浜松東高等学校における 教育相談活動の実際

Skills and development conference ( 2015 . 11 . 12-13 )
上級教育カウンセラー ・ 学校カウンセラー ・ 産業カウンセラー
ピア サポート コーディネーター
静岡県立浜松江之島高等学校教諭
山口 権治
教育基本法とピア・サポート
生徒の現状と人とのつながり
ピア・サポートとは何か
なぜ ピア・サポート なのか
ピア・サポート・プログラムの構造
ピア・サポート・プログラムの実際
結果
ピア・サポート合宿
ソーシャルボンド理論
教育基本法 第一条
教育は、人格の完成を目指し、
平和で民主的な国家及び社会の形成者
として必要な資質を備えた
心身ともに健康な国民の育成を期して
行われなければならない。
生徒指導提要 (文部科学省 / 平成22年)
生徒指導とは、
一人ひとりの児童生徒の人格を尊重し、
個性の伸長を図りながら、
社会的資質や行動力を高める
ことを目指して行われる活動。
生活満足度に影響を与える要素 (アセスより)
教師サポート
学習的適応
向社会的
スキル
友人サポート
(思いやり)
非侵害的関係
(いじめがない)
生活満足感
(学校が楽しい)
【Q】 暇な時に、何をしていますか?
直接、人と会っている (20%)
その他
5%
誰かと会って
おしゃべりをする
4%
寝る
1%
誰かに
電話をかける
2%
誰かと出かける
(遊びや買い物など)
16%
誰かにメールを送る
14%
実に、全体の75%が
直接、誰かと
会っていない
テレビやDVDを見る
22%
ゲームや
インターネットをする
18%
読書をする
音楽を聴く
18%
調査実施年 : 2011年
調査対象 : 高校生 (男女)
有効回答数 : 4,122名
【出典】 ripre ~ 2012 Autumn Vol. 2 ~ (株式会社エスケイケイ)
「 『暇な時、何をしていますか?』 ~ 余暇の過ごし方から見た、現代の若者考 ~ 」
生活満足度に影響を与える要素
教師サポート
学習的適応
向社会的
スキル
友人サポート
(思いやり)
非侵害的関係
(いじめがない)
生活満足感
(学校が楽しい)
人とつながる力を育てることが
『 ピア ・ サポート 』
具体的には ・・・
人を助けて 人とつながって成長する
人に助けられて 人とつながって成長する
ともに楽しいことをしたり、問題を解決したりして
人とつながって成長する
ピア・サポートとは何か
『ピア(Peer)』 とは
「仲間」 の意味。 同学年のみならず、
上級生や、中学生から見た高校生も 『ピア』。
『サポート(Support)』 とは
「支援」 の意味。
「救援(Rescue)」 とは異なる。
『ピア・サポート』 とは
生徒たちが、生徒たち同士で 相互に支え合う活動
思いやりのある生徒たちを育て、
思いやりのある学校風土を創造する
ピア・サポート活動の定義
子どもたちの対人関係能力や自己表現能力等
社会に生きる力がきわめて不足している現状を
改善するための 学校教育活動の一環として
教師の指導・援助のもとに
子どもたち相互の人間関係を豊かにするための
学習の場を各学校の実態に応じて設定し
そこで得た知識やスキル (技術) をもとに
仲間を思いやり、支える実践活動 を
ピア・サポート活動 と呼ぶ
( 日本ピア・サポート学会 )
なぜ ピア・サポート なのか
子どもたちを取り巻く状況
家庭
日本
虐待
離婚
少子化
学校
いじめ
暴力行為
学級崩壊
学力差
高学歴化
塾通い
子どもが
育ちにくい現実
地域
「子どもだけの世界」 の消失
遊びの変質 (情 → 情報)
教師として何が必要か
指導
子どもたちが育つ
人間関係という 「場」 の創造
サポート
指導
サポート
育ちを支える
サポート体制の再構築
レディネス
×
発達の課題
人間の
成長・発達のプロセス
発達の課題
発達の課題
異年齢での遊び
遊び道具の共有
ゲーム(一人遊び)
苦戦する子どもたち
問題行動としての表出
なぜ ピア・サポート なのか
生徒たちが抱える
悩み
友達関係 孤立 進路 学業成績
家庭 性 飲酒・薬・喫煙 ・・・
生徒は、悩みを抱えたり、困った時
自分の友達に相談することが最も多い (76%)
( 本校生徒調査 )
・ 「人の役に立つ人間になりたい」 が、約94%
