1% ※国庫負担額は上記の3/4である。 11 生活保護の経済学 阿部彩・國枝繁樹・鈴木亘・林正義「生活保護の経済分析」東京大 学出版会の第2章「公的扶助の経済理論Ⅰ:公的扶助と労働供給」 (國枝論文)に基づく。 貧困の罠(poverty trap ) • 消費と余暇の関数である (cは消費、lは余 暇)で規定され、個人は、自らの予算制約式 c w( L l ) A • (ここで、wは賃金水準、Lは個人の有する時 間全体(すなわちL-lは、労働時間に対応。) およびAは保有資産。)の下で、効用の最大 化を図る。 • 伝統的な公的扶助政策として実施されてきた のは、最低「所得」保障。 • 低所得者が自ら稼得した所得 w( L l ) が最低所得Gに不足する金額を、政府が給付 する。 • つまり、予算制約は、 c w( L l ) max( 0, G w( L l )) 消費 c C 無差別曲線 最低所 A B 得G O 労働時間 L-l 日本の場合には、先に触れた勤労控除という仕組みが あるが、限界税率は100%に近く、限りなくこの状況に 近い。 負の所得税(Negative Income Tax) ・ノーベル経済学者Friedman(1962) が提唱。 ・就労に対する深刻なディスインセンティブ効果 抑制する案。 ・貧困層への給付額を労働所得の増加幅より 少なめに減らし、労働所得と給付額の合計 額を労働所得の増加とともに漸増させる ・最近では、Atkinson (1995)が、「ベーシック・ インカム」構想と線型所得税と結びつけた一 種の負の所得税を、「ベーシック・インカム/ フラット・タックス」提案として論じている。 • 負の所得税の税負担(負の場合は還付金)T は、 T = -G+tw(L-l)という算式で決定される。 (ここで、Gは負の所得税の下で保障される最 低所得であり、tが所得税率である。) • 所得税率tは、税収と還付額の総額が一致す るように決められる。したがって、最低所得G が寛大に設定された場合には、必要とされる 税率は高くなる。 • 個人の予算制約式は、 c w( L l ) T G (1 t ) w( L l ) 消費 c 無差別曲線 B C 最低所 得G A O 労働時間 L-l • 一方、負の所得税の有するもう一つの効果は、 最低所得保障制度においても既に就労してい た低所得層(ワーキング・プア)の就労にディ スインセンティブを与えるという効果がある • 既に働いている個人にとっては、① 限界税 率が増加することによる代替効果、さらに② 負の所得税の下での還付金による所得効果 の双方が労働供給を低下させることによる。 負の所得税導入の際に、最低所得Gを維持 する限り、労働供給を減少させる低所得層が 生じることは避けられない。 。 消費 c 無差別曲線 C B 最低所 得G A O 労働時間 L-l • 米国政府は、一部の地域で「負の所得税」導入の社 会実験を行っており、そのデータに基づく実証研究 が多くなされてきた。 • 4つの実験例(New Jersey (1968-1972)、Rural Iowa/North Carolina (1969-73)、Gary (1971-74)、 Seattle-Denver (1971-82))についての実証研究を 概観したRobins (1985)は、上記の理論的な説明と 整合的に、「負の所得税」導入により労働供給全体 が減少していることを指摘している。 • 労働時間は、5~25%程度、減少し、雇用率も1~ 10%程度、減少している。(Robins (1985), pp573) 勤労所得税額控除(Earning Income Tax Credit, EITC) • 最近の低所得者に対する政策としては、米国 の勤労所得税額控除(Earning Income Tax Credit, EITC)のように、低(勤労)所得に対し 補助金を付与する形の政策が取られている。 • まず所得が非常に低いフェーズイン段階(図 の線分OAに対応)においては、所得の一定 割合に対応する補助金が付加される(勤労所 得税額控除の場合には、還付の形が取られ る。) • もう少し高い勤労所得に対応する次のフラット 段階(同図の線分ABに対応)では、補助金の 額は上限に達し、一定となる。 • さらに高い勤労所得に対応するフェーズアウ ト段階(同図の線分BCに対応)においては、 補助金は勤労所得の増加に応じ、徐々に減 額されていき、ある水準(同図では点C)で補 助金は0となる。 • なお、就労しない場合には、全く補助金は支 給されない。 所得 B C A O 勤労所得 • フェーズイン段階:代替効果は、就労促進。所得 効果は就労抑制に働くが、非常に低所得の場合 は、所得効果は限定的。 • フラット段階:補助金の額は一定なので、代替効 果上の影響はない。他方、補助金分の所得効果 が発生するため、労働供給抑制の方向に働く。 • フェーズアウト段階:限界税率は正であり、代替 効果は労働供給の抑制。所得効果も労働供給 の抑制の方向に働く。 • フェーズアウト段階を置かずに、ある所得水準で 補助金を突然打ち切ると、その点で予算制約式 が屈折し、労働供給がその点に集中してしまう (“bunching”)が起きる。 英国の就労税額控除(WTC)と予算制約式(単純化したもの) 所得 B C A O 労働時間 勤労所得税額控除のように就労を前提とした所得補助の制 度の導入が進んでいる。オランダ、フランス、ベルギー、フィ ンランド等の欧州諸国に加え、最近では、韓国も導入を決定 している。 tagging”(札貼り) • 現実の福祉政策においては、多くの国におい て、高齢者、母子家庭、障害者、失業者その 他のカテゴリー別に公的扶助政策が実施。 • 過去の経済学者の議論においては、カテゴ リー別の公的扶助政策が乱立した福祉制度よ りも、負の所得税のような、より包括的な福祉 制度が望ましいとされてきた。 • しかしながら、Akerlof(1978)は、情報の非対 称性の下では、カテゴリー別の公的扶助政策 がより効率的となりうることを指摘。 • 事前情報により、貧困者はあるカテゴリー(例 えば、高齢者、母子家庭、障害者、失業者等) に多く属していることが分かれば、そのカテゴ リーだけを対象とした最低所得の給付を行う ことで、貧困者に最低所得を保障するために 必要な税率を大幅に引き下げることができる。 高齢者、母子家庭、障害者、失業者等、平均 的に貧困者が多い集団を、執行当局が認定 (Akerlof (1978)の呼ぶ“tagging”(札貼り))し、 その集団に他の人々と違った特別の税率表 を与えることで、効率的な福祉制度を構築す ることができるのである。 現金給付と現物給付 • 現金が手交される形の現金給付のみならず、同制 度の医療扶助のように、一定の財・サービスの提供 が受けられる形の現物給付も存在する。 • また、米国のフード・スタンプのように、一定の財・ サービスのみを購入できるバウチャーが交付される 形の現物給付が存在する。 • 伝統的に経済学者は、現金給付の方が、受給者の 選好を反映した消費が可能となるため、現物給付よ り望ましいとしてきた。 非食料品 A E C D 食料品 B • 現物給付を支持する伝統的な意見としては、 消費者が経済理論が想定するように、常に合 理的に行動するとは限らず、ギャンブルやア ルコール等に依存する傾向がある者も存在す ること等を考えると、政府がパタナーリスティッ クに給付金の使途を制限することが望ましい ケースがあるとの指摘がある。 • さらに、最近の重要な指摘として、情報の非 対称性を考慮した場合、使途を制限する現物 給付が、受給者に自己選択(self-selection)を 行わせることを通じ、より効率的な公的扶助を 可能にするとの見方がある。 