日語文法研究 (大学院) 3月12日(木)~ 担当 神作晋一 1 文法 ここでは、「文法論、文法学」の各項 目について一通りの紹介をしたいと 思います。 2 荻野綱男編(2007)『現代日本 語学入門』 P.74~99 1 言語のさまざまな単位と「文法」 2 活用 3 文の構造 格、文の成分、必須補語と副次補語、有題文と 無題文 4 文法カテゴリー各論 ヴォイス、アスペクト、テンス、ムード 3 1 言語のさまざまな単位と「文法」 1-1 文から語までのレベル―統語論 1-2 語とその内部のレベルー形態論 1-3 文を超えたレベルー談話分析・テキスト 言語学・文章論― 4 言語の分節的存在性 小さな単位から、大きな単位へ 文を構成する法則性「文法」 5 1-1 文から語までのレベル ――統語論―― 文 (1)太郎が学校に遅刻してきたので、担任 の先生が彼をおこった。 (2) 太郎が学校に遅刻したので<従属節> 担任の先生が彼をおこった<主節> 節:文の一部で主語と述語を有する。 6 1-1 文から語までのレベル ――統語論―― ⇒「節」の下位分類 句:2語以上で1つの品詞的な機能。 (3) 担任の先生<名詞句> 彼をおこった<動詞句> 7 1-1 文から語までのレベル ――統語論―― ⇒「句」の下位分類 語:包括的な定義はないが…。(単語) 基本的で、独立的な単位(辞書の見出し) 例(3a) 「担任」「の」「先生」 3つで構成 8 1-1 文から語までのレベル ――統語論―― 文 > 節 > 句 > 語 狭くとらえる(狭義) 複数の語が結合して、文になる単位を構 成する際の規則性 ⇒統語論 9 1-2 語とその内部のレベル ――形態論―― 形態論:語の形式や、その内部構造(語 構成)を研究するもの。 語の形式:動詞の活用など 語構成:複合語など 語彙論でも扱われる 10 1-3 文を超えたレベル ――談話分析・テキスト言語学・文章論―― 複数の文による言語単位 談話:英米の言語学。話し言葉的 テキスト:欧州諸国の言語学。書き言葉的 文章:伝統的な国語学。書き言葉的 ※談話分析・テキスト言語学・文章論 11 1-3 文を超えたレベル ――談話分析・テキスト言語学・文章論―― 例文(5) 1つの文内で説明できないもの ①三浦選手がまた決勝点を決めた。 ②〈○この/×その/○あの〉選手は苦しいと きに本当に頼りになる。 ⇒②だけ(1つの文内)ではわからない。指 示詞、接続詞、省略、反復、主題、情報構 造など 文を超えたレベル 談話文法 12 狭義の文法、広義の文法 広義の文法論 形態論における語構成論や 文のレベルを超えた談話分析 狭義の文法論 統語論と形態論に おける活用論 13 2 活用 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 日本語における活用 学校文法における動詞の活用 学校文法の問題点 ローマ字表記における動詞の活用 まとめ 14 2-1 日本語における活用 活用:単語が用法に応じて語形を変えること 日本語の活用語: 動詞、形容詞(イ形容詞)、形容動詞(ナ形容詞)、 助動詞 日本語では活用語のあとになにが続くかに よって、活用語尾が変わる。 (6)はしる:はし-ら-ない(未然形) はし-れ-ば(仮定形) 15 2-1 日本語における活用 不規則活用:2つだけ カ行変格活用(カ変)「来る」 サ行変格活用(サ変)「する」 個別的で、規則性がない。 実は、2つ(第1グループと第2グループ)の組み 合わせであるが、覚えてしまわないと使えないの で、規則性がないのに等しい。 16 2-2 学校文法における動詞 の活用 規則活用は3種類 五段活用動詞 上一段活用動詞 下一段活用動詞 17 2-2 学校文法における動詞 の活用 高校入試 2.