災害時の母子支援 ー母子支援チーム MCAT 創設

2011-6-18
RSV Japan Global Expert Meeting 2011
災害時の母子支援について
ー母子支援チーム MCAT 創設の提案ー
Mother and Child Assistance in Natural Disaster:
A proposal for the development of MCAT
海野信也
北里大学医学部産婦人科学教授
日本産科婦人科学会
医療改革委員会委員長
周産期委員会委員長
一番大事なものは何か
1. 生 命
2. 家 族
3. 財 産
4. 生 活
地元で生きることの重要性
ライフラインと物流の重要性
日本産科婦人科学会の対応
• 2011年3月14日:
– 【学会】
• 東日本巨大地震に係る情報提供のお願いについて
(東北地方ならびに関東地方の会員宛)
– 【学会・医会】
• 平成23年東北地方太平洋沖地震に被災された国民
の皆様へ
• 会員宛:東北地方太平洋沖地震への対策について
– 被災地域の妊産婦さん、婦人科疾患を有する患者さんの安
全と健康のために全力をつくすこと。
– 被災地域での診療体制を強化するために全国の会員が相
互に連携して組織的な支援を行うこと。
– 被災地域での診療負担を軽減するため、被災地域からの妊
産婦、婦人科疾患患者さんを積極的に受け入れること。
平成23 年3 月14 日
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会
東北地方太平洋沖地震に被災された国民の皆様へ
• 東北地方太平洋沖地震という未曽有の災害に遭遇して命
を落とされた方々に対して深い哀悼の意を表しますととも
に、被災され今もなお苦しみのうちにある全ての皆様に心
よりお見舞い申し上げます。
• また被災地に御親族、御友人がいらっしゃる皆様におか
れましては、さぞかし心配と不安でいっぱいの日々を過ご
されているかと存じます。
• さて我々は産科・婦人科医療を通して、母子の生命健康を
保護するとともに女性の健康を保持・増進し、もって国民
の保健の向上に寄与する専門団体ですが、今回の災害に
対してできる限りの支援を全国の会員の協力を得て実施
いたしますことを宣言いたします。
• 具体的施策に関しましては今策定・調整中ですので、今し
ばらく時間をいただきたいと思います。
• 最後に一日も早い復興が遂げられることを祈念します。
救援物資の調達・搬送
• 母子保健課からの依頼
– 「現地の必要物資を至急まとめてほしい」
– 国立成育医療研究センター 久保隆彦先生
• 3月16日 医政局経済課宛 日本産科婦人科学会・日本産婦人科
医会・日本周産期新生児医学会・日本小児科学会 共同要望書
要望書提出
役人をあてにせず、民間でできることをやる
• 3月17日:愛育病院からの特殊ミルク等:メドトロニクス便で東北大
学に搬送
• 3月18日:学会(阪大調達)救援物資(アメジストの協力):メドトロニ
クス便で東北大学に搬送 富山産婦人科医会便 東北大学に搬
送
• 3月18日:医会便:医会調達物資(ミルク・分娩セット等)学会物資
(北里調達 手術器材等) 青森県立中央病院、盛岡に搬送
• 3月18日:周産期新生児学会東急建設便:東北大学に搬送
• 3月21日:周産期新生児学会便:福島に搬送
沢山のタイガーマスクが出現しました
救援物資の搬送
• 資金:
– 日産婦学会:学会負担で物資調達することを決定
– 日産婦医会:募金を直ちに開始
• 調達:
– 日産婦学会:西日本の大学に依頼→業者による調達
– 日産婦医会:医会事務局による調達・会員施設より
寄付
– 日本周産期新生児医学会:会員施設よりの寄付
• 搬送手段
– 民間ボランティア
平時にはシステムを動かす
– 民間業者依頼
危機に際しては自分でできることをやったうえで
システムの回復を待つ
日本産科婦人科学会の対応
• 2011年3月15日
– 【学会】福島原子力発電所(福島原発)事故における放射線被曝時の
妊娠婦人・授乳婦人へのヨウ化カリウム投与(甲状腺がん発症予防)
について
– 【学会】福島原子力発電所(福島原発)事故のために被曝された、あ
るいはそのおそれがある妊娠中あるいは授乳中の女性のための
Q&A
• 2011年3月16日
– 【4学会】厚労省医政局経済課宛 要望書
– 【学会】福島原発事故による放射線被曝について心配しておられる妊
娠・授乳中女性へのご案内(特に母乳とヨウ化カリウムについて)(改
訂版)
• 2011年3月17日
– 【学会】災害対策本部設置
• 2011年3月18日
– 【学会】内閣総理大臣・厚労省・東京都宛 今回の震災に遭われた褥
婦の受入れに関する要望書
日本産科婦人科学会の対応
• 2011年3月19日
– 【学会】岩手県・宮城県への医師派遣開始
• 2011年3月22日
– 【学会・医会】合同対策会議
• 役割分担の明確化
• 人的支援は学会
• 物的支援・募金は医会
• 2011年3月24日
– 【学会】水道水について心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内
• 2011年4月18日
