マイクロファイナンスの新地平 28. November 2008 慎泰俊 (Living in Peace 代表) Agenda I. 投資対象としてのマイクロファイナンス 単体としてパフォーマンスが高く、伝統資産との相関も低いマ イクロファイナンスは、魅力的な投資対象となりうる。 II. 最新データから見たマイクロファイナンス 2001年以降、市場は年率45%で拡大しているものの、日本 からの資金供給は非常に少ない。 III. 経済理論から見たマイクロファイナンス マイクロファイナンスのスキームは、情報の非対称性から生じ る諸問題を低減することに成功している。 Slide 2 I. 投資対象としてのマイクロファイナンス Agenda I. 投資対象としてのマイクロファイナンス 単体としてパフォーマンスが高く、伝統資産との相関も低いマ イクロファイナンスは、魅力的な投資対象となりうる。 II. 最新データから見たマイクロファイナンス 2001年以降、市場は年率45%で拡大しているものの、日本 からの資金供給は非常に少ない。 III. 経済理論から見たマイクロファイナンス マイクロファイナンスのスキームは、情報の非対称性から生じ る諸問題を低減することに成功している。 Slide 4 Table of Contents 1. 2. サマリー 主要アセットとの比較 3. 4. 主要アセットとの相関 経済指標 / インデックスとの相関 5. 6. 7. 8. 9. 10. ポートフォリオ比較 1 ポートフォリオ比較 2 ポートフォリオ比較 3 サブプライムによる影響 マイクロファイナンス・インデックスのリターン推移 参考:マイクロファイナンス・インデックスの構成MIV Slide 5 1.サマリー 投資対象としてのマイクロファイナンスは • 伝統四資産と比較して20倍以上のシャープレシオを実現 している。 • 他資産と相関が強くないため、ポートフォリオに組み込む ことでそのパフォーマンスを高める事が可能である。 • サブプライム後も安定したリターンとリスクを保持している。 Slide 6 2.主要アセットとの比較 -マイクロファイナンスは、伝統四資産と比較して20倍以上のシャープレ シオを示している。 (年率%) トータルリターン ボラティリティ シャープレシオ 国内株式 5.30% 22.15% 0.22 外国株式 6.00% 19.59% 0.28 国内債券 2.80% 5.40% 0.44 外国債券 3.40% 13.25% 0.22 マイクロファイナンス 4.49% 0.36% 11.22 リスクフリーレート=0.45%と仮定(6ヶ月短期国債を参考) 出典:年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの検証について」2008年6月(ただし、マイクロファイナンスは、SMX USD - Symbiotics Microfinance Index - U.S. Dollars 2004.1~2008.10のデータから算出した。) 国内株式:TOPIX(配当込み)年次リターン (1973~2007) 外国株式:モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルKOKUSAIインデックス(配当込み、円ベース) (1973~2007) 国内債券:NOMURA-BPI総合指数年次リターン (1973~207) 外国債券:シティグループ世界(除く日本)国債インデックス(円ベース)年次リターン マイクロファイナンス : SMX USD - Symbiotics Microfinance Index - U.S. Dollars (2004.1~2008.10) Slide 7 3.主要アセットとの相関 -主要アセットとの相関係数 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 国内債券 1 国内株式 0.16*** (p=0.00) 1 外国債券 -0.06 -0.25*** (p=0.22) (p=0.00) 1 外国株式 -0.05 0.27*** 0.56 *** (p=0.31) (p=000) (p=0.00) 1 SMX 0.30** -0.26 -0.02 -0.30** (p=0.03) (p=0.07) (p=0.89) (p=0.03) SMX 1 出典:年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの検証について」2008年6月 1973~2007年のデータから算出されている。 ただし、マイクロファイナンスと他資産との相関係数の算出にはSMX USD - Symbiotics Microfinance Index - U.S. Dollarsを利用し2004.3~2008.6を対象にして独自に算出した。 *** :p<0.01 **:p<0.05 (帰無仮説:相関=0) サンプル数:国内債券、国内株式、外国債券、外国株式については、月次データを採用しているので420個、SMSについては、月次データ51個。 Slide 8 4.経済指標 / インデックスとの相関 -実証研究において、マイクロファイナンスは国内外の資本市場や景気 との相関が弱いことが示されている。 -1998-2006年のデータ S&P500 との相関 MSCI グローバル 指数との相関 MSCI エマージング マーケット指数 との相関 0.02 0.06 0.07 0.03 0.00 0.05 0.03 0.00 GDP 成長率 との相関 株式市場 との相関 MFI 純営業利益 0.01 MFI延滞貸出 (30日以上) 0.20 出典:Nicolas Krauss, Ingo Walter “Can Microfinance Reduce Portfolio Volatility?, Economic Development and Cultural Change, April 2009(forthcoming) モルガンスタンレー「フラッシュレポート」2008年8月 Slide 9 5.ポートフォリオ比較 1 -マイクロファイナンスをポートフォリオに組み入れることで、効率的フロ ンティアは左上方に移動するため、投資の効率性が高まる。 5資産ポートフォリオ 15.00% 期 待 収 益 率 10.00% 4資産ポートフォリオ 5.00% 外国株式 マイクロファイナンス 国内株式 外国債券 国内債券 0.00% 0.00% 5.00% 10.00% 15.00% 20.00% % 25.00% リスク(標準偏差) 効率的フロンティアを描くための解析解の求め方については下記をご参照ください: Merton, R.C., 1972, “An Analytic Derivation of the Efficient Portfolio Frontier”, Journal of Financial and Quantitative Analysis Slide 10 6.ポートフォリオ比較 2 -マイクロファイナンスをポートフォリオに組み込むことでリスクを低減す ることができる(「空売り規制なし」を仮定) ポートフォリオのパフォーマンス ポートフォリオにおける各資産の構成比率 Target Return=3.0% Volatility 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 MF 4資産ポートフォリオ 4.81% 78.35% 4.66% 17.70% -0.71% - 5資産ポートフォリオ 4.19% 67.75% 0.86% 17.99% -10.33% 23.73% MF比率≦30% 4.19% 67.75% 0.86% 17.99% -10.33% 23.73% Target Return=5.0% Volatility 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 MF 4資産ポートフォリオ 12.40% 32.75% 20.16% -7.28% 54.37% - 5資産ポートフォリオ 1.30% -22.95% 0.21% -5.75% 3.83% 124.66% MF比率≦30% 9.48% 19.35% 15.36% -6.91% 42.20% 30.00% Target Return=7.0% Volatility 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 MF 4資産ポートフォリオ 23.36% -12.84% 35.66% -32.25% 109.44% - 5資産ポートフォリオ 6.72% -113.65% -0.45% -29.49% 17.99% 225.59% MF比率≦30% 20.53% -26.25% 30.86% -31.89% 97.28% 30.00% Slide 11 7.ポートフォリオ比較 3 -マイクロファイナンスをポートフォリオに組み込むことでリターンを向上 させることができる(「空売り規制なし」を仮定) ポートフォリオのパフォーマンス ポートフォリオにおける各資産の構成比率 Target Risk=5.0% Return 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 MF 4資産ポートフォリオ 3.23% 73.11% 6.44% 14.83% 5.62% - 5資産ポートフォリオ 6.37% -84.96% -0.24% -21.98% 13.51% 193.67% MF比率≦30% 3.93% 55.87% -5.72% -5.00% 24.85% 30.00% Target Risk=10.0% Return 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 MF 4資産ポートフォリオ 4.53% 43.55% 