道徳教育(他学部) 5月8日(金)4,5限 第二回 「徳は教えられるか②」 プラトン『メノン』前回まで のあらすじ • 「徳は教えることができるか?」を考えたい なら、まず「徳とは何であるかを?」を知ら なければならない。 • ところが、「徳とは何であるか?」がわから ない。(例を挙げることはできるが、その本 質はわからない) • では、それを探究したいのだが、そもそも知 らないことを探究することができるという前 提自体もあやしい。(ソクラテスは想起説を 使ってできると主張するが・・・) グループワーク② • • • • • 4人程度のグループで話してみましょう。 徳は知識だと言えるでしょうか? これが今日の『メノン』後半の主題です。 徳=知識?,徳=知識+α?,徳≠知識? 徳が知識だとするとどのような種類の知識でし ょうか? • 徳=知識だとすると、徳は教えられることになる でしょうか? • ソクラテスとメノンの議論を紹介する前に、ま ずは皆さんで先入観なしに考えてみてください 。 仮説による探求 • ソクラテスは知らないものが探求できるという前提のも とに、「徳とは何であるか?」を探求しようと言う。 • これに対して、メノンは「徳は教えられるものなのか? それとも生まれつき人間に備わっているかが?」という ことがどうしても気になる。 • ここでソクラテスはメノンの要求に一度折れることにし、 「徳が何であるか」がわかる前に、「徳がどのような性 質のものであるか(教えられるものかどうか)」を探求す ることにする。 • そこで、仮説を立てて探求をすることになる。 • つまり、「徳が○○という性質のもつならば、教えられる だろう」と考えてみる。 徳は知識か? • 人間が教わるものといえば、知識である。 • つまり、徳が知識であれば教えられるだろうと いう仮説が立つ。 • そこで、問いは「徳は教えられるか?」から、 「徳は知識であるか?」へと移る。 徳は善である。では、知識は善を 包括するか? • 徳とは善きもの、つまり、善である。 • そこで善が全て知識に含まれるならば、徳は知 識である。 • 善の中に知識ではないものがあるならば、徳が 知識ではないという可能性もある。 善は有益である • 全ての善きものは有益であるので、善き人間は 有益でもある。 • 従って、徳もまた有益なものということになる。 • では、どのようなものが人にとって有益なのだ ろうか?有益なものについて考えてみる。 有益なものは知識を伴ってこそ有益になる。 • 魂における有益なもの。例えば、節制、正義、 勇気、ものわかりのよさ、度量の大きさetc • これらは知識を伴ってこそ有益になる。 • 例えば、勇気。勇気は、知識を伴わなければ ただの空元気になる。元気を出すだけではな く、そこに知性がなければ、有益にはならな い。 • その他の有益なもの、例えば富なども、知性 がこれを正しく用いなければ有益にならない。 有益なものは知識であるから、徳は 知識となる。 • 以上の考察から、有益なものは知識であるとい うことになる。 • そして、先ほど徳は有益であるということが確 認されていた。 • 従って、徳は知識だということになる。 徳の教師はいるか? • ここまでの議論でいったん、徳が知識であると いう結論が出た。 • しかし、ここでソクラテスは違う仮説を提示し て、その結論を確かめにかかる。 • その仮説とは、徳が知識であればそれを学ぶ者 とともに、教える者がいないといけないという こと。 • つまり、次の問いは「徳の教師はいるか?」 徳の教師はいない。つまり、前の仮説は 間違っていた。 • ソクラテスはアテネで優れた徳をもつと言われ ている人で、徳を他人に教えることができたか 人がいたかどうかを確かめようとする。 • しかし、そんな人物はいないという結論に至る。 • すると、今度は徳は知識ではないということに なってしまう。 • ここで、善きもの、有益なものが必ず知識を伴 うという先の仮説が間違っていたのではないか という疑いが生じる。 徳は知識ではなく、正しい思わくである。 • 「有益なものは知識を伴ってこそ有益にな る」(スライド8)と先ほど結論したが、知識だ けではなく、正しい思わく(考え=ドクサ) も、われわれの行為を正しく導き、有益な人 間とすることができる。 • 徳の教師がいない以上、徳は知識ではない。 • しかし、徳は生まれながらに備わっているも のでもない。 • 従って、徳は教えられる知識ではなく、神に よって与えられる正しい思わく(考え)であ る。 しかし、結局「徳は何である か?」はわかっていない。 • ここまでの議論で、徳が神によって与えられる 正しい思わく(考え)であるという結論が得ら れた。 • しかし、この結論の正しさは、仮説の立て方や、 探求の仕方が正しいという前提に支えられてい る。 • 結局のところ、この結論の正しさは、「徳とは 何であるか?」という未解決の問いに答えるこ とでしか確かめられない。 知識という言葉について • 実はソクラテスは知識にあたる複数の言葉を用いている。 • ソクラテスは同じ文脈の中で、それぞれの言葉を互換性があるよ うに用いているので、岩波文庫訳では区別して訳さず、全て「知 識」で統一している。 • しかし、それぞれの言葉のニュアンスを踏まえると、「知識=教 えられる」という最初の仮説があやしくなる。ソクラテス自身、 徳が知識であるとしても、それが教えられるような知識ではない という可能性も捨てていなかったのかもしれない。 ① エピステーメー (「知識」、「学知」など) 論証による知識。学問の知。教えられることによって学ぶ。 ② フロネーシス(「知慮」、「思慮深さ」など) 生きるための知恵のようなもの。賢さ、思慮深さ。経験から学 ぶ。 ③ ヌース(「精神」、「知性」、「理性」、「直知」など) 感覚を越えたものを認識する魂の働き。 グループワーク • 4人程度のグループで話し合ってみてください。テーマ は自由、今日の話を聞いて考えたことを何でも話し合っ てもらって構いません。テーマ案を以下に示しますが、 これは使っても使わなくても構いません。 ○ テーマ案 徳は知識なのでしょうか?それとも正しい思わくなので しょうか?それとも、全く別のものなのでしょうか?知 識であるとすればどのような知識なのでしょうか? 徳は知識であるとしたソクラテスの議論の立て方、それ をひっくり返して正しい思わくとした議論の立て方に納 得がいきましたか? 徳の教師は本当にいないと思いますか?いるとしたらそ れはどんな人物でしょうか? 結局、徳とは何なのでしょう?そして、それは教えられ るのでしょうか? 感想シート • 今日の授業の中で考えたこと、疑問や質問、グループワーク の中で話し合ったこと、授業に対する要望、なんでもかまい ません。 • 感想の紹介は匿名で行いますが、プライベートなことにかか わるなど、どうしても次回の授業で紹介してほしくない部分 などがあればその旨を記してください。 • 必ず、名前、学籍番号を書いて出してください。 • 授業中に伝えきれなかった質問、意見はメール、もしくはブ ログを利用してください。 メール [email protected] HP http://moral-education.seesaa.net/ ユーザー名 moral-education パスワード 449281 参考文献 • • • • プラトン 『メノン』 光文社古典新訳文庫or岩波文庫 プラトン 『プロタゴラス』 岩波文庫 プラトン 『ゴルギアス』 岩波文庫 アリストテレス 『ニコマコス倫理学(上)(下)』 岩波文庫 • 竹田青嗣 『プラトン入門』 ちくま新書 • 村井実 『村井実著作集3 ソクラテスの思想と教育、 「善さ」の構造』 小学館 • 村井実『村井実著作集4 道徳は教えられるか、道徳教 育の論理』 小学館
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