– 【学会】大気や飲食物の軽度放射性物質汚染について心配しておられる妊
娠・授乳中女性へのご案内 (続報)
• 2011年5月2日
– 【学会】放射性ヨウ素(I-131)が検出された母乳に関し、乳児への影響を心配
しておられる授乳中女性へのご案内
• 2011年6月8日
– 【学会・医会等6団体】「母乳中放射性物質濃度等に関する調査」についての
Q&A
日本産科婦人科学会 震災医師派遣担当校 一覧
震災医師派遣担当校
3月19日~25
3月26日~4月1日
日
宮古地区
順天堂大学
石巻地区
昭和大学
気仙沼地区
4月2日~8日
4月9日~15日
4月16日~22日
久留米大学*
京都大学
東京大学
神戸大学
順天堂大学
順天堂大学
大阪大学
4月23日~29日 4月30日~5月6日
久留米大学*
藤田保健衛生大学
岡山大学
5月7日~13日
久留米大学*
九州大学
新潟大学
*は1名派遣
5月14日~20
日
5月21日~27日
5月28日~6月3日
6月4日~10日
6月11日~17日
久留米大学*
久留米大学*
久留米大学*
久留米大学*
久留米大学*
久留米大学*
久留米大学*
久留米大学*
石巻地区 横浜市立大学
北海道大学
名古屋大学
群馬大学
慶應義塾大学
近畿大学
宮古地区
東京医科歯科大学 東京慈恵会医科大学
6月18日~24日 6月25日~7月1日
7月2日~8日
*7月9日終了予
定
7月9日~15日 7月16日~22日
7月23日~29日
7月30日~8月5日
8月6日~12日
8月13日~19日
浜松医科大学
杏林大学
石巻地区 日本医科大学
大阪医科大学
金沢大学
名古屋市立大学
9月3日~9日
9月10日~16日
9月17日~23日
9月24日~30日
富山大学
熊本大学
広島大学
長崎大学
石巻地区
8月20日~26日 8月31日~9月2日
福井大学
宮崎大学
(注)学術集会期間の8月27日~30日は東北大学で対応
妊産婦の被災地外施設による引き受け
• 課題は、分娩前後の生活支援
• 公的支援
– 【学会】2011年3月18日付 内閣総理大臣・厚生労働省 雇用均
等・児童家庭局長・東京都知事宛:「今回の震災に遇われた褥
婦の受入れについての要望書」
– 【厚労省】2011年3月22日付 東北地方太平洋沖地震で被災し
た妊産婦、乳幼児の住居の確保及び出産前後の支援につい
て
• 被災妊産婦、乳幼児は、災害時要援護者。優先的に住まいの確保
に努める、母子生活支援施設(被災地以外の都道府県に所在する
施設を含む)等の利用も可能
• 仮設住宅、公営住宅等に入居した妊産婦、乳幼児に対して、市町村
母子保健事業(保健師・助産師等による訪問、母子保健推進員等の
ボランティアの活用等)により支援
• 妊婦、褥婦及び新生児については、助産師等相談にあたる職員を配
置し、避難所として適切な施設を確保すること。メンタルケア等、支援
を行う。できる限り、間仕切り用パーテーションの設置を行う等配慮を
行うこと。これらの支援については、災害救助法の国庫負担の対象
となること。
自主避難者には公的支援がほとんどない
「水商売」について
• 2011年3月24日:JR東日本より、日本産科婦人科学
会・医会にミネラルウオーター 2400 L(2Lボトル6本入
り、200ケース)提供の申し出
– 日本産婦人科医会で対応
• 福島県産婦人科医会に100ケース
• 茨城県産婦人科医会に 50ケース
• 日本産婦人科医会本部のストックに100ケース
• 2011年3月25日:楽天より産科診療所へのミネラルウ
オーターの優先販売枠設置の提案
– 日本産婦人科医会で対応
• 2011年4月4日:株式会社ウォーターダイレクト「新しい
命を救う」プロジェクト
– 福島県及び茨城県に所在する産婦人科医院に対し、無
償で水を届ける
義援金(支援金)配分について
日本産婦人科医会 2011年5月24日
•
•
•
•
死亡 30万円
負傷 15万円
施設被害(全壊 200万円、半壊 100万円、一部損壊 20万円)
自宅被害(全壊 60万円、半壊 30万円、一部損壊 10万円)
• 参考:日赤の配分:
– 死亡 35万円、負傷 18万円
– 全壊35万円、半壊 18万円
• 2011年5月23日現在の義援金(支援金)
今回配分額
物資提供等
医師派遣等(学会へ)
138,217,003
119,150,000
1,533,104
15,000,000
支援金分配の内訳
全体
死
亡
者
数
負
傷
者
数
3
3
2
福島
1
茨城
千葉
支援金総額
計
半壊
一部
全壊
半壊
一部
17
12
194
9
26
198
0
0
2
0
0
4
1
13
1
5
6
56
1
7
2
1
1
0
1
宮城
自宅
全壊
青森
岩手
施設
(万円)
(%)
462
11915
100
1
3
50
0.4
2
18
40
1475
12.4
4
8
54
135
3800
31.9
57
1
9
73
151
3845
32.3
3
57
2
5
47
116
2395
20.1
0
9
1
2
5
16
350
2.9
今後への教訓
• 緊急時への準備不足
– 物流:物資の搬送手段の確保
• ヘリをもっと使えたはず
• 自衛隊や米軍の能力を活用できたのでは?