16.49% -1.36% 41.33% - 5資産ポートフォリオ 8.21% -168.33% -0.84% -43.80% 26.52% 286.45% MF比率≦30% 5.10% 17.12% 16.15% -8.13% 44.85% 30.00% Target Risk=15.0% Return 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 MF 4資産ポートフォリオ 5.48% 21.78% 23.89% -13.29% 67.62% - 5資産ポートフォリオ 10.04% -251.65% -1.44% 65.60% 39.53% 379.17% MF比率≦30% 6.01% -3.69% 23.19% -19.53% 70.04% 30.00% Slide 12 8.サブプライムによる影響 -サブプライム後もマイクロファイナンスのリターンとリスクは安定している。 -SMX USD - Symbiotics Microfinance Index - U.S. Dollars 2004.2 - 2008.9 Year Yield Volatility 2008 5.04% 0.52% 2007 6.33% 0.44% 2006 5.09% 0.33% 2005 4.30% 0.31% 2004 2.61% 0.18% Average 4.49% 0.36% 出典:symbiotics http://www.symbiotics.ch/en/smx/smx_usd.asp Slide 13 9.マイクロファイナンス・インデックスのリターン推移 Index Value Monthly Performance -マイクロファイナンス・インデックスのリターン推移グラフ -SMX USD - Symbiotics Microfinance Index - U.S. Dollars 2004.2 - 2008.9 出典:symbiotics http://www.symbiotics.ch/en/smx/smx_usd.asp Slide 14 10.参考:マイクロファイナンス・インデックスの構成MIV - MIV: Microfinance Investment Vehicle - SMX USD - Symbiotics Microfinance Index - U.S. Dollars MIV Redemption Main Investors Dual Return Fund Vision Microfinance USD Cap Possible Institutional and Private investors ResponsAbility Global Microfinance Fund B Cap Possible Private investors Dexia Micro-Credit Fd Sicav BlueOrchard Debt USD Cap Possible Private investors ResponsAbility Microfinance Leaders Fund Possible Institutional investors Finethic Microfinance SCA SICAR USD Possible Institutional investors 出典:symbiotics http://www.symbiotics.ch/en/smx/smx_usd.asp Slide 15 II. 最新データからみたマイクロファイナンス Agenda I. 投資対象としてのマイクロファイナンス 単体としてパフォーマンスが高く、伝統資産との相関も低いマ イクロファイナンスは、魅力的な投資対象となりうる。 II. 最新データから見たマイクロファイナンス 2001年以降、市場は年率45%で拡大しているものの、日本 からの資金供給は非常に少ない。 III. 経済理論から見たマイクロファイナンス マイクロファイナンスのスキームは、情報の非対称性から生じ る諸問題を低減することに成功している。 Slide 17 Table of Contents 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. サマリー 使用したデータの出典 マイクロファイナンス融資総額の推移 地域別MFI数シェア MFI トップ50データ 「債務者数と平均融資額の関係性」 地域別融資総額 地域別総債務者数 地域別平均融資額 MFI トップ5+地域別代表機関(債務者数ベース) トップ20カ国(債務者数ベース) 日本のSRI市場の現状(1/2) 日本のSRI市場の現状(2/2) SRI市場規模の国際比較(2005/2時点) 日本のSRI市場の課題 Slide 18 1. サマリー • マイクロファイナンスの市場は21世紀以降、年平均 45%のペースで拡大している。 • MFIのシェアは南アジア、アフリカ、南米地域で全体 の3分の2以上を占めている。 • 欧米ではSRI投資が盛んであるが、比べて日本の市 場規模は欧米の1%以下であり、非常に小さい。 Slide 19 2. 使用したデータの出典 -本資料作成にあたっては、下記のリソースを活用した • Microfinance Information Exchange (the MIX) →1,300以上のMFIs、7,350万人のBorrowers (2008年10月時点) ※ MFI :Micro Finance Institutions (マイクロ・ファイナンスのサービスを提供する組織で、小規模な非営利団体から 大規模の商業銀行に至るまで様々な形態がある。) ※ MIX以外のデータベースには、 Micro Banking Bulletin, Microcredit Summit, CGAP等がある。 • 日本SRI年報2007 ※ SRI :Socially Responsible Investment (社会的責任投資) Slide 20 3. マイクロファイナンス融資総額の推移 - 2001年以降、年率平均45%のペースで市場が拡大しており、 近年において成長が加速している Based on a sample of 1,333MFIs , 2008 単位:10億$ 40 37 35 30 25 25 20 17 15 10 5 4 0 2001 2005 2006 2007 注)2006年まではドイツ銀行のレポート “Microfinance: An emerging investment opportunity” から引用 URL: http://www.dbresearch.com/PROD/DBR_INTERNET_EN-PROD/PROD0000000000219174.pdf 出典:The MIX 2008 Slide 21 4. 地域別MFI数 - 中南米・カリブ海諸国、サハラ以南アフリカ、南アジアの順にMFI数が多い Based on a sample of 1,334MFI , 2008 Middle East and North Africa, 42 East Asia and the Pacific, 152 North America, 1 Latin America and The Caribbean, 329 Eastern Europe and Central Asia, 253 South Asia, 261 Sub-Saharan Africa, 296 出典:The MIX 2008 Slide 22 5. MFI トップ50データ 「債務者数と平均融資額の関係性」 -中南米のMFIの顧客数は少なく融資枠が大きい -南アジアでは顧客数が多い反面、融資枠が小さい -地政学的要因、一人当たり所得等が影響していると考えられる 5,000 ※バブルのサイズは「総貸出債権額」 中南米 平均融資額(USD) 4,000 3,000 2,000 南アジア 1,000 0 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 債務者数(千人) 出典:The MIX 2008 Slide 23 6. 地域別融資総額 -中南米・カリブ海諸国、東欧・中央アジア、東アジア・太平洋諸国 の順に融資総額は多い Based on a sample of 1,333MFIs , 2008 . Average 6,205 Latin America and The Caribbean 14,473 Eastern Europe and Central Asia 8,580 East Asia and the Pacific 6,748 South Asia 3,815 Africa 2,583 Middle East and North Africa 1,033 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 総融資額(百万$) ※North America は除外 出典:The MIX 2008 Slide 24 7. 地域別総債務者数 - 南アジア、東アジア・太平洋諸国、中南米・カリブ海諸国 の順に総債務者数は多い Based on a sample of 1,333MFIs , 2008 12,272 Average 37,963 South Asia 12,436 East Asia and the Pacific Latin America and The Caribbean 11,749 6,702 Africa 2,598 Eastern Europe and Central Asia 2,181 Middle East and North Africa 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 地域別総債務者数(千人) ※North America は除外 出典:The MIX 2008 Slide 25 8. 