思想と行為

思想と行為
第13回 ウィトゲンシュタイン
「言語と生 語りえぬもの」
吉田寛
ウィトゲンシュタイン
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1889年 ウィーンの大実業家(ユ
ダヤ系)の家に8人兄姉の末子と
して誕生
文化と退廃の都ウィーン
– クリムト、フロイト、ブラームス、マー
ラー、シェーンベルク、ボルツマン、
保守政治、貧困、偽善、同性愛、etc
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大邸宅は芸術家のサロン
厳格な教育→3人の兄の自殺
20世紀最大の哲学者(ハイデッ
ガーと共に)と称される
『論理哲学論考』(前期)、『哲学
探究』(後期)
言語の哲学 生の問題
1951年 没
ウィトゲンシュタインの人生1
1989年 ウィトゲンシュタイン誕生
(ハイデッガー、ヒトラー)
1903-08年 工業高校→工科大学→
渡英 航空工学の勉強
1911年 ケンブリッジのB.ラッセルの
下へ 大学院生として哲学の研究
を開始 ケンブリッジおよびノル
ウェーの山荘で現代論理学の基
礎的研究
1914-19年 第一次大戦(参戦 東部
戦線、捕虜生活下で『論理哲学論
考』を執筆)
ウィトゲンシュタインの人生2
1919-29年 解放、『論考』出版、哲学研
究離脱、遺産放棄、教員養成学校、
修道院庭師助手、田舎の小学校教
師、建築、自殺との戦い、ウィーン学
団との交友
1929年 ケインズらの招きでケンブリッ
ジへ復帰→教員
1936-37年 『哲学探究I』執筆(~46年)
『II』は~49年
1939-45年 第二次大戦(医療助手とし
て参戦)
1951年 辞職のち、各地で弟子の世話
になりつつ哲学
『論考』 前期の哲学
現代論理学の基礎 命題論理の完成
 言語の意味の理論 言語画像理論
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– 「言語は画像のように現実を表現している」
言語(命題)
現実
画像
「トリ」-左-「木」
=「トリは木の左だ」
指示関係
言語の要素(「名(語)」が、画像の要素のように、現実の要素に対応してい
る)
命題の意味と真偽
意味=可能世界=想像
言語=命題
表現
現実=事実=世界
不一致
「トリは木の左だ」
偽
表現
「トリは木の右だ」
真
一致
言語理解と創造性
事実として
の現実
(人は言語の力を借りて非現実を想像できる)
現実には生じ
ていないことを
表現、想像で
きる!
と対
し象
ての
把集
握合
トリ
「トリは木の左だ」
木
直接経験によ
る名の理解
命題の構成
言語の限界
言語=何かを表現する
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=何か想像可能なことを意味する
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=可能世界に対応する
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=真か偽になる文(命題)だけが言語
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=事実的なことだけしか表現できない
 →それ以外のことは言語では語りえない
 →想像することもできない(ナンセンス)
 →表現・想像できてる気がしても、できてない。
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語りえぬもの
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対象自体と言語の規則
– 生じたり生じなかったりするもの(可能性)を表現するため
の前提→ないことはありえないもの
– 「AまたはAでない」などのトートロジーが示すもの
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私
視野はこのようではない
– 目は視野の中に存在しない
– 私は世界の中には存在しない
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倫理(価値)
– 「AのためにはBせよ」は「BならばAという」事実の命題
– 「Bせよ」「Bは善い」という本来の価値は事実ではない
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語り得ぬものについては沈黙せよ(『論考』7)
– 本当に尊いもの、疑ってはならないものについては語らな
い、考えないで、ただ信じるのみ
『哲学探究』 後期の哲学
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前期の『論考』の自己批判
– 命題ではない言語表現にも意味はある。
– 「あ!」「あれ取って!」「痛い!」「うれしい。」etc.
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言語表現は、生活ゲームにおける「手」として意味を
持っている。(言語ゲーム論)
– 事実(の可能性)に対応している必要はない
– ゲーム(生活、場、常識、ルール)を前提にして意味を持
ちうる
– ゲームと切り離された「手」は、ナンセンスでしかない(「空
転する歯車」)
– 命題も、直接定義も、こうした「手」の一つでしかない。
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将棋やチェスの「手」と較べてみよう
「語りえぬもの」後期
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常識やルールは教えられない。
– 「+1」を子供に教える場面。教師「1、2、3、、、」。子供「1、
2、、、、999、1000、1002、1004、、」。教師「+1でしょ!」。
子供「1000からはこれが+1だと思った」。教師「1001、
1002、、」。以下、同様
– 旅人「これ(→)の意味は?」 村人「⇒」。旅人「その意味
は?」 村人「⇒⇒」。旅人「?」 以下同様。
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完全に私的なもの
– 私だけの感覚「e」。「今日はeだった」。「あなたはとてもe」。
etc.「?」
• eが何であっても、存在しなくても、言語ゲームにおいては関係が
ない。→eについては、言語では語れない。
– 患者「この<痛み>、何とかしてください」。医者「どんな
痛み?」。患者「さくさく<痛い>のです」。医者「?」。
「語り得ぬもの」の哲学
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常識やルール、私の内面
– 言語ゲーム=秩序だった社会生活を可能にしているもの
– 社会に存在しているが、それについて語ることもできず、
想像することもできず、意識することもできないもの
– その内実に触れずに、「文化」「常識」「内面」「幸福」「救
い」として外からのみ捉えられるもの
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これを尊重し、守ることが、ウィトゲンシュタインの
「善く生きる」「善い社会を守る」
これを尊重せず、安易に表現すること、目的とする
こと、コントロールすることを拒否(商品化、科学化、
教義化、教育化)
参考 文献
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『人と思想 ウィトゲンシュタイン』、岡田雅勝、清水
書院 概説書
『ウィトゲンシュタイン入門』、永井均、ちくま新書。語
り得ぬ<私>に焦点を当てた紹介本。
『ウィトゲンシュタインはこう考えた』、鬼界彰夫、ウィ
トゲンシュタインの人生と思想の解説と研究
N.マルコム『回想のウィトゲンシュタイン』(藤本訳)、
弟子によるウィトゲンシュタイン後半生の伝記
『論理哲学論考』 ウィトゲンシュタイン(野矢茂樹訳
と解説)、岩波文庫
連絡など
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最終日1月29日、31日はA当日レポート試験、B自宅
レポート提出日にします。
– AかBかは希望に応じて選択すること
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A:当日出題します。授業の内容に関して。
B:自宅レポート課題
– 授業で紹介した参考文献のうちいずれかを読んで、内容
を簡単に要約し、批判的に自分の考えを展開せよ。(A4
一枚 約1000-1200字)
– 所属、学年、学生番号、氏名を明記
– 提出受け付けは来週の講義の最初(15分間)とします。
(この時間に提出不可能な者は事前に申し出ること)