国文法の活用表 みぜんけい 語幹 分類 形式 れんたいけい かていけい めいれいけい はし ら・ろ り・っ る る れ れ さわぐ(騒) さわ が・ご ぎ・い ぐ ぐ げ げ おりる(降) お り・りよ り りる りる りれ りろ おちる(落) お ち・ちよ ち ちる ちる ちれ ちよ たべる(食) た べ・べよ べ べる べる べれ べよ うえる(植) う え・えよ え える える えれ えよ カ変 くる(来) (く) こ・こよ き くる くる くれ こい サ変 する(為) (す) し し する する すれ せよ しろ 上一段 下一段 不 動 規 詞 則 しゅうしけい はしる(走) 五段 規 則 動 詞 語例 れんよ うけい 未然形 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形 ~ない・ ~ます・ ~とき、 ~。 ~ば ( よ)う た ひと ※『現代日本語学入門』P.77の表を元に編集 18 2-3 学校文法の問題点 ①古典文法にあわせているため、現代語の ためには不整合がある。 2つの形式を1つにまとめている。 未然形に「ら・ろ」、連用形に「り・い」など 終止形と連体形(古典文法では違う) 「起く(おく)上二段」:終止形は「起(く)」、連体形 は「(起)くる(とき)」 19 古典文法の活用表 古典語活用表「動詞、形容詞(イ形容詞)、形容動詞(ナ形容詞)」 品詞 動詞 活用の種類 四段活用 例 書く 語幹 書 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形 か き く く け け 下一段活用 蹴る (蹴) け け ける ける けれ けよ 下二段活用 上一段活用 受く 着る 受 (着) け き け き く きる くる きる くれ きれ けよ きよ 上二段活用 起く 起 き き く くる くれ カ行変格活用 来 (来) こ き く くる くれ サ行変格活用 為 (為) せ し す する すれ きよ こ こよ せよ ナ行変格活用 死ぬ 死 な に ぬ ぬる ぬれ ね ラ行変格活用 有り 有 多し 多 り し かり 美し 美 る き かる しき しかる れ けれ かれ シク活用 ナリ活用 静かなり 静か なら なり なる なれ なれ タリ活用 堂々たり 堂々 たら り く かり しく しかり なり に たり と れ ク活用 ら く から しく しから たり たる たれ たれ 形容詞 形容動詞 し しけれ かれ しかれ 20 2-3 学校文法の問題点 ②仮名では子音と母音を分析的に記述でき ないため、動詞の活用を的確に記述できな い。 五段活用:最後の子音も語幹になる。 「hasir」と「sawag」 はし-る さわ-ぐ 一段活用:仮名の表記でも可能だが、活用 表が空欄になる。 表(7)、あるいは古典文法の活用表を参照 21 2-3 学校文法の問題点 はしる(走) さわぐ(騒) おりる(降) おちる(落) たべる(食) うえる(植) ひらがな表 ローマ字表記の語 記の語幹 幹 はし(hasi) hasir さわ(sawa) sawag お(o) ori お(o) oti た(ta) tabe う(ue) ue 22 2-3 学校文法の問題点 国文法の活用表 未然形 分類 形式 ~。 ~とき、 ひと ~ば はし ら・ろ り・っ る る れ れ さわぐ(騒) さわ が・ご ぎ・い ぐ ぐ げ げ おりる(降) おり ○ ○ る る れ ろ おちる(落) おち ○ ○ る る れ よ たべる(食) たべ ○ ○ る る れ よ うえる(植) うえ ○ ○ る る れ よ カ変 くる(来) (く) こ・こよ き くる くる くれ こい サ変 する(為) (す) し し する する すれ せよ しろ 上一段 下一段 不 規 則 動 詞 ~ない・ ~ます・ (よ)う た はしる(走) 五段 規 則 動 詞 語例 語幹 連用形 終止形 連体形 仮定形 命令形 ※『現代日本語学入門』P.77の表を元に編集 23 2-4 ローマ字表記による動詞の 活用 語幹 ~nai ~masu ~toki ~ba 命令 ~o ~ta hasir a i u e e o (hashitta) sawagu騒 sawag a i u e e o (sawaida) hasiru走 oriru降 ori ○ ○ ru re ro yo ○ otiru落 oti ○ ○ ru re ro yo ○ taberu食 tabe ○ ○ ru re ro yo ○ ueru植 ue ○ ○ ru re ro yo ○ シンプルsimple簡潔 24 2-4 ローマ字表記による動詞の 活用 (10)現代日本語の動詞の規則活用 a. 