講演資料(形式,6146KB)

ダム建設問題の展開と
地域再生の模索
――環境社会学の視点から――
帯谷博明
(立正大学)
報告の概要
(拙著『ダム建設をめぐる環境運動と地域再生
――対立と協働のダイナミズム』(昭和堂,2004年)の抜粋)
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1.日本のダム建設と河川政策の変遷
2.ダム建設問題と環境運動の展開
3.巨大ダム建設計画中止後の地域社会と
地域再生
4.新しい政策過程の構築に向けて
1.日本のダム建設と
河川政策の変遷
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「電源開発」の時代 戦後~1950年代半ば
「水資源開発」の時代 1950年代後半~
=大規模な多目的ダムが各地で建設
→河川法改正(1964年)をはじめとする、各種
法律の制定
=「水系一貫主義」にもとづく河川管理の中央
集権化
河川総合開発事業による
多目的ダム建設の推移
35
30
計画数
竣工数
25
20
15
10
5
0
50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00
年度
河川総合開発事業による
多目的ダム建設の推移(累計)
700
600
計画数(累計)
竣工数(累計)
500
400
300
200
100
0
50 52 54 56 58 60 62 64 66 68 70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00
ダム建設に随伴する社会学的な問題点
①「面的」開発形態
→地域コミュニティの解体や分断
②受益主体(圏)・受苦主体(圏)の分離
→受苦(被害)の集中、被害実態の不可視化
③計画決定過程の閉鎖性(参加の機会が制度的に欠如)
→立地点の住民が主体となった対決型運動
④事業計画の見直しシステムが欠如
→紛争はしばしば長期化・先鋭化し、さまざまな負担を住
民に負わせることに。
長期化するダム計画と地域社会
道路・河川整備の凍結
行政への不信感の高揚
ダム計画
住民間の対立・あつれき
手つかずの家屋
(→まち並みの荒廃)
資源の欠如
(人材流出,金銭・情報の不足)
疲
弊
感+中山間地域(過疎地域)
・ の一般的課題
閉
・人口流出による過疎化・高齢化
塞
・就業機会の不足(農林業の衰退
感
・耕作放棄と農地・山林の荒廃
2.ダム建設問題と
環境運動の展開
松原・下筌ダム建設をめぐる蜂の巣城闘争(国土交通省提供)
大分県・矢田ダム建設問題における住民の抗議行動「針穴事件」(1975年7月)
宮城県唐桑町の漁業者を中心とした「森は海の恋人」運動(2001年6月)
細川内ダム建設問題(徳島県木頭村)
徳島県木頭村中心部(出原地区)
3.巨大ダム建設計画中止後の
地域社会と地域再生
「ダムに頼らない村づくり計画」の理念と実際
⇒地場の農産物(柚子)を用いた加工食品づくり
の会社「きとうむら」(第3セクター方式)
設立:1996年
※ダム建設計画を進める建設省や徳島県
に対抗する運動戦略としての性格も
「きとうむら」の売上げと収支
(単位:万円)
売上げ
1996 年度
1997 年度
1998 年度
1999 年度
2000 年度
2001 年度
2002 年度
4,498
6,634
4,843
7,213
9,501
10,655
10,188
単年度収支
▲2,053
▲1,216
▲3,753
▲2,802
▲657
29
21
累計収支
▲2,053
▲3,269
▲7,022
▲9,824
▲10,481
▲10,452
▲10,431
出典)
『徳島新聞』
(1999.9.15)および「きとうむら」作成資料による。
「きとうむら」をめぐる村内外ネットワーク
構想(市民事業への転換の試み)
農作業のできなくなったお年寄り
使われなくなった畑や田んぼ
農産物
農場管理・労働力
里業ランド木頭村
よいしょきとうむら他加盟店
(株)きとうむら
労働力
労働力提供者
生活費・滞在費
都市の若者たち
出典)「きとうむら」作成資料による。
無農薬契約生産者
農産物
有機肥料・食品・雑貨
農産加工品
資本参加
きとうむら会員,消費者
大分県大野町の事例(矢田ダム)
大野町における「地域再生」の担い手
・「第二世代」の住民
・水没予定地域の「周縁部」に居住する住民
「地域再生」(新しいむらづくり)という点で理念が一
致。行政(町,県)や地域外部の組織(大野川ネット)
との橋渡しを担う=リーダーシップの逆転
⇔計画当初から、「当事者」として運動を担ってきた第
一世代の住民
4.新しい政策過程の
構築に向けて
今日、河川管理や計画に関する合意形成のあ
り方を模索する動きが活発化
=「合意形成システム」の構築をめざした
社会実験
例:川辺川ダム建設計画をめぐる住民討論
集会、大野川水系や淀川水系などの河川整
備計画策定をめぐる流域委員会など
留意すべき課題
①行政と市民セクターとの協働の条件を、
各地の事例にもとづき理論的に探ること
②公共事業計画見直しに際して、予定地
域の住民の生活再建・地域再生をどの
ように支援するか
⇒開発計画(見直しを含む)による当
該地域の社会環境への配慮や対策
が、現状では欠落
例:公共事業再評価委員会の構成員や議題
(とくに、計画見直し後の当該地域への行政
施策は自治体や首長によってバラバラ)
・鳥取県三朝町(中部ダム)の事例