視覚刺激遅延呈示下におけるラバーハンドイリュージョン

2012/3/30 第45回知覚コロキウム in清里 清泉寮
視覚刺激遅延呈示下におけるラバーハンドイリュージョンの時間的変化
○井手正和 長田佳久
立教大学現代心理学研究科 立教大学現代心理学部
E-mail: [email protected]
目的
ラバーハンドイリュージョン(以下RHI)とは、目の前のラバーハンドと遮蔽された実際の手を同時に刺激することで、ラバーハンドから触られている感覚が
生じているように感じる現象である(Botvinick & Cohen, 1998)。視-触刺激間の呈示タイミングがずれている時、錯覚は生じなくなると考えられている。
Shimada, Fukuda, & Hiraki(2009)は触刺激に対して視覚刺激を100msずつ遅延させたところ、400ms以上の遅延で、RHIの主観的体験の得点が低
下すると報告した。しかし、RHIでは主観的体験だけでなく、ラバーハンドの位置へ実際の手の知覚される位置が移動すること(体性感覚の移動)が知られ
ており、それに対する視覚刺激の遅延呈示の効果は未解明である。また、Rohde, Luca, & Ernst (2011)は触刺激が無くても、視覚的にラバーハンドを呈
示するだけで、体性感覚の移動が生じると報告している。視覚的なラバーハンドの呈示のみで錯覚が生じるなら、視-触刺激間の呈示タイミングのずれは、
どのような効果を与えるのであろうか?本研究では、視覚刺激を段階的に遅延提示し、体性感覚の移動の時間的推移を検討する。
方法
参加者 大学生10名
手続き
・左手 (右手) を3DCGで作成した左 (右) のラバーハンドと重ねる (Fig1)
・反力呈示装置 (PHANToM Omni, Sensable) で左手 (右手) を刺激
→ラバーハンドにもCGのペンで同期して刺激
30秒おきに自分の手の位置を判断→指標①
・10分経過で1試行終了
・質問に回答→指標②
実験条件 触刺激に対する視覚刺激呈示の遅延時間 100ms・400ms・600ms
指標
①体性感覚の移動
②RHIの強さ
3Dモニタ
3Dメガネ
ラバーハンド
PHANTOM
Omni
※画面上の映像
Fig1. 実験状況
黒い背景上に光点を呈示(Fig2)
自分の中指が光点の右側にある→“2”キー→光点が右に1cm移動
自分の中指が光点の左側にある→“1”キー→光点が左に1㎝移動
「階段法(staircase method)」
6cm
10cm
「触られている感覚が画面上の手に触られることで起こっているように感じた」
実際の中指↑
↑ラバーハンド
の位置
の位置
Fig2.指標①の画面
→Visual analog Scaleで回答
結果
10
10
体性感覚の移動(cm)
400ms
6
600ms
4
2
0
30
90
150
210
270
330
390
450
510
570
-2
8
30-180sec
9
210-600sec
8
7
6
RHIの強さ
100ms
8
体性感覚の移動量(cm)
10
4
2
0
6
5
4
3
2
1
-2
0
-4
-6
100
-4
100
経過時間 (sec)
Fig3. 体性感覚の移動量の時間的推移
●経過時間と体性感覚移動量の相関
・全ての遅延条件で有意な相関が見られた
100ms:γ=.971(p<.01)
400ms:γ=.973(p<.01)
600ms:γ=.967(p<.01)
しかし、およそ180秒経過後に条件間の差が現れる
→180秒以前・以後で分割した分析が必要
400
400
600
600
視覚刺激の遅延時間(ms)
Fig4. 180秒以前・以後の体性感覚移動量の平均
●遅延時間×180秒以前・以後の分散分析
・遅延時間×180秒以前・以後の交互作用
F(2.18)=4.389, p<.05
・180秒以前では遅延時間間で有意差無し
F(2.18)=0.123, n.s.
・180秒以後では遅延時間間で5%水準の有意差
が見られた F(2.18)=3.761, p<.05
視覚刺激の遅延時間(ms)
Fig5. 各遅延条件でのRHIの強さ
●遅延時間のRHIの強さの分散分析
・遅延時間間の主効果
F(2.14)=23.642, p<.01
・多重比較
100>400(p<.05)
100>600 (p<.05)
考察
①全遅延時間条件で、およそ180秒経過すると実際の手の位置を指示することができた
→しかし、180秒以後では各遅延時間間で体性感覚の移動の効果に差が生じ、視覚刺激の遅延が最も短い100msで大きな体性感覚の移動が起
こった
②全遅延時間条件でラバーハンドへの体性感覚の移動が、平均4.9cm生じている
→ 視覚刺激を400ms以上遅延呈示した時、RHIの主観的経験は急激に低下するのに対し(Shimada et al., 2009)、体性感覚の移動は視覚刺激の遅延
提示下でもある程度起こる(=RHIの主観的体験と体性感覚の移動の乖離)
→ Rohde et al.(2011)が報告したように、ラバーハンドの視覚的呈示が一定の体性感覚の移動を生じさせるが、視覚刺激を遅延提示すること
で、その効果は減少する。