工業力学 補足スライド Industrial Mechanics 第6回:慣性モーメント ● ● ● ● 宿題を提出してください わからないことを質問してください 以前のノートがない人はとりにきて下さい 配布物:解答用紙 1枚 知能システム工学科 井上 康介 日立キャンパス E2棟801号室 回転体と重心 (パップス・ギュルダンの定理) 長さ L の曲線 AB を x 軸の まわりに一回転させてできる 回転体の表面積を求めたい. 図の通り,長さ dL の微小 部位をとり,一回転させる と,幅 dL,長さ 2py の 輪っか状テープとなる. dA = 2py・dL よって全体の表面積は S = ò dA = ò 2py dL = 2p ò y dL = 2p y G L = 2pyG ×L (重心の周回軌道長)・(曲線の全長) 2 回転体と重心 (パップス・ギュルダンの定理) 面積 A の平面図形を x 軸の まわりに一回転させてできる 回転体の体積を求めたい. 図の通り,面積 dA の微小 部位をとり,一回転させる と,断面積 dA,長さ 2py の リングとなる. dV = 2py・dA よって全体の体積は V = ò dV = ò 2py dA = 2p ò y dA = 2p y G A = 2pyG ×A (重心の周回軌道長)・(全面積) 3 パップス・ギュルダンの定理のまとめ 曲線を特定の軸周りに回転させてできる回転体の表面積 は,曲線全体の長さを L,曲線の重心と軸との距離を d と すると,S = 2pdL である.これは,重心が軸の周りを1周 する軌道の長さと曲線長の積 である. 平面上の領域を特定の軸周りに回転させてできる回転体の 体積は,領域全体の面積を S,領域の重心と軸との距離を d とすると,V = 2pdS である.これは,重心が軸の周りを 1周する軌道の長さと面積の積 である. S G L d G d 2pd 2pd 4 物体のすわり 物体のすわりがよいとか悪いとかいうとき,これは 物体の 安定性 を言っている. ある状態に置かれた物体が安定であるか否かは,物体に微 小な傾きを与えた時,物体がそのまま倒れるか,元の状態 に戻ろうとするか によって,まずは判定できる. 微小に傾いたときに,物体が「戻ろうとする」か「もっと 倒れようとする」かは,その時 発生しているモーメントが 復元モーメントか転倒モーメントか によって決まる. そしてそのいずれが生じるかの条件は… 重心がもとの位置より上がる 復元モーメント (安定) 重心がもとの位置より下がる 転倒モーメント (不安定) 重心高さが不変 モーメントは発生しない (中立) 安定なすわり (stable) 物体を少し傾けると重心が上がる場合 重心にかかる重力 W と地面からの反力 R がつくる力の モーメントは,傾きを回復する方向の復元モーメント 戻ろうとする (安定) 不安定なすわり (unstable) 物体を少し傾けると重心が下る場合 重心にかかる重力 W と地面からの反力 R がつくる力の モーメントは,より傾ける方向の転倒モーメント もっと倒れようとする (不安定) 中立なすわり (neutral) 物体を少し傾けても重心高さが変わらない場合 重心にかかる重力 W と地面からの反力 R の作用線が一致 し,モーメントが生じない 倒れようとも戻ろうともしない (中立) 慣性モーメント 剛体の運動を解析するには これまで扱ってきた質点の力学では, 質点の 並進運動 だけ を考えれば良かった. 剛体の力学では, 物体が大きさを持つので 並進運動 だけで なく 回転運動 も含めて考慮する必要がある. 並進運動 (translation) 回転運動 (rotation) 一般には,剛体は並進しつつ回転する. 並進運動の式 と 回転運動の式 を併用して解析する. 10 回転運動の法則性:角運動方程式 並進運動を数理的に解析する上での基本式:Newtonの運 動方程式 f = ma これにより「物体に作用する力 f 」と「物体の加速度 a 」 との関係が分かるので,物体が受けている力が分かれば運 動が予測できる. 回転運動に対して同様の法則性を記述するとすればどうな るか? 