地域別平均融資額 - 南アジアのUSD100から東欧・中央アジアのUSD3,300まで融資額は地域により 異なる Based on a sample of 1,333 MFIs , 2008 Average 1,006 3,302 Eastern Europe and Central Asia Latin America and The Caribbean 1,232 East Asia and the Pacific 543 Middle East and North Africa 474 Africa 385 South Asia 100 0 ※North America は除外 500 1,000 1,500 2,000 地域別平均融資額(USD) 2,500 3,000 3,500 出典:The MIX 2008 Slide 26 9. MFI トップ5+地域別代表機関 (債務者数ベース) -MFIの1位、2位はどちらもバングラデシュのグラミン銀行(1位)、ブラック(2位)とな っている 順位 平均 1 2 3 4 5 6 11 14 17 18 MFI機関名 Grameen Bank BRAC VBSP ASA BRI SKS CompartamosBanco BANTRA ACSI Capitec Bank 国名 Bangladesh Bangladesh Vietnam Bangladesh Indonesia India Mexico Peru Ethiopia South Africa 債務者数 総貸出債権額 (千人) (千$) 3,211 845,604 6,707 532,025 6,398 528,788 5,648 2,181,693 5,423 361,698 3,516 3,472,626 1,629 261,719 839 377,831 768 345,187 598 110,607 580 283,862 平均融資額 ($) 333.8 79.3 82.7 386.3 66.7 987.7 160.6 450.5 449.3 185.0 489.6 株主資本利益率 (過去3年平均) 27.67% 12.61% 15.82% -13.08% 24.41% 118.67% 14.38% 52.73% 6.70% 24.42% 20.06% 不良貸付率 金利その他収入 (過去3年平均) (過去3年平均) 3.44% 46.34% 3.14% 28.50% 1.23% 28.14% 0.01% 5.77% 0.24% 28.10% 1.13% 39.45% 0.64% 25.76% 0.53% 84.92% 9.76% 44.32% 0.06% 17.50% 17.72% 160.93% 注) 金利その他収入=金利+その他手数料 →金利のみの値にはなっていないので、純粋な平均貸出金利より高い。 出典:The MIX, “How Many MFIs Clients exists?” Slide 27 10. トップ20カ国(債務者数ベース) -バングラデシュ、インド、ベトナムの順に多い 順位 国名 債務者合計(人) MFI数 1 Bangladesh 24,127,571 70 2 India 10,738,307 106 3 Vietnam 5,787,074 12 4 Indonesia 3,758,336 42 5 Mexico 3,320,453 40 6 Peru 2,457,656 55 7 Philippines 2,025,402 70 8 Ethiopia 1,770,275 16 9 Colombia 1,630,208 16 10 Morocco 1,336,762 10 11 Pakistan 1,283,317 21 12 Sri Lanka 943,982 15 13 Kenya 891,307 19 14 South Africa 812,340 14 15 Cambodia 802,329 15 16 Bolivia 771,839 26 17 Brazil 628,164 10 18 Ecuador 598,551 48 19 Egypt 574,418 11 20 Nigeria 565,012 13 平均債務者数(人) 349,675 101,305 482,256 89,484 85,140 44,685 28,934 110,642 101,888 133,676 61,110 62,932 46,911 58,024 53,489 29,686 62,816 12,470 52,220 47,084 浸透率 35% 3% 11% 25% 14% 14% 6% 5% 29% 5% 3% 18% 2% 2% 8% 4% 10% 11% 12% 5% ※ 浸透率=「その国の債務者数」 / 「貧困者数」 出典: The Mix 2008 and "How Many MFIs and Clients Exists?" Slide 28 11. 