窒素が増えると樹木の 葉っぱはどうなるの?

窒素が増えると樹木の
葉っぱはどうなるの?
Jose A. Elvir et al. 2006
Forest Ecology and Management 221:207-214
Effects of enhanced nitrogen deposition on foliar
chemistry and physiological processes of forest trees at
the Bear Brook Watershed in Maine
造林学修士二年
笠
小春
本文に入る前に・・・
窒素沈着の増加ってどういうこと?
 大気中に,農業, 工業を中心として人間が
排出した窒素化合物(アンモニア・亜酸化
窒素など)が増加し,大気から陸上へ供給
される窒素化合物が増加すること
2009.6.12 文献ゼミ
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窒素沈着が増えると森林は…
2009.6.12 文献ゼミ
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窒素沈着が増えると森林は…(2)
 土壌
 可給態窒素濃度が上昇
 H+濃度が増加して酸性化
→Al3+の可溶化, Ca2+やMg2+, K+(BC)の
溶脱
 植物
 葉内窒素濃度が上昇
 Ca2+やMg2+, K+の欠乏
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既存研究の例
 窒素付加で葉の窒素濃度と光合成
速度は上昇,両者には正の相関あり
 ポプラ,カエデ,マツ,モミでは
窒素と他の陽イオンの付加で
光合成速度と葉の窒素濃度増加
(Brix and Mitchel 1986, Reich et al. 1993, Warren et
al. 2004)
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しかし,Elvirさんらは考えた…
新たな視点が必要だ!
 純粋に窒素過多の影響を見ようとして,
BC(陽イオン)も一緒に付加していた
→光合成速度の低下と葉内BC濃度の減少が
同時に起こっていることから,窒素付加のみ
を行って養分の不均衡にこそ注目すべき
本研究では葉内における
高濃度の窒素とBCの欠乏に着目!
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仮説の設定
 前提
 試験地は1989年から25.2kg N ha-1y-1の硫安を
付加している
 ブナ(Fagus grandifolia),カエデ(Acer saccharum),
トウヒ(Picea rubens)は4年間の試験で,すでに
葉内窒素濃度上昇,BC濃度低下が確認されている
仮説
・常緑性のトウヒより落葉性のブナ・カエデで
より大きな窒素濃度上昇,BC濃度減少が起こる
・BCの欠乏より, 窒素濃度上昇の効果が大きく,
光合成速度は増加する
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試験地概要
 場所
 Bear Brook Water-shed in Maine
(BBWM)
 11月下旬〜5月上旬は積雪期間
 樹種構成
 低標高部分:北方広葉樹二次林
 高標高部分:針葉樹優占の
針広混交林
窒素付加
対照
BBWMの様子
http://www.hydromodel.com/bbwm.htm
 窒素処理
 1989年より25.2kg N ha-1年-1の硫
安を片方の流域に付加
←米国最大の沈着量を想定
 元の窒素沈着量(湿性+乾性)は
8.4kg N ha-1年-1
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方法
 供試木
 樹種:優占度の高いアメリカブナ,サトウカエデ,
ルーベンストウヒ(合わせて本数87%/78%)
 対象:優占木/準優占木を各流域から9本ずつラン
ダムに選択
 7月最終週〜8月第1週に光合成速度を測定
(Li-6400, PPFD:2000μmol m-2s-1 ,flow:500μmol s-1, 葉温:25℃, 樹
冠上部の展葉しきった葉((トウヒは当年枝))を六枚選んで測定)
 元素分析
 窒素は燃焼法
 その他の元素はICP-AESとICP-MSにより分析
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葉内元素分析の結果:カエデ
窒素付加
 窒素→増加
年次変化
 Mnが2003年
に増加
*処理による変化, **年次変化
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葉内元素分析の結果:ブナ
窒素付加
 窒素→増加
 Ca, Mg
→減少
年次変化
 Cuが2003年
に増加
*処理による変化, **年次変化
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葉内元素分析の結果:トウヒ
窒素付加
 窒素
→増加
 Ca, Mg, Fe,
Zn
→減少
*処理による変化, **年次変化
年次変化
 処理区のFeが
2003年増加
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全樹種の元素分析まとめ
 窒素濃度は上昇,BC濃度は減少(カエデ除く)
トウヒ カエデ ブナ
窒素
増加
増加
増加 トウヒ<カエデ<ブナ
Ca
減少
ーーー 減少 トウヒ<カエデ<ブナ
Mg
減少
ーーー 減少 トウヒ・カエデ<ブナ
Zn
減少
ーーー 減少
トウヒ<ブナ
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光合成速度・蒸散の結果
対照区
樹種
窒素付加区
2002
2003
2002
2003
光合成 7.31
カエデ
蒸散
1.74
7.57
1.83
8.80
2.01
8.57
1.80
光合成 7.15
蒸散
1.84
8.70
2.35
7.73
1.72
8.28
2.08
光合成 7.40
トウヒ
蒸散
1.24
9.57
1.57
8.19
1.56
9.48
1.73
ブナ
カエデは窒素付加で光合成速度増加,
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2003年ブナは蒸散速度,トウヒは光合成速度増加
考察(1) 窒素について
仮説:常緑性のトウヒより落葉性のブナ・カエデで
より葉の窒素濃度が高くなる
→トウヒ<カエデ<ブナだったので○
↑
 河川水のデータより,撒いた窒素の80%が土壌に
保持されたと推定(Jefts et al. 2004)
 土壌の可給態窒素濃度が上昇したために,
葉の窒素濃度が上昇した(White et al. 1999と同様)
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考察(2) その他の元素について
 窒素付加により,
ブナとトウヒのCa, Mg濃度が減少
←土壌の陽イオン溶脱(Fernandez et al. 2003)
←河川水の陽イオン濃度増加(Norton et al. 1999)
 窒素付加により土壌中の陽イオン濃度が
低下し,林木の成長にはマイナスの作用
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考察(3)樹種間差異について
 ブナ・トウヒはCa, Mg濃度が低下したが,
カエデはCa, Mg濃度の低下が起こらな
かった
→個体が生育している土壌の違い
and / or 樹種による根系の違い
 カエデは直根が土壌深部に到達するため,
十分なCa, Mgが得られたのでは?
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考察(4) 光合成速度
 窒素濃度はすべての樹種で増加した
BUT!
窒素付加で光合成速度が増加したのはカエデのみ
(窒素濃度と光合成速度は強い正の相関があるはず)
 Ca, Mg欠乏の際は窒素濃度と光合成速度の相関
が見られない(Eliott and White 1994)
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結論!
 窒素付加で葉の窒素濃度は増加する
 ブナとトウヒはCa, Mg濃度が低下し,
光合成速度は増加しない
 カエデは窒素濃度が増加するとともに
光合成速度が増加
←Ca, Mgを吸収する能力が高い!
 今後,窒素沈着の増加が進んで森林内
での種間競争の関係が変化するかも…
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考察(5) 生産量に関して
 光合成速度が相関なしでも葉面積をかけて
個体当たり生産量を出せば変化があるかも…
(光合成速度は単位時間および面積あたりのガス交換能です)
 窒素付加前の葉面積データが使えず,個体当
たり生産量の算出は断念。
 試験開始から10年でカエデは対照区と比べ
13-104%の直径増加している(Elvir et al. 2003)
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ありがとうございました!
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幌延より利尻を望んで
ビバ☆天塩
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