オルソポジトロニウムの 寿命測定によるQEDの実験的検証

オルソポジトロニウムの
寿命測定によるQEDの実験的検証
課題演習A2, 2013年度後期
角田峻太郎 徳宿邦夫 中谷侑司
福島由章 古川雅博
第1章 序論
目的
オルソポジトロ二ウムの寿命を測定し,そ
の測定値をQED(量子電磁気学)によって
求められた理論値と比較・考察する.
第2章 理論
Positronium
• Electronとpositronが電気的な相互作用で束
縛された状態のこと.
• 対消滅によりγ線を放出する.
Positroniumの崩壊
スピン状態によって崩壊過程が異なる.
– p-Ps(singlet)
偶数光子に崩壊(主に2光子に崩壊)
寿命の理論値:1.25×10-10[sec]
– o-Ps(triplet)
3つ以上の奇数光子に崩壊(主に3光子に崩壊)
寿命の理論値:1.39×10-7[sec]
第3章 実験
実験原理
22Na線源のβ+崩壊による陽電子放射
シリカパウダー(SiO2)内で電子をcapture
ポジトロニウム生成
ポジトロニウム崩壊
ポジトロニウムの
寿命測定
実験装置のセッティング
シリカ
パウダー
22Na線源
プラスチック
シンチレーター
NaIシンチレーター
実験装置の様子
NaIシンチレーターに入ってくる余計な放射線の遮蔽を心掛けた
測定に用いた回路
信号の概要
①PSが鳴る.
②1200nsのgateを開く.
③Psが崩壊し,γ線がNaIを鳴らす.
④PSによる信号とNaIによる信号の
coincidenceをとる.
⑤PSによる信号を840ns delayさせ
て時間幅(TDC4)をはかる.
⑥840 - TDC4 = decay time
第4章 真空中での
データ解析
ADC calibration
ADCの生データ
ADC値とエネルギー値の対応を調べる.
ADC1
ADC2
Entries
Mean
RMS
c2 / ndf
Constant
Mean
Sigma
14000
12000
10000
1397359
500.2
478.1
152.1 / 32
9500 ± 27.5
1344 ± 0.1
49.62 ± 0.14
h1_2
Event
Event
h1_1
12000
10000
8000
8000
6000
6000
4000
4000
2000
2000
0
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800 2000
ADC count
Entries
Mean
RMS
c2 / ndf
Constant
Mean
Sigma
14000
0
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1397359
489.6
469.9
143.1 / 37
8319 ± 24.6
1371 ± 0.1
50.95 ± 0.13
1800 2000
ADC count
ADC3
Event
h1_3
Entries
Mean
RMS
c2 / ndf
Constant
Mean
Sigma
14000
12000
10000
1397359
498.7
500.1
406.6 / 37
9087 ± 26.0
1407 ± 0.1
49.73 ± 0.12
8000
6000
4000
2000
0
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800 2000
ADC count
横軸がchannel,縦軸がevent数
Calibrationはペデスタルと
511keVの2点で行った.
エネルギーの値とADCの対応
ADC1
ADC2
ADC3
0 keV
163 ch
180 ch
155 ch
511 keV
1344 ch
1371 ch
1407 ch
以上の対応から,次のような式が得られた.
Energy[keV]= 0.4327(ADC1 - 163)
Energy[keV]= 0.4291(ADC2 - 180)
Energy[keV]= 0.4881(ADC3 - 155)
Calibration後のグラフは次のようになる.
10
10
10
10
ADC2 after calibration
h2_1
Entries 1397359
5
Mean
142.1
RMS
202.2
4
10
10
10
3
10
Event
Event
ADC1 after calibration
6
10
2
Entries 1397359
5
3
2
100
200
300
400
500
600
Energy[keV]
0
100
200
300
Event
ADC3 after calibration
h2_3
6
Entries 1397359
10
10
5
Mean
137
RMS
200.1
4
3
10
196.7
1
0
10
129.1
RMS
10
1
10
Mean
4
10
10
h2_2
6
2
10
1
0
100
200
300
400
500
600
Energy[keV]
横軸がkeV,縦軸がevent数
400
500
600
Energy[keV]
TDC calibration
TDCの生データ
TDC値と時間の対応を調べる.
TDC1
TDC2
Entries 1397359
10
10
10
5
Mean
228.3
RMS
28.71
h1_2
Event
Event
h1_1
Entries 1397359
10
5
10
3
10
2
10
3
2
1
1
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
TDC count
0
500
1000
1500
TDC3
10
2500
3000
3500
4000
TDC count
5
Mean
223.5
RMS
28.09
h1_4
Event
Event
Entries 1397359
10
2000
TDC4
h1_3
10
28.87
10
10
0
231
RMS
4
4
10
Mean
10
10
5
Entries 1397359
4
Mean
3281
RMS
508.1
4
10
3
10
3
10
2
10
10
1
1
0
2
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
TDC count
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
4000
TDC count
寿命測定には
TDC4のみ必要な
のでcalibrationは
TDC4のみ行った.
