知的財産と社会 デジタル時代の著作権とオープン化 野口 祐子 渡辺 智暁 第4回講義 担当: 野口祐子 権利処理が複雑な 著作権の現状を どう改善すればよいか? 3つのオプション • 許諾(ライセンス) • 集中権利処理をすすめる(許諾のコストを下 げる) • 例外規定を新しく作る(ベルヌ条約のもとでも 可能) ライセンス 典型的なライセンス この曲を映画に使わせて下さい。 ついでに、サイトでもダウンロードで きるようにさせて下さい。 期間は○○、対価は××でお願いで きますか? 企画をもっと詳しく教えて下さ い。 基本的にはOKですが、DRM をかけて下さい。 わかりました。 ありがとうござい ます。 対価として、△△下さい。 事前許諾 • 権利者が事前に許諾 • サービス利用規約で決まっている場合もある • 二次的利用、共同創作などが想定される場 合(サービス)に非常に有効 • 広く見て欲しい、使って欲しい場合にも – 権利者も予想外の利用を禁止出来るメリット – 利用者にもメリット • 多数が利用することが予め想定される場合に は、ライセンスの標準化が重要 たとえば… ピアプロ・キャラクター・ ライセンス その2:権利の集中管理 JASRAC 改善策(2) 権利の集中管理 • いろいろ、批判も浴びているJASRACだが、 基本的には社会に貢献も大 • たとえば、取引費用の低減 – 基本的に申し込みに対して拒否しない – どんなビジネスでも、お金を払えばOK – 差別されない – 事前にビジネスの計画が立てやすい – 実質、強制許諾制度に切り替えたようなもの JASRACを沢山? (T T) 権利処理の難しさ • 権利処理機構を作ること自体のコスト – 権利者・著作物のリスト作成コスト – 統一的ライセンス・プログラムをまとめるコスト – 処理機構運営の初期コスト、等 • ベルヌ条約の無方式主義からくる「登録」制度 への“アレルギー” – 何もしなくても権利は守られて当然!? • 既存のシステムを統一するエネルギー – いろんなコンテンツが相互に認識できるようにする には、多数の協力が必要 許諾で全部解決する? 許諾があれば立法は不要? • 契約と立法は役割が違う • 契約=私的自治、市場が成り立つならOK • 立法=市場が成り立たない場合や、権利者 の意思よりも優先されるべき事実がある場合 に必要・有効 – たとえば、権利者不明が典型 – 軽微だが有益な利用等(費用倒れ) – 教育、福祉等(積極的外部効果) 日本版フェア・ユース 近年の例外規定の重要性の増加 • 権利の拡大はバランス・ツールの強大化を要請 – 権利の網をかける範囲が広ければ、その網から外すべ きものも増えて当然 • 世界的に著作権期間は延長を繰り返す傾向 – バランス・ツールの一つは次第に機能を失いつつある • 特に、日本においては、複数権利者の著作物はすべ ての権利者に「拒否権」があるため問題が深刻 – Cf. 米国では著作権の共有権者は単独で許諾が可能 • 新技術(コンピュータ・ソフトウェア、インターネットな ど)の恩恵を社会においてどう位置付けるかという政 策的な問題 – Cf. 米国における検索エンジンとFair Use 経緯 知的財産戦略本部 デジタル・ネット時代における 知財制度専門調査会 報告書(2008年11月27日) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tite ki2/houkoku/081127digital.pdf 我が国が国際社会において 競争力を発揮するため 世界最高水準と言われる 情報通信環境をいかし、 新たなネットビジネスの発展や 技術開発を促すとともに、 クリエーターの 創作インセンティブを高めるための基 盤を確立することが 不可欠 技術の進歩や 新たなビジネスモデルの出現に 柔軟に 対応できる法制度 権利制限の一般規定 (日本版フェアユース規定) の導入 2009 知的財産推進計画 2009年度中に結論を得て 早急に措置を講ずる 文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会 検討 (2009~2010年度) 報告書 2010年12月 「権利の一般制限規定ワーキングチーム報告書概要」より 「権利の一般制限規定ワーキングチーム報告書概要」より 2012年3月 通常国会に法案提出 さらに狭い条文に 「軽微利用」 「軽微利用」 → 写真・ビデオ・録音機による 「写り込み」のみ 適法な著作物の利用の過程 適法な著作物の利用の過程 →「許諾を得た利用」または「裁 定による利用」の過程 著作物を知覚しない利用 著作物を知覚しない利用 →技術開発・実用化試験 +情報通信技術による 情報提供の準備 現在、国会審議中 /経緯 評価 ・写りこみ ・許諾利用の過程で不可避的 ・技術開発、情報発信の準備 技術の進歩や 新たなビジネスモデルの出現に 柔軟に 対応できる法制度 からは程遠い 「一般」例外規定? 