【 平成24年度全国学力・学習状況調査 生徒質問紙 (中学校調査 (3年生対象) ) 】
( 文部科学省初等中等教育局学力調査室 / 国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部学力調査課 )
・ 人は、実際に人を支援する中で成長する
・ 生徒は、大人以上の力を持っている
・ 生徒の傷つきは、生徒の中でこそ癒される
本来の 『ピア』 の良さ
ピア・サポート・プログラムの実際
回
日程
ウォーミング・アップ
主活動
(2012年度)
前期
トレーニングのねらい
前期保健委員会活動ガイダンス
1
4月25日(水)
ピア・サポート活動とは
仲間づくり
自己紹介・他己紹介・ほめほめワーク
ピア・サポートの理解
トラスト・ウォール
かかわりのない聞き方
2
5月30日(水)
かかわりのある聞き方
聞き方のポイントを理解する
オウム返しの技法
前回の復習
3
6月13日(水)
要約の仕方
傾聴の基本を学ぶ
2者択一
対立解消 (次頁) のビデオ視聴
4
6月27日(水)
ルールの説明
実践
友人のトラブルを仲裁する
後期
(2012年度)
日程
ウォーミング・アップ
主活動
5
9月19日(水)
後期保健委員会活動ガイダンス
ピア・サポート活動とは
自己紹介・他己紹介・ほめほめワーク
トラスト・ウォーク
6
10月3日(水)
エゴグラム
自己理解
自分の入力チャンネルを探す
友人の入力チャンネルを考えるミラーリング
自己理解・他者理解
ペーシング
回
7 10月24日(水)
8
11月6日(火)
9 11月21日(水)
ブレイン・ストーミング
問題解決の5つのステップ
紙面相談
カウンセリング実習
自殺防止のかかわり
限界設定
守秘義務
今後の活動プランニング
10
1月23日(水)
ピア・サポート・アンケート
マイ・ピア・サポート・プランの作成
トレーニングのねらい
仲間づくり
ピア・サポートの理解
問題解決技法を学ぶ
カウンセリングの進め方を学ぶ
危機介入の方法
(浜松市精神保健センター)
・ サポート活動の中心は「人への
支援である」という理念を学ぶ。
・ ニーズに基づいた
プランニングの方法を学ぶ。
ピア・サポート・プログラムの構造
②計画
実
施
の
枠
組
み
の
決
定
Planning
①練習
③サポート活動
Training
Peer Support
④振り返り
Supervision
Research
プ
ロ
グ
ラ
ム
の
評
価
振り返り
ピア・サポーター
募集ポスター
ピア・サポーターによる
相談室の案内ポスター
担当者の
プロフィール (1)
ピア・サポーターによる相談室
生
徒
が
カ
ウ
ン
セ
ラ
ー
を
務
め
る
静岡新聞 (夕刊)
平成25年 (2013年)
8月26日 (月曜日)
あいさつ運動
一言に 「サポート」 と言っても ・・・
情緒的サポート
共感 ・ 愛情の提供
道具的サポート
形のある物やサービスの提供
情報的サポート
問題の解決に必要なアドバイスや情報の提供
評価的サポート
肯定的な評価の提供
結果
平成25年度
単位 : %
n=33
1年間を通しての参加者の事後アンケート結果
あなたにとって、本活動の場が
安心・安全感を感じられる場に
なりましたか?
本活動を通して、あなたの
コミュニケーションに関する
能力が向上したと思いますか?
84.8
80
80
60
60
40
40
72.7
27.3
20
20
12.1
3.0
0
そう思う
まあ、そう思う
それほど思わない
0
そう思わない
0
そう思う
まあ、そう思う
0
0
それほど思わない
そう思わない
平成25年度 / 単位 : % / n = 3 3
本活動を通して、他の参加者と
良好な関係が築けたと思いますか?
本活動を通して、
他の参加者から支えられていると
思うようになりましたか?
84.8
80
80
60
60
40
40
20
20
0
15.2
そう思う
まあ、そう思う
0
0
それほど思わない
そう思わない
78.8
18.2
3.0
0
そう思う
まあ、そう思う
それほど思わない
0
そう思わない
平成25年度 / 単位 : % / n = 3 3
本活動で学んだ技術を活かして、
困っている人がいたら助けたいと思うようになりましたか?
