第四回

ガバナンス論
第四回 「ガバメントからガバナンス」
2007年5月1日 吉田
「ガバナンス」の流行
1988年 国際政治学雑誌「Governance」創刊
http://www.blackwell-synergy.com/toc/gove/1/1
静大では電子ジャーナルとしてフルテキストが読めます。
(http://www.lib.shizuoka.ac.jp/densi/ej/ejtitle.html#ej)
1998年 日本行政学会で取り上げられる
共通論題1-1 「日本の行政改革―ガバメントからガバナンスへ」
(1998年度研究会・総会 5月30日・31日 神奈川大学)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaspa/sokailist.html
2000年 小渕元首相 「21世紀日本の構想」懇談会最終報
告書 第一章-III-1 「統治からガバナンス(協治)へ」
「日本は、本来の、しかし日本にとっては新しいガバナンスを築き、成
熟させていかなければならない。 」
http://www.kantei.go.jp/jp/21century/houkokusyo/1s.html
「ガバナンス」
グッド・ガバナンス 8つの基本性格
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決定と実行の当事者(政府もその一つでしかない)の参加
その決定と実行の必要性に関する広く深い合意
アカウンタビリティ(特に影響を受ける者への説明責任)
参加者や決定・実施のプロセスなどが透明であること
すべてのメンバーの包含(誰もが排除されずに考慮される)
一定の期間内に制定・実行されること
効果と効率(結果が社会のニーズ、自然条件などにかなう)
公平なルールを取り決め、そのフレームワークに従って合
法的に決定・実施
http://www.unesca
p.org/pdd/prs/Pro
jectActivities/Ong
oing/gg/governanc
e.asp より
「ガバメント」
近代民主主義の3つの特徴
「国家」規模での民主主義(ナショナル・デモクラ
シー)
絶対王政、市民革命後の国家での「国民」による政治
「自由主義」を前提(キャピタル・デモクラシー)
経済的自由 ブルジョワの諸権利、所有と取引き
政治的自由 プライバシー、人権、(政治からの自由?)
「間接民主主義」
投票、代議制、立憲主義、官僚機構(ウェーバーの「形式
合理性」)
ガバメントの危機
19C近代民主政の危機 第一次大戦に至る民主
政崩壊の描写
ガバメントにおける「政治」「公共性」の解体
( アーレント『全体主義の起源』 )より
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以下、リファレンスは川崎修『アレント』講談社、2005年より
致命的な矛盾を含む「国民国家(national state)」
「帝国主義」による支配 同化と暴力
「官僚制」による匿名的支配
個別利害の代弁機構としての「政党」の解体
「大衆社会」による共同性の喪失
国民国家national stateの問題
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ナショナリズムと結びついた政治
国民国家は領土内に異質性を認められない。
だが、実際には領土内にはさまざまな異質な
人々が住む。
多様性を尊重できない
人びとを「国民」アイディンティティーにムリヤリ
一致させようとする(合意の強制、エスニシティ
の排除)
あるいは多数派によるマイノリティの支配(参加
できない、考慮から排除される)
自治権や特別代表権の付与で対応
帝国主義imperialismと暴力
経済的自由主義(キャピタル・デモクラシー )
財産の保障や取引きの自由の保護が課題に
自由競争資本主義による、資源と市場を求めての、国
家の拡大の欲求→帝国主義へ
帝国主義による植民地支配
植民地獲得 国家はさまざまな地域と人々をカバーす
ることに
「同質的住民による政府に対する住民の同意は得られ
ない」(合意なき支配)
同化政策 nationへの同化と同意を強制
法によらない支配 暴力(軍と警察)と権力(官僚)
官僚制(beurocracy)
官僚制背景
国民国家成立による統治の複雑化
政党の機能不全
植民地拡大による行政の肥大化
官僚制の問題
政治的言論(合意)を欠いた行政
決定プロセスや決定主体のはっきりしないロー
カル・ルール(政令)の設定と実行(透明性)
失敗の責任を取れない、取らない(説明責任)
政党の問題
本来の政党 公共的性格
1:公共的性格 「個別利害を超えた公共性を準備する
ような政治的空間、公的なフォーラム。」(アーレント)
2:「社会に存在するさまざまな利益・要求・意見を集約
し、議会で代弁する役割」「選挙における選択肢を提供
する」
代議制を通した参加、公的な合意のためのシステム
実際の政党制の問題
1について「政党と議会は諸々の利害の展示場にすぎ
なくなった」(アーレント)
2について、大政党だとこの役割も果たしえない。
大衆民主主義の問題
18C-19Cの想定された「市民」
財産と教養を備えた、理性的政治主体
自他の利害を正確に計算し、その実現のための
方策についても判断できる。
20Cの「大衆」 ポピュリズム
公職の経験(可能性)がほとんどなく、投票を通し
てのみ参加
理性的判断による合意の低下
→政治に対する感情的要素・非合理性の投入
政府やマスメディアによる大衆指導(操作)
ガバメント批判と新しい運動
70年代の権利獲得運動 市民パワーの増大
体制批判(平和運動、学生運動)
マイノリティの権利獲得
(公民権運動、女性・黒人・少数民族、同性愛者、他)
NGO、NPO、ボランティア活動(環境問題ほか)
90年代のITの発達 ガバナンス領域と手段
ネットという非ガバメント的空間
市民をエンパワーするツールとしてのIT
情報公開の手段
公共空間への参加と包含
公共空間における「政府の失敗」
「国民」の外部、マイノリティの政治不参加、利害
の排除
官僚制、政党制の機能不全による国民の政治か
らの排除
参加 「参加民主主義」
決定への参加(「公聴会」、「パブリック・コメント」
など)
実行への参加(NPO、「指定管理者制度」など)
改正行政法、NPO法、改正地方自治法
組織の透明性と説明、合法性
行政の不透明 政府不信へ
行政によるリスクの隠蔽 ex. BSE問題、血友病
問題、アスベスト問題
権利意識の高まり(企業に対しても)
「知る権利」「情報公開」「公共意識」「CSR」の動き
「コンプライアンス(法令遵守)」の仕組みづくり
情報技術による公開
データベース、アーカイブ、ネットワーク、web
憲法、情報公開法、個人情報保護法、改正会社法
ガバナンスによる効果と実行
民主主義の機能不全
政党や官僚制による混乱、硬直化
「社会問題を解決する社会的機会」
当事者参加による「自治の自由」の原則、「アクター」 民
主主義の基本
参加や包含による多様性、特殊性、専門性の取り込み
合意や説明責任による理性的・公開的な言論をベースと
する「政治的空間」「公共性」の復権
参加や問題の共有による「連帯」「コミュニティ」「ソーシャ
ル・キャピタル」「良識や道徳」の涵養
参考文献
『現代民主主義の変容』猪口、ニューマン、
キーン(編)、有斐閣、1999年
『改定新版 政治学入門』安部・久保・山岡、
放送大学、2000年
『アレント 公共性の復権』川崎修、講談社、
2005年
『参加ガバナンス』坪郷實編、日本評論社、
2006年
課題
ガバナンスは民主主義の延長であるか、方
向転換であるか? 「ガバナンス」と「民主主
義」を自分なりに捉えなおしつつ論じよ。
次回
ガバナンスに関する問題点、論点、ビジョンな
どについて講義します。