Chapter6 経済合理性について ミクロ経済学 オペレーション・リサーチ(OR) 市場経済 • 多くの企業や個人がそれぞれ意思決定の結 果により生産や消費が実現する経済システ ム。ここには、何を生産し消費しろと指示を出 す中央当局も責任者もいない。個々の生産 者はもっとも利益が上がると思うものをできる だけ生産し、消費者は自分が最も満足させて もれえると思うものを必要なだけ消費します。 経済学 • マクロ経済学とは、経済全体の浮き沈みを研 究する経済学。 • ミクロ経済学とは人々がどのように意思決定 をし、その意思決定がどのように相互作用す るかを学ぶ経済学。 ミクロ経済学の核 • 個人の選択の経済学の基礎原理 – 資源は希少である • 資源とは何か別のものを生産するために使えるもののことであり、その資源 はすべての生産用途を満たすのに十分なほど存在しない。希少であると言う ことは個人はそれをどのように使用するか選択しなくてはならないということ でもある。 – ある品目の本当の費用はその機会費用、すなわちそれを得るために あなたがあきらめなければならないもののことである。 – 何かをする時の便益と費用を比較するときあなたの決定はトレードオ フを必要としている。つまり、何かの活動をもうちょっとだけ増やすか、 あるいはもうちょっとだけ減らすかの決定は限界決定と呼ぶ。そして このような決定の研究を限界分析と呼ぶ。 – 経済学では人々は自分の暮らしをよくする機会を見逃さない。利用可 能な機会が変化し、それにより行動を変えることで利益が得られるよ うな場合、人々は新しいインセンティブ(要因)に直面しているといえ る。経済学者は通常インセンティブ無しで人々の行動を変えることに 懐疑的である。 経済が働く仕組み • 相互作用 – 私の選択があなたの選択に影響し、逆にあなたの選択が私の選択を左右するという選択の 相互作用は大抵の経済状況にみられる。この相互作用により、個人が意図したこととは全く 異なる結果が生じることが多々ある。この相互作用にも幾つかの原則がある。 – 取引は利益をもたらす。 • 人々は取引を通じて自給自足でいるよりも欲しいものをより多く手に入れることができる。これを、取 引利益と呼び、この取引利益は、特化、すなわち各人が得意とするものに専念することにより生じる。 – 市場は均衡に向かう。 • ある経済状況にあって個人が何か従来と違うことをしてみても暮らしを改善できなくなったとき、その 状況は均衡の状態にあると呼ばれる。通常市場に利潤機会がある時にはモノの値段が上がったり 下がったりするが、この状態は結果的に均衡状態に向かうと考えられている。 – 社会目標を達成するため、資源はできるだけ効率的に用いられなくてはいけない • • 経済学的に言うところの経済の資源が効率的に利用されているといえるのは、資源がうまく用いられ、 みんなの暮らしを良くするためにあらゆる機会が利用されつくされているような状態である。 しかし効率性が経済の唯一の目標ではない、公平性も十分考慮しなくてはいけない。公平性とはだ れもが自分の公平な分け前を受け取るということであるが、この公平性には明確な定義があるわけ でなく時に公平性と効率性は離反関係にある状態も多い。 – 個人が何を消費し何を生産するか自由に決定できる市場経済では、互いの利益になる機会 は通常逃がさず使われる、つまり市場は効率を目指すといえる。 – 市場が効率性を達成しない場合には、政府の介入が社会厚生を高める可能性がある。 • 市場が失敗する可能性として、1)取引の一方が相互に有益な取引の実現を妨げる、2)ある種の財 は市場での効率的な処理に適さない等が考えられる。 比較優位と取引利益 • 人々がそれぞれ違う仕事に特化し取引するこ とによって得られる相互利益に表現する経済 モデルに比較優位モデルがある。 • このモデルでは人はだれでも何かの財に比 較優位を持ち、何かの財に比較劣位を持つ。 この状態では相互に取引を行うことで取引利 益を得ることができる。しかし、一方の側が絶 対優位(全ての財で優位にある状態)では取 引利益を得ることはない。 