現代日本語の規則活用は2種類 b. 五段活用に相当:語幹が子音で終わる c. 一段活用に相当:語幹が母音で終わる d. 「~行活用」という細かい分類は不要 e. 子音語幹動詞の「タ」や「テ」につながる 形は単純記述できない。 25 2-4 ローマ字表記による動詞の 活用 (10)現代日本語の動詞の規則活用 子音語幹動詞 五段活用 母音語幹動詞 「さわぐ(sawag-u)」「はしる(hasir-u) 活用語尾は母音のみ ×「~行活用」 一段動詞 「おりる(oriru)」「おちる(otiru)」 「たべる(taberu)」「うえる(ueru) 母音と子音が交互に現れる。1つの原理 26 2-5 まとめ 1子音語幹動 規則 詞 活用 2母音語幹動 詞 3カ行変格活 不規則 用 活用 3サ行変格活 用 〈五段活用動詞〉に相当 〈上一段活用動詞〉,〈下 一段活用動詞〉に相当 する くる 27 2-5 まとめ タ形とテ形 促音便 イ音便 撥音便 古典文法の枠組みに よる現代語の文法が 教えられている。 高校での古典文法の 導入のため 古典語と現代語のつ ながりは大事 現代語だけを見る目 も必要 二つの立場 28 3 文の構造 3-1 格(文の骨組み) 3-2 文の成分(文の形式的構成) 3-3 必須補語と副次補語(文における 重要度) 3-4 有題文と無題文(文の情報構造: 「は」と「が」) 29 3-1 格(文の骨組み) 3-1-1 格と格助詞 3-1-2 格と意味役割 30 3-1-1 格と格助詞 格:名詞と文中の他の語との関係 格助詞:日本語では助詞が表す。 (12)太郎がお店から家まで私の荷物を自転車 で運ぶ。 (13)ガ,ヲ,ニ,ノ,デ,カラ,マデ,ヨリ,ト (14)ガ格→主格 ヲ格→対格 ニ格→与格 ノ格→属格 骨組み 例 <ガーヲ> <ガーニーヲ> 太郎が英語を勉強する。太郎が花子に次郎を紹介 31 する 3-1-2 格と意味役割 多様な意味の名詞につく格助詞 「ガ」(15)太郎が泳いだ<動作主>/太 郎が気絶した<経験者>/(太郎は)リン ゴが好きだ<対象> 「ヲ」(16)窓を割った<対象>/東京を出 発した<起点>/歩道を歩いた<経路> 32 3-1-2 格と意味役割 多様な意味の名詞につく格助詞 「ニ」(17)太郎に話しかけた<相手>/ 庭に松の木がある<場所>/箱に入れ る<着点>/地震に驚いた<原因> 「デ」(18)鉛筆で書く<道具>/暑さで物 が腐る<原因>/学校で学ぶ<場所> 33 3-1-2 格と意味役割 意味役割:意味の類型 深層格:意味役割 < >内 表層格:形式 <動作主><経験者><対象> ~格 深層格と表層格の対応は多様である。 形式と意味の対応 格関係 34 3-2 文の成分(文の形式的構成) 3-2-1 文を構成する三つの成分 3-2-2 格成分と副詞成分の内部構造 3-2-3 述語の内部構造 35 3-2-1 文を構成する3つの成分 (19)昨日 太郎が 花子と 映画を 見たらしい 成分:文を直接構成する単位(形式や音声の切 れ目) 文節(ぶんせつ) 述語成分:文の述語と後続する形式 見+タ+ラシイ 格成分:<名詞+格助詞> 副詞成分:述語を修飾して、あり方を述べる 昨日~見たらしい 36 3-2-2 格成分と副詞成分の内部構造 (19)昨日 太郎が 花子と 映画を 見たらしい (20) 東京に大雨が降った昨日 私の家の 隣にすんでいる太郎が 私と同じ会社で働い ている花子と 今評判を呼んでいる映画を 見たらしい 埋め込み文:ある文全体の一部に組み込ま れた文 