日本のSRI市場の現状(1/2) -MFIの資金供給源となりうるSRI。その市場の現状は以下の通り • 日本の公募SRI投信のパフォーマンスは概ね標準以上 • SRIファンドは1999年8月から存在 ※Social Investment Forum-JapanによるSRIの定義 最終的な資金の供給者の意思が確認できる投資 投資プロセスで、環境・社会・企業統治のいずれか一つ以上を 考慮 出典:日本SRI年報2007、「日本の公募SRIファンドの現況」 五月女季考著 Slide 29 12. 日本のSRI市場の現状(2/2) - 公募SRI投信の純資産残高とファンド数の推移 - 純資産残高は約5,000億円、ファンド数は約60本 (百万円) (本) 1,000,000 70 60 本数 50 純資産(百万円) 800,000 40 600,000 30 400,000 20 200,000 10 0 08 Se p- 07 Se p- 06 Se p- 05 Se p- 04 Se p- 03 Se p- 02 Se p- 01 Se p- 00 Se p- Se p- 99 0 出典:日本SRI年報2007 Slide 30 13. SRI市場規模の国際比較(2005/2時点) - アメリカのSRI市場規模は約270兆円、ヨーロッパでは約150兆円 - 日本では広義のSRIで考えても、0.8兆円程度に過ぎない - 日本のSRI投資は、GDP比でアメリカの約100分の1 SRI市場規模(兆円) アメリカ 270 ヨーロッパ 150 日本 0.8 0 50 100 150 200 250 300 出典:日本SRI年報2007 Slide 31 14. 日本のSRI市場の課題 • 大学、公益法人、労働組合等は、欧米ではSRI投資の中 核となっているものの、日本では投資に関心が低く資産 運用額も小さい • 日本においてもSRI投資は増加しているものの、欧米に 比べるとまだ規模は小さい • マイクロファイナンスが投資対象として認識されていない Slide 32 日本発の マイクロファイナンス・ファンドを Slide 33 III. 経済理論から見たマイクロファイナンス Agenda I. 投資対象としてのマイクロファイナンス 単体としてパフォーマンスが高く、伝統資産との相関も低いマ イクロファイナンスは、魅力的な投資対象となりうる。 II. 最新データから見たマイクロファイナンス 2001年以降、市場は年率45%で拡大しているものの、日本 からの資金供給は非常に少ない。 III. 経済理論から見たマイクロファイナンス マイクロファイナンスのスキームは、情報の非対称性から生じ る諸問題を低減することに成功している。 Slide 35 Table of Contents 1. 2. 3. 4. 5. 6. サマリー 情報の非対称性と信用割当 積極的に取り組んでもらうための条件 グループレンディングによる改善1 : ソーシャルキャピタル効果 グループレンディングによる改善2 : モニタリング効果 結論 Appendix Slide 36 1. サマリー ソーシャルキャピタル効果とモニタリング効果により、 • 借手は積極的に事業に取り組みやすくなる • より少ない元手でより多くの資金を借りることが できる(収益率向上) Slide 37 Slide 37 参考文献: Jean Tirole, “The Theory of Corporate Finance”, Princeton University Press, 2005 ※契約理論については下記をご参照ください: Jean-Jacques Laffont & David Martimort, “The Theory of Incentives: The Principal-Agent Model”, Princeton University Press, 2002 Slide 38 2. 情報の非対称性と信用割当 途上国融資では、 環境上規律付けが難しい モニタリングも難しい 融資額を私的活用したりと、 事業に対するコミットメントが薄くなりがち 積極的に取り組んでもらうには? 多額 事業リターンの分け前 少額 借手:事業家 貸手:銀行 積極的に行動! 貸額の減少・・・ 相反する関係 グループレンディングにより、相反する関係を改善 より少額のリターンでも積極的に行動 ⇒ 貸額も増え、収益率も改善 Slide 39 3. 