生産可能性フロンティア 実現可能で効率的な点 ココナッツの生産量 30 d a 20 c b 10 0 実現可能だが非効率な点 0 10 20 魚の数量 生産可能フロンティアは、2財を生産する経済が直面するト レードオフを表している。それは一方の財の所与の生産量 に対して、もう一方の財の最大可能な生産量を示す。 比較優位と取引優位 トムの生産可能フロンティア マイクの生産可能フロンティア 30 20 ココナッツの収穫量 ココナッツの収穫量 40 魚の数量 自己生産・自己消費 取引優位を使用 10 魚の数量 トムの機会費用 マイクの機会費用 魚1匹 ココナッツ3/4個 ココナッツ2個 ココナッツ1個 魚4/3匹 魚1/2匹 生産量 魚 ココナッツ 消費量 魚 ココナッツ トム 28匹 9個 トム 28匹 9個 マイク 6匹 8個 マイク 6匹 8個 生産量 魚 ココナッツ 消費量 魚 ココナッツ トム 40匹 0個 トム 20匹 10個 マイク 0匹 20個 マイク 20匹 10個 取引後 競争市場のモデル • このモデルには5つの要素がある。それらは、 需要曲線、供給曲線、需要曲線と供給曲線を シフトさせる要因、均衡価格、曲線がシフトし た時の均衡価格の変化の仕方が含まれてい る。 需要曲線 • 需要曲線は、消費者がある財を異なる価格でど れだけ買いたいかと思うかを示した曲線である。 チケットの価格 10000 需要曲線 5000 1000 5000 10000 15000 20000 チケットの枚数 需要曲線 • 需要曲線のシフトはすべての価格水準で需要量が変化し たことを表す。 • 需要曲線のシフトが起こる要因として、関連する財の価格 変化(補完財や代替財)、所得の変化、嗜好の変化、期待 の変化などがある。 チケットの価格 シフト 10000 需要曲線 5000 1000 5000 10000 15000 20000 チケットの枚数 供給曲線 • 人々が財・サービスをそれぞれの価格水準で どれだけ売っても良いと思うか表す。 チケットの価格 10000 供給曲線 5000 1000 5000 10000 15000 20000 チケットの枚数 供給曲線 • 供給曲線のシフトは、すべての価格水準での供給量の変化を表 す。 • 供給曲線のシフトは、投入物価格の変化、技術の変化、期待の変 化などにより起こる。 チケットの価格 10000 供給曲線 5000 1000 5000 10000 15000 20000 チケットの枚数 競争市場の均衡 • • • 競争市場の均衡は、ある財の価格が需要量と供給量が等しくなる水準に落ち着 いた状況である。この状態にある価格は市場均衡価格、数量は均衡数量と呼ぶ。 ある財の供給量が需要量を上回るとき、供給過剰と呼ばれる。これは価格が均 衡水準よりも高い時に起こる。 ある財の需要量が供給量を上回るとき供給不足と呼ばれる。これは価格が均衡 水準より安い時に起こる。 チケットの価格 供給曲線 10000 5000 1000 需要曲線 5000 10000 15000 20000 チケットの枚数 生産関数 • 企業が用いる投入物と生産量の関係を表すものが生産関数と呼ぶ。 • ある投入物を追加したときの生産量の増加を限界生産物と呼び、それを グラフにしたものを総生産曲線と呼ぶ。 • 通常生産量が低い時に新たな投入物を追加すると生産量は大きく増加 するが、生産量が多くなるにつれ、その追加の効果は低くなる。 生産台数 総生産曲線 1000 500 100 50 100 150 200 労働投入量(人数) 費用曲線 • 総生産曲線から総生産量と総費用の関係を表現すると限界費用 曲線と呼ばれるものになる。 • この限界費用曲線では生産量が低い時に増加を行っても総費用 の増加は微少であるが、生産量が大量になるにつれ総費用の増 加額も過大になっていくことを示している。 総費用 総費用曲線 400 300 200 100 100 500 1000 生産台数 平均費用と限界費用曲線 • • • 総費用を生産量で割ったものを平均費用と呼び、それをグラフにしたものを平均費用曲線と呼ぶ。 