⑪北極振動

気象力学と物質(1)
図1
物質循環モデリンググループ
⑫惑星大気
気候とは難しいテ-マですし,人により気候とは?と問われて,
感じ方が異なると思います.そこで我々のグル-プではそれを
どのようにとらえるか?気候では物質が大事な働きをするはず
です(水は言うに及ばず、例えば成層圏のオゾン)。そこで我々
のグル-プではそのような問題に対処するため、気象力学を基
礎にすえて、それに物質を絡ませると面白いことがでてくると考
えました。そういうことを気候力学と見做して、そんな問題を研
究していこうとしています。
②成層圏化学
④オゾン、エアロゾル
①準2年振動
(QBO)
③オゾンホール
⑤対流圏化学
⑦重力波
圏界面
⑪北極振動
①成層圏における年々変動
図2は気候モデルを用いて、赤道域下部成層圏に存在する準2年周期振動(QBO)を
再現した結果を示しています。定量的にも観測と同様な結果が得られています。大気大
循環モデルは長い歴史をもっており、これまでいくつかのグループでQBOの再現が試み
られましたがどこのモデルもうまくいきませんでした。我々のグループはその再現に成功
することができました。
QBOに代表されるように、成層圏でも年々変動が起こっており対流圏と関わっていま
す。図3は赤道QBOが東風のとき、北半球・冬期の成層圏西風が弱いことをしめしており、
これが対流圏とも関係している様子がわかります。このように成層圏は対流圏と密接に
つながっており、成層圏が対流圏に及ぼす気候変動の問題を考察しています。
図2
図3
⑧前線
⑨上層寒冷低気圧
ロスビー波
⑩台風
②成層圏化学モデリング
図4は東西風のQBOに対応して化学物質を導入したモデルで再現されたオゾンの
QBOを示しています。このように大気の運動と化学物質の変動は密接に関係しています。
図5は、成層圏オゾンの生成・消滅に関与している、様々な化学物質を気候モデルに導
入して計算したClONO2の分布図です。このモデルでは、地球温暖化にも関与するCH4
やN2O、また対流圏で議論されているHOxやNOx等、さらにはフロンなども入っていて、
これらの物質は外から与えるのではなく、モデルの内部でつくられています。
図4
図5
③オゾンホール
極域の春先に下部成層圏のオゾンの濃度が急減する現
象を「オゾンホール」と言います。この現象は南極大陸の上
空で発見され、年々拡大しています。90年代に入るとそれ
までこのような現象の報告されていなかった北極域の上空
でもオゾン濃度の減少が見られるようになってきています。
我々のグループでは、今後のオゾンホールの推移を予測す
る事を目標として、オゾンホールの発生機構を組み込んだ
化学気候モデルを開発しています。図6はそのモデルを用
いて再現された10月の南極上空の全オゾン量の分布です。
図6
図7
図8
④火山噴火とオゾン変動
成層圏の化学過程は、高度15~35kmのオゾン層と密接に関わっています。このオゾン層は波長300nm以下の太陽からの紫外線を吸収し、生物に有害な紫外線が地球表面に届かな
いように太陽放射を遮る働きをするなど、気候や環境に大きな影響を与えています。
1991年に起こったピナツボ火山の噴火では成層圏オゾンが変動しました。そこで、我々のグループではその状況を成層圏化学モデルで再現しました。図7はピナツボ火山噴火後の光学
的厚さを示したもので、ピナツボ火山起源のエアロゾルが全球に広がり、影響を及ぼしていることがわかります。
また、図8は火山噴火後の赤道上のオゾン変動を示しています。火山噴火後には高度25km付近でオゾンが減少するという結果が得られました。これはピナツボ火山起源のエアロゾル
が、大気中での化学反応により塩素酸化物(ClOx)を生成し、このClOxがオゾンを壊したためです。
⑤対流圏化学と酸性雨・エルニーニョ
図9
我々のグループでは気候・大気環境両面で重要なオゾンを中心とした対流圏の光化学をシミュレートできる全
球化学気候モデルを開発しています。図9は対流圏オゾンと一酸化炭素および PAN と呼ばれる物質のシミュ
レーション結果の一例です。これらの気体はいずれも重要な汚染物質であり図9は大気中の汚染の流れを示して
います。東アジア域から太平洋を挟んで北米にかけて長距離かつ大規模にオゾンや PAN が輸送されている様
子が見られます。ヨーロッパ(EU)から日本付近にかけては高濃度の一酸化炭素が輸送されて来ている様子が分