– 「災害時の母子支援」
• どのように現場のニーズを知るか
• 待っているだけでは、状況が厳しければ厳しいほど、
情報は伝わらない
• 積極的に情報を収集し、それを伝える方法を準備し、
コンセンサスを得ておく必要があるのではないか
いざというときに役立つには、日頃の準備が必要
2011年6月8日 第18回社会保障審議会医療部会資料
2011年6月8日 第18回社会保障審議会医療部会資料
災害時の母子支援
• 超急性期を過ぎて、避難所に集まった母子に早
期から対応し、ニーズを引き出す
• 緊急対応が必要な母子を見つけ出し、対応する
• 避難生活におけるストレスを最小限にする
• 長期間にわたり継続的にサポートし、避難生活
の各時期において発生するニーズを的確にとら
え対応する
• できるだけ早い、日常生活への復帰を支援する
MCAT: Mother and Child Assistance Team
(仮称)
• 災害時の母子支援体制を事前に準備する
– 避難所への支援体制の準備
– 緊急時に迅速対応できるチームを組織する
– 産科医、小児科医、助産師、看護師、保健師、MSW、臨
床心理士、保育士、child life specialist等からなるチーム
• 早期に避難所に入り母子支援のためのニーズを引き
出し、専門家、専門施設、行政支援につなげる役割を
果たす
• あらかじめ決まっていれば、行政も対応する
• 訓練を繰り返すことで、チームとしての能力が向上す
る
是非、継続的なご検討をお願いいたします。
放射線被曝問題:妊婦・母乳
• 産婦人科診療ガイドライン産科篇2008 CQ103に
記載
– 受精後11日から妊娠10週での胎児被曝は奇形を発
生させる可能性があるが、50mGy未満では奇形発生
率を増加させない(B)
– 妊娠10-27週では中枢神経障害を起こす可能性があ
るが、100mGy未満では影響しない(B)
– 10mGyの放射線被曝は、小児癌の発症をわずかに
上昇させるが、個人レベルでの発癌のリスクは低い
(B)
• 課題
– 内部被曝についての検討が不十分
– 母乳移行について未検討
放射線被曝問題:妊婦・母乳
• 課題
– 内部被曝についての検討が不十分
– 母乳移行について未検討
• 経過
– 2011年3月23日【東京都】水道水中の乳児の飲用に関する暫定的な指標
値を超過する濃度の放射性ヨウ素の検出
– 2011年3月24日【日産婦学会】水道水について心配しておられる妊娠・授
乳中女性へのご案内
– 2011年3月24日【日本小児科学会・日本周産期新生児医学会・日本未熟
児新生児学会】「乳児と水道水についての3学会共同声明」
– 2011年4月18日【日産婦学会】大気や飲食物の軽度放射性物質汚染に
ついて心配しておられる妊娠・授乳中女性へのご案内 (続報)
放射線被曝問題:妊婦・母乳
• 経過
– 2011年4月20-21日【母乳調査・母子支援ネットワーク】記者会見 母乳の放射能
汚染調査 8検体データ公表
– 2011年4月30日【厚生労働省】母乳の放射性物質濃度等に関する調査について
– 2011年5月2日【学会】放射性ヨウ素(I-131)が検出された母乳に関し、乳児への
影響を心配しておられる授乳中女性へのご案内
– 2011年5月13日【日本周産期新生児医学会・未熟児新生児学会・新生児医療連
絡会】「母乳の放射性物質濃度追加調査要望書」
– 2011年5月17日【厚生労働省 報道資料】母乳の放射性物質濃度等に関する追
加調査について
– 2011年5月18日【母乳調査・母子支援ネットワーク】母乳の放射能汚染調査と母
子支援について:関係各機関および市民の皆さまへの呼びかけ
– 2011年6月7日【国立保健医療科学院】母乳中の放射性物質濃度等に関する調
査について
– 2011年6月8日【関係6学会等】「母乳中放射性物質濃度等に関する調査」につい
てのQ&A
原発事故による環境汚染と
母乳中の放射性物質について
母乳中の放射性物質濃度等に関する調査
• 調査対象:108人
– 宮城県10人、山形県12人、福島県21人、茨城県
