修論プレ発表会 2006年1月10日 リアルオプションと最適負債水準 を考慮した事業投資の価値評価 -事業運営の柔軟性とヘッジ戦略の相互作用に関する考察- ICS金融戦略コース IM04F020 太田 勇 1 目的 市況高騰を受け、資源・鉱山開発の権益の売 買、新規開発が活発化→競争激化 事業規模が大きく、多額の投下資金が必要 →業績・企業価値への影響大 ⇒対象事業の経済性を如何に精緻に評価する かが成功の鍵 2 論点(1) 実務上、伝統的に活用されている手法(DCF 法)における問題点 事業が有する操業上のフレキシビリティが考 慮されていない 倒産するシナリオが考慮されていない 最適な負債水準*が明示されていない *企業価値(株主価値+負債価値)を最大化する負債水準と定義 3 論点(2) 資源・鉱山事業を有する仮想企業を例に、操 業上のリアルオプション性と、最適負債水準を 考慮した企業価値評価を行う 停止・再開オプション 倒産・撤退オプション レバレッジオプション(負債水準の最適化*) *企業価値(株主価値+負債価値)を最大化する負債水準と定義 4 論点(3) 更に、資源・鉱山事業にとって重要なissueと なるヘッジ取引について分析し、モデルの有 用性を検証する ヘッジ比率(簡便的に事業期間一定)を変えた ときの企業価値変化とその要因を分析 5 既存研究 Mauer and Triantis (1994) 停止・再開オプション 倒産・撤退オプション レバレッジオプション を考慮した企業価値、節税効果の評価 前提) ・負債は満期一括償還 ・コベナンツによる倒産条件 (負債額面>企業価値) 6 本研究の提案(1) 先渡し取引によるヘッジ取引を導入 倒産リスク↓ ⇒レバレッジ↑ 企業価値の変動率↓⇒倒産オプション価値↓ 倒産リスク↓⇒停止・再開オプション価値↑ ヘッジ効果を、企業が有するリアルオプション 性とレバレッジ効果の観点から分析 7 本研究の提案(2) 負債条件の変更 事業収益を負債の返済原資とすべく、元金均 等返済の負債を仮定 (Mello and Persons (1992)を参考) 内生的なデフォルトを付与 株主価値<0のときにデフォルトを宣言 (Childs, Mauer and Ott(2005)を参考) 8 モデル(1) 鉱物価格 Pt , B ,T d 企業価値 Vt d , B ,T E t 株主価値 , B ,T d 負債価値 Dt ;(5)式 ;(11)式 ;(12)式 ;(13)式 停止・再開オプションに関するコントロール B レバレッジオプションに関するコントロール T d PDEで表現 PDEの境界条件 倒産オプションに関するコントロール 9 モデル(2) 株主価値のPDE ;(14),(15),(16)式 負債価値のPDE ; (17),(18)式 停止・再開オプションの境界条件 ;(20)~(23)式 レバレッジオプションの境界条件 ;(24)式 倒産オプションの境界条件 ;(25)式 10 数値計算 株主価値、負債価値それぞれの二項ツリーを 作成 境界条件を考慮し、DPにより時点0における 企業価値を算出 200種類×2(操業中・停止中)個の負債について、 株主価値、負債価値のツリーを作成(合計800ツ リー) 時間方向は、事業期間10年間を120分割 11 数値実験 下記のケースについて企業価値とヘッジ効果 を分析 ① フレキシビリティと倒産コストを考慮しない場合 ② 倒産オプションのみを有する場合 ③ 倒産オプションと停止・再開オプションを有する場合 ④ 全てのフレキシビリティ(③+ レバレッジオプション)を 有する場合 12 結果(1) ① ② ③ ④ (時価ベース) (一部抜粋) ω=0% 156.56 173.24 174.29 178.82 ω=20% 156.56 164.31 173.83 179.86 ω=40% 156.56 158.25 174.11 181.87 (47.6%) (59.3%) (69.2%) ω=60% 156.56 156.55 174.12 183.41 ①~③は無負債 (84.6%) 価値のみ掲載 ① フレキシビリティと倒産コストを考慮しない場合 ② 倒産オプションのみを有する場合 倒産オプション価値が減少し、企業価値が毀損 ③ 停止・再開オプションを有する場合 倒産リスク減少により、停止・再開オプション価値の増加≒ 倒産オプション価値の減少 ④ 全てのフレキシビリティを有する場合(括弧内は最適負債水 準) 13 結果(2) (一部抜粋) 停止・再開のフレキシビリティによる結果差異 (パラメータ変更による影響) ベース C =70 ↓ C =90 ↑ σ=10% ↓ σ=30% ↑ ω=0% 178.82 224.26 138.16 164.25 204.48 ω=20% +0.58% +0.35% +0.87% +0.18% +1.06% ω=40% +1.71% +1.16% +2.30% +0.78% +2.40% ω=60% +2.57% +1.90% +3.61% +1.32% +3.49% ↓ ↑ ↓ ↑ ベース( C =80,σ=20%) フレキシビリティの構造に関して、モデルの前提を変えた場 合についても分析 ・鉱物の長期納入契約や、負債提供者とのコベナンツにより、ヘッジ実 施分については必ず操業を行わなければならないケース(ヘッジ比率 が上昇するにつれてフレキシビリティの自由度が損なわれるケース) においては、上とは逆の結果になる 14 結論 フレキシビリティの有無、組合せ、大きさ(モデル、 パラメータ)により、企業価値は勿論、ヘッジ効果 に対する評価が異なる 事業が有するリアルオプション性を十分に検討し、 ヘッジ戦略・財務戦略を立てる必要 それには本研究のように、オプション間の相互作 用、レバレッジ効果を複合的に考慮したモデルが 有効 15 参考文献(1) Mauer and Triantis, Interaction of Corporate finance and Investment decisions; A Dynamic Framework (Journal of Finance 1994) Childs, Mauer and Ott, Interaction of Corporate finance and Investment decisions; The effects of agency conflicts (Journal of Financial Economics 2005) Brenman and Schwartz, Evaluating Natural Resources Investments (Journal of Finance 1985) 16 参考文献(2) Mello and Parsons, Measuring The Agency Cost of Debts (Journal of Finance 1992) 本多俊毅, 企業価値評価と意思決定~バリュエーションか らリアルオプションまで~ (東洋経済新報社 2005) あさひ銀行基礎研究所訳, 金融工学プログラミング (エコノミスト社 2002) 17
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