通常、平均費用曲線はU字の形をしているが、これは生産量の低い時は新たな費用の追加から の生産量があがる効果が大きいので平均費用も減少するが、ある規模に達するとその効果が低 くなりより多くの費用を必要とするようになる。そのために平均費用も増加することになる。 限界費用曲線は、1単位の生産量の増加によりかかる増加費用を示したものである。この曲線は 必ず最小平均費用点を通過する。生産量がこの点よりも低い時は限界費用は平均費用よりも低 く、生産量が多い時は限界費用は高くなります。 限界費用曲線 1単位の費用 平均費用曲線 40 30 20 10 最小平均費用 100 500 1000 生産台数 限界分析を使用して企業の利潤最大 化生産量を選ぶ。 • 限界生産ルールによれば、最後の1単位の生産物が もたらす限界収入と限界費用が等しくなるような生産 量が利潤を最大化すると示している。これは、限界費 用曲線が市場価格と交差する点で示される。 自動車の価格 1台の生産費用 需要曲線 限界費用曲線 10000 5000 平均費用曲線 市場価格 1000 供給曲線 5000 10000 15000 20000 販売台数の枚数 100 500 利潤最大化生産量 1000 生産台数 オペレーション・リサーチ •オペレーションズ・リサーチ(OperationsResearch,以後ORと略す)は,現在では,組 織体(企業,非営利法人,自治体,政府,国際機関などすべて)の意思決定のため の,合理的・科学的アプローチの技術として必須のものである.元来は第二次大戦 中米英両国で,多くの分野の研究者,技術者(自然科学,工学,社会科学,心理学 など)を組織的に動員し,最適戦略(optimalstrategy)を研究するORグループを編成し たのがその始まりである.operationとはここでは「作戦」といった意味である.その成 果は1951年,現在ではORの古典として有名なP.M.Morse and G.E.Kimball: Methods of OperationsResearchとして出版された.この書物には,軍の配備,対潜哨 戒,船団護送,都市攻撃,対空射撃,対神風特攻攻撃など,きわめて多方面での成 果が報告されているが,下に一例を紹介しよう. •野戦における食器洗い –食事後各兵士が各自の食器を洗うために洗い桶が用意されている.半分は洗い用,他の半分 はすすぎ用であるが,いつも洗い用に長い行列ができ,すすぎ用はほとんど行列ができない.OR 担当士官は測定の結果,洗いには平均してすすぎの3倍の時間がかかることを見出し,洗い用, すすぎ用の桶の数を3:1にしたところ,行列はほとんど解消した. 0Rの特徴と手順 ORはいくつかの特徴をもつことがわかる. 1. 科学的・合理的であること 1. ORによる解決は,宗教教祖のお筆先のように,特定の人物の直観と霊感によって得られるものでは ない.基本的な仮定とモデルに基づいて導かれ,その仮定やモデルは現実から抽象されたものであ り,したがって結論の根拠について合理的な説明が可能でなければならない.ただしその結論の正し さは一にかかって基本仮定の正しさによるわけで,仮定が充分現実を反映しているものでなければ ならない.しかし,問題の複雑さのために,モデルに採り入れなかった要素が大きな影響をもったり, パラメータの値やデータが少し変わったために結論が大きく変わったり,その他諸々の事情のため, 往々にして熟練した意思決定者のカンによる結論の方がOR研究の結論よりも正しいことも起こりうる. しかしこれはORの価値を下げるものではない.ORにおいては,結論と同時に,結論に至るプロセス が大切であり,そのプロセスを通じて現象の本質に迫ることが重要なのである. 2. 学際的(interdisciplinary)であること 1. ORグループの解決すべき問題は複雑多岐であり,このため多方面の知識,種々の分野で開発さ れた方法論が必要である.大切なことは,各メンバーが他分野に対する理解と関心をもつと同時に, 自らの主体性を失わないことで,この点は野球のチームと似たところがある.