基本構成は(20)も(19)と同じ 37 3-2-3 述部の内部構造 階層構造 (21)(太郎が) 食べる (22)(太郎が) 多くの文法形式 食べ・させ・られ・てい・た・らしい・よ (23) (述語語幹)-ヴォイス-アスペクト- テンス-ムード-終助詞 文法カテゴリーcategory(範疇) 38 3-2-3 述部の内部構造 階層構造 ヴォイス(態voice):述語の形態と格の交替に かかわるカテゴリー アスペクト(相aspect):動詞の動きのどの局 面に焦点を当てるかのカテゴリー 使役、受身、(授受表現) 継続・完了・結果・反復など テンス(時制tense):事態と基準時の前後関 係にかかわるカテゴリー 過去・非過去(現在・未来)、ル形・タ形 39 3-2-3 述部の内部構造 階層構造 ムード(法mood):叙述内容に対する話者の 心的態度を表すカテゴリー 認識・判断・事態 終助詞:話者の発話するという行為のあり方 を示すもの 伝達・対人的、聞き手目当て 推量・推定・意志・命令・確信など ね、よ、など 有標:プラスアルファの形(形式)があるもの 無標:なにもついていないもの 40 3-3 必須補語と副次補語 (文における重要度) 格成分 述語との結びつきの強さによる格成分 必須補語:(述語が表す事態を描写するため に)最低限必要な成分。 副次補語:最低限必要な成分ではない。 cf.連用修飾語(補充部と修飾部) 連体修飾語 美しい花 体言(花、名詞) 41 3-3 必須補語と副次補語 (文における重要度) (25)子供が グラスを かなづちで 壊した。 (26)太郎が 花子と(≠といっしょに) 結婚し た。 (誰と) (27)太郎が 花子と(=といっしょに) 映画を 見た。 (何を) 42 3-3 必須補語と副次補語 (文における重要度) (28) 発問誘発の可能性 a グラスを壊したよ。 → 誰が? b 子供が壊したよ。 → 何を? c 子供がグラスを壊したよ。 副詞成分は、副次補語と同様で最低限必要 な部分ではない。 43 3-4 有題文と無題文 (文の情報構造:「は」と「が」) 意味の通る場合 (29)a 太郎は学生だ。 b 太郎が学生だ。 (30)a 太郎は都内に住んでいる。 b 太郎が都内に住んでいる。 44 3-4 有題文と無題文 (文の情報構造:「は」と「が」) 意味が通るか? (31)a 吸殻はここに捨てた。 b *吸殻がここに捨てた。 (32)a 京都は去年行った。 b *京都が去年行った。 *アスタリスク(アステリスク) 非文 45 3-4 有題文と無題文 (文の情報構造:「は」と「が」) 「~こと」で作り変えてみると (29)' 太郎が学生であること。 (30)' 太郎が都内に住んでいること。 (31)' 吸殻をここに捨てたこと。 (32)' 京都に去年行ったこと。 →「は」は文において、ガ格以外の格関係を 持っている。 ~コト 名詞節(句)を作る形式(的な)名詞 46 3-4 有題文と無題文 (文の情報構造:「は」と「が」) 「は」はガ格以外の他の各成分や副詞にもつく (33)昨日 太郎が 花子を その公園で たたいた。 a b c d 昨日は 太郎が 花子を その公園で たたいた。 太郎は 昨日 花子を その公園で たたいた。 花子は 昨日 太郎が その公園で たたいた。 その公園では 昨日 太郎が 花子を たたいた。 47 3-4 有題文と無題文 (文の情報構造:「は」と「が」) 主題:何かについて述べる際のその「何か」 コメント(評言):主題について述べている部分。 有題文(「は」がある)と無題文(「は」がない) (34) 京都は 去年行った。(=(32a)) 主題 コメント(述べる) (文脈)「京都はいいところだ」「京都は新幹線ですぐ 行ける」など、「京都」が話題となるもの。 題述関係:主題とコメントからなる情報構造 48 3-4 有題文と無題文 (文の情報構造:「は」と「が」) 無題文:眼前の状況をありのままに描写 (35)(窓の外を見て) あ、雨{が/*は}降っているよ。 