オープンソースのe-learning システムMoodle を用いた情報基礎科目の

オープンソースのe-learning システム
Moodle を用いた情報基礎科目の
早期認定試験について
岩手大学人文社会科学部(情報メディアセンター ・情処部門兼任)y
岩手大学情報メディアセンター・情報処理部門yy
岩手大学人文社会科学部z
遠藤教昭y , 中西貴裕yy, 吉田等明yy , 白倉孝行z,
五味壮平z
はじめに
2006 年から、高校で「情報」科
目を学んだ学生が大学に入学
その2,3年前ころから、本学の学生が入
学後初めて学ぶ情報科目である「情報基
礎」にも変革が必要であると考えていた
【理由】 この科目は学生の知識水準や
技術水準に則したものにする必要がある
それ以前からの懸念
「情報基礎」は本学の教養科目として必修
ただ、受講開始時の学生の知識レベルや
技術レベルにかなりのばらつき
↓
【問題点】 それらの学生に同じ教育をし
ていると、レベルの高い学生が不満?
高校で「情報」科目を学んだ
2006 年以降の入学生では
「情報」科目履修により、知識のばらつきが
増大する可能性もあると推測
↓
【対策1】 学生の知識・技術水準に応じて、
複数種の授業を開講する
【対策2】 一定の知識・技術水準に達して
いる学生を選別し、早期認定を行う
本学部では「早期認定」を選択
人文社会科学部では「早期認定」を選択
【理由】


「情報基礎」は学生生活や社会生活において
必要十分な情報モラル・知識・技能を習得させ
るのが目的
高度な知識・技能を身に付けさせるための授
業ではない
本研究の目的
岩手大学人文社会科学部で2006 年に始まり、
これまで3年間行われている「情報基礎」の早期
単位認定制度に関して考察する
3年目の2008 年からは、早期認定試験のオンラ
イン化を行い、よりシステマティックな運用が可能
となったが、その円滑な運用のための諸対策に
関して考察する



オンライン試験の問題内容に関する検討
オンライン試験の問題作成に関する検討
Moodle システムのスケーラビリティに関する対策
「情報基礎」に関して
「情報基礎」科目とは
岩手大学の「情報基礎」



全学共通の必修教養科目
人文社会科学部では全部で6クラス開講
2008 年度の受講者は230 人
人文社会科学部の授業担当者



学部の教員(白倉、遠藤、五味)
情報メディアセンター情報処理部門の教員(中西)
それぞれ1クラスまたは2クラスづつ分担
授業シラバスより
授業の目的(基本的には全学的に統一)

高度情報化社会において身につけておくべき
コンピュータおよび情報に関する「基礎的な理
論と技術」の習得を目的とする
 コンピュータの仕組みや役割に関する知識
 情報処理を適切に行うための知識と技術
 情報の受発信に必要な知識と技能
 情報化社会におけるモラルや社会的な問題点に
関する知識
授業の概要


岩手大学総合情報処理センターが学部に設
置した教育用PCを使用
基本ソフトウェアはWindows XP
授業の形式

講義および実習
以上、遠藤のシラバスより
早期認定に関して
第1期(2006~07) の早期認定
早期認定試験の前に講義


理論・技能・モラルのうち、高校でもっとも重視される
のは技能であると考え、
試験の前に、それ以外のこと、すなわち本学独自の
情報環境や理論・モラルに関して、4回の講義
(3.5コマ)
まず実技試験を計算機室で

対象は早期認定の希望者のみ
その後、筆記試験

試験紙を用いる一般的な方法
第2期(2008~) の早期認定
筆記試験のオンライン化

早期認定をより円滑に行うため
Moodleの小テスト機能を利用
早期認定試験の前に講義

試験の前に、本学独自の情報環境や理論・モラルに
関して、4回の講義(4コマ)
まずオンライン試験を計算機室で

対象は全員
その後、実技試験
早期認定試験
第1期(06~07年)
事前の講義
3.5コマ(5.25時間)
早期認定試験 実技(希望者)→筆記
問題形式
多肢選択形式
第2期(08年~)
4コマ(6時間)
オンライン(全員)→実技
同左
出題範囲
筆記試験
1)コンピュータの基礎知識