回路に組み込んでいた
fixed delay とTDCの値との対応
delay [ns]
117
586
940
TDC4[ch]
531
2397
3797
以上の対応から,次のような式が得られた.
Time[ns]= (TDC4 – 58.37) / 3.984
Calibration後のグラフは次のようになる.
TDC4 after calibration
Event
h2
Entries 1397359
5
10
Mean
52.11
RMS
128.2
104
3
10
102
10
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900 1000
Time[ns]
横軸が時間,縦軸がevent数
時間とエネルギーの相関
本来は時間とエネルギーには
相関はないにも関わらず,
生データには相関が見られる
図:生データのエネルギー対時間分布
TQ補正
このΔTの時間分を補正する
TQ補正関数の導出
仮定
t0,y0はEに依存しない
y0t0
DT(E) =
E
最終的なTQ補正関数
p0
T ( E ) 
 p3
p2
( E  p1 )
TQ補正の結果
pick-off反応とその補正
o-Psの崩壊以外も反応は生じている
o-Psがp-Psに変化してp-Psが崩壊する
結合状態の陽電子が周囲の電子と対消滅をする.etc
pick-off反応
obs  ortho  pick off
pick-off補正方法
Fittingの様子
pick-off補正関数のfitting結果
寿命のfitting関数
よって寿命のfittng関数は
fittingの様子
fittingの結果
第5章 考察
真空度による結果の違い
• シリカパウダー中の酸素分子の数が多いほ
どpick-off反応が起こりやすいと考えられる.
• 本実験である真空状態におけるデータに加え
大気圧下でのデータもとり両者を比較した.
真空状態(v状態)での結果
真空状態でのTDC図
真空でない状態(nv状態)の結果
真空でない状態でのTDC図
• 両者のpick-off反応と見られるスペクトル(491
~531keV)を比較したが大きな違いはみられ
なかった.
Pick-off反応のスペクトルの比較
• 真空状態にすることによりpick-off反応を抑え
られると考えた予想に反するものであった.
• TQ補正後の寿命
TQ補正後のそれぞれの寿命
• pick-off補正をしてないので真空状態の方が
寿命が延びると予想される.
• NaI3以外は予想通りの結果となった.
誤差の見積もり
TQ補正による誤差
• TQ補正関数による誤差が寿命に影響を与える.
• TQ補正関数の誤差を伝播の式から見積もりその最
大と最小の値を用いて寿命を求めた.
• 以上のうち最大のずれをだしたものをTQ補正による
誤差σTQとする.
TQ補正による誤差
TQ補正関数による寿命の誤差
• よってそれぞれのNaIに対するσTQは以下のよ
うになる.
TQ補正による寿命の誤差
σTQ[ns]
NaI1
NaI2
NaI3
9.7
7.4
8.2
TQ補正関数の誤差の伝搬
pick-off補正による誤差
• pick-off補正の際にもo-Psの崩壊とpick-off
反応の比の関数f(t)を見積もる際の誤差も寿
命に影響を与える.
• TQ補正の時と同様にf(t)の誤差を伝播の式
から見積もりその最大と最小の場合を用いて
寿命を求めた.
• 以上のうち最大のずれを出ししたものをpickoff補正による誤差σpick-offとする.
pick-off補正による誤差
f(t)による寿命の誤差
• それぞれのNaIに対するσpick-offは以下のよう
になる.
pick-off補正による寿命の誤差
σpick-off[ns]
NaI1
NaI2
NaI3
11.6
14.4
16.7
pick-off補正のfitting関数の誤差の伝搬
fittingの際の誤差
• 最後に生データを
fittingする際にも誤
差が生じる.
• fittingする際ROOT
の算出した誤差を
fittingの際の誤差
σfittingとする.
σfitting[ns]
NaI1
NaI2
NaI3
24.08
27.97
62.97
誤差の評価
• 上記の三つの誤差を考慮して最終的な誤差
を求めた.
それぞれの誤差
NaI1
NaI2
NaI3
σTQ[ns]
9.7
7.4
8.2
σpickoff[ns]
11.6
14.4
16.7
σfitting[ns]
24.08
27.97
62.97
誤差の伝播
寿命と誤差
NaI毎の寿命と誤差
各NaIによる寿命と誤差は以上のようになった.
期待していた寿命から大きく離れてしまい,また誤
差も10%~20%ほど出てしまった.
データ数の問題
• pick-off補正時に純粋なo-Psのみを抜き出す
ためより多くの元データを必要とする.
• さらにそれを区分して用いるのでさらに多くの
データを必要とする.
• TQ補正による誤差よりもpick-off補正による誤
差の方が大きかった事からデータ数をさらに
多くする必要性が考えられる.
fittingの際の誤差
• 本来どの範囲でfittingしても寿命は一定であるはず
である.
fitting範囲による寿命の差
• しかし上の表のようにfittingの範囲を変えることによ
り寿命が変わってしまった.
• fitting範囲が早いほど寿命が短くなることからpickoff反応が除去しきれなかった可能性が考えられる.
完
〜Fin〜
ありがとう
ございました