批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使 用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、 研究または調査等を目的とする著作権のある著作 物のフェア・ユース [考慮すべき要素] (1) 使用の目的および性質(使用が商業性を有するか または非営利的教育目的かを含む) (2) 著作権のある著作物の性質 (3) 著作権のある著作物全体との関連における使用さ れた部分の量および実質性 (4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に 対する使用の影響 /評価 考察 why? how? 文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会 メンバー 進め方 著作権課 ヒアリング JASRAC レコード協会 日本シナリオ作家協会 日本文藝家協会 日本ペンクラブ 日本映画製作者連盟 日本映像ソフト協会 日本動画協会 日本書籍出版協会 日本写真著作権協会 日本漫画家協会 コンピュータソフトウェア著作権協会 NHK 日本民間放送連盟 MIAU 知財協 JEITA 障害者放送協議会 日本図書館協会 モバイル・コンテンツ・ フォーラム 経団連 CCJP アンケート調査 http://creativecommons.jp/public/fairuse/ccjp_fair use_report.pdf アマゾン Google ニフティ Yahoo パブリック・コメント 報告書後 第2回ヒアリング JASRAC CPRA レコード協会 日本映画製作者連盟 日本映像ソフト協会 日本動画協会 日本書籍出版協会 日本雑誌協会 コンピュータソフトウェア著作権協会 ビジネスソフトウェアアライアンス 社団法人日本新聞協会 日弁連 知財協 JEITA CCJP デジタル・コンテンツ法有識者 フォーラム ネットワーク流通と 著作権制度協議会 「権利の一般制限規定ワーキングチーム報告書概要」より リアルな回答? アドリブな回答? 技術の進歩や 新たなビジネスモデルの出現に 柔軟に 対応できる法制度 コンセンサス方式 = veto 委員? 世論? 政治家? 世論 新聞・テレビ ストーリー (話題性) フェア・ユースに ついては… ネット世論 影響力? 盛り上がり? 興味? 関係ない? cf:TPPシンポ ニコ生 4万人動員 しかし、隠れた最大の難関 内閣法制局 「立法事実は?」 「整合性は?」 (送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等) 第四十七条の六 公衆からの求めに応じ、送信可能化された情報に係る送信元 識別符号(自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符 号をいう。以下この条において同じ。)を検索し、及びその結果を提供することを業と して行う者(当該事業の一部を行う者を含み、送信可能化された情報の収 集、整理 及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る。)は、当該検索及びその結果 の提供を行うために必要と認められる限度において、送信可能化された著作物(当 該著作物に係る自動公衆送信について受信者を識別するための情報の入力を求 めることその他の受信を制限するための手段が講じられている場合にあつては、当 該自動公衆送信の受信について当該手段を講じた者の承諾を得たものに限る。)に ついて、記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的 著作物の記録を 含む。)を行い、及び公衆からの求めに応じ、当該求めに関する送信可能化された 情報に係る送信元識別符号の提供と併せて、当該記録媒体に記 録された当該著 作物の複製物(当該著作物に係る当該二次的著作物の複製物を含む。以下この条 において「検索結果提供用記録」という。)