80
78.8
60
40
21.2
20
0
そう思う
まあ、そう思う
0
0
それほど思わない
そう思わない
1年間を通しての参加者の事後アンケート結果から ・・・
トレーニングの場が安心・安全な場に変容
参加者同士の人間関係が良好になった
コミュニケーション能力が向上
それを活かして
困っている生徒を支援したいと考える生徒を育成できた
参加者の感想
コミュニケーション・スキルの向上
・ コミュニケーションについて、いろいろなことを学びました。
・ 人と接することの難しさと楽しさを知ることができた。
・ 相手を勇気づけ応援していく中で、
コミュニケーション能力が向上したと気づいた。
・ 相づちをうったり、心を開いて相手の目を見て笑顔で話すことで、
良いコミュニケーションが築けることが分かった。
・ 友達と目を見て話すことを心がけるようになった。
「なるほど」、「それから」などの相づちを自然に言えるようになった。
・ コミュニケーションを上手く取るには、相手の目を見るなどの
ポイントがあり、それをしたら上手くできることが分かった。
この活動を通して、以前よりも人の目を見て話せるようになった。
・ 相手を傷つけず、自分の意見もしっかり伝えることが大切だと分かった。
また、笑顔で接すれば相手も笑顔で返してくれるので、笑顔が大切だと分かった。
・ 人の目を見て話すことは難しいけれど、相手の目を見て話すことで
安心すると分かった。笑顔を見たりうなずかれると
話して良かったと思うし、もっと話したくなることも分かった。
参加者の感想
自己成長
(一部抜粋)
・ 顔見知りや知人に声をかけることができそうな気がする。
・ 最初はトレーニングが嫌だと思ったが、だんだん楽しくなってきた。
・ 人とのコミュニケーションの取り方を学んできて、
成長することができた。
・ トレーニングを始める前と比べると、人見知りが治った!
・ 自分のことを話すことが楽になった。
・ 人と会話することが辛かったのですが、トレーニングのお陰で、
最近楽に会話をすることができるようになった。
・ 見知らぬ人と会話するのが苦手だったけれど、
活動していくうちに、上手く、楽しくできるようになった。
・ トレーニングを始める前と比べると、話すことが苦手でなくなり、
性格も明るくなった。
・ 人にはそれぞれ個性があり、
トレーニングを通して人の良いところがたくさん見つけられました。
・ トレーニングを通じて、自分自身が明るくなったと思います。また、
コミュニケーション能力も向上して、自分自身が成長したと思います。
参加者の感想
他者支援
(一部抜粋)
・ 自殺を防止する方法を学べてとても良かった。
ぜひ使って自殺を防ぎたい。
・ 自分がちょっと声をかけるだけで、
その人の一日を変えることもできると思うようになった。
だから、いろんな人と話をして、つながりを持ちたいと思った。
・ トレーニングを通して人への声かけや話の聞き方を学んだので、
その技術を日常生活に生かし、困っている人を助けたい。
・ 本活動に参加して、人を助けることは素晴らしいことだと思った。
これから人助けができたらよいと思った。
・ 困っている人の相談にどんどんのってあげて、
もっと人の役に立ちたいと強く思うようになった。
・ 人の心はデリケートで、大丈夫と強がっている人ほど
悩みを持っているので、それを聞いて楽にしてあげたい。
・ 世の中には悩んでいなさそうで、悩んでいる人がたくさんいる。
そういう人の相談にのってあげたい。
参加者の感想
日常生活に役立つ ピア・サポート
・ たくさん話せるようになった。
・ この活動で学んだことを活かしてコミュニケーションをとったら、
初対面の人にも気軽に話せるようになった。
・ 話すことに対する恐怖が減ってきた。
・ あいさつや他者とのコミュニケーションを、
物怖じせずにできるようになった。
・ 人と話す時にそんなに緊張しなくなったし、
自然な笑顔で話せるようになった。
・ 自分から進んで話しかけることが多くなりました。
・ 入学当時と比べて、(人とかかわることに対して)積極的になった。
(これまでのアンケート(自由記述)において、
自分は人見知りで、他者とかかわることが苦手だと書いていた生徒)
・ グループ学習の時に、積極的に意見を言えるようになった。
・ 人と話す時、自然と顔が上がるようになった。