近年の改革 ①社会保障審議会 福祉部会「生活保 護制度の在り方に関する専門委員 会」における議論(2003.8~ 2004.12) • 入りやすく出やすい制度→自立支援プログラ ム、教育扶助の見直し等 • 生活保護水準の見直し→老齢加算の廃止、 母子加算の見直し • 地方と国の役割分担・補助率の見直し→結 論は出ず ②生活保護費及び児童扶養手当に 関する関係者協議会(2005.4~) • 生活保護増に対する要因分析(自治体:高齢 化、景気変動要因、離婚率増、厚労省:実施 体制の問題)→統計的分析を駆使して、自治 体側の主張が主因との結論 • それを受けて、地方と国の補助率の見直しは 行わず • 児童扶養手当補助率引下げ ③自立支援プログラムの展開 • 285自治体で585プログラムが策定 • H17年から自立支援(日常生活自立、社会生 活自立、就労自立)のうち、就労自立支援に ついてハローワークと福祉事務所が連携し 「生活保護受給者等就労支援事業」。就労支 援コーディネーター、就労支援ナビゲーター • 支援開始者数6663人のうち2579人が就職。 • 長期入院(精神疾患の社会的入院)の退院 促進事業が今後本格化 被保護者に対する自立支援の取組みについて 1 自立支援プログラムの導入(平成17年度~) (1) 保護の実施機関が策定し、組織的に被保護者の自立支援に取組み ① 管内の被保護世帯全体の状況を把握 ② 被保護者の状況や自立阻害要因を類型化し、それぞれの類型ごとに対応する個別の支援 プログラムを策定 (例1) 高齢者→傷病や閉じこもりを防止し、健康的な自立生活を維持するプログラム (例2) 精神障害者・高齢者→長期入院を防止・解消し、居宅生活の復帰・維持を目指すプログラム (例3) 稼働能力を有する者→就労に向けた具体的取組を支援し、就労を実現するプログラム ③ これに基づき個々の被保護者に必要な支援を保健所、医療機関、ハローワーク、NPO等 とも連携しつつ、組織的に実施 (2) 自立支援プログラムの策定状況(平成17年12月現在) ○ 保護の実施自治体全828のうち、プログラムを策定している自治体は285 ○ 自治体で策定されているプログラムは585 【内訳】 就労支援関係 311 日常生活自立関係 214 (例:長期入院からの退院促進等) 社会生活自立関係 70 (例:福祉・環境等の地域貢献活動への参加等) (3) 平成18年度の方針 ~ 全自治体で自立支援プログラムを策定 ○ 保護の実施自治体全857のうち、700(82%)がプログラムを策定済又は 策定予定(平成18年4月時点) 285自治体 34% 543自治体 66% 157自治体 18% 287自治体 33% 413自治体 49% 策定済 策定なし 策定済 策定予定 未定 15 2 生活保護受給者就労支援事業の創設(平成17年度~) (1) 福祉事務所とハローワークが連携し、被保護者の就労を支援 ③ 就労支援メニュー 選定チーム設置 福祉事務所 ① 自立意欲のある 生活保護受給者 を 選定 ② 要請 ハローワーク ④ 五 つ の メ ニ ュ ー か ら 受 給 者 の 態 様 に 応 じ メ ニ ュ ー を 選 択 コ福 ー祉 デ事 ィ務 ネ所 ー担 タ当 ー 面接 コ安 ( 全ー定 支 国デ所 援 にィ担 対 1ネ当 象 7 者 5ー 名タ 配ー 置 ) ハロ ーワーク 又は福祉事務所 ⑥メ ニ ュ ーの実施 ⑤ ハ ロ ー ワ ー ク へ の 求 職 申 込 み 1 ハローワークにおける 就職支援ナビゲーター (全国で105名)による支援 2 トライアル雇用の活用 3 就職の準備段階として の基礎的知識・マナー 等に関する準備講習 付きの公共職業訓練 (全国で1,500人分)等を 実施、受講をあっせん 4 生業扶助等の活用に よる民間の教育訓練 講座の受講勧奨 ⑦ 就 労 に よ る 自 立 5 一般の職業相談・紹介 の実施 生保事業担当責任者の設置( 支援メ ニ ュ ーの選定及び実施・ 進捗状況管理) (2) 生活保護受給者支援事業の実施状況(平成18年3月現在) 支援対象者数 支援開始者数 支援終了者数 ① 生活保護受給者 9,011 7,309 うち就職者② 4,553 3,007 (注)支援開始者数①に占める就職者数②の割合は41.1%となっている。 