南極観測支援衛星 「はやて」の概念設計 Concept Design of HAYATE : Small Satellite for Supporting Antarctic Observation Researches 平成10年度 東京工業大学 狼研究室 発表の流れ (1) Introduction : 背景/提案するミッションの意義/期待される効果 (2) 各ミッションの概要: 昭和基地-日本間高速データ伝送ミッション /南極氷床上プローブデータ収集ミッション (3) 衛星の概要 : 各サブシステムデザイン (4)まとめと課題 : ミッションのまとめ/コストパフォーマンスの評価 /応用 Introduction 背景 地球環境の最重要モニタリングサイト:南極域 ・観測環境は充分か? 観測データなどの情報伝達 手段は不足 ・無人観測プローブを用いた 広域かつ持続的な観測 広域氷床流動などの観測 を可能とするがデータ回収など も問題となり実現していない Introduction ミッション提案 以上のような背景をもとに、50[kg]級小型衛星による2つの 衛星ミッションを提案する。 (1)南極昭和基地から日本地上局への 高速データ伝送ミッション (2)南極氷床上プローブからの 観測データ収集ミッション Introduction 期待される成果 (1) 年間を通じて多量のデータを南極から日本に送信 南極観測態勢の強化、極域研究環境の向上 (2) 広範な地域に配置したプローブ から 定期的に観測データを回収 南極上における氷床流動などの広域環境変動の 実証的な手掛かりを得る (3) 超小型のピギーバック衛星の学生主導による設計、製作、運用 開発・運用コストの大幅な低減。研究者に対する 無課金サービス ミッションの概要 南極基地-日本局 高速データ伝送ミッション ・昭和基地→衛星→日本局の データ伝送(Store and Forward) ・通信周波数:Sバンド UpLink:2.67[GHz] DownLink:2.52[GHz] DownLink : 2.52[GHz ] DataRate : 6.0[ Mbps] 各大学 ・通信速度:6[Mbps] 東京工業大学地上局 国土地理院 ・データ伝送量 1 日:300[MByte]以上 年間:100[GByte]以上 極地研究所 UpLink : 2.67[GHz ] DataRate : 6.0[ Mbps] 昭和基地地上局 ・受信データはネットワークを通じて 各研究機関に公開 ミッションの概要 南極基地-日本局 高速データ伝送ミッション ・想定する地上局 南極基地(UpLink側) アンテナ径:2[m]~ 出力:30[W]~ 実効放射電力: 46[dBW]~ 衛星追尾機能 日本局(DownLink側) アンテナ径:2[m]~ 衛星追尾機能 以上の条件を備える局であれば、 場所、国籍を問わずに送受信が可能。 ミッションの概要 南極氷床上プローブデータ 収集ミッション ・プローブ→衛星→地上局 のデータ伝送 DownLink : 2.52[GHz ] DataRate : 6.0[ Mbps] ・通信周波数 UpLink:400[MHz](UHFバンド) DownLink:2.52[GHz](Sバンド) 各大学 東京工業大学地上局 ・通信速度 UpLink:19200[bps] DownLink:6.0[Mbps] ・受信データはネットワーク を通じて各研究機関に公開 国土地理院 極地研究所 UpLink : 400[ MHz ] プローブ群 DataRate : 19600[ bps] ・データ受信方式 :時分割多元接続(TDMA) TDMAフレーム TDMAフレーム 20 3 2 1 各プローブはGPS受信データを 用い、時間同期を取り、TDMAを実現 20 ミッションの概要 南極氷床上プローブデータ 収集ミッション ・1データバースト 送信時間:5.0[sec] データ量:12.0[KByte]以内 ガードタイム:1.0[sec] ・プローブのテレメトリデータ :GPS受信データ :気象データ P1 P2 P3 ・・・ 南極大陸 P20 データバースト ガードタイム(1.0[sec]) 1 2 3 N 20 TDMAフレーム(120[sec]) 5.0[sec](12[KByte]) プリアンブル データ ミッションの概要 南極氷床上プローブデータ 収集ミッション ・プローブ:南極上に複数配置され長期にわたる無人観測を行う。 ・取得するデータ :GPSデータ(氷床流動の解析) :地震計データ :気象(風向、風速、気圧、気温etc)データ ・GPSデータ取得を主とするプローブ :データ通信, 電力供給の点で実現していない ・今回設計したプローブ データ通信 電力供給 本衛星の利用 太陽電池とバッテリの併用 ミッションの概要 南極氷床上プローブデータ 収集ミッション ・プローブ設計指針 南極の気候(極低温, 地吹雪, サスツルギetc)等の機器 に対する影響を考慮 日本の極地観測の経験, AWSの実績をベース ・プローブ電力設計 太陽電池の発生電力:3.85[W] バッテリ:12[V]/100[Ah]を12個並列で使用 消費電力(平均):2.1[W] 通年にわたる無人観測が可能 衛星の概要 軌道 ・ミッション要求 ALOS(陸域観測技術衛星)に近い軌道を検討 :準極軌道 軌道決定 :中低軌道 :準回帰軌道 軌道種類 (運用開始時)軌道高度 軌道半径 軌道傾斜角 軌道周期 回帰日数 N 回帰までの周回数 n 円軌道・準回帰軌道・準極軌道 約 700[km] 約 7080[km] 約 98.0[deg] 約 1.65[hour]( 約 99 [min]) 約 16 日 233 衛星の概要 軌道 日本上空 赤線部分が通信可能領域 南極上空 青線部分が通信可能領域 衛星の概要 衛星の各サブシステム 構体系 太陽電池 シャント 熱制御系 電力制御器 3軸フラックス ゲート磁気計 磁気トルカ ×2 各サブ システム S-Band S-Band S-Band アンテナ アンテナ アンテナ 移相器 移相器 移相器 移相器 アンプ アンプ アンプ アンプ S-Band カプラ バッテリ S-Band ダイプレクサ 電源系 2軸デジタル 太陽センサ S-Band 受信機 姿勢制御 回路 コマンド デコーダ オンボード コンピュータ 地球地平線 センサ S-Band アンテナ S-Band 送信機 UHF-Band アンテナ ×4 UHF-Band ダイプレクサ UHF-Band カプラ 姿勢制御系 データ レコーダ GPS系 GPS用 アンテナ 受信機 C&DH系 UHF-Band 受信機 通信系 衛星の概要 各サブシステム 通信系 ・Sバンド用アンテナ:カップ付き広帯域MSA 最大利得:7[dBi]以上, ビーム幅:約60[deg] データ通信量を 増加させたい 解決策としてアンテナのスタック によるビームの合成を提案 MSA MSA 30[deg] Beam Width: 60.0[deg] 30[deg] Beam Width: 120.0[deg] MSAを4個スタック、ビームの合成により ビーム幅を120[deg]に拡大 衛星の概要 通信系 各サブシステム ・UHF用アンテナ:ターンスタイルホイップアンテナ ・衛星通信システム全体 S-Band Antenna PCB AMP PCB AMP S-Band PCB AMP PCB AMP CMD:Command Decorder CPR:Coupler DIP:Diplexer D/R:Data Recorder OBC:On-board Computer PCB:Phase Converter RX:Receiver TX:Transmitter CPR SubSystems Command UHF-Band Antenna (Receive only) Telemetry S-Band RX S-Band CMD DIP OBC S-Band TX D/R UHF-Band UHF-Band UHF-Band RX DIP CPR 衛星の概要 各サブシステム 通信系 ・回線設計:各通信ミッションの条件に応じて回線解析 周波数[GHz] 送信機の出力パワー[W] 送信アンテナの半値幅[deg] 送信アンテナのゲイン[dB] 送信機の実行放射電力[dBW] 受信アンテナの半値幅[deg] 受信アンテナのゲイン[dB] データレート[Mbps] Eb/N0[dB] ビットエラー率 A 2.52 10.0 60.0 3.99 12.9 4.17 31.7 6.0 12.3 B 2.67 30 3.93 32.4 45.9 60.0 3.99 6.0 13.3 107 107 C 0.4 5 ― 0 5.99 ― 0 0.0192 11.5 105 要求Eb/N0[dB] 5.6 5.6 4.5 マージン[dB] 5.7 6.7 6.0 A:衛星から日本地上局への DownLink(S バンド) 、B:昭和基地から衛星への UpLInk(S バンド) 、C:プローブから衛星への UpLink(UHF バンド) すべて3[dB]以上のマージンを実現 ・誤り訂正符号:畳込み符号/軟判定ビタビ復号 衛星の概要 各サブシステム ・重力傾斜安定方式 ・地磁気安定方式 姿勢制御系 3軸安定方式 (2軸:能動制御、1軸:受動制御) ・ロール、ピッチ軸制御 :磁気トルカを使用 ±2[deg]の姿勢指向 ・ヨー軸制御 :ホイールダンパー 定常的なスピンを除去 ・ハードウエア :重力傾斜ブーム :磁気トルカ :ホイールダンパー :地球水平センサ, 太陽センサ, 磁気センサ 各サブシステム 衛星の概要 姿勢制御系 ・姿勢制御ブロック図 Bz MTQ Y Magnetometer Tcy PD Controler Tdy q + Tdz [ B = B x , B y , Bz Bz Tcx Spacecraft y Dynamics ] + f Tdx MTQ X PD Controler + ESN T dx , T dy , T dz : Disturbance torques T cx , T cy + + DSS ESN : Control torques ESN : Earth Horizon Sensor DSS : Degital Sun