光が葉に届くまで

基礎ゼミ
林分動態部門
光を受ける
植物のかたち
担当者:飯島
光を受ける植物のかたち (個体レベルでの生残成長)
はじめに
個体の成長と光
・光:植物の生残・成長を制限する最も重要な資源のひとつ
・光を獲得するために植物が行う工夫
→形態的な順応 (光を受ける工夫)
→生理的な順応 (光の利用の工夫←生理生態部門のゼミで)
今日のお話
0. 光が葉に届くまで:前段として
*地下部は今回
1. 葉と炭素獲得:炭素獲得の最前線
紹介しません
2. 葉の足場としての茎:The 裏方
3. 植物の成長とモジュール構造:器官の空間的配置と相対関係
1. 葉と炭素獲得
-炭素獲得の最前線-
光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得)
葉と炭素獲得
葉の機能
・唯一の炭素獲得器官
←内樹皮や種子も光合成をしているらしいがほとんど誤差程度
葉の諸形質と炭素獲得機能
・葉の厚さ
・葉の展開時期と展開方法 (特に落葉樹で)
・葉の角度と配置
・葉の寿命
・葉の生理機能
光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得)
葉の厚さ
葉の厚さ
・強度、光の透過に影響
葉の強度
資源が不足する暗い環境で特に重要
炭素を葉という形で保持できる
・厚い葉: 強度が高い→長く維持できる
簡単には付け替えられない
・厚い葉: 強度が高い→生成コストがかかる
葉の生産能力は加齢とともに低下する
葉の光の透過
・厚い葉: 強光阻害を防ぐ
光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得)
葉の展開時期と展開方法
一斉開葉型
・1-2週間で全ての葉を展開
・冬芽に展開する全ての葉を用意←枚数は前年度の稼ぎに依存
・耐陰性が高い種に多い戦略 (安定的な成長)
順次開葉型
・生育期間中長い間葉を展開
・環境条件に依存して新しい葉を形成
・耐陰性が低い種に多い戦略 (積極的な資源獲得)
これらの中間的な性質を示す種も (一斉開葉+順次開葉)
光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得)
葉の角度と配置
葉の角度
・強い光: 光阻害を引き起こす→葉を垂直に傾けて光を避ける
・弱い光: 光の多い方向に葉を向ける
葉の配置
輪生させる
左右交互に配置
自己被陰を避ける
葉柄の長さを変える
光を受ける植物のかたち (葉と炭素獲得)
葉の寿命 -落とすか落とさざるか?常緑性と落葉性
寒帯林
生育不適期 (冬季)
(稼ぎ) (生成コスト) (維持コスト)
・常緑樹:常緑性
決まった落葉期がないだけ、葉の寿命は1年より短い
場合も
生育適期
・落葉樹: 生育不適期に集中的に落葉
(稼ぎ) < (生成コスト) (維持コスト)
常緑性と落葉性を決めるもの
季節性のある温帯林 生育不適期 (乾季、冬季)
・(葉の稼ぎ) - (葉の生成コスト) - (葉の維持コスト) で考える
(稼ぎ) (生成コスト) (維持コスト)
落葉性
←葉をつけていても意味がない
季節性がない熱帯林 (稼ぎ) (生成コスト) (維持コスト)
常緑性
2. 葉の足場としての茎
-The 裏方-
光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎)
茎の役割
縁の下の力持ち
・支持器官であり通導器官
←茎なしでは葉は何もできない
支持器官としての機能
・葉を持ち上げる&横に広げる
(よりよい光環境の獲得)
通導器官としての機能
・水分、養分の供給
(光合成に必須)
光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎)
へたり込まない茎 -垂直方向曲がりやすい植物の形
・棒状の物体 (幹) の上に重いもの (葉群)
= 曲がりやすい (座屈) 形
・樹高の増加→幹自身の重さも座屈の原因
座屈しないために
・2 * H = 20.5 * D
・幹自身の重さを考慮すると 2 * H = 21.5 * D
・実際の幹はこの限界の3-5倍の余裕を持つ
光環境の改善と強度のトレードオフ
→が、被陰下ではそれ以下の細長い幹
・周囲個体の増加→植物に光が反射→ (緑色と近赤色が残るの
で) 光の波長の変化→フィトクロムで検知
光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎)
高さと広がりのバランス
上か横か
・上:○他個体の競争に有利 ×受けられる光の量は少ない
・横:○受けられる光の量は多い ×他個体との競争中では不利
種による違い
・高木種は高さ優先、低木種は広がり優先
・耐陰性が高い種:広がり優先
環境による違い
・暗い環境:広がりを優先し、その高さでの受光量を増やす
光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎)
通導器官としての茎
水分通導機能
・水分通導性: 仮道管 < 道管
・水分通導性: 太い径 > 細い径 (通導速度は半径の4乗に比例)
・水柱の切れやすさ: 太い径 > 細い径 (太い径のほうが水の占め
る割合が大きく、表面張力や毛細管現象の働きが弱くなる)
パイプモデル
・ (経験則として)
2倍の量の葉は2倍の断面積の茎に
ある一定量の葉を力学、生理的に支えるには
支えられている
一定の太さの茎が必要である
光を受ける植物のかたち (葉の足場としての茎)
シュートの中の茎と葉の配置
短枝と長枝
・短枝: 1cm未満の短い枝
・長枝: 長い枝であり、空間を獲得する機能を持つ
短枝よりも形成にコストがかかる
全て長枝だったら…?