16 ④最近の適正化の動き • 平成17年12月1日の協議会終了後の生活保 護適正化に関する確認書。 • 全国福祉事務所長会議 (平成18年5月15 日(月) )「生活保護行政を適正に運用するた めの手引き」 • 骨太の方針2006では、5年間で厚生労働省 管轄予算の1.1兆円を削減する方針。2007年 度予算では生活扶助基準の引下げと雇用保 険で対応。ただし、来年度からも生活保護は 引き続き削減対象となる可能性。 生活保護の課題と対応 保護基準 ○ 社会保障審議会の専門委員会 における検討(平成15~16年) ・ 加算以外の基準は、一般の低 所得世帯の消費支出と均衡が 図られており、妥当 ・ 高齢者世帯や母子世帯の加算 について見直しが必要 ○ 保護基準の適正化 (平成16年度~) ① 老齢加算の廃止(17,930円→ 0円) ② 16歳以上の子供の母子加算 の廃止(23,360円→0円) ③ 多人数世帯の基準の逓減 保護要件の審査 自立支援 ○ 保護要件 ・ 生活保護は、資産、能力等を 全て活用した後、足らざるとこ ろを補うものであるため、以下 の状況を調査 - 預貯金、不動産等の資産 - 就労収入、年金等の収入 - 稼働能力 - 扶養義務 ○ 被保護世帯の多様な問題に対 応した積極的支援 ○ 更なる保護要件の適正審査等 (平成18年度~) ・ 従来からの適正運営に加え、 三位一体改革の際の地方団 体からの提言を踏まえ、以下 の適正化を通知 ○ 自立支援プログラムの導入 (平成17年度~) - 資産等調査に関する関係機 関との連携強化 - 暴力団員に対する生活保護 の不適用 - 生活保護受給者への年金担 保貸付の不適用 - 履行期限付きの指導・指示、 保護の停廃止 - 不正受給に係る費用返還や 告発 ・ 母子世帯に対する就労支援、 長期入院の高齢者や精神障 害者に対する退院促進等、自 治体が他機関と連携しつつ、 積極的に支援する必要性 ・ 自治体において、被保護世帯 の類型ごとに自立支援策を策 定 ○ ハローワークとの連携事業の 創設(平成17年度) ・ 自治体の保護担当とハロー ワークとが連携して就労支援 12 近年の改革の問題点・課題 ①同床異夢の抜本改革 • 生活保護改革のそもそもの目的・目標のベクトルを めぐる混乱 • 生保専門委員会委員・・・50年間法改正無しに放置 されてきた諸課題の解決 • 財務省、厚労省・・・生活保護費の適正化、財政縮 減 • 厚労省、総務省、自治体・・・三位一体改革をめぐる 攻防、国と地方の役割・財源分担 • →いろいろなものを追っかけた結果、きわめて不透 明・不十分、中途半端な改革にとどまる。 ②抜本改革が必要なそもそもの背景 としての諸課題 • セーフティーネット機能の弱体化、低い補足 率(1~3割、概ね2割程度)→入りやすい制 度、稼動能力要件の見直しの背景 • 地域格差の拡大、地域による公平性 • 要保護者、被保護者層多様化への対応の遅 れ • 扶養要件の形骸化 • 資産要件調査の困難化 • 水準均衡方式の不透明さ・過去の経緯の残 存、1類、2類の妥当性、級地の妥当性 • 基礎年金との水準調整 • ニート・フリーター層の顕現化に対する用意 • ホームレス、高齢者の保護世帯、医療扶助拡 大など、年金、医療、住宅問題との関連性の 深まり、他法・他施策におけるセーフティー ネットの不整合拡大 • 福祉事務所の事務負担増大による機能不全 • 地方分権化による配置基準緩和による地域 格差 • 貧困の再生産、固定層化への対応→教育扶助の 見直しへ • 就労支援・自立支援に対する世界的潮流への遅れ、 ホームレスや障害者の自立支援という流れとの連 携 • 施設保護の高コスト、固定化問題 • 年金担保融資などの現場の問題意識 • →自立支援プログラム、教育扶助以外のほとんど の課題について手がついていない。