とくに注意すべきこと は,分野による専門用語のちがいであり,同じ言葉で異なったことを意味したり,同じことを異なった 言葉でよんだりすることである. 3. 定量的(quantitative)であること 1. 前節で示した例でわかるように,行列を短くする,あるいは味方の損害を少なくして敵を撃滅するの には,どうしたらよいか.定性的な答なら通常の常識でただちにわかる.しかし,定量的な答となる と,数値的なデータと数理的な解析がぜひ必要であり,また問題の大きさ,複雑さのために電算機 が多用されるのである. 0Rの特徴と手順 • ORの最初の手順は、目的の明確化である。営業戦略を樹立するにあたっても,利益を最大 にするのか,シ ェアを最大にするのか,また向う1年を考えるのか,5年後を考えるのか, などによって全く話が異なってくるであろう。また投入人員,予算,法的規制など種々の制 約(constraint)がつきものである。ORの基本的な発想は,考えられる制約の下で,目的達 成に最適なしかたを見出すことである(最適化optimization)。こうして目的が明確となり,問 題が把捉され,必要な調査を行ったら,次にモデル構成である。生のシステムは通常非常 に多くの要因に支配されて複雑すぎて扱いにくいばか,往々にして何が本質的なことかを 見極めることが困酢ある。このため,現在の目的において本質的でない要因の影響を無視 して、本質的なものだけを残した理想的なシステムを研究の対象とすることが多い。これが モデル(model)であるが,モデルはあくまでモデルであって現実ではないことを忘れてはな らない。ORでは他の型のモデル、例えば図的モデルや物理的モデル(スケール・モデル)も 使われるが,数理的モデルが最も普通である。数理的モデルでは一連の方程式でシステ ムの挙動を記述する。方程式に含まれる変数は2種類に分かれる。1つは決定変数 (decision variable),他は外生変数(exogenous variable)すなわち定数である。前者は戦略 実施にあたって意思決定者が直接制御できる変数であって,それにより、結果が左右され るものであり,OR研究はこれらの変数の最適な値を求める活動である。後者はOR研究の 際には外から与えられた定数として扱うべきもので,意思決定者によって制御できないもの である。もちろん,外生変数の値が変わればそれに応じて決定変数の最適値も変わる. ORによる在庫管理の例 このモデルでは,在庫量がゼロの時点で品物が発注さ れ,発注量のQがただちに納入されると仮定している. 需要は時間的に一定で,つまり,在庫は一定量ずつ減 少していき,在庫量がゼロになった時点で再び,Q量が 発注,納入される.この1サイクルの期間をt日とし,この 状況をグラフに表すと,図のようになる. ORによる在庫管理の例 • • 年間の総需要をRとすると,年間の発注回数は(実数値で)R/Q回となり,1回の発注費をkとする と,年間の発注費はkのR/Q倍である。また,1単位の品物の年間の在庫維持費用(倉庫経費, 保険料,保守費用,税金,運搬費,利息など)をhとすると1日の平均在庫量がQの半分となるか ら,年間の在庫維持費用は,h×Q/2となる。 年間の総費用は,いま述べた年間発注費用と年間在庫維持費用の和で示される。 年間の総費用=(k× R/Q)+(h× Q/2) • となる.この式が目的関数で,これを最小にするQを見出すことが目標である。 微分方程式を使用して、上記の目的関数の最適な発注量Qは求める方程式は次のよう になる。 ORによる在庫管理の例 • 1回の発注費が20000円,1単位当りの年間在庫維持費用が10000 円,また年間総需要が900単位の時の,最適発注量と年間総費用 の最小値を求めよ. • 【解】 k=20000 h=10000 R=900 であるので,式より,最適発注量は =60(単位) となる.この時の年間総費用は目的関数により C*=10,000×60 =600,000(円) となる.
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