経済学でわかる金融・証券市場の話③ - おカネのこと 経済のこと 社会の

総括講義
ギリシャ問題・米国債務問題・日本財政問題
このところの国債利回り上昇
国債はデフォルトしない
国債に対するリスクプレミアム
国債増発の意味
国債発行量からみたリスクプレミアム
対外純資産からみたリスクプレミアム
金利上昇の問題点
現状の日本国債について
これからの円相場について
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日本の国債利回り
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日本国債のデフォルト確率が低い訳①
 通常「国債」は当該国の通貨建てで発行している限り、デフォルト
(利払い遅延や元本の償還が不能)リスクはない(事務的なミスな
どは除く)
 なぜなら・・・
返済が滞る状態が予想される場合には
① 政府は「徴税権」を使って増税することにより、返済が可能になる
から
② 中央銀行と連携をすれば、たとえ中央銀行が直接国債を引き受け
なくても、市場から中央銀行が国債を買い続けることで借り換えが
スムーズに行えることになるから
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日本国債のデフォルト確率が低い訳②
 とはいえ、問題になるのは・・・
政府債務残高が高まることによって当該国でクーデ
ターが起こる可能性あれば、その時にはデフォルト・
リスクが浮上する
 しかし・・・
その点は先進国ではあまり考慮されることはない。
 以上から・・・
国債流通利回りは、当該国内において「リスクフリー
(無リスク)レート」としても機能する。
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国債に対するリスクプレミアム①
 (何らかのリスクに伴う)国債利回りの上昇は、当該国にデフォルト・リ
スクがない場合でも、起こる可能性がある。
 それが当該国の「通貨価値に対するリスクプレミアム」
 現代社会において、先進国の「おカネ(当該国通貨)」には、そもそも
何の保証も担保も設定されていない。→「ある」のは「(国家的な)信
用」だけ
 したがって・・・
当該国の信用が低下すれば、通貨価値は減価してしまう。
 そして・・・
その通貨が減価すれば、当該通貨で建っている債券は為替差損
が生じることになるので、「持ちたくない」と思うようになり、「通貨保有
に伴うリスクプレミアム」が生じることになる。
5
国債に対するリスクプレミアム②
 そのため・・・
通貨自体が下落するような国の債券(国債)には、リスクプレミア
ム(上乗せ金利)が付くことになる。
→利回りが上昇
 つまり・・・
国債のデフォルト・リスクに対するリスクプレミアムではなく、当該
通貨に対する減価リスクが、国債を保有することに対するリスクに
なる。
このようなリスクプレミアムが要求されると考えるのが正しい考え
方といえよう。
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国債増発の意味①
 ところで「国債の増発」とは・・・
その裏で「通貨の増発」を意味する。
 通貨の「量」が増加するとなると・・・
→通貨の購買力(おカネでモノを買う力)が低下する
→通貨自体は減価する
→当該国通貨が売られる
→当該国債に対するリスクプレミアムが要求される
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国債増発の意味②
 ここで・・・
 「通貨量の増加」が物価を押し上げるくらいに景気を刺激してくれ
ればよい
 しかし実際には・・・
 単に銀行部門に資金が滞留することも多く、そうなった場合には、
いわゆるホームレスマネーになって、世界をさまようことになる。
 ホームレスマネーとは
 「利」だけを求めているため、帰るべきところを失ってしまったおカ
ネ」のこと
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国債増発の意味③




つまり・・・
おカネが本国から流出してしまうわけであり、
しかも、当該国の景気を刺激することないので・・・
通貨の減価だけをもたらすことになってしまう。
 このような現象・・・
 「キャリートレード」という。
 日本でも「円キャリートレード」という事態により、円安
が進み、日本国債の格付けも下げられたことがある。
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主要国の純債務残高(対GDP比)
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国債発行量からみたリスクプレミアム
 グラフより・・・
ユーロ圏では発行量についての条約があり、日本や米国ほどは
発行していなかった(グラフではイタリアが日米よりも高い。またグラ
フにはないが、ギリシャは2004年に収斂基準を満たしていなかった
ということが判明)。
→ギリシャ問題が浮上するまでは、ユーロ主要国(独仏)の純債務
状況より、ユーロは「一歩有利」だった。
 他方・・・
日本はそもそもリーマンショック以降の発行量というよりも、もとも
との残高自体があまりにも多かった。
「国の信頼性」という意味で日本は他の国・地域に対して劣ってい
ることになる。
 したがって、各通貨の強さは・・・
 「ユーロ>米ドル>円」
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市場の反応①

実際の「通貨の価値」という意味では・・・
当該国の対外純資産が重要!

