PPPニュース 2014 No.24(2015 年3月 25 日) まち・ひと・しごと創生とシティ・リージョンの視点 安倍政権は、人口減少が地域経済に与える影響を重視し、まち・ひと・しごと創生総合戦略を閣議 決定し、今後 5 年間の地域政策の方向性を明示した。この創生政策は、「若い世代の就労・結婚・子 育ての希望の実現」 、 「地域の特性に則した地域課題の解決」、 「東京一極集中の歯止め」の三つの視点 を柱としている。地方自治体の総合計画との関係では、創生戦略の柱となる事業の形成とそれによる 総合計画との連動をイメージすることが求められるものの、総合計画と異なる点は、地域情報をハブ としたネットワークの形成と民間との連携による活用がより一層求められることである。総合計画は、 行政と議会が中心となり住民参加等を通じて形成されているものの、他の自治体や民間企業とのより 積極的かつ実質的な連携が創生戦略策定では重要となる。すなわち、地方自治体は従来の行政経営的 視点から地域経営的視点により積極的に取り組む必要があることを意味している。地域経営面での重 要な点は、地域内の所得循環を厚くすることであり、その際の「地域」の範囲、そして地域における 地方自治体の機能連携を如何に形成するかである。ひとつの市町村等地方自治体で完結する所得循環 を一定の厚みで形成することは困難であり、民間との連携による地域経営は地方自治体の行政区域を 越えて展開される。そして、地方自治体間の連携による地域内所得循環が一定の厚みを持つことで人 口の確保の前提が形成される。加えて、過疎自治体を中心に全ての公共サービスを単独で提供するこ とには限界が生じており、そのために地方自治法の改正で都道府県の事務の代替制度が設けられ、当 該町村の名で執行され当該町村に効力が帰着するタテ型の連携も提示されている。 こうした自治体間連携、ネットワーク構造の先行事例としてシティ・リージョンが上げられる。シ ティ・リージョンとは、既存の行政区画に囚われず一定の圏域で活動する住民や法人の姿を一体的に 捉えることで、地域内の経済社会資源等の流動性や偏在性を踏まえつつ様々な利害の相互関係を把握 し、地域のネットワークに対する認識の再構築を図るものである。具体的には、広域での市町村連携 や特区制度の活用などにより都市・地域での内発的発展に取り組むことで、行政区画等を越えて自立 的ネットワークを新たに形成するものである。北欧やヨーロッパ地域で都市間連携さらにはグローバ ルな連携の形態として注目されており、多数の地方自治体間そして民間組織間の協働のガバナンスと コミュニティの仕組みづくりとして位置している。日本のシティ・リージョンのひとつの例としては、 農村と都市を一体として捉えて相互交流の戦略的圏益を構築するなどの事例が挙げられる。 シティ・リージョンの考え方のひとつの原型は英国にある。英国では,19 世紀末から 20 世紀初め にフェビアン協会が都市社会主義運動を展開しリージョナリズム議論が台頭、市場の拡大、住民ニー ズの多様化に伴いカウンティ等で対応するのではなく、より地域に密着した基本的なサービスを基礎 自治体で担う発想が高まった。シティ・リージョンが拡大する都市への統治のしくみとして注目され、 都市が地方自治体の既存の行政区域を越えて大きく発展していたこととそれへの対処が大きなテー マとなったことに対する提案であつた。シティ・リージョンを「地域の住民が,社会的・文化的・専 門的・商業的・教育的その他の特定の施設やサービスなどを一つの中枢で共有でき,それらの施設や サービスを経済的に提供するために,全国的な規模に比べれば小さな区域」(Senior, Derek, “The City Region as an Administrative Unit”, Political Quarterly, Vol.36, 1965)と整理している。 地方自治体間の連携は、消防、ゴミ処理等個別事業では展開されているものの、政策や機能面での 役割分担(連担)は進んでいない。資源制約が強まる中で、コンパクトシティ、今後の地域経営、そ して行政経営においても規模の如何を問わず、シティ・リージョン等の自治体間機能連携の枠組み構 築をより積極的に視野に入れる必要がある。 © 2014 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE
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