12人、栃木県15人、群馬県12人、千葉県14人、
高知県12人
• 調査時期:平成23年5月18日~6月3日
• 母乳中の放射性物質濃度:
– 101人が不検出
– 7人で放射性セシウムを微量に検出
• 相馬市3人、いわき市2人、福島市1人、二本松市1人
放射線被曝問題:妊婦・母乳
• 現状認識:
– 現時点では懸念される母乳汚染、水道水汚染は認
められない。
– 水素爆発等がおきれば、また3月15日の時点にもどることになる。
– 低線量被曝は持続している。飲食物を介する内部被曝は評価困難であ
る。その一般市民の健康への影響、妊婦、胎児、乳児への影響は「わか
らない」としか言いようのない部分がある。
– この分野では、以前から政治的、理念的対立が存在している。ICRPに対
するECRRの批判など。
• 社会への提案:
– うまく提案できていない。
– 妊産婦、小児の放射線被曝は可能な限り最小限にすべきである。
– 環境中の放射性物質について、放射線防護の専門家の考え
方と一般市民の感覚に大きな隔たりがある。
「母乳中放射性物質濃度等に関する調査」についてのQ&A(2011年6月8日)
ー母乳中の放射性物質の問題で心配されているお母さん方へー
• 私たちが生活している空間や土壌には天然自然の放射線や放射性物質
がたくさんあります。しかし学校教育ではそのようなことを教わる機会は
なく、ほとんどの方はそのようなことを意識しないで生活されていると思い
ます。今になって、あらゆる食べ物や、人の体内に放射性物質があると
言われても、受け入れられないお母さんも多いと思います。また、今回は
原発事故災害による放射性物質が余分に身体に入ってしまったのです
から、同じ放射性物質であっても、本当に残念に思う気持ちは当然のこ
とであり、その気持ちは私たち医師も全く同じです。
• でも、今回の基準値以下の放射線量は、あなたや、あなたの大切なお子
さんの健康に悪影響を及ぼす放射線量よりもはるかに少量です。そして、
このわずかな放射線量よりも、母乳に含まれる様々な子どもの成長に役
立つ成分のほうが、はるかにお子さんの成長にとって重要であることをご
理解いただければと思います。
放射性物質による環境汚染への対応
• 2011年5月19日【日本小児科学会】放射線被ばくによる小児の健康への
影響について
– 国や地方自治体は子どもへの被ばく線量を今後出来うる限り減らす施策を
早急に実施することを日本小児科学会は希望します。また、長期間の高度
の被ばくが避けられない場合には、子どもとその家族は避難すべきと考えま
す。
– 日本小児科学会は地域の放射線被ばく量を迅速に公開して戴くことを希望し
ます。さらに、低量被ばくを受けている子どもの健康追跡観察を長期間にわ
たり適切に行う必要があると考えます。子どもが受ける放射線被ばく線量が
十分早期に減少するための適切な措置が講じられているかについて、今後
学会として注視していきます。
• 2011年5月24日【日本医師会:賛同 日本小児科学会・日本小児科医会・
日本小児保健協会・日本保育園保健協議会】子どもたちの安全を守るた
めの放射線被曝線量の減少に向けた取組みの実施について(要望)
– わが国の将来を担う次世代の健全な育成という視点からも、国ができうる限
りの方策により、子どもたちの放射線被曝量の減少に努められること、子ども
たちの生活の場での放射線量について、より多くのポイントできめ細かく測定
すること、正確な情報を迅速かつわかりやすく公開していくことをここに強く要
望いたします。
小児科学会は国のエネルギー政策の方向性について提言をしないのでしょうか?
謝
辞
• 本発表の機会を与えていただき、本当にありが
とうございました。
• 座長の労をおとり頂いた日本未熟児新生児学会
震災対策委員会委員長 和田和子先生に深謝
いたします。
• 「鉄は熱いうちに打て」
– 私たちには、今回の大災害から学び、その教訓を必
ず次世代に受け継いでいく責務があります。
– いつの日か起きる事態のための準備が必要だと思
われます。