積極的に取り組んでもらうための条件 “積極的に行動した時の利益>積極的に行動しない時の利益” の時に、借手は積極的に行動する 積極的に行動した時 R 600 積極的に行動しない時 R B 400 600 つりあっている状態 200 R : 借手の事業リターン B : 私的便益 600 事業リターン:Rが大きくなると R 750 750 R 500 B 200 700 イ 積ン 極セ 的ン にテ 行ィ 動ブ すが る働 き Slide 40 4. グループレンディングによる改善1 : ソーシャルキャピタル効果 ソーシャルキャピタルとは・・・人々の間の信頼関係のことをいう 積極的に行動した時 通 常 時 R 積極的に行動しない時 R 600 600 ソ ー 効シ 果ャ ル 付キ 加ャ 時ピ タ ル B 400 150 R 150 450 200 600 仲間のリターンは自分のリターン 100 R B 300 600 R : 借手の事業リターン B : 私的便益 200 600 よ 積り 極少 的額 にの 行リ 動タ すー るン で も Slide 41 5. グループレンディングによる改善2 : モニタリング効果 ①レンディング前に積極的に行動しそうな借手を自分たちで選別 ②レンディング後も互いに私的便益を抑制するためにモニタリング 積極的に行動した時 通 常 時 R 600 積極的に行動しない時 R B 400 600 200 600 モニタリングで私的便益を抑制 効モ 果ニ タ 付リ 加ン 時グ R 150 450 R 300 600 R : 借手の事業リターン B : 私的便益 600 B 150 よ 積り 極少 的額 にの 行リ 動タ すー るン で も Slide 42 6. 結論 シミュレーション結果 【前提】 初期投資額:1000 ⇒ 期待リターン:1200 の事業を想定 (詳細はAppendix) 非グループ グループ グループ +ソーシャルキャピタル効果 +モニタリング効果 借手が積極的に取り組むための 必要期待リターン 600 462 360 その時の借手の必要元手 400 262 160 期待収益率 1.5 1.8 2.3 結論 グループレンディング(ソーシャルキャピタル効果とモニタリング効果)により、 • 借手は積極的に事業に取り組みやすくなる • より少ない元手でより多くの資金を借りることができる(収益率向上) ※グループレンディング以外のスキームについても、動学理論の枠組みで説明することは可能です。 Slide 43 <Appendix> Tirole, “The Theory of Corporate Finance” Chapter 3,4より Slide 44 設定概要 設定 1.ある投資家が資金を借りて事業を始める 2.借り手の持つ元手 : A、初期投資額 : I とし、その差 : A I を借入額とする 3.事業の成功時のみリターン: Rが得られ、RB( 借り手) とRl( 貸し手) に分配される 4.投資家は、積極的に行動するorしないの2パターンの行動をする。 この時の事業の成功確率は、積極的に行動する時 : pH 、積極的に行動しない時 : pL ( pH >pL ) 5.積極的に行動しない時、投資家は借入額の一部 : Bを私的使用する I 初期投資額 変数表 IA A A : 借り手の持つ元手 I : 初期投資額 1.積極的に 行動する時 2.積極的に 行動しない時 pH : 積極的に行動した時の成功確率 pH の確率で、 Rl A pL : 積極的に行動しない時の成功確率 Rb R : 事業リターン pLの確率で、 pL pH Rb : 借り手に分配される事業リターン Rb Rl R B Rl : 貸し手に分配される事業リターン B : 私的便益 p : pH pL Slide 45 “借手が積極的に行動”かつ“貸手の利益保全”の条件導出(1) 投資家が事業に対し積極的に行動するには、積極的に行動した時の方が リターンが大きくならなければならない。 pH Rb pL Rb B or (p) Rb B ・・・“積極的に行動“条件* この式より、借り手が積極的に行動するために最低限必要な成功時のリターンは、 B Rb P ここにおいて、貸し手がもらえる成功時のリターンは、 Rl R Rb R B p この時、貸し手がもらえる期待リターン: P は、 B P pH Rl pH R p この値が当初貸額よりも大きくならないと貸し手は経済的効果を得られないので、 B P PH R IA p ・・・“貸手の利益保全“条件** * 専門用語では、Incentive compatibility constraint と呼ばれています **専門用語では、Participation constraintと呼ばれています Slide 46 “借手が積極的に行動”かつ“貸手の利益保全”の条件導出(2) 貸し手は元本保証のみ要求するとすれば、 B pH R IA p B A pH pH R I p まとめると、借り手のリターンRbと元手Aが以下の条件を満たせば、 Rb B p B A pH pH R I p 借手は積極的に行動し、 貸手の利益は保全(元本保証)される Slide 47 グループレンディングの場合:ソーシャルキャピタル効果 (1) 自分と相方との二人に対するグループレンディングを想定 ソーシャルキャピタル効果により、相手のリターンの一部( ウェイト:) a だけ自己のリターンに追加される。 