のうち当該送信元識 別符号に係るものを 用いて自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該検索 結果提供用記録に係る著作物に係る送信可能化が著作権 を侵害するものである こと(国外で行われた送信可能化にあつては、国内で行われたとしたならば著作権 の侵害となるべきものであること)を知つたときは、そ の後は、当該検索結果提供 用記録を用いた自動公衆送信(送信可能化を含む。)を行つてはならない。 /考察 今後 国会審議 政治家? お金にならない? cf.JARAC70周年 鳩山発言 附帯決議(見直し) cf. DMCA /日本版フェア・ユース ライセンス運動 98 ライセンス運動 • コンピュータ・ソフトウェアの分野でまずは発展 • Free Software FoundationのGNU General Public License (GPL) – 1989年、リチャード・ストールマンがGNUプロジェクトの ソフトウェアの配布のために発表 – Linuxカーネルなどで利用されている – 強力なコピーレフトが特徴。商業的二次利用では困難も • 再頒布の条件がより緩やかなオープン・ソース・ソフト ウェア・ライセンス – BSDライセンス(1990年~)、Apacheライセンス(v1.1、 2000年)等が有名。商業的二次利用に便利 – Open Source Initiativeに承認されたライセンスは、現在 約70種類 クリエイティブ・コモンズの登場 • 2001年12月、ソフトウェア以外の著作物を ターゲットにクリエイティブ・コモンズ(CC)ライ センスが登場 – GPLにインスピレーションを得たといわれる – 背景に、米国で争われた著作権期間延長法案の 違憲訴訟がある(Eldred v Aschcroft, 2003年最 高裁判所で敗訴) – 立法、司法に頼らない解決策の模索の中から生 まれる • 現在、世界約70カ国・地域に拡大 参考文献:ローレンス・レッシグ「Free Culture」(邦訳、2004、翔泳社) 拙書「デジタル時代の著作権」(2010、ちくま新書)、 現代のコンテンツの共有が 直面する3つの問題点 • 権利者の所在が必ずしも明らかでないこと • 禁止がデフォルトのルールであること • インターネット上の流通に対応する標準化され た仕組みが存在しないこと 101 CCの解決策 • 権利者の所在 → 探さなくて良い • 禁止がデフォルト → 一定の条件を守れば自由な利用がOK • インターネットでの利用 → メタデータをつけ、検索などに対応 102 クリエイティブ・コモンズとは? • 人間が読んで分かる「マーク」と「証書」 作り手の 名前を適切に 表示すること [表示] (BY) 作り手の 作品でお金儲け をしないこと [非営利] (NC) 作り手と同じ ライセンスで 発表すること [継承] (SA) 作り手の 作品を改造 しないこと [改変禁止] (ND) balance ライセンスの組合せ (ライセンス・ボタン) コモンズ証 internationalization ライセンス条項 Metadata metadata how to find cc licensed material? CCの2つの役割 (1)政策形成過程の補完(将来、著作権法改正につな がることを期待) – 権利者団体に代弁されない権利者の声を可視化 – より広い権利者層の考えを数値化する実証的側面 (2)サブ・グループのニーズの充足(必ずしも、著作権 法改正につながらない) – 著作権をめぐる経済原理は多様。金銭的な対価を主 たる目的とする商業的権利者のみではない。 – 商業権利者のビジネスモデルも多様化 – 多様な著作権のエコシステムの中で、一定のサブ・ グループの権利者とユーザーに共通ルールを提供 参考文献:ローレンス・レッシグ「Remix」(邦訳、2010、翔泳社) クリス・アンダーソン「フリー」(邦訳、2009、日本放送出版協会 ) クリエイティブ・コモンズの 実証的側面 • 利用している人たちのライセンス選択を見る ことで、創作者のインセンティブや著作物の 流通において重視する事柄を統計的に探る ことができる – 非営利ライセンス → 金銭的なインセンティブを 重視 – 改変禁止ライセンス → 同一性の保持を重視 – 継承ライセンス → コモンズの維持と広がり、 Fairnessを重視 – 表示ライセンス → 氏名表示による認識を重視 CC Monitor Project • CCの利用実態をモニターするプロジェクト • 全世界のほか、地域や各国ごとに、利用され ているライセンス数、ライセンス比率、「自由 度」などを公表 • http://monitor.creativecommons.org/Main_ Page クリエイティブ・コモンズの実績 Minimum