エゾシカ保護管理計画と feedback制御 松田裕之(東大海洋研) 北海道のホーム頁より 1 エゾシカ:乱獲と禁猟の繰り返し 1,000,000 Catch 100,000 10,000 1,000 100 10 1875 1895 1915 1935 1955 1975 1994 2 エゾシカによる食害(釧路支庁ホーム頁より) http://www.marimo.or.jp/Kushiro_shichou/ezosika/cover.html 3 急増する北海道農林業被害 4.5 4 3.5 3 万 頭 45 駆除雌 駆除雄 狩猟雌 狩猟雄 被害 2.5 40 35 30 25 2 20 1.5 15 1 10 0.5 5 0 0 1987 1990 億 円 1993 4 エゾシカ大発生の諸要因 保護政策の成果 森林伐採と草地の拡大 暖冬による冬季死亡の激減 オオカミ絶滅(c1890) 5 管理の目的 道民の自然資産としてのシカの 絶滅と大発生を回避し、 適正水準へ誘導・維持し、 生態系保全と、 農林業被害の軽減を図る。 道東地域エゾシカ保護管理計画骨子(97’12/1)より 6 エゾシカ保護管理計画骨子 道東地域1997/12/1 非定常集団をある変動幅に誘導する Feedback制御の応用 豪雪年の到来に備えた保護管理 不確実な情報による保護管理 ←積極的な情報公開 http://www.marimo.or.jp/Kushiro_shichou/ezosika/plan.html 7 Stage-Structured Model Nc (t 1) 0 N f (t 1) L fc (t) / 2 N m (t 1) L mc (t) / 2 2r(t)L ff (t) L ff (t) 0 N c (t) N f (t) L mm (t)N m (t) 0 0 Lfc(t)= Lmc(t)= exp[-Q(t)Hc(t)]exp[-Mc(t)]exp[-Rc(t+1)], Lff(t) = exp[-Q(t)Hf(t)]exp[-Mf(t)]exp[-Rf(t+1)] , Lmm(t) = exp[-Q(t)Hm(t)]exp[-Mm(t)]exp[-Rm(t+1)] , 8 道東地区エゾシカ管理計画 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm 大発生水準(50%)以上 緊急減少措置(2年を限度) 目標水準(25%)以上 漸減措置(雌中心の捕獲) 目標水準(25%)以下 漸増措置(雄中心の捕獲) 許容下限水準(5%)以下 または豪雪の翌年 禁猟措置 9 9% 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 Reproductive Potential 8% 7% 6% 5% 4% 3% 2% 1% 0% 2007 2022 2037 2052 2067 2082 Yield 生活史係数既知、一定環境 2097 Year 10 厳冬年がくると破綻する 11 係数値の推定誤差で破綻する 12% 7000 6000 5000 8% 4000 6% Yield Reproductive Potential 10% 3000 4% 2000 2% 1000 0% 0 2007 2022 2037 2052 2067 2082 2097 Year 12 12 60% 14000 50% 12000 10000 40% 8000 30% 6000 20% 4000 10% 2000 0% 2007 Yield Reproductive Potential 10倍の変動幅を覚悟せよ 0 2022 2037 2052 Year 2067 2082 2097 13 1 Risk Management for deer 保全生態学的下限=1000個体とする 狩猟可能な下限水準%P-=その数倍 平年の変動幅は2倍程度。2度連続 して豪雪年がくると1/4に減るため、 適正水準%P*=%P-の数倍 大発生水準%P+=%P*の2倍 現在の個体数約16万頭(雌約10万 頭) 14 2 Population Indices 捕獲・目撃情報(CPUE) 目視調査(道路、航空) 道路事故、列車事故 農林業被害 絶対数はわからない 15 3 Feedback管理 • 管理計画変更の効果は、 2年後まで現れない • 環境が一定と仮定した管 理は危険である。 16 どこまで精度を上げるか? • 個体数推定の調査精度を上げ、 調査から管理計画変更までの時 差が少ないほど効果的 • 自然変動幅より狭くはできない • 調査精度を上げるには、それだけ 費用がかかる 17 雌雄別の捕獲圧調節 捕獲頭数の変動幅 >個体数の変動幅 減少措置中は雌を、 漸増措置中は雄を! 性比の変動幅に注意する(1:10以 内) 18 5 不確実性の考慮 • 狩猟がない場合のLeslie行列の固有値λ (自然増加率)を15%~20%と仮定 • 幼獣生存率Lfc/2を46%~54%と仮定 • 雌成獣生存率Lffを90% ~ 99%と仮定 • 繁殖成功2rLff= 2λ(λ- Lff)/ Lfcとおく • 上記を平均値として毎年最高10%変動 • 個体数指数の推定誤差が毎年最高20% 19 道東地域の捕獲頭数と被害額 8 捕 獲 頭 数 ( 万 頭 ) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 駆除雄 狩猟雄 駆除雌 狩猟雌 農林業計 農業 7 6 5 4 3 2 1 0 1989 1992 1995 被 害 額 ( 億 円 ) 1998 資料:北海道エゾシカ保護管理検討委員会 20 計算機から雄が消えた! Population size Females adults 120,000 100,000 80,000 