角運動方程式 (Eulerの運動方程式) N = I w& このように,「物体が受けているトルク N」と「物体の角 加速度 w&」との関係 が回転運動の法則性. 11 慣性モーメント Newtonの運動方程式をよく見れば,以下のことが言え る. f = ma 力に比例して加速度は大きくなる. 質量に反比例して加速度は小さくなる. 質量とは「物体の動きにくさ (慣性)」を意味している. では,回転の運動方程式 (角運動方程式) ではどうか? N = I w& 質量に対応しているのは I であり,角加速度 (回転の加速 度) は,I に反比例している.つまり,I は「物体の回り にくさ (回転に関する慣性)」であり,これを 慣性モーメ ント (moment of inertia) と呼ぶ. 12 慣性モーメントに関する定性的考察 慣性モーメント I とは,回転に関する慣性 (回りにくさ) であった. では,どういうとき物体は回りにくいか? まず,形状が同じとすれば 質量が大きい とき回りにくい であろうことは直感的に分かる. また,以下の2つの物体が同じ質量だとしたとき… 回転軸近傍に質量が集まっている方が回しやすいっぽい 回転軸と質量との距離が大きい と回しにくい 13 慣性モーメントを定量的に求める 1 再び角運動方程式を見ると… 「物体全体の回転を角加速度 で加速させるのに 必要な トルク は である」と解釈できる. 物体を,微小部分 i (質量 mi,回転軸からの距離 ri) の集合 体と考えると,全体の回転を で加速させるトルクは, 各部分の回転を で加速させるトルクの合計である. w& mi 部分 i の軸まわりの回転を で加 速させるのに必要なトルク Ni を 求めて,これを合算した全体の 必要トルク N を で割った値が 慣性モーメント I である! 14 慣性モーメントを定量的に求める 2 部分 i の軸周りの回転を w&で加速するのに必要なトルク Ni を求める. 角加速度が w&であることから,部分 i の加速度は ri w&であ る.部分 i にこの加速度を与えるのに必要な力の大きさ fi は,m i ri w&である. fi は回転軸から部分 i までのベクトルに直交しているの で,部分 i にこの力を与えるのに必要なトルクは N i = fi ri = m i ri2 w&である. fi よって,物体全体の回転をw&で w& 加速させるのに必要なトルク N mi はその総和であり, N = å N i = å m i ri2 w&= I w& である. 慣性モーメント 15 慣性モーメントを定量的に求める 3 N = å Ni = å m i ri2 w&= I w& より,I = å m i ri2 . 慣性モーメント (物体の回りにくさ=回転の慣性) とは, (部分の質量)・(部分と軸との距離)2 を物体全体にわたって合算した値である 微小部分のサイズ (質量) をゼロに持って行く極限を取る と,連続体に対する慣性モーメントの式が求められる. I = ò 物体全体 2 r dm 連続体の慣性モーメントは,物体の微小部分を考え,その 微小質量 dm と軸からの距離 r を求めて積分して求める. 16 慣性モーメントを定量的に求める 4 例) 下記の細い (太さの無視できる) 長さ l,質量 m の棒を軸 L まわりで回転させるときの慣性モーメントを求める.ただ し,線密度 (長さあたりの質量) を r とする (m = rl ). l L dx x 軸 L から距離 x の位置に微小部分 (長さ dx ) をとると,そ の質量は dm = r dx である.先ほどの式に代入すれば, l 3 2 é 1 ù r l ml I = ò r 2 dm = ò x 2 ×r dx = r ê x 3 ú = = 物体全体 0 êë3 ú 3 3 û0 l 17 慣性モーメントを定量的に求める 5 結合体の慣性モーメントはどうなるだろうか? 結合体の全体を w&で回すのに必要な トルクを N とする ( N = I w&). 右図のように,それぞれの部分を回す のに必要なトルクは以下の通りとする. N 1 = I 1w&, N 2 = I 2 w& 全体を回すトルクはそれらの和である. 