Total Licensed Works 450,000,000 400,000,000 350,000,000 300,000,000 250,000,000 200,000,000 150,000,000 100,000,000 50,000,000 0 5 -0 11 20 1 1 10 20 0 5 10 20 1 1 09 20 0 5 09 20 1 1 08 20 0 5 08 20 1 1 07 20 0 3 07 20 0 5 06 20 1 1 05 20 0 5 05 20 1 1 04 20 0 5 04 20 1 1 03 20 0 5 03 20 2010年12月に、全世界で少なくとも4億ライセンスを超える CCの実証的側面 • 条件選択の比率を見ることで権利者のインセンティ ブがわかる • 「表示」は当初オプションであったが、98%の人が選 んだため、2004年にデフォルトに • 世界における各条件の選択比率 2005.2 2006.4 2009.3 2010.5 非営利 74% 71% 62% 49% 改変禁止 33% 28% 29% 20% 継承 49% 48% 47% 57% CCライセンスの「Freedom Score」 • 各ライセンスごとに、下記スコアを割り振る。 • スコア×各ライセンス割合(%)の合計で算出 BY BY-SA BYND BYNC BYNCSA BYNCND 商業的自由 6 5 4 3 2 1 創作的自由 6 4 2 5 3 1 合計スコア 6 4.5 3 4 2.5 1 Giorgos Cheliotis, "Taking Stock of the Creative Commons Experiment“ (2007) 具体例 [幾つかの事例] オープン出版(CC+PDF) レッシグ教授の書籍が発売前からCCPLライセンスで公開(http://codev2.cc/) ccMixter • 音楽家がCCライセンスをつけて音楽を投稿し、おたがいに サンプリングしあう場所。 • http://ccmixter.org/ Magnatune Magnatune DRMなし、“スポンサー”制、アルバム1枚平均9ドル程度、 しかし、主要な収入はライセンス収入 [幾つかの事例] OpenCourseWare ネットにおいて高等教育の教材情報を無償で公開するOCWプロジェクトは、2001年に米 国マサチューセッツ工科大学(MIT)が開設した、MIT OpenCourseWare(MIT OCW)から始 まりました。MIT OCWは現在、900コースにおよぶMITの講義教材をCreative Commonsライ センスでネット公開し、利便性の高い教育資源として全世界で利用されています. 日本でも、大阪大学、京都大学、慶應義塾大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学, 九州大学,名古屋大学,北海道大学の9大学で日本OCW連絡会を発足し、各大学で行われて いる講義のシラバス、講義ノートなどの講義情報を順次インターネット上に公開しています. 非営利かつ教育目的であれば、誰でも無償でOCW上の教材を使用することができます. (一部,東京大学OCW HPより抜粋) MIT OCW: http://ocw.mit.edu/ 日本OCW連絡会:http://www.jocw.jp/ MIT Scratch その他… • Open Government – http://wiki.creativecommons.org/Government_ use_of_Creative_Commons 参照 • Wikipedia – 相互互換性の問題を克服するため、2009年に GFDLとのデュアルライセンスに) ライセンス運動の限界 • 権利者から能動的にアクションを起こすことが必要 – 常に普及活動が必要 – 意識の高い一定数の権利者に普及すると、飽和状態に 達し、スローダウンする • バージョン・アップのコスト – 大きなユーザーの取り込みのためには必要 – 異なるニーズを抱えるユーザーの間で選択を迫られる • 相互互換性問題 – 次回詳しく • 執行の問題 – Public Licenseに限らず、全ての権利(ライセンス)執行 に共通する問題 参考文献:渡辺&野口「オープンアクセスの法的課題:ライセンスとその標準化・互換性を 中心に」情報の科学と技術 60(4), pp.151-155. 2010.4. 次回は渡辺さん ~オープンライセンス
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