「が」:述語との論理的な結びつきの最も強い名 詞を標示する助詞。 「は」:主題を示し情報構造にかかわる助詞 49 4 文法カテゴリー各論 4-1 4-2 4-3 4-4 ヴォイス アスペクト テンス ムード 50 4 文法カテゴリー各論 (36) 述語成分の内部構造 食べ させられ てい 語幹 ヴォイス た らしい よ アスペクト テンス ムード 終助詞 ※終助詞は一つの文を超えたより大きなレベル (文脈などに依存ずる部分がある) 51 4-1 ヴォイス 4-1-1 ヴォイスという概念 4-1-2 受動 4-1-3 その他のヴォイス 52 4-1-1 ヴォイスという概念 ヴォイス:voice 主語を中心とした事態の関与者が、述語 の表す働きとどのような関係を持つかを、 対立的に表すカテゴリー。 (ヴォイス的)対立する文 述語が形態的に対立し、主語の名詞が交 替する。 53 4-1-1 ヴォイスという概念 (37) a ネコが b ネズミが 能動文と受動文の対立 ネズミを ネコに 追いかけた 追いかけられた 形態素「られ」の添加(受動文に) 主語の交替(→) 54 4-1-2 受動 受動文:能動文との統語的な対応関係の あり方から2つのタイプに大別 中間的な性格を持ったものもある。 直接受動文 間接受動文 所有格受動文 55 4-1-2 受動 直接受動文 (38) a 空海が b この寺が 空海によって 建てられた (37)と同じ この寺を 建てた 56 4-1-2 受動 (39)直接受動文の特徴 a 動作との関係:受動文の主語は動詞の表 す動作の対象。 b 迷惑の意味:受動文の主語が迷惑を被った という意味がある場合とない場合。 c 動作主の標示:動詞の示す行為の動作主 は、受動文において「ニ」や「ニヨッテ」等で標 示。 d 動詞の種類:述語動詞は必須補語を二つ 以上とる。 (ここでの必須補語は主語に相当するものを含む) 57 4-1-2 受動 間接受動文:主語が、無標述語の文の目 的語でない受動文 (40) a 雨が b 太郎が 雨に 降られた ※bの主語「太郎」は、aにおいては文の成分(格、 必須補語、副次補語)ではない。 降った(無標述語・自動詞) 58 ※bの主語「渡辺さん」 は、aにおいては文の成 分(格、必須補語、副次 補語)ではない。 4-1-2 受動 間接受動文:主語が、無標述語の文の目的語でない 受動文 (41) a 山田さんが 高層マンションを 建てた(無標述語) b 渡辺さんが 山田さんに 高層マンションを 建てられた 59 4-1-2 受動 (42)間接受動文の特徴 a 動作との関係:受動文の主語は動詞の表す動作 の対象ではない。 b 迷惑の意味:受動文の主語が当該の事態からな んらかの形で迷惑を被った(マイナスの影響)という意味 を持つ。(文法用語「迷惑の受身」) c 動作主の標示:動詞の示す行為の動作主は、受 動文において「ニ」で標示。 d 動詞の種類:述語動詞は必須補語を一つしかとら ない場合もある。 (ここでの必須補語は主語に相当するものを含む) 60 4-1-2 受動 直接受動文 受身文の主語が なる 動作の対象に 迷惑の意味 「ある」場合と 「ない」場合 動作主の標示 に、によって 動詞の種類 必須補語が2つ以 上 間接受動文 ならない ある「迷惑の受身」 に 必須補語は1つの 場合も 61 4-1-2 受動 所有者受動文(持ち主の受身) (43) a 次郎が 太郎 の肩を b 太郎が 次郎に 肩を たたかれた たたいた bの主語「太郎」はaの文中に(部分的に)あ る:直接受動文の性質 各成分が(完全に)対応しているとはいえな い:間接受動文の性質 62 4-1-3 その他のヴォイス 使役文 (44) a 生徒が b 先生が 生徒に 英語を 勉強させた 英語を 勉強した 形態素「させ」が添加した有標形式 使役文(b)の主語「先生が」は無標述語文(a)の 文の成分ではない。 間接受動文とよく似ている。