ピア・サポート・トレーニングの教育的効果は ・・・
コミュニケーション能力の育成
対人関係を構築する能力の育成
自己肯定感の醸成
【番外編】
ピア・サポートを基礎とした
リーダー育成合宿
( 次ページ以降、
参加者アンケートの分析結果 )
他者心理の理解
11.6
11.4
11.2
11.0
10.8
10.6
10.4
10.2
10.0
9.8
自尊感情
11.41
11.15
10.90
10.66
10.59
10.39
事前
合宿直前
合宿直後
27.63
28.0
27.5
27.0
26.5
26.0
25.5
25.0
24.5
24.0
23.5
23.0
27.15
25.42
24.83
事前
事後
25.69
25.34
合宿直前
合宿直後
事後
測定時期
測定時期
誰が参加しても同様に合宿の効果が表れる
他者心理の理解 参加群 平均
自尊感情 参加群 平均
他者心理の理解 不参加群 平均
抑うつ
18
17
16
15
14
13
12
11
10
ソーシャルスキル
17.20
16.24
14.69
14.02
13.93
13.12
事前
合宿直前
自尊感情 不参加群 平均
合宿直後
事後
62
61
60
59
58
57
56
55
54
60.85
60.24
59.51
59.65
57.15
56.66
事前
合宿直前
合宿直後
事後
本研修のコストパフォーマンスは高いといえる
測定時期
抑うつ 参加群 平均
抑うつ 不参加群 平均
測定時期
ソーシャルスキル 参加群 平均
ソーシャルスキル 不参加群 平均
合宿参加者の感想 (一部抜粋)
・ みんなそれぞれ目標は違うけれど協力して
今回の合宿を終えることができたと思う
・ 合宿参加する前の自分の考え方と
今の自分の考え方が変わったような気がします
・ 参加する前と後で、人と話せる力がだいぶついたと思う
・ 人と関わるのは苦手だし、嫌だと思っていたけれど、生きていくうえ
では人と話していかなければ生きていけないということが分かった
・ 合宿で自分の強みを多くの人に言ってもらえてうれしかったです。
また、それが自分にとって自信になった気がします
・ 自分の意見を出せない時に
仲間が助けてくれることの有難さを実感することができた
・ 自分のことを考えて支えてくれる存在がいることに
感謝の気持ちをもってこれから生活していきたいと思いました
生
争徒
いの
をサ
実仲ポ
習裁ー
すすト
るるを
教手受
諭法け
を
ら
【番外編】
教師に対するピア ・ サポート
【番外編】
BGM演奏
本校PTA理事研修会
参加理事数 : 20名
ピア ・ サポーターが
サポート役として参加
お手玉ゲーム
自己紹介
【番外編】
中学校への 出前授業
【右上】 平成25年 (2013年) 8月2日
静岡新聞 (朝刊)
【右下】 平成25年 (2013年) 11月28日
静岡新聞 (朝刊)
【左下】 平成26年 (2014年) 2月15日
中日新聞 (朝刊 ・ 東海本社版)
【番外編】
他校に対する
ピア ・ サポート
【番外編】
発達障害児サポート活動
自己実現の
欲求
社会的承認
欲求
思いやりあふれる
学校風土
ピア・サポート
活動
課題
親和的欲求
課題
安全的欲求
生理的欲求
トレーニング
ルール・マナーが
必要
◆他者を批判しない
◆言いたくないことは
言わなくていい
◆守秘義務
マズロー 欲求階級説
ソーシャルボンド理論
( トラヴィス ・ ハーシ 『非行の原因』 (2010) )
人間を社会集団につなげているものを
ソーシャルボンド
という
「ソーシャルボンド」 の構成要素
① アタッチメント (愛着)
集団を取り結ぶ情緒的 「絆」
② コミットメント
集団から得られる利益を
考慮して一種の投資として
同調すること
学校に当てはめると ・・・
学校に豊かな人間関係を
育てる仕組みがある
毎日の授業や行事が、自分の
夢や希望の実現につながって
いることが実感できる
③ インボルブメント (巻き込み)
日常生活の様々な活動に
参加している度合い
参加型で自治的な
学級経営がなされている
④ 規範概念
社会の基本的な価値観
この条件が満たされると
子どもは学校にとどまる
ご静聴ありがとうございました。
Thank you for listening.
お問い合わせ
[email protected]