ハードウェア(CPU, 主記憶装置,補助記憶装置など)
ソフトウェア(OS, ファイルとディレクトリ、など)
情報の表現
2)情報ネットワークの基礎知識

インターネットのしくみ、電子メールのしくみ、など
3)情報モラル・情報セキュリティ







正式な電子メールの書き方
インターネットにおけるプライバシーの考え方
コンテンツの著作権
コンピュータウイルス
不正アクセス
セキュリティ関連の技術
個人レベルの情報セキュリティ
4)表計算


表計算機能
データベース機能の基礎
実技試験

文書作成(提示した見本と同じ文書を30 分以
内に作成)
筆記(オンライン)試験の問題数
コンピュータシステム
情報ネットワーク・情報モ
ラルと情報セキュリティ
表計算
第1期(06~07年)
20
第2期(08年~)
同左
22
20
12
同左
第2期の試験問題
「情報基礎」は、本学部では週に3日、合
計6クラス開講しているが、

問題は全部で3種類用意し、各曜日で異なる
ものを使用
多くの問題が必要になったので、

第1期のオリジナル問題に加えて、初級シス
アド の最近数年間の問題から、本認定試験
の目的に合うものを選択して使用
試験の合格基準と合格者数
筆記合格点
実技合格点
合格者数
第1期(06~07年)
80(筆記)
80
20名(06年)・15名(07年)
第2期(08年~)
60(オンライン)
80
19名
試験の実施法
85 名規模でシステムを使用したことがほ
とんどなかったので

試験の開始に手間取ったり、システム障害が
起きる可能性も考慮し、授業時間90分に対し
解答時間は75 分と短く
試験の円滑な進行&実施経過を十分観察
するため

30 分までは退出不可に
試験中の制限
試験開始前に教員が口頭で注意


ブラウザ以外のソフトは起動禁止
ブラウザでもeラーニングサイト以外はアクセス禁止
試験監督

試験中は教員とTA が各一名(クラスにより教員のみ)
巡回し、試験の円滑な運用を確認
実行結果

各曜日に40 人程度のクラス2 つずつで試験を行った
が、問題のある行為は特に認められなかった。
オンライン試験の平均点
5/19(月) 5/21(水) 5/22(木)
平均
24.2
23.6
23.6
標準偏差
3.9
3.6
4.2
中央値
24
23
23.5
最頻値
25
22
24
最小
17
16
14
最大
35
35
32
標本数
76
82
72
オンライン試験のカテゴリごとの正解率
問題カテゴリ
正解率(%) 種別(問題数)
オリジナル(7)
コンピュータシステム
46.2
シスアド(13)
情報ネットワーク/情報
オリジナル(6)
52.4
モラルとセキュリティ
シスアド(14)
オリジナル(4)
表計算
34.7
シスアド(8)
正解率(%)
57.7
39.9
80.5
40.3
23.8
40.1
オンライン試験に関して
サーバ1の構成
(1) ハードウェア


一般のPC(Pentium III 1GHz, 512MB Memory、
80GB × 2 HDD, OS はVine Linux 4.2, UPS)
(2) ソフトウェア




WWW サーバソフトウェア(Apache 1.3.41)
RDBMS ソフトウェア(MySQL 4.0.25)
PHP(PHP 5.2.6)
Moodle 1.5.4
サーバ2の構成
(1) ハードウェア


一般のPC (Pentium IV 3GHz, 1024MB
Memory、
80GB × 2 HDD, OS はVine Linux 4.2, UPS)
(2) ソフトウェア

ソフトウェアは、サーバ1と同様
パフォーマンス
オンライン試験は3日間(同じ週の月・水・木曜)
(1)2008/5/19 月曜

オンライン試験に備えてメモリを512MB に増設してお
いたのだが、
 それでもサーバの反応は芳しいものではなく、全員がテスト
問題を開くのに数分かかる状態であった
 なお、スタートアップが遅いだけで、試験の実施自体は正常
に行われた
(2)2008/5/21 水曜


そこで、メモリをさらに増設して1GB にし、
さらにMySQL のチューニング(メモリ割当量の増加)
を行ってみた
 しかし、スタート時の遅さは全く改善しなかった。
(3)2008/5/22 木曜

そのため、急きょ、別の性能の高いサーバに元の
サーバのHDD を接続し、CPU 性能を約3倍に上げた。
 すると、全員がテスト問題を開くのにほとんど時間は必要な
かった。
MySQL のチューニング
MySQL の主なチューニング項目

key buffer, table cache, max allowed packet, sort
buffer, record buffer
MySQL の適切なチューニングの方法