→(40)を参照 63 4-1-3 その他のヴォイス (研究者により見解が異なるが…) 自動詞文と他動詞文の対応 自発文、可能文、相互文 「花瓶が割れる」(自)と「太郎が花瓶を割る」(他) 「太郎と花子が愛し合う」「花子が太郎と愛し合う」 述語の形態的対立に応じて主語が交替する 現象。 64 4-1-3 その他のヴォイス 狭義のヴォイス ①文の意味構造:主語の文法役割の交替 ②名詞の統語形式:格の交替 ③動詞の形態:形態的になんらかが付加されて派 生する。 広義のヴォイス 自動詞と他動詞、相互、再帰(「服を着る」など)、可 能、希望「~てほしい」、自発、授受表現、「~てあ る」、「~やすい・~にくい」、願望の「~たい」 65 4-2 アスペクト 4-2-1 アスペクトの概要 4-2-1 テイル形のアスペクト 66 4-2-1 アスペクトの概要 アスペクト: 動詞が示す動きのどの局面に焦点を当て るかに関わるカテゴリー 67 4-2-1 アスペクトの概要 (45)太郎がグラウンドを走る 〈完成相〉 (46)太郎がグラウンドを走り始める。〈起動相〉 (47)太郎がグラウンドを走っている。〈継続相〉 (48)太郎がグラウンドを走り終わる。〈終結相〉 (49)机の上に花瓶がおいてある。 〈結果相〉 68 4-2-2 テイル形のアスペクト ~テイル:動きを表す述語動詞に付いて、 状態的な意味に変える。 動き⇒状態 状態動詞で存在をあらわす「ある有在」「い る居」には付かない。 (50)*机の上に本があっている。 (51)*私は今、家にいている。 69 4-2-2 テイル形のアスペクト 主な用法 (52) a 太郎がテレビを見ている。(進行) b 窓ガラスが割れている。(結果残存) 「~テイル」のもっとも基本的な用法。 動詞とテイルの純粋な意味だけで考える。 70 4-2-2 テイル形のアスペクト 主な用法 (53) a 不審者は何度もカメラの方をのぞいている。 (反復) b そのスパイは2ヶ月前に入国している。 (記 録・経験) c 私はその話をすでに聞いている。(完了) 副詞成分や文脈との関係で得られる a‘不審者はカメラの方をのぞいている。(進行) 71 4-2-2 テイル形のアスペクト 主な用法 (54) a その先は切り立った崖になっている。 (単純状態) b この道は東京から水戸へと走っている。 (単純状態) 時間性という特徴を失っている。 72 4-2-2 テイル形のアスペクト 動詞の意味的なタイプ (55) 継続性のある動詞 a 雨が降っている。(進行) b 太郎は昼ごはんを食べている。(進行) (56) 変化を表す動詞 前と後 a 針金が曲がっている。(結果残存) b 財布が落ちている。(結果残存) 73 4-2-2 テイル形のアスペクト 2通りの解釈が可能な場合 (57) 太郎はひげを剃っている。(進行or結果残存) A:継続性のある(現在剃っている最中) 再帰的 B:状態変化(髭をそって、現在顔にはひげがない) Cf.太郎は髪の毛を長く伸ばしている。 74 4-3 テンス(tense時制) テンス:事態と基準時の前後関係に関わ るカテゴリー 基準時は通常、発話時となる 「スル」と「シタ」 「ル形」と「タ形」 「非過去形」と「過去形」 75 4-3 テンス 形式と意味の対応 (58)述語のタイプとテンスの意味 動的述語 静的述語 ル形 未来 現在・未来 タ形 過去 過去 76 4-3 テンス タ形は述語のタイプの如何を問わず過去形し か表さない。 (59){昨日/*現在/*明日} 私は駅前で買い物 をした。(動的述語) (60) {昨日/*現在/*明日} その庭には池が あった。(静的述語) 77 4-3 テンス ル形は、動的述語の場合は未来、静的述語 の場合は基本的には現在を表す。 (61){*昨日/*現在/明日} 会議を行う。 (動的述語) (62) {*昨日/現在/明日} 私は忙しい。 (静的述語) 78 4-3 テンス 単純な過去を表さない「タ」⇒ムードの「タ」。 議論の対象になっている。 (63)なくしていた傘がこんなところにあった。 (発見、気づき) (64)お名前は何でしたか。 (思い出し) (65)さ、買った、買った。 (命令) 79 たまお 玉緒 珠緒 詞の玉緒 80 4-4 ムード 厳密には指し ている内容が 少しずつ違う 言語を「叙述内容」と「話者の心的態度」 に分ける。 命題+モダリティ (フィルモア) 詞+辞 (時枝誠記) 自立語+付属語 (学校文法・橋本進吉) 観念語+関係語 山田孝雄(よしお) (概念語【体言】と陳述語【用言】) 81 4-4 ムード ムード:叙述内容に対する話者の心的態度を 表すカテゴリー。形式の側面 モダリティmodality :ムードに近い概念。意 味の側面。 ムードの形式 ①「拘束的ムード」(義務的ムード、当為的ムード) ②「認識的ムード」 82 4-4 ムード 拘束的ムード:叙述内容の成立に関する必 要性や願望等の話者の判断を表す。 (66)君はもっと勉強するべきだ。(当為) (67)一所懸命に頑張らなければならない(義務) (68)ここにゴミを捨ててはならない。(禁止) (69)もっとたくさん食べろ。(命令) (70)明日はピクニックに行こう。(意志) 83 4-4 ムード 拘束的ムードの前にはテンスの分化がない。 (66)‘ *君はもっと勉強したべきだ。 84 4-4 ムード ムード形式の前にはル形もタ形も出現しない。 叙述内容の部分「」にテンスの分化がない。 (67)「一所懸命に頑張ら」なければならない(義務) (68)「ここにゴミを捨て」てはならない。(禁止) (69)「もっとたくさん食べ」ろ。(命令) (70)「明日はピクニックに行こ」う。(意志) 過去に生じた叙述内容に関する判断ではない。 叙述内容の成立・不成立についての話者の願望など を表す。 85 4-4 ムード i)「降りそうだ」(推定)と「降る/ 降ったそうだ」(伝聞) 認識的ムード:叙述内容の真偽にかかわる 話者の判断を表す。 (71)明日は雨が降るだろう。(推量) (72)明日は雨が降るかもしれない。(可能性) (73)明日は雨が降るはずだ。(確信) (74)明日は雨が降るに違いない。(確信) (75)明日は雨が降るようだ。(証拠) (76)明日は雨が降るらしい。(証拠) 86 4-4 ムード (71)‘*明日は雨が降るだろうし、降らないだろ う。(非文) (72)‘明日は雨が降るかもしれないし、降らな いかもしれない。 推量は話者の想像で真trueと判断されるもの。(71) 可能性は相反する2つの可能性を両方認めるもの。 (72) 「証拠」の判断は、証拠や根拠があるということ 87 4-4 ムード 認識的ムード形式の前にはテンスの分化がある。 (71)“昨日は雨が降っただろう。(推量) (72)“昨日は雨が降ったかもしれない。(可能性) (73)“昨日は雨が降ったはずだ。(確信) (74)“昨日は雨が降ったに違いない。(命令) (75)“昨日は雨が降ったようだ。(証拠) (76)“昨日は雨が降ったらしい。(証拠) 88 4-4 ムード 認識的ムードとは 叙述内容の成立を話者が「待ち望む」 ものでは ない。 (←「待ち望む」場合は「過去」はありえない) 叙述内容に関する真偽を述べるもの。 過去も、未来のこともあるからテンスの分化がある。 i) A「雨が降りそうだ」(推定)(未来の事態の真偽判断) B「雨が{降る/降った}そうだ」(伝聞) 89 4-4 ムード 推量は認識的ムード形式が過去形を持たない。推量は、 常に話者の発話時の判断を表す。 (71)“昨日は雨が{降る/降った}だろう/*だろかった。(推量) (72)“昨日は雨が{降る/降った}かもしれなかった。(可能性) (73)“昨日は雨が{降る/降った}はずだった。(確信) (74)“昨日は雨が{降る/降った}に違いなかった。(命令) (75)“昨日は雨が{降る/降った}ようだった。(証拠) (76)“昨日は雨が{降る/降った}らしかった。(証拠) 90
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