Sensor MTQ : Magnetorquer Rod 衛星の概要 熱制御系 各サブシステム ・解析手法:ネットワーク法 ・使用した熱制御素子:多層断熱材, 断熱スペーサー, 黒色ペイント ・モデル 1 2 1 2 23 24 4 7 3 13 3 14 23 23 4 14 13 10 7 5 16 11 6 15 16 11 8 15 17 8 5 10 24 24 6 18 19 12 17 19 18 9 9 12 20 20 21 21 22 22 23 (外壁) 節点番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 低温最悪温度(℃) 高温最悪温度(℃) 18.0 3.03 23.4 8.42 8.03 -7.00 -6.10 14.7 -7.68 19.9 -4.97 15.9 -4.57 2.00 -7.18 2.63 -4.94 15.9 -4.33 3.66 -4.89 15.9 -4.95 15.9 -4.31 3.68 -4.39 2.89 -4.89 15.9 -4.84 16.0 -4.94 16.0 -4.93 15.9 -4.94 16.0 -5.48 15.0 -4.95 15.9 -4.95 15.9 -12.6 4.63 -12.6 4.63 24(外壁) 以上の結果より各機器が正常に作動することを確認 衛星の概要 各サブシステム 電源系 ・電力供給:ボディマウントの太陽電池(GaAs)でまかなう。 ・衛星電力要求: 18.5[W](平均/マージン10%) ・太陽電池セル総発電能力:48.1[W](寿命末期) ・バッテリ容量:86.4[Wh](1.2[V], 6[Ah] のセル12個) 4年程度の衛星寿命が見込まれる。 衛星の概要 各サブシステム 構体系 ・衛星総重量:41.0[kg] 内訳 構造部 :7.3[kg] 搭載機器 :25.4[kg] 計装類総計+マージン:8.3[kg] ・機構部固有振動数:182.0[Hz] ・打上時負荷最大縦荷重:安全係数1.5以上を確保 H-ⅡAロケット搭載のためのピギーバック衛星 インターフェイス条件をクリア 衛星の概要 はやて概観 ホイップアンテナ MSA ティップマス 重力傾斜ブーム 太陽電池セル 太陽センサ 地球センサ H-IIA I/F 太陽センサ はやて概観 衛星の概要 GPS受信機 ブームケース GPSアンテナ 太陽センサ回路部 地球センサ データレコーダ TIP MASS レギュレータ ブーム 太陽センサ バッテリー 磁気トルカ 磁気センサ ホイールダンパ 太陽センサ 磁気センサ回路部 アンプ 位相器 Sバンド受信機 UHF受信機 マイクロストリップアンテナ UHFターンスタイルホイップアンテナ 磁気トルカ回路部 オンボードコンピュータ まとめと課題 結論 ・本衛星が行うミッション (1) 南極昭和基地から日本地上局への 高速データ転送(年間100Gbyte) (2)無人観測プローブデータの広範囲自動取得 まとめと課題 応用 他のミッションへの応用 ・沖の鳥島など離島やヒマラヤなど高山部への プローブの設置/衛星を用いたデータ転送。 沖の鳥島・・・東海道、南海道地震の原因となるフィリピン海 プレートの安定部分にある唯一の島。 ・南極氷床上観測隊の緊急信号中継処理 まとめと課題 はやてと他の非静止衛星との コストパフォーマンスの比較 IRIDIUM 重量[kg] 689 衛星数 66 軌道高度[km] 780 軌道傾斜角[deg] 86.4 周波数[GHz] 1.6/1.6 最小仰角[deg] 8.2 伝送速度[kbit/s] 2.4 回線マージン[dB] 16 回線料金[ドル/min] 3 ミッションコストA(円/year) 27億4000万円 ミッションコストB(円/year) 5930万円 使用用途他 携帯電話・データ中継 サービス開始(年) 1998~ ODYSSEY 1334 12 10354 55 1.6/2.5 15 1.2-9.6 6 0.65 ミッション不能 ミッション不能 電話・データ中継 2000~ ORBCOMM 40.4 28 730 45/90 VHF+UHF TELEDESIC 750 288 700 98.2 28.8/19.0 40 4.8/9.6 2000/64000 N/A N/A 0.5[円/Byte] N/A 500億円(最大) N/A 13億7000万 ミッション不能 少量メッセージ通信 Internet in the sky 2000~ 2003~ はやて 41 1 700 98 2.67/0.4 19 6000/19.2 6~/6~ 0 5000万円 5000万円 データ転送 2002 or 2003~ はやてのミッションコストは開発/制作費(2億円と想定)を寿命年数(4年)で割ったもの ミッションA:高速データ伝送 ミッションB:プローブデータ回収 ・他衛星と比べても遜色のないコスト ・複数ミッションを組み合わせる事でより高いコスト パフォーマンスを実現可能
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