加算廃止、見 直しについては、ルール・基準の明確化抜きに、き わめて不透明な政治的な決着。福祉事務所の機能 不全などについてはむしろ悪化 ③財政縮減への対応 • 老齢加算縮減、母子加算見直し、多人数世 帯に対する基準の見直し • 自立支援プログラムに伴う就労へのプレッ シャーの強化、自立支援プログラムを稼動能 力要件のテストとして活用 • 地方独自財源の諸援助の改廃、縮減 • →財政縮減としてもっとも比率の大きい医療 扶助(平成18年度1.4兆円、保護費に占める 割合51.8%)についてはほとんど手をつけず という矛盾。生活扶助(同0.86兆円、同 32.1%)だけの対処では限界。加算廃止も焼 け石に水。 • →他の社会保障の改革と歩調を合わせる程 度のもので本気でやる気はない。効果も、短 期間のものに過ぎず、抜本改革をする気はな い。 ③三位一体改革 • 厚労省側:地方分権化、実施体制についてモ ラルハザード論、同化定着論 • 地方側:法定受託事務根拠、ナショナル・ミニ マム論、モラルハザード起きていない • 役割分担、財政分担について理想論、論理 抜きの単なる押し付け合いに過ぎなかった。 • 決着もきわめて不透明でなんら前進がない。 統計的な正論が勝利したという実績はあった。 ④自立支援プログラムの課題 • (クリームスキミング) • 就労支援プログラムについては、そもそも稼働能力 用件のために稼動層が少ないのであるから、母子、 その他稼動層の「タマ」はすぐに尽きる。 • もっとも、宿泊所などを中心に、稼動年齢層のホー ムレス等の流入が続いている東京、大阪は短期的 には効果を挙げるだろうし、1・2年程度はタマは尽き ないだろう。東京は、地域生活以降支援事業対象者 という大きな対象も存在している。しかし、これらは 今までの要保護者であった層が被保護なっているの だから、分母・分子共に拡大していることに注意。 • 就労自立につながっているケースのほとんどは、 「一般の職業相談・紹介」の実施。福祉事務所・職 安の協同・協力の成果、新設のナビゲーター、トライ アル雇用、受講斡旋、の成果とは言えない。生業扶 助の活用も進んでいない。 • 就労に結びつくことが困難な層への生活支援、社会 生活自立支援、日常生活自立支援は進まず(新宿 区のらいふさぽーとプラン、一部の救護施設の取り 組みなど例外もある)。 • (実施主体、被保護者へのインセンティブの不足・欠 如) • 福祉事務所の事務負担増は悪化。広義の自立支 援についてはノウハウも一部を除いては存在しない。 • 結局、就労支援プログラムを稼働能力活用要件の テスト手段とみなしている福祉事務所が多い。成果 主義でもないことから、行政側のインセンティブにも 欠ける。従来型の就労指導の延長として、努力不足 を理由に、保護の停・廃止化の懸念(同意前提なの で使いづらいという声も)。 • 被保護者に対する動機付けも、指示義務違反の保 護の停・廃止以外に、正のインセンティブが乏しい。 形だけのプログラム参加になりがち。 • (裏づけ予算の不足) • セーフティーネット支援対策等事業補助金は寄せ集 め予算。 • 現在、都市部で大きな受け皿となっている宿泊所、 自立援助ホームは生活支援予算すらつかず。 • (その他) • 長期入院(精神疾患の社会的入院)の退院促進事 業が今後本格化→医療扶助費減少という成果が目 に見えることが期待されるが、受け入れ先はどうす るのか。