木星の大赤斑について - 地球惑星科学科

木星の大赤斑について
北海道大学 理学部 地球科学科
惑星物理学研究室 4年
馬場 健聡
1.動機
 地球 2~3 個分の大きさを誇る大赤斑という壮大な渦が
350年以上も形を維持していることに興味を持った
 大赤斑を記述するモデルはいくつかあるので、それにつ
いて勉強してみようと思った
2.木星の概観
 太陽系の内側から5番目の惑星であり、太陽系内






で最大の惑星である
質量
: 1.899 × 1027 kg (地球の 318 倍)
赤道半径: 71492 km (地球の 11 倍)
平均密度: 1.33 g/cm³
自転周期: 9 時間 55.5 分
赤道の重力加速度: 23.18 m/s2
ガス惑星
 主成分…H2,He
NASA 「PHOTOJOURNAL」より
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA0034
3
3.大赤斑の概観
 赤道より 22°南に位置し、少なくとも 350 年間は持続し
て存在している高気圧性の渦
 ジョヴァンニ・カッシーニが 1664 年に発見
 大赤斑自体の回転周期 6 日程度
 大赤斑の大きさは
東西約 24000 km、南北約 13000 km
NASA「PHOTOJOURNAL」より
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA00014
4.大赤斑モデル作成上の問題
 厳密な消散率と強制(数値計算における)がわかっていな
いので、発生のメカニズムは詳しくはよくわからない
 観測的知識の乏しさ故に、大赤斑の正確なモデルを作り
上げることが難しい
 特に鉛直スケールとその構造については、ほとんど知られて
いない
 今まで作られてきたモデルの多くが、浅水系(もしくはその
簡略系)のままである
 それでも、有力な説はいくつか存在する
5.大赤斑の維持機構(1)
 準地衡風ソリトン説(Redekopp, 1977 ;
Maxworthy and Redekopp, 1976 , 1980 ;
Redekopp and Weidman, 1978 )
 地衡風渦説(Ingersoll and Cuong, 1981 )
 大赤斑が周りの小さな渦を吸収・合体して、消散に抗して自己
を維持しているという説
 中地衡風渦説(Matsuura and Yamagata, 1982 ;
Williams and Yamagata, 1984 )
 一般地衡風渦説(Nycander and Sutyrin, 1992 )
6.本発表では
 まず中地衡風渦説や一般地衡風渦説の礎となる地衡風
渦説について勉強してみようと思った
 そこで、地衡風渦説を採用しており、ある程度モデルを作
成することが出来た「Jupiter‘s Great Red Spot as a
Shallow Water System」(Dowling and Ingersoll 1989)を読
む事にした
(以下、 この論文、モデルをDI1989と書く)
8.彼らが採用するモデルにつ
いて
 大赤斑を 1.5 層モデルで考える事が出来るものとする
 1.5 層モデルとは、 2 層モデルの下層を固定して 1 層モデルに
近似したモデルのことである
 まず、下層の流れと底の地形を仮定する
 どんな 1.5 層モデルか?
 とても薄く、渦を含む上層(鉛直方向の物理量が無視できる)
 対流調節された中立成層でとても厚い下層
 それぞれの上層、下層はどのような性質があるか?
 下層は上層に比べて十分に厚いので、下層の運動は上層の力
学から影響を受けない
 下層の運動は東西方向一様で定常である
9.下層の流れと底の地形の
推定
 上層の速度データから下層の流れと底の地形を推定する
 しかし、このモデルでは変形半径を使って底の地形を推
定する
 その後、底の地形を元に数値計算を実行
10.使用する方程式
ここで
とする
ζ:
f :
v :
u :
v :
t :
Φ:
λ:
g :
h :
h2 :
K :
r :
R :
Re :
Rp :
相対渦度
コリオリパラメータ
流速ベクトル
東西方向の流速
南北方向の流速
時間
経度
緯度
重力加速度
上層の厚さ
下層の厚さ
運動エネルギー
東西方向の曲率半径
南北方向の曲率半径
赤道半径
極半径
11.DI1989の数値計算の
設計
 1.5 層モデルの計算を行うコードを用意
 以下の 3 タイプの数値実験を彼らは行った
タイプ1.地形を変えてモデル間の比較
タイプ2.寿命を探る数値実験
タイプ3.孤立渦の起源を探る数値実験
 風に 400 日のタイムスケールを持つ強制(実際に観測
された値に近づけるもの)を与えて計算
 上記のタイプ1の結果、DI1989モデルが他のモデルに比
べて最も優れていると彼らは主張した(このモデルにより
得られた絶対渦度分布のみ観測結果と一致した)
12.DI1989の計算結果
縦軸:緯度
横軸:経度
この図は自由表面の高さ
g(h+h2)を示している。
右側のグラフ:速度分布
下図の破線:実際の速度分布
下図の実線:下層における速度分布
13.タイプ1の結果、問題点
 いくつかの小さな渦が現れ、最終的に持続する大きな渦
が現れた。
 東西方向の速度分布も実際の大赤斑とほぼ一致した
 しかし、この結果は簡単モデルでの話であり、実際の大
赤斑により近いモデルを作りだす必要がある
 また、以下のような課題も残っている
1.どのように孤立渦が維持されるか?
2.どのように速度分布が維持されるか?
参考文献

Timothy E.Dowling and Andrew P.Ingersoll , 1989 : Jupiter‘s Great Red Spot as a
Shallow Water System. Journal of the Atmospheric Sciences
Volume 46, Issue 21 (November 1989) pp. 3256–3278

ウィキペディア「木星」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%B5%A4%E6%96%91
「大赤斑」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%B5%A4%E6%96%91

著:矢野 順一, 1993, 木星の大赤斑, 気象研究ノート第179号 「気象とソリトン・モドン-気
象現象中の孤立波(下)」 ,編:中井 公太

松田 佳久 著、東京大学出版会、惑星気象学