かります。オーストラリア付近に目を移すと、インドネシアの森林火災で放出された一酸化炭素やアフリカの森林
火災で放出され長距離輸送された一酸化炭素の分布が見られます。
図10はこのモデル中で硝酸が雨に溶けて酸性雨を生じさせている様子です。観測されるように北米、ヨーロッパ、
中国・東アジアで pH 4.0 から 4.5 の酸性雨が計算されています。
エルニーニョ現象の際には熱帯域の対流圏オゾンが著しく変動することが観測されています。 図11はこの全球
化学モデルを用いて 1997年に起きたエルニーニョ現象による対流圏オゾン変動を再現したものです。モデルは
観測に見られるような大規模なオゾン量の増加/減少を良くとらえています。このシミュレーションではエルニーニョ
時の水蒸気、鉛直流、対流パターンの強い変動が光化学過程を介して図11のような特徴的なオゾン変動を作り
だしていることが分かりました。(モデルではインドネシア域のオゾン増大が観測よりも小さく出ていますが、この差
(~10 DU)は今回のシミュレーションでは考慮していない1997 年のインドネシア森林火災の影響を反映している
と考えられます)
図10
図11
図12
⑥化学天気予報
我々のグループでは化学天気予報をおこなっています。これは、気象庁の予報値を化学気候モデルに導入することにより、オゾンなどの化学物質の予報をおこなっているものです。図
12はその例を示したもので、12月25日から27日までの高度2kmにおける、日本付近のNOYとオゾンの濃度分布の時間的発展の様子を示した図です。中国大陸からの汚染物質の日本
付近への輸送にともなって、オゾン増加が日本付近で見られます。
興味のある方はhttp://www.ccsr.u-tokyo.ac.jp/~takigawa/nudge-CTMを見てください。毎日のオゾン変動が御覧になれます。
気象力学と物質(2)
図13
⑦重力波による対流圏-成層圏相互作用
図14
重力波と降水活動
重力波のスケールは小さいですが、その運動量の
鉛直輸送は大規模な温度場や風景場の決定に重要
な役割を果たしています。我々は大気大循環モデル
を用いて重力波の研究を行っています。図13は高度
約16-21kmにおける一日以下の重力波の伝播方向
と、対流圏に於ける一日以下の降水活動の強度を示
しています。この高度では熱帯の降水活動で生成さ
れる重力波が卓越していることが分かります。
重力波の東西非一様性
図14は3日以下の短周期重力波による、下部成層
圏(100hPa)における上向き運動量輸送の水平分
布です。正の値が東向きの重力波による運動量輸送、
負の値が西向きの重力波による運動量輸送を表しま
す。熱帯域に注目するとインド洋で大きな正の値、太平洋や大西洋で負の値と、はっきりと分かれた分布をしています。短周期重力波の振る舞いが地域ごとに違っていることが分かります。
このような重力波分布が大気大循環に与える影響について調べています。
⑧梅雨前線
図15
もうひとつの梅雨前線
梅雨明け日の変動は日本の真夏の天気に大きく影響し
ます. 梅雨明けの時には, 梅雨前線の消滅や急激な北上
がしばしば見られます. 最近の研究により, 梅雨明けに対
応して, 日本の南海上で対流が活発になることが多いと
いうことが分かってきています. 図15、16は典型的ないく
つかの年を選び, 平均した気圧配置(線)と対流活動(色)
の分布の季節変化を示したものです.
梅雨前半(6月中旬)には日本の南岸に沿って対流活動
が生じており、梅雨前線に対応しています. 梅雨前線の南
西の端, ちょうどベンガル湾からインドシナ半島にかけて
の領域に注目すると、このあたりは特に対流活動が活発
で, 梅雨前線はこの活発な対流活動域から北東に伸びて
いることが分かります. 亜熱帯での降水帯の一般的な特
徴として, とくに対流活動の強い場所から北東方向に帯状
に伸びる性質があることがすでに知られています. 梅雨
前線もそのひとつなのです.
梅雨明け直後(7月下旬)になると、梅雨前線はすでに
消滅していますが、その代わりに日本の南東海上に新た
な降水帯が発生しています. この降水帯も南西から北東
の方向に伸びていて, しかも南西の端では特に対流活動
が活発になっています. この降水帯も梅雨前線と共通した
性質を持っているといえます.