介護3施設の不足(特養待機者、敬遠する 老健、療養型病床は廃止)、宿泊所、自立援助ホー ムを拡大?、自治体単位では限界。 抜本改革への向けて (1)抜本改革へ向けての条件 • 財政縮減、三位一体改革、制度改革の3つを一緒 に議論せずに、分けて議論する。制度改革自体に は予算や補助率といった制約をつけずに議論。 • 社会保障全体、あるいは労働・住宅、地方財政など と絡んだ問題であるため、全体としてのコーディネー トが不可欠。社保審やもっと大きな場での議論が必 要。 • 長期的に持続する審議の場が必要。年金同様、朝 令暮改で短期的に変更することは望ましくない。短 期的な手直しとは分けて議論するべき。 (2)財政縮減の論点 • ①医療扶助・介護扶助の抜本改革・・・生活保護費 の過半はこの部分。精神疾患者の社会的入院が注 目されているが、それ以外にも解決すべき課題は多 い。 • ホームレス・日雇労働者の医療(慢性疾患を放置→ 救急搬送→行路病院→高額医療、終末期医療化、 その前での対策が望まれる)。 • 1割負担がないことへの患者及び医療機関のモラ ルハザード。上限を決めた上での自己負担化を検 討すべきか。 • 国保一元化もよし。 • ②他法・他施策との連携と公費財源捻出 • 特に高齢者の被保護世帯増は年金施策の不備とも 言える。また、医療、介護についても、様々な減免が あり、公費負担がありながらも、生活困窮者に効率 的にそれが回っているとはいえない。そもそも、社会 保険に公費負担を入れることの原則は低所得者支 援のはずである。 • 基礎年金の公費負担の1/3(約6兆円)→1/2は必要 か。特に、厚生年金、共済年金の高額受給者までこ の分がある必要はない。一定所得以上の上率を下 げる代わりに、公費負担分をやめて、生保財源化。 十分おつりが出る。 • 国保についても、国保組合や資産を持つ加入 者分の国庫負担は見直してもよい。減免の低 所得者・要保護者への傾斜化。 • 政管健保の13%、拠出金16.4%も一律であ る必要なし。見直し可能。 • 公営住宅についても、「収入超過階層」 (11.1%)、「高額所得者階層」(0.7%)が存在 (11.8%)。被保護世帯を優先的に入所させる。 (3)生活保護制度改革の論点 • • • • • ①原則について ・「利用しやすく出やすい」制度の徹底化 ・簡素化、透明性、明確性の確保 ・全国的な統一性、画一性の確保 ・インセンティブを考慮した効率的運営 • ②短期救済と本格認定の2段階認定による 要否認定の簡素化 • 現行の扶養調査、資産調査は最初の申請で は、欧米のように申告・書類ベースで実施、 大幅な簡素化。1年程度の短期間で生活保 護をいったん打ち切る。その後、継続する希 望があれば、現状並みの扶養・資産調査(一 種の有期化であるが、打ち切りで終わりでは ない)。 • ケースワーカーの業務が大幅に軽減され、短 期救済後の本格認定・定期資格審査の業務 に集中することが可能となる。 • また、ケースワーカーによって、認定の判断 が異なるという裁量余地も大幅に少なくでき、 全国の統一性・画一性が高まる。 • 稼動能力についても簡素化(ADL調査および 就職活動の困難さを考慮、短期打ち切りをあ わせればそれほど厳密にならなくてもよい) • ③資産の一時的所有権移転による認定簡素 化と自立インセンティブの確保 • 現行の生活保護制度の資産認定については、 スティグマ、認定の困難さの問題に加えて、 生活保護を受けるために資産をわざわざ取り 崩し、自立が困難化。 • 資産認定自体を簡素化して、フローの所得の みに着目した認定を行い、その代わりに全財 産の所有権を生活保護期間中一時的に移転 させるという方策。 • 全国的な統一性・画一性、透明性が高まるこ とになる。 • 資産を保有しているので被保護者が自立しや すくなる。 • 自立後に一定額を控除して返却すれば、自立 へのインセンティブが確保。 • 生活保護者の資産が扶養をしていない親族 に相続されるという問題が指摘されてきたが、 資産を相続したい親族は、該当者が生活保 護に陥る前に自ら進んで扶養するインセン ティブを持つ。扶養調査の負担軽減。 • ④認定実施体制の標準化・専門化 • 全国的な統一性・画一性の観点からケースワーカー の標準配置基準を復活。 • 認定にかかわる人件費の全額を国庫負担とする。 • ケースワーカーについては、現在、多くの自治体は 福祉職採用でなく、一般行政職の職員を2、3年単位 で回しており、経験1年未満の新人ワーカー、現場 経験のない査察指導員がともに4分の1程度を占め ていることが問題 • ケースワーカーについての人件費を全額国庫負担 することにより、専門職化を進め、その代わりケース ワーカーには全国的な技能研修や、一定期間の資 格試験(試験に落ちれば資格を剥奪される)を課し、 標準化や質の確保を行うことにする。 • ⑤自立支援プログラムの地方分権化・アウトソーシ ング・財源措置のあり方 • ソーシャルワーク的な業務や自立支援プログラムの 運営については、憲法に規定される最低生活保障 とは性質が異なる。この面については、自治体間で 格差があっても問題は無く、むしろ競争があること が望ましい。 • 自立支援のアイディアは公的機関が考える必要は 必ずしもなく、外注化をすればよい(官民のアイディ ア競争が起こればよい)。外注に際してはクリーム スキミングに考慮して、自立困難度に応じた価格。 要介護度やリスクアジャストメントの発想。 • 財源は、様々な形態に対して標準費用を見 込み払いで国が措置する(セーフティーネット 統合補助金よりも明確な財源)。 • 安く自立支援できれば地方の財源化となるよ うにする(AFDCに類似した仕組み)。全国規 模ではヤードスティック規制で費用を減少さ せてゆく。 • ・人材派遣業法、最低賃金法の改正も視野に。 (生活保護者は最低賃金法適用除外にする) • ⑥予防措置の具体化 • ・生活資金つなぎ融資 • 教育扶助の充実、奨学金制度、貧困の再生 産・階層固定化を防ぐ。 • 歴史的経緯による若年の生活保護を認めな い。 • ・母子世帯、児童扶養特別手当の問題(離婚 後の扶養義務の明確化) • ・リバース・モーゲージ • ・資産を保有したままでの保護 • ⑦自立へのインセンティブ • ・生活保護の短期打ち切り(更新は厳密な審 査の後行う)、資格審査の定期化 • ・Negative Income Taxの導入。低所得者に かかる税制自体の見直しも視野。一方、最低 賃金は適用除外にして、徐々に自立に向け て賃金を変更してゆく。 • • • • • ⑧水準論議 ・水準均衡方式の問題 ・等価尺度について専門的分析 ・級地区分見直し ・独自調査の必要性 • ⑨生活保護法への生活保護制度の明文化と 通達行政の廃止 (4)国と地方の役割分担、財源分担 • 経済学的には、モラルハザード論VSスピル オーバー、負の競争論 • ・法律論としては、憲法上のナショナルミニマ ム論、画一的・統一的運営 • モラルハザード・・・協議会の統計分析により 存在せず。国庫補助率削減は改善に資さな い。 • 一方、負の競争は存在。特にホームレス対策。 • したがって、全額国庫負担が望ましい。画一 的・統一的運営の観点からも不可欠。法定配 置基準の復活と共に、人件費措置もすべて 国庫負担。社会保険庁のように独立した機関 の運営も一案。 • 認定業務と自立支援策は切り離す。前者は 独自の財源で地方差が生ずることが許され るものではない。後者の自立支援策について のみ地方で差があることを許す。ただし、全 体としてのインセンティブを考慮した定額予算 措置は必要。
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