18 慣性モーメントを定量的に求める 6 N = N1+N2 より,I = I1+I2. すなわち, 部分 i の慣性モーメントが Ii である結合体の全体の慣性 モーメントは,部分ごとの慣性モーメントの総和である. I = å Ii 同様の議論から,慣性モーメント IB の物体から慣性モー メント IP の部分を抜いた後の慣性モーメントは,抜く前 の慣性モーメントから抜いた部分の慣性モーメントを引い た値となる. I = IB - IP 19 有用な定理 1:平行軸の定理 下図の物体 (質量 m) を重心 G を通る軸周りで回す時の慣 性モーメントを IG とするとき,G から距離 d だけ離れた点 O を通る平行な軸周りで回す慣性モーメントはどうなる か. y x d O G 20 有用な定理 1:平行軸の定理 回転軸が z 軸方向となるように以下のように G を原点とし て座標軸をとり,物体上の微小部分 (質量 dm) を考える. 微小部分の座標を (x, y)T とする.微小部分と G との距離を r,O との距離を r’ とする. y dm r y r’ x d O G x 21 有用な定理 1:平行軸の定理 点 O 周りの慣性モーメントは以下の通りとなる. I = 2 ¢ r ò dm = 2 2 ( x + d ) + y { }dm ò I = 2 2 2 x + y dm + d ( ) ò ò dm + 2d ò x dm y r2 dm r y r’ x d O G x 22 有用な定理 1:平行軸の定理 2 = I + d m I = ò r dm + d ò dm + 2d ò x dm G 2 物体の全質量 =m 重心の x 座標と 全質量の積 = 0 ここが差分! y dm xG = y r’ r G 周りの慣性 モーメント IG 2 x d O G =0 ò x dm ò dm x 23 有用な定理 1:平行軸の定理 平行軸の定理 (parallel axis theorem) 2 I = IG + d m 質量 m の物体の重心 G を通る軸周りの物体の慣性モー メントを IG とするとき,その軸から距離 d だけ離れた 平行軸周りの慣性モーメントは,IG に d 2m を足した量 となる. 物体の慣性モーメントは 重心を通る軸周りが一番小さく, そこから離れるにしたがって d 2m だけ増加する. 重心を通るある軸周りの慣性モーメントが分かっていれ ば,この定理を使って,その軸に平行な任意の軸周りの慣 性モーメントを簡単に求められる. 24 有用な定理 2:直交軸の定理 厚みの無視できる平面板に下図のように座標軸を取り,こ の板を x 軸,y 軸,z 軸周りで回すときの慣性モーメントを それぞれ,Ix,Iy,Iz とする. z O y r x y dm x 25 有用な定理 2:直交軸の定理 微小質量 dm を座標 (x, y, 0)T に取るとき,z 軸周りの慣性 モーメントは Iz = 2 r ò dm = 2 2 x + y dm = ò 2 x ò dm + 2 y ò dm = Iy となる. = Ix z O y r x y dm x 26 有用な定理 2:直交軸の定理 直交軸の定理 (perpendicular axis theorem) Iz = Ix + Iy 平面板上の任意の点 O を通り,板に垂直な軸周りの慣 性モーメントは,平面内の O を通り直交する2軸周り z の慣性モーメントの和に等しい. O y r x y dm x 27 特定物体の慣性モーメントを求める 以上の考え方を使って特定物体の慣性 モーメントを求められる. 例) 右図の物体の軸 L 周りの慣性モーメ ントを求める. 円柱や直方体の 重心周り の慣性モー メントは,積分の計算 により求まる. この計算の中で 直交軸の定理 を活用. L ( 結果が教科書の表 6・1 に出ている) 平行軸の定理 を使えば,右図の 軸 L 周り の部分ごとの慣性モーメントが分かる. さらに,「全体の慣性モーメント=部分の慣性モーメント の和」であるから,求まった 部分ごとの慣性モーメントの 合算 により全体の慣性モーメントが求まる. 28
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