・長い枝がたくさん→葉の自己被陰が起こりやすくなる
長枝と短枝の組み合わせ:ある投資量に対して光獲得を
効率よく行える
・明確に使い分けていなくても、実は多くの種で似たような
枝が形成されている
3. 植物の成長と
モジュール構造
-器官の空間的配置と
相対関係-
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
成長解析
各器官の総和と炭素獲得能力
・これまでは器官別の形態と炭素獲得能力
・これらの総和と獲得炭素能力との関係?
→成長解析が有効
成長解析
・個体重増加を要素に分解
・要素: 植物の形態、炭素固定能力 etc…
・どうやって分解するか?→RGRの導入
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
成長の指標としてのRGR
RGR
RGR
=
(W2 – W1)
=
(T2 – T1) × W1
(W2 – W1)
(T2 – T1) × LA
=
NAR
×
W, 成長の程度を示すもの, 通常個体重
T, 時間
LA, 個体の葉面積
NAR: Net Assimilation Rate, 単位葉量あたりの稼ぎ
LAR: Leaf Area Ratio, 個体重あたりの葉面積
×
LA
W1
LAR
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
成長の指標としてのRGR2
RGR
RGR
=
(W2 – W1)
=
(T2 – T1) × W1
=
(W2 – W1)
(T2 – T1) × LA
=
NAR
(W2 – W1)
(T2 – T1) × LA
×
LA
LW
×
×
LA
W1
LW
W1
× SLA × LMR
SLA: Specific Leaf Area, 重量あたりの葉面積、葉の厚さ
LMR: Leaf Mass Ratio, 個体重あたりの葉重、葉への投資率
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
各要素の意味
「重量」と「面積」
・重量は、コスト (作るのに投資した量)
・面積は、効率 (資源を受ける部分の量は面積)
NAR: (稼ぎ) / (葉面積)
→生産効率
LAR: (葉面積) / (個体重)
→受光器官生成効率
SLA: (葉面積) / (葉重)
→葉の生成コスト
LMR: (葉重) / (個体重)
→葉への投資率
稼ぎ
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
アロメトリー
器官間の相互関係
・ある器官の重量yとある器官の重量xの間には
通常以下の関係が成立する
y = bxa
・これをアロメトリー (allometry, 相対成長) という
・アロメトリー式: 測定が物理的or量的に困難な状況で有用
ex) 成木の根の重量・樹幹体積
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
モジュール構造
植物の成長様式
・付け足し型 (モジュール様式): すでにある体の上に次々と器官
を足していく
拡大型
付け足し型
←人間などの動物は、すでにある体を、形を維持しながら拡大
モジュール成長の利点
・固着性の植物: いやな環境でも逃げられない
・周囲環境: 他個体の存在で簡単に変わる (被圧されるなど)
・好きな方向だけに器官を足せるほうが有利
・いらないところは捨てればよい
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
耐陰性を高めるには?
耐陰性
・明確な定義なし
→生残or成長?
・生残と成長
→生育初期: 負の相関
→初期以降: 正の相関
(Sack and Grubb 2001)
生残と成長が正の相関を持つ
段階で (とりあえず) 考える
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
RGRから耐陰性を考える
RGRを最大化する
RGR =
NAR × SLA × LMR
LAR
・光資源は恒常的に少なく、資源保持型が有利
NARを最大化する
・(常緑樹なら) 葉寿命の長期化
・樹幹を細長くする
・水平方向へ枝を伸長
光を受ける植物のかたち (植物の成長とモジュール構造)
RGRから耐陰性を考える2
LARを最大化する
・SLAを大きくする = 薄い葉
・LMRを大きくする→葉へ大きな投資
Dotch? -常緑樹と落葉樹の相対関係・常緑樹: SLA小 & LMR大
←1年で葉を落とす必要がないなら、頑丈な葉をたくさん
作るほうがよい
・落葉樹: SLA大 & LMR小
←必ず1年の最後に葉を落とすなら、コストがかからない
薄い葉を少なく作るほうが良い
+LMRが大きいと生成コストも大きくなる