法人税の課税ベースによる 国際的なレント獲得競争 早稲田大学大学院経済学研究科 井上智弘 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 1 研究動機・目的 » 近年の国際的な法人税制改革の傾向 法定税率の低下と課税ベースの拡大 » 開放経済における法人税の課税ベース 多国籍企業の立地選択(Bond, 2000)や利益移転(Haufler and Schjelderup, 2000)の影響で法定税率が低下し,税収確保の ために課税ベースの拡大が引き起こされる 企業の生産量決定に非中立的な課税ベースが選択される 先行研究におけるモデル分析の多くが法定税率にのみ注目 » 研究目的: 各国の選択する 課税ベースの大きさ を検 討 法定税率ではなく課税ベースを変更するとき,各国はどの ような課税ベースを選択するのか? 法人課税方式の適用に関する議論の基礎研究 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 2 先行研究 (1/2) » 生産物市場の競争形態での分類 市場 文献 完全競争 Bond and Samuelson (1989, Gordon (1992); Hamada Janeba (1995) etc. 不完全競争 Bond and Samuelson (1989, JIE); Janeba (1996, 1998) etc. Janeba (1996): 多国籍企業の外国直接投資の関係国間での法 人税による利潤獲得競争を分析 企業の価格支配力を通じた法人税の影響を分析 法定税率の内生的な決定について議論 不完全競争において法人税の分析を行うのは困難であるため, 法人税分析としては特殊なモデルを採用(→法人税制の扱 い) 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 3 先行研究 (2/2): Janeba (1996) Home(自国) 自国政府 Host(外国) 法人税 外国政府 親会社 子会社 二重課税緩和控除 税額控除 所得控除 法人税 外国企業 課税後利潤送金 外国企業の存在が外国政府の課税の影響を 複雑にしているため,外国の政策に対しての 説明が曖昧 第3国市場 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 4 モデル (1/3): 多国籍企業独占モデル Home(自国[ a 国]) 自国政府 法人税 Host(外国[ b 国]) 外国政府 子会社 親会社 FDI 法人税 外国企業 二重課税緩和控除 税額控除 所得控除 課税後利潤送金 第3国市場 外国政府の政策を明確化(税収最大化) 追加的な分析として,Janeba (1996) と同様のケース(外国企業との複 占)や自国企業が競争的企業のケースも検討(→分析の拡張) 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 5 モデル (2/3): 法人税制の扱い » 法人税の課税ベース: 利潤=収入-費用 C x 課税前の費用 C x と課税ベースから控除される費用 の大小関係で課税の影響が変化する 0 t 1 0 , ) : 過小な課税ベース, 1 :1過大な課税ベース, 中立課税 1 P x x C x t P x x C x ( : (1 )t 1 t P x x 1 C x 1 t ↑ 課税ベース↓ 生産量↑ 税収↓ (直接効果) 利潤↑ 税収↑ 利潤↓ 税収↓ (間接効果) 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 6 モデル (3/3): 2段階ゲーム » 第1段階: 各政府が厚生の最大化を目的に費用控除パ a ,b ラメータ( )を決定 各国厚生 自国(a 国): 外国課税後の企業利潤(=送金利潤) max a Wa 1 tb Px x 1 tb b C x (1) 外国(b 国): 企業からの法人税収 max b Wb tb P x x b C x (2) » 第2段階: 企業が利潤最大化を目的に生産量( x )を 決定 国際二重課税の緩和政策次第で企業の利潤が変化する 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 7 国際二重課税 (1/2): 外国税額控除(ftc, ptc) » 外国での税負担を自国の税額から控除する 自国の税負担 ≧ 外国の税負担: 外国の税負担を全額控除 (外国の課税は生産量に影響しない) (1 a )t a 1 t a P x 1 1 ta C x (3) 自国の税負担 < 外国の税負担: 自国での実質的な税負担はゼ ロ (自国の課税は生産量に影響しな い) (1 b )tb 1 tb P x 1 1 tb C x (4) 上述の関係に従う税額控除 ftc: 税負担の大小関係に関係なく,外国の税負担を全 額 控除する ptc: 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 8 国際二重課税 (2/2): 所得控除(ded) » 外国での税負担を自国の課税ベースから控除するため, 生産量は自国・外国両方の税制の影響を受ける t a (1 a ) (1 t a )tb (1 b ) 1 t a 1 tb P x 1 C x(5) 1 ta 1 tb 各二重課税控除における利潤(3)~(5)の利潤最大化 条件より均衡生産量を求め,それを(1),(2)に代入 a , b して厚生最大化条件から均衡の を求める 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 9 分析結果 » 外国については,ftc・ptc・dedにかかわらず, b 1 となる 租税輸出の影響(外国政府は税負担を自国企業に負わせる ことができるため,税負担を重くする) a » 自国については,ftc,ptcでは a 1 があり,dedにおいては, が未決定となる可能性 となる 外国がレントを完全に奪取する課税を課す場合,自国にお ける課税が意味をもたなくなる(ftc) 自国の税負担 < 外国の税負担 のとき,ptcは企業にとって 源泉地主義課税と同様になり,自国の課税は未決定となる a a 1 aのとき 1 a 1 dedでは, の増加によって自国企業の外 国課税後利潤が増加し, のときは逆に減少する. となることで,企業の生産量はptcの場合と等しくなる 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 10 分析の拡張 a , b » Janeba (1996)と同様の複占競争における の 決定 b a (外国の を所与とすると,)独占の場合に比べて 自国の は大きくなる b b 外国では自国企業からの税収最大化誘因( ↓)と外 国企業の利潤最大化誘因( ↑)が反対に作用するた め,一概には決定しない a , b » 自国多国籍企業が多数社存在し,それぞれが競争的 企業のように行動する場合の の決定 a , b 各国政府は の低下によって,生産量の減少を 通じて価格の引き上げを図る(課税が生産量に影響を もたらさない場合は除く) 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 日 11 結論と今後の課題 結論 » 投資受入国(外国)では, となる(過大な課 b 1 税ベース) » 投資国(自国)に多国籍企業が多く存在し,各企業が市 場における価格支配力を認識しない場合には,投資国・ 投資受入国共に独占時よりも課税ベースの拡大傾向が見 られる » 両国に企業が存在する場合,各国企業の利潤拡大のため に両国は課税ベースを縮小する誘因をもつ(外国につい ては税収増加誘因も存在する) 今後の課題 » 課税ベースを変動させることの意義 第63回日本財政学会 近畿大学; 2006年10月7日, 8 » モデルの一部修正・状況設定の多様化 日 12
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