Male adults Female calves 121,578 2,998 60,000 40,000 20,000 0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 21 12万頭では少なすぎる • 8~16万頭×年15%=1.2~2.4万頭ず つ増える • 雄成獣は2万~4万頭いたはず • 雄成獣を2万頭以上5年間獲った – 上記設定が正しければ雄はもういな いはず 22 その後の環境監視 200 175 150 個 125 体 数 100 指 数 75 50 ヘリコプターセンサス ライトセンサスA ライトセンサスB 捕獲数/人・日 目撃数/人・日 農林業被害額 列車事故 262 25 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 2000 23 北海道 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm 緊急減少措置の延長 • あと2年~3年の大量捕獲が必要 • 引き続き個体数推定を続け、個体 数指数が50未満と判断されたら、 緊急減少措置を打ちきる • 個体数指数の推定誤差を10%と想 定 – 不確実性の程度は全く不確実 24 道東地域エゾシカ保護管理計画 の改正について(北海道2000) • 平成5年度末の道東地域の推定生息数 を12万頭とすると、その15%にあたる 1万8千頭以上を平成6年度以降、毎 年捕獲すれば個体数は減少するはずで あった。…平成5年度末推定生息数の 過小評価が明らかとなった。 • すばらしい説明責任(accountability) 25 個体数の動向(案) • 1994~’95年にかけて個体数は増え続け、 指数120程度に達した • 1998年緊急減少措置導入後、個体数は はっきり減少に転じた – 発信機をつけた50頭のうち約半数が捕獲死 • 減少に転じたということは、’93年度末 に30万頭はいなかっただろう 26 鳥獣保護法改正(1999) – 狩猟資源・害獣から • • • • 生物多様性条約との整合 地方分権一括法との整合 特定計画制度の導入 共通編・鹿・カモシカ・熊・猿・ 猪の保護管理マニュアル(鳩・ 烏・川鵜も必要) 27 自然の恵みを子孫に遺す 持続可能性sustainability 生物多様性条約・環境基本法 原生自然の喪失(深海底を除 く) 地球史上第6の大量絶滅の時代 自然なくしては生きていけない 一昔前、自分の周りにあった自然 が、子供の周りにない。 28 自然の恵みの3つの価値 農林水産資源(goods=食糧源) 生態系サービス(環境浄化)干潟 快適さamenity 自然に親しむ・自然に対する畏敬の念 29 一般の管理計画 既知のシステムの設計 定常状態の維持と監視 400系つばさ(JR東日本 リスク管理 のホーム頁より) Risk Communication 危険性の周知 玄海原発(九州電力のホー ム頁より) 30 野生生物保護【漁業】管理 bona vacantia 無主物である害獣【資源】 絶滅の恐れがある【乱獲】 開放系=県境【国際】管理 生態系は未知である(説明責 任) 非定常である(順応性adaptability) 31 西暦2000年問題 ソフトウェア資源の問題 予測不能な大事故の恐れ 製造物責任・行政責任 年越しの監視(危険の周知) 旅行自粛・自己責任 32 環境化学物質の管理 現代文明に必須(夥しい物質 数) 危険性の周知(所沢事件) 世代を超える毒性 毒性が未証明(悔いのない政 策) 未確立の監視体制(杞憂) 33 板挟み=絶滅の恐れ+被害 シカ=数が増える(個体数管 理) クマ=里に近づく(ウェンカム ィ) 人間とクマ(キムンカムィ)の適切な関係 サル、カラス(餌付けと愛護) イノシシ=被害+持続的利用 34 鳥獣保護行政の究極目標 • 健全な生態系の保全 • 人と自然の適切な関係 –自然の恵みを上手に利用する • 行政と研究者と市民の責任 ある持続的な協力 35 非定常で不確実な生態系 順応的管理(adaptive management) 状態が変われば政策も変える 監視monitoringと計画見直し 為すことによって共に学ぶ 説明責任accountability 過ちを改めるに如くは無し 36 理想と現実の乖離 理念を裏付ける技術が足りない 研究も足りない 現場の人材が足りない 予算が足りない 社会の理解が足りない 37 基礎情報の整備と共有 • 長期かつ広域の監視(monitoring)、 各鳥獣の生物学的基礎情報は自 治体では限界があり、環境庁が 基礎情報の収集に努めるべき 38 クマ問題 • • • • • 絶滅の恐れがある(特に西日本) 人を襲うクマは駆除が必要 里に近づく・田畑を荒らす 本来、クマは人を避ける(鈴) 生ゴミ放置、餌やりによる不良化 – キムンカムィとウェンカムィ 39 ウェンカムィモデル • キムンカムィS→ウェンカムィI •dS/dt = (r–h) S •dI/dt = hS –mI 変心 •h:変身率 40 ヒグマの分布 41 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm ヒグマの4相管理(案) 変心率が 高い 低い 少 個 な 体 い 数 多 が い 被害が続き熊絶滅 不適切な関係を戒 も危惧される・人間 め続け、キムンカ 活動規制 ムィを守る ウェンカムィを駆除 、早急に変心率低 下措置を 最も望まし い状態 42 ヒグマ管理の課題 • • • • • • 個体数の計り方 生活史係数の推定 変心率の計り方 変心率の下げ方 駆除の診断 危険の周知 43
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