ミクロ経済学II 第14回 生産の決定3 産業の長期均衡 市場と均衡1 前回の宿題 I. ある完全競争企業の費用関数がC=Y2+20Y+100 であるとします。 1. 市場価格が最低いくらなら、利潤が0以上になり ますか? 2. 操業を停止したほうが良いのは、市場価格がい くらに下がった時ですか? 3. この企業の供給曲線を求めなさい。 II. ある財を供給する全ての企業の費用関数が C=5Yであるとします。市場全体の供給曲線を求 めなさい。 産業の長期と短期 短期 • 産業全体の企業数が変わらない • 利潤が+だったり-だったりする 長期 産業への参入障壁がないと仮定すると • ある産業で長期利潤が+ → 他の企業がその産業に参入 • ある産業で長期利潤がー → 既存企業がその産業から退出 産業の長期均衡 LMC LAC • 長期平均費用LACが最小 になる点で、LACとLMC(長 期限界費用)が等しくなる ⇒長期的な主体的均衡点 • 市場価格が長期的均衡点 の水準のとき P 長期的な主体的均衡点 Y – 最適生産量は? – 利潤は? → 参入・退出は起きない 市場価格>長期均衡点のケース • P=MCとなるように最適 生産量Y*を選ぶ LMC LAC P • Y*のもとでの(固定費を 含めた)利潤は? LAC(Y*) 長期的な主体的均衡点 P • Y* Y =(P-AC(Y*))×Y* = 利潤が+なので新規参 入が生じる 新規参入と市場価格 P D • 新規参入によって供給 曲線が右にシフト S’ ⇒市場価格が下がる ⇒産業の長期利潤が減少 S 価格>産業の長期均衡 →産業の長期利潤がゼロ になるまで参入が起き て価格が下がり続ける Y 市場価格<長期均衡点のケース • LMC LAC 価格が長期的な損益 分岐点を下回っている → 長期利潤がマイナス → 既存企業が産業から 退出する P 長期的な主体的均衡点 Y 既存企業の退出と市場価格 P D • 既存企業の退出によって S 供給曲線が左にシフト ⇒市場価格が上がる ⇒産業の長期利潤が増加 S’ 価格<産業の長期均衡 →産業の長期利潤がゼロ になるまで退出が起きて 価格が上がり続ける Y 今日やること 1.産業の長期均衡 2.市場と均衡1 • 市場均衡の特徴 • 市場均衡は必ず存在するのか? • 均衡への調整過程: ワルラス的調整メカ ニズム Price Taker vs. Price Setter 完全競争 不完全競争 Price Taker : 価格は所与 (変えられない) • 多数の売り手 →生産者: いくら売って も値下がりしない • 多数の買い手 →消費者: いくら買って も値上がりしない Price Setter : 自分の行 動で価格が変化 • 少数の売り手 →売る量を増やすと価格 が下がる • 少数の買い手: →買う量を増やすと価格 が上がる Price Taker 個別家計の直面 する供給曲線 ⇒無限に弾力的 市場 価格 個別企業の直面 する需要曲線 ⇒無限に弾力的 S Q 市場 価格 D Q 完全競争のもとでの市場均衡 消費者: 所与の価格の下で主体的均衡→需要 生産者: 所与の価格の下で主体的均衡→供給 価格: 需要量と供給量を一致させる水準に決定 • みんなが価格を所与として自分にとってベスト な選択をしている • 言い換えると、全ての参加者の主体的均衡が 満足されている 均衡の存在 Q: 市場均衡は必ず存在するか? A: 存在しないケースもあるが、かなり一般的な 仮定の下で均衡が存在することを証明できる • 証明は大学院レベルなので省略 • 重要な仮定: 無差別曲線・等生産曲線が原点に凸の曲線 均衡が存在しない例 1 P D • 価格がゼロでも需要より供 給が大きい 例) 空気 • 欲しい人が欲しいだけ空気 を消費できる S →市場は必要ない • 経済学は希少な資源の配 分を考える学問 Q →こういう財は対象外 均衡が存在しない例 2 • 供給曲線が常に需要曲 線より上 例) 宇宙旅行 ⇒どんな生産量でも 留保価格<限界費用 ⇒生産ゼロが効率的 ⇒市場は必要ない S D 限界費用 消費者の 留保価格 Q 均衡の調整メカニズム • 均衡から価格・数量がはずれてしまったら、市場はど うやって新しい均衡に到達するのか? • 代表的モデル(仮説): ワルラス的調整過程 • 他にも、マーシャル的調整過程、クモの巣の調整過程 がある(授業では省略) ワルラスの調整メカニズム • 市場が均衡しない⇔需給が一致しない →ワルラスのモデルでは、需給が一致するように価格 が変化 • 超過需要 (需要量>供給量)⇒価格が安すぎる ⇒価格が上がる • 超過供給 (需要量<供給量)⇒価格が高すぎる ⇒価格が下がる ワルラス的調整メカニズムの例 1 価格 需要 供給 200 150 50 75 100 数量 例えばもし価格が200だっ たら 超過供給 買いたい人に対して売り たい人が多すぎる ⇒ 価格が下がる ワルラス的調整メカニズム 2 価格 需要 供給 150 100 50 75 100 数量 例えばもし価格が100だっ たら 超過需要 売りたい人に対して買い たい人が多すぎる ⇒ 価格が上がる 競り人 (Auctioneer) • 魚や野菜などの卸売市場で価格調整 1.値段を提示してその値段での需要量と供給量を聞く 2.需要が供給を超過→価格を上げる 供給が需要を超過→価格を下げる 超過供給・超過需要がなくなるまで1と2を繰り返す。 疑問: 競り人がいない場合は? - Good question! (I don’t know the answer.) - ワルラス調整過程はモデル・仮説にすぎない 均衡の安定性 • それぞれの調整メカニズムで、均衡からはず れた価格・数量から経済はちゃんと新しい均 衡に近づいて行くか? • 実はどのメカニズムでも、状況次第で近づい て行くことも遠ざかっていくこともある – 近づいていくなら「安定的」 – 遠ざかっていくなら「不安定」 ギッフェン財のケース 価格 需要 供給 数量 • 自己価格増の代替効果: 需要量減 • 自己価格増の所得効果: 正常財ならば需要量減 劣等財ならば需要量増 • 劣等財で 所>代 だと 自己価格増⇒需要量増 ⇒需要曲線が右上がり ワルラス的調整メカニズムが不安定な例 ギッフェン財のケース 需要 供給 1.△の上方では 需要が供給を超過 ⇒価格が上がる ⇒さらに需要超過 安定 不安定 数量 2.△の下方では 供給が需要を超過 ⇒価格が下がる ⇒さらに供給超過 ワルラス的調整過程が安定的になる条件 • • 右下がりの需要曲線・右上がりの供給曲線の通常 のケースでは安定的 需要曲線が右上がりだったり供給曲線が右下がり だったりしても、絶対値をつけない傾きについて次 の条件が満たされれば安定的: 1 1 供給曲線の傾き 需要曲線の傾き
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