梅雨の降水が増えている
図17は観測の梅雨を2003年あたりと1979年あたりで差
をとったものです。たとえば、九州で79年の降水量(色)の
1.5倍の雨が降るようになりました。気圧場の変化(黒線)も
見てみますと、日本・東シナ海・南シナ海で気圧が下がり、
その南のフィリピンのあたりで高圧的になっています。基
本的に気圧場は温度場とバランスしているので、なにかの
加熱(冷却)もこの25年で変わっていると考えています。そ
れが温暖化と関係するのか?中央アジアの乾燥化(アラル
海が小さくなるとか)と関係するのか?観測データ、モデル
実験から調べています。
図17
図16
⑨上層寒冷低気圧と対流雲・熱帯低気圧
図18
中緯度の上空では強い西風(偏西風)が南北に蛇行しながら吹いています。偏
西風が南に蛇行した部分は低気圧に対応し、トラフ(気圧の谷)と呼ばれます。上
層寒冷低気圧は、トラフが深まって先端が切離され、偏西風の流れから独立した
低気圧性の渦で(図20)、北太平洋上では夏に多く発生します。
上層寒冷低気圧の切離過程では、対流雲の上昇流の効果が重要であることが
数値実験の結果、わかりました。図18(200hPa面渦位)は対流雲を入れた場合の
実験結果、図19は対流雲を入れなかった場合の実験結果です。対流雲を入れな
かった場合にはトラフが切離されずに上層寒冷低気圧が生成されていないことが
わかります。
上層寒冷低気圧の南東側で活発な対流雲が見られることが知られています。図
20はいくつかの上層寒冷低気圧の合成図です。上層寒冷低気圧(黒線、200hPa
面渦位)の南東側に活発な対流雲域(青色、OLR)が見られ、図16の7月下旬の
降水帯と対応しています。下層には反時計回りの低気圧性循環も見られ(矢印、
850hPaの風)、この領域で台風が発生する場合もあります。
図19
⑩台風
図20
図22
⑪北極振動
図21
北半球の台風は通常北緯5度以北で発生す
ると言われています。これは北緯5度以南ではコ
リオリの力と言われる地球の自転によって生じる
力が弱いため、対流が組織化されないためです。
しかし、およそ50年に1度という割合でこの領域
に台風が生じることがあります。最近生じた台風
だと、2001年12月27日に発生した台風
Vamei(0126号、図21の矢印の先)です。この台
風は北緯1.5度というかなり赤道に近い領域で
発生し、その後、最大風速39m/s、最大瞬間風速
54m/sまで発達しました。この不思議な台風を解
析することで、未だはっきりと分かっていない台
風の生成メカニズムに迫っています。
⑫火星大気
火星の大気力学を考える上でのポイントとして、大気中に浮遊するダストが太陽放射を
吸収して大気を加熱する(地球の成層圏ではオゾンが同様の効果をもたらしています)、大
気が「凍る」ため地表面気圧が年間最大約25%も変化する、といったことなどが挙げられ
ます。これらを考慮して地球用のGCMを改良し、現実的な火星大気を再現できるような火
星GCMを作成しています。
図23はマースグローバルサーべイヤーが観測した北半球の冬至における気温の経度-
高度プロファイル、図24は図23と同季節における我々のGCMで再現された経度平均の気
温分布です。このGCMを用いて、火星大気中のダスト・CO2・水の循環、大気潮汐とダスト
ストームの発生メカニズムとの関連性などについて、地球では考えられないような新しい大
気科学に対する知見が得られることが期待されます。
図22は、日々の海面更正気圧(SLP)の偏差に対し
て経験直交関数(EOF)解析を行った際の第一主成分
の分布で、寒色系の領域が負、暖色系の領域が正を
示しています。この図の場合の第一主成分というのは、
日々のSLP偏差の分布を最もよく説明しているパター
ンを表しており、この解析ではSLP偏差の分布のうち
20.9%がこのパターンで説明できることが分かりまし
た。このパターンを大まかにみれば、北極域で負、そ
れを取り巻く中緯度域で正のパターンで、より詳しく見
ると北大西洋域と北太平洋域に正の偏差の中心があ
り、負の領域は北極域からシベリア域へと広がってい
ます。このパターンは北極振動(AO)と呼ばれ、近年注
目されています。
図23
図24
⑫惑星大気
②成層圏化学
④オゾン、エアロゾル
①準2年振動
(QBO)
③オゾンホール
⑤対流圏化学
圏界面
⑦重力波
⑪北極振動
⑨上層寒冷低気圧
⑧前線
⑩台風
ロスビー波