ここで、相方が積極的に行動するという前提を置くと、積極的に行動するインセンティブを持つためには、 pH 2 ( Rb aRb ) pH pL ( Rb aRb ) B or pH ( Rb aRb ) B p ・・・“積極的に行動“条件 この式より、借り手が積極的に行動するために最低限必要な成功時のリターンは、 Rb 1 B pH 1 a p この時、貸し手がもらえる期待リターン: P は、 B P pH Rl pH R pH Rb pH R (1 a)p 相方の成功確率 この値が、当初貸額よりも大きくならないと貸し手は経済的効果を得られないので、 B pH R IA (1 a ) p ・・・“貸手の利益保全“条件 Slide 48 グループレンディングの場合:ソーシャルキャピタル効果 (2) 貸し手は元本保証のみ要求するとすれば、 B PH R IA (1 a)p B A pH pH R I (1 a)p まとめると、借り手のリターンRbと元手Aが以下の条件を満たせば、 1 B pH 1 a p B A pH pH R I (1 a)p Rb 借手は積極的に行動し、 貸手の利益は保全(元本保証)される Slide 49 グループレンディングの場合:モニタリング効果 (1) 自分と相方との二人に対するグループレンディングを想定 相方は積極的に行動しようとしていないことを前提とする。 モニタリング効果により、借り手はコストC払えば、仲間を積極的に行動させることができる pL pH 一方、自分は私的便益Bを手に入れることで、成功確率が下がる pH pL この二つを等価のものと設定する B C (※分析をシンプルにするための過程であり、これにより結論の一般性が失われるものではありません。) 3パターンの生じる損益 (上段)発生する損益 (下段)成功確率(自分,相方) モニタリングする モニタリングしない 積極的に行動する C pH , pH 1 0 pH , pL 2 積極的に行動しない B C 0 pL , pH 2 B pL , pL 3 借り手のリターンは、 1 > 2 or 3 でなければ、積極的に行動しない Slide 50 グループレンディングの場合:モニタリング効果 (2) 1 > 2 についての条件式は、 pH 2 Rb C pH pL Rb pH pL Rb B C pH Rb 1 > 3 B P についての条件式は、 pH 2 Rb C pL 2 Rb B pH pL Rb BC p ここで、 pH pL 2 pH であるので、二つ目の条件式のほうがより制約が強い よって、借り手が積極的に行動するためには、 pH pL Rb BC p ・・・“積極的に行動“条件 この時、借り手が積極的に行動するために最低限必要な成功時のリターンは、 Rb BC BC 2 p pH pL pH pL 2 Slide 51 グループレンディングの場合:モニタリング効果 (3) この時、貸し手がもらえる期待リターン: P は、 pH 2 P pH Rl pH R pH Rb pH R 2 B C pH PL 2 この値が、当初貸額よりも大きくならないと貸し手は経済的効果を得られないので、 pH 2 pH R 2 B C I A pH PL 2 ・・・“貸手の利益保全“条件 貸し手は元本保証のみ要求するとすれば、 pH 2 pH R 2 B C I A 2 pH PL pH 2 A B C pH R I pH 2 PL 2 まとめると、借り手のリターンRbと元手Aが以下の条件を満たせば、 Rb BC BC p pH pL pH 2 pL 2 pH 2 A B C pH R I pH 2 PL 2 借手は積極的に行動し、 貸手の利益は保全(元本保証)される Slide 52 本ケースで使用した設定パラメータ 設定パラメータ 初期投資額 I : 1000 事業リターン R : 2000 積極時成功確率 pH : 60% 非積極時成功確率 pL : 40% 私的便益 B : 200 ソー シャル キ ャピタル ウ ェイト a : 0.3 モニタリングコストC : 100 B :100に抑制 ”借り手が積極的に行動” &” 貸し手の利益が保全される” の両条件を満たす、 借り手の必要リターン: R 借り手の必要元手: A を算出 Slide 53 Contact: [email protected] スタッフクレジット 木下 祐馬 糀屋 総一朗 菅原 崇 杉山 章子 周 慶一 塚本 史 飛田 千夏 波多野 綾子 福田 恭幸 本田 皓士 株式会社 金融エンジニアリング・グループ 東京フィナンシャル・アドバイザーズ株式会社 株式会社 金融エンジニアリング・グループ 株式会社 日本政策金融公庫 国際協力銀行 成蹊大学法科大学院 プライスウォーターハウスクーパースHRS株式会社 モルガン・スタンレー・キャピタル株式会社 外務省 KPMG FAS みずほ証券株式会社 (本資料はすべて筆者ら個人としての見解であり、筆者らの属するいかなる法人、団体等 の意見を代表するものではありません。) Slide 55
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