対外純資産とは・・・
国民全体の対外資産から対外負債を引いたもの


したがって、この値が多いほど、減価する可能性が低いと考えられる。
これを基準に考えれば・・・
「円>ユーロ>ドル」

しかも「日本の国債」は・・・
日本国内での消化がほとんどであり、他国の保有はかなり限定的

ということは・・・
通貨価値云々によって、日本国債が(グローバル市場において)売買されることが
少ないので、市場の思惑によって債券価格が乱高下するという心配は非常に少な
い。
12
市場の反応②

したがって、国債を保有する上での危険性としては
「米国>ユーロ>日本」

そのため・・・

日本国債の信用度は(比較的)高いことになる(だから、国債利回りも1~2%
という狭いレンジの動きとなっている)。


しかし・・・
米国は国債格付けが「引き下げられるのではないか」という噂が常に払拭さ
れないことから市場としてもネガティブ。

一方ユーロは、ギリシャなど債務的に問題がある国を抱えていることから、債
務と言う点で比較的安全な国が大半を占めていたとしても、ユーロそのもの
の持続可能性を疑われる結果、ユーロ圏の債券に対して市場はネガティブ。
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金利上昇の問題点①










国債利回りの上昇というのは、国内経済にとって、非常に大きなダメージ
を与えることになる。
特に・・・
景気が悪い時における金利上昇は、経済に対する悪影響が最も強く出る。
というのは・・・
国債利回りは当該国にとって「リスクフリーレート」と考えられているか
ら・・・
「リスクフリーレート」とは・・・
国内のすべての金利の「ベース」となる金利
したがって・・・
国債利回りが上昇すれば、それに伴って、例えば、住宅ローン金利なども
上昇する可能性がある
そうすると、設備投資等のための借入金利なども上昇することになるかも
しれない。
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金利上昇の問題点②

景気が好調の時であれば・・・
事業収益率の向上を見込めるので、ある程度金利が高くなっても問題
は少ない。

しかし・・・
不況期において金利の上昇分は・・・
住宅ローンの場合、生活費の高騰を意味する
設備投資等の借入の場合、事業によるロスの発生を意味する

そのため・・・
低金利であれば「何とかなった」事業であっても、このように国債利回り
が高くなる状況においては、事業の継続等が不可能になったり、事業か
らの撤退を余儀なくされる主体が続出する。

このような状態が続けば・・・
さらに景気を押し下げることになる。
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現状の日本国債について

日本国債においては「過去からの債務残高が多すぎる」ことから・・・
通貨に対する「リスクプレミアム」が高っている。

そのため・・・
今後は、利回りが上昇する可能性がある

とはいえ・・・
日本は、対外純資産が世界一多い。
ということから・・・
米国債のような格付けの引き下げが取り沙汰されるようなことはないと
考えられる。


その意味から・・・
金利上昇懸念は少ないと予想される。
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これからの円相場について


リーマンショックにより・・・
世界各国の景気が悪くなっている
そのため・・・
日本の経常収支(中でも「貿易収支」)も赤字化しつつある。
これは対外純資産を減少させる要因なので、十分に注意をする必要がある。

とはいえ・・・
日本の対外純資産が「すぐに枯渇する」という状況にはない。
その意味では「すぐに円が売られる状態にはない」といえる。

しかし一方で、現状・・・
これしか「日本円の魅力がない」といえる

ということは・・・
海外投資家も日本の対外純資産に注目をしていると考えられる。
したがって・・・
今後、日本の金利状況を占う上でも、国際収支統計をじっくりと観測する必要があろう。

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