ジャーナリズム論

ジャーナリズム論
第3回ジャーナリズムの倫理
(2015.4.30)
担当:野原仁
前回の復習
 ジャーナリズム=社会の主権者である
市民に対して、民主的な社会の維持・
発展のために必要な、世の中のさまざ
まな出来事や問題点を正確に伝え、そ
の背景を説明するとともに、権力者の
行いをチェックして報道する活動
 ジャーナリズムの必要性:①同時代の
記録のため②民主主義社会の維持のた
め③個人の自立・自律のため
本日のテーマ
前回の続き
ジャーナリズムの倫理とは?
ジャーナリズムの倫理に関する具
体的事例
倫理ってなんだ?
人間同士がお互いに尊重し合って生きてい
くために、どのように行動したらいいのか
を決めるもの=何をするのが良くて、何を
するのがダメなのか
社会規範(=社会のルール)のひとつで、
法的拘束力はない
文章化されたものと、されていないものが
ある
ジャーナリズムの倫理①
ジャーナリズムにかかわる
倫理=取材・編集・報道・
視聴者(読者)への対応・
権力者への対応、などに関
して、「何をするのがOK
で、何をしたらアウト」か
を決める基準
ジャーナリズムの倫理②
必ずしも絶対的なものじゃない
人類の長い歴史の中で、多くの
人が認める倫理ができあがって
きた
でも、意見が対立している倫理
もまだたくさんある
ある倫理と別の倫理が対立して
しまうこともある
ジャーナリズムの倫理③
ジャーナリズムを実際に行う人=ジャー
ナリスト
ジャーナリズムの倫理=ジャーナリスト
の活動にかかわる倫理
でも、ジャーナリズムの倫理は、ジャー
ナリストだけが考えればいいものではな
い=視聴者・読者であるオレたち・アタ
シたちも考える必要がある
ジャーナリズムの倫理④
ジャーナリズムの倫理は、ほかの職業
に関する倫理と比べて、よりいっそう
厳しいものでなくてはならない
WHY?→ジャーナリズムの活動=ほか
の人びとの行動を監視・批判すること
が含まれるから
誰かのやることにケチをつけるのであ
れば、自分自身の行動を厳しく律する
ことが必要(裁判官や警察官なども同
じ)
ジャーナリズムの倫理の基本
ジャーナリズムは、社会の主権者である
市民の役に立たなくてはならない
ジャーナリズムは、より平和で民主的な
社会をつくるために役に立たなくてはな
らない
ジャーナリズムは、社会的弱者(=貧し
い人・障害者など)の視点や感覚を大事
にしなくてはならない
ジャーナリズムの倫理と一般倫理
ジャーナリズムの倫理と一般社会の倫理
は、そのほとんどが重なっている
具体例)取材の際にワイロをもらっては
いけない、報道の際にウソを言ってはい
けない、など
しかし、一般社会のモラルとぶつかりあ
うことがある→どういうこと?
具体的に考えてみよう①
人命救助or取材
1985年8月1日;当時悪徳商法で問題に
なっていた豊田商事の永野一男会長が、
13社33人の報道陣の前で、2人組の男に
刺殺された→報道陣は、ただ会長が殺さ
れるところを呆然と眺めていた
これは許されるのか?
具体的に考えてみよう②
1996年ペルー日本大使公邸人質事件;ゲ
リラが日本大使らを人質に立てこもる
共同通信の記者らがペルー&日本政府の
意向を無視して、公邸内に入ってゲリラ
に取材
テレビ朝日系列の記者は無線機をゲリラ
側に渡して交信
こうした報道陣の行動を政府は非難=人
質に危険をもたらし、ゲリラ側にPRの
機会を与えて、人質解放交渉をじゃまし
た!
あなたはどう考える?
このケースでは、取材をしたからといっ
て人質の生命に危険が及ぶことはなかっ
たが、もし明らかに危険及ぶことが事前
にわかる場合には?
具体的に考えてみよう③
ユナボマー事件;小包爆弾で17年間に
26人の死傷者を出した「ユナボマー」
と呼ばれるテロ犯が、95年夏に自分の
論文をワシントン・ポストとニュー
ヨーク・タイムズのどちらかが掲載す
れば犯行をやめると脅迫
警察の強い要求もあり、テロ犯の論文
をタイムズ・ポスト両紙が掲載
テロ犯の要求にすべて従っていた
ら、ジャーナリズムはテロ犯のP
R機関になってしまうのでは?