MySQL に添付のmy-large.cnf 設定ファイルで、メモ
リ512MB 以下のサーバで適切なメモリ配分となる
本システムは1GB のメモリを有しているが、若干の余
裕を残すかたちでこれを採用した。
他にもメモリ容量に応じた設定ファイルが添付されて
いる
PHPのチューニング
Moodle を動かすプラットフォームであるPHP に
関するチューニングも必要

php5 の設定ファイルphp.iniの設定
 memory limit
 128MB に設定されていたが、32MB に修正


(memory limit = 32M)
メモリに若干余裕があるので、16MB ではなく32MB にしてみた
php accelerator
 Moodle のドキュメントでは、eaccelerator などの
php accelerator を推奨
 本サーバでは、2008年オンライン試験時点では未使用
考察
スケーラビリティ
以前、私たちのMoodleサーバは、ユーザ
数が44 名(=片方の実習室が満席)に近
づくと、「小テスト」「投票」などの初期画面
を開く際のレスポンスがかなり悪かった
早期認定試験の場合は、最大85 席に対
応する必要があり、このスケーラビリティ問
題を解決する必要があった
MySQL
1.00E+05
8.00E+04
throuput received
throuput sent
6.00E+04
4.00E+04
2.00E+04
time
16:35
16:20
16:05
15:50
15:35
15:20
15:05
14:50
0.00E+00
14:35
throuput (byte/sec)
1.20E+05
CPU
user
2.00E+02
system
1.50E+02
softirq
1.00E+02
nice
5.00E+01
irq
0.00E+00
iowait
14:35
14:45
14:55
15:05
15:15
15:25
15:35
15:45
15:55
16:05
16:15
16:25
16:35
2.50E+02
idle
Load average
14
:35
14
:45
14
:55
15
:05
15
:15
15
:25
15
:35
15
:45
15
:55
16
:05
16
:15
16
:25
16
:35
7.00E+00
6.00E+00
5.00E+00
4.00E+00
3.00E+00
2.00E+00
1.00E+00
0.00E+00
早期認定試験をオンライン化し
た影響
2006 年は約60 名、2007 年は約20 名の受験
者であったので、試験採点の手間は元々莫大な
ものではなかったが、よりシステマティックに認定
試験を行えるようになった。
一方、問題作成の手間は相当なものであったが、
一度作成すれば次年度も手を加えて再利用する
ことが可能であるので、今後のことを考えれば十
分利点が多い
学生の技能・知識のばらつきに
ついて
最近では高校の「情報」科目の影響というよりは、
社会環境の変化で学生の技能レベルが上がっ
てきた
その変化とは、自宅にPC をもつ学生がほとんど
となったことである
そのため、PC の操作法、WWWブラウザ使用法、
ワードプロセッサ使用法などの基本的な技能は、
ほぼすべての学生が入学時に習得しており、
そのばらつきも少なくなってきている
すなわち、2006 年以降の新入生では、情
報の技能レベルは全体的に上昇かつ平準
化した一方、知識レベルはあまり変化がな
かった。
したがって、総合的なレベルは上昇したも
のの、そのばらつきはむしろ平準化した
以前よりも、情報の知識やモラルに関する
教育に時間を使えるようになった
オンライン試験に関するMoodle
の利用価値
同時受験者80 名程度の中規模オンライン試験
をオープンソースのMoodle で円滑に行えること
は実証できた
また、今後の実証が必要ではあるものの、動作
速度の観察からは本システムでもさらに多くの同
時受験者に対応できると感じられた
結論的には、早期認定試験にかぎらず、
一般的なオンライン認定試験を行う場合に
も、Moodle は使いやすく、利用価値が高
いものと考えられた
他学部や他大学でも、広く活用可能なもの
であると推奨できよう
早期認定に関する本学の動き
岩手大学では農学部でも2007 年度から情報基
礎の早期認定制度がはじまった
本学では、情報基礎の早期認定制度が、一定の
支持を得つつあるようである
早期認定試験の意義
3年間の早期認定試験で1クラス分以上の合格
はなし → 教員の負担軽減はなかった
しかし,1年生が入学して早期に4回程度の授業
で情報のエッセンスを学び、早期認定試験に向
けて学習に励むのは → 新入生の学習意欲を高
める動機付けとしてはよいと思われた
合格するのは230~240 名の中で20 名程
度であるが、
それらの学生は情報基礎が早期認定され
た分、他の学習に時間を回すことが可能と
なり、
より有意義な大学生生活を送れているも
のと考えている