でも、もしテロ犯の要求を拒否し
たことで、その報復として再びテ
ロが起きたらどうする?
非常に難しい問題
具体的に考えてみよう④
1988年リクルートによる大がかりな贈収賄
事件の一環として、リクルートコスモス社
の社長室長が代議士にワイロの受け取りを
申し入れるところを日本テレビが隠し撮り
して放送
代議士が密室でのワイロ申し込みの証拠の
ために日本テレビに依頼して撮影したもの
これは許される?
ジャーナリズムの倫理基準
ジャーナリズムの倫理を文章でまとめた
もの=「倫理基準」「倫理綱領」「ガイ
ドライン」など
基本的には自主規制であり、守らなくて
も罰則などの拘束力がないものが多い
さまざまな種類・レベルのものがあるが、
全体的にみて日本の基準は大まかで甘い
ここまでのおさらい
 ジャーナリズムの倫理;取材・編集・報道・視聴者(読
者)への対応・権力者への対応、などに関して、「何を
するのがOKで、何をしたらアウト」かを決める基準
 ジャーナリズムの倫理は、ほかの職業に関する倫理と比
べて、よりいっそう厳しいものでなくてはならない
 ジャーナリズムの倫理の基本;ジャーナリズムは、社会
の主権者である市民の役に立たなくてはならない
ジャーナリズムと表現の自由
表現の自由=ジャーナリ
ズムの絶対的前提条件
基本的人権とは?
すべての人間が生まれながらに
持っている基本的な権利
幸福追求権・平等権・自由権・社
会権・参政権・受益権など、さま
ざまな個別的権利を含んでいる
精神的自由権
自由権のうち、とくに人間の考
え方・感じ方など精神活動の自
由に関する権利
内面的自由権と外面的自由権に
区別される
思想・良心の自由、言論の自由、
信仰の自由、学問の自由
その他の自由権
自由権には、精神的自由権のほか
に、「身体的自由権(不当に身柄
を拘束されない、など)」と「経
済的自由権(不当に財産を没収さ
れない、など)」がある
詳しい内容は随時この授業の中で
紹介します
表現の自由とは?①
 さまざまな情報を自由にやりと
りすること
 日本国憲法第21条(集会・結社・表現の自由、
通信の秘密)
① 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現
の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密
は、これを侵してはならない。
表現の自由とは?②
表現=自分や考えたこと・感じたこと・
知ったことを何らかのかたちで示すこと
ことば・文字・絵・画像・映像・音楽・
踊り…
表現の自由の前提として、「思想・良心
の自由」がなくてはならない
表現の自由の4つのポイント
① 個人の表現行為に対する国家の干渉を
許さない
② 自由に情報を受け取る権利としての
「知る権利」も含まれる
③ 個人の権利としてだけではなく、メ
ディア事業者など「組織」としての権
利も含まれる
④ 表現の自由の規制は他の自由の規制以
上に慎重でなくてはならない
表現の自由の本質
さまざまな情報を自由にやりとりする
こと
↓
特に、「政府や権力者に対する批判を
自由に言ったり、聞いたりすることが
できる」ということが重要!
↓
Why?:なぜ表現の自由が必要なの
か?
表現の自由の歴史
国家による干渉を
なくすための闘い
の歴史
人類の歴史=言論弾圧の歴史
秦の始皇帝による「焚書坑儒」
古代ローマ・ギリシャの「誹謗文書処
罰」
中世キリスト教の「異端狩り」
近代市民社会の出版免許制や課税制
戦前の日本の言論統制
現代日本の言論規制
アメリカ合衆国憲法修正第1条
史上初めて表現の自由を憲法に明記した
もの
しかし、別の法律で政府や議会に対する
批判は処罰された
日本国憲法第21条も、この条項をもとに
制定された
戦前の日本における表現の自由
大日本帝国憲法第29条
日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作
印行集会結社ノ自由ヲ有ス
言論を規制するさまざまな法律(刑法・
新聞紙法・出版法・映画法・治安維持法
など)により、特に天皇制など体制への
批判は厳しく処罰された
次回のテーマ
通信の秘密の重要性
通信の秘密は守られていない?
ビデオを見よう!