大気物質輸送II(成層圏の物質輸送)

2:成層圏における物質輸送
成層圏における物質輸送では、オゾンにからむ
輸送がおおきな問題であろうから、話初めとし
て、オゾンの分布図から
北半球夏
北半球冬
=5mmの厚さ
(標準状態)
オゾンの鉛直分布(成層圏で大きな値)、
WMO-O3 report, 2007から
全オゾンの全球分布:全オゾンでみると、
中高緯度の方が多い、また冬に多いこと
東西平均した緯度高度図:
極での全オゾンは春が最大になる。運動が大事
(主に、惑星波動によって輸送される)
オゾンホール(南半球)
Ozone mixing ratio の南北−高度分布(1月、4月、
7月、10月:
ここで10月は最近の南極域オゾンホールで異な
る)、ppmv
ある高度でオゾンが無くなっている
<ーその場の化学過程であろう
2−1:成層圏における
運動の概観
冬
夏
対流圏との運動の違いは、成層
圏では水が少なく大気が基本的
に安定大気であることであろう
( N2= g d (lnθ )/dz が大き
い )-> 波動が卓越しやすいで
あろう。
西風
東風
より冷た
い
西風
全球平均の鉛直温度構造
1月(左)と7月の東西平均した東西風、冬と夏
で構造が異なる
50km〜90kmは中間圏と呼ばれ、温度は高さとともに減少しているが、水はほとんどなく,温度勾配も
緩やかなので,基本的には対流は起こっていない
しかし、対流圏から重力波が伝わってきて,しかもここで振幅
が大きくなり,局所的に不安定が起こっている
ー> 重力波が壊れている
中間圏の重力波に伴う温度構造:
また、中間圏の重力波(G)が南北循環を
生み出している(Plumb, 2002, J. M.S.
Japan)
外部重
力波の
breakin
gです(
北斎か
ら)
局所的に乾燥断熱減率になって、乾燥対流の起きる条
件をみたすことがあるー>物質の上下拡散に重要
こんなimageか?
ー>鉛直拡散係数として
成層圏中の東西に非一様な大気波動:
成層圏では、惑星波動による輸送が重要である
冬季惑星規模の波動
東西平均温度の1979年時間変化、
大きく変動している
東風
西風
図:1979年1月26日、10hPaの
Height図 (m) 。北極からみた図である。
冬季であることに注意、夏は惑星波動
がみえない
1979年2月26日の東西平均風
このような成層圏の中の大気運動に絡めて、物質輸送の問題を考える。
ー>上の例では、東西に一様な風の上に比較的簡単な構造がのっているので、
東西平均の場に、波としての擾乱を考えて議論することが1960年ころから行われたよう
惑星波動を記述する方程式:
運動方程式に現れるコリオリ項を
2sin   f 0  y
のように βー平面近似した準地衡風方程式でのPotential
Vorticity(渦位)方程式

(
  u   v  )q  0
g
g
 t
 x
 y
ここでug, vgは地衡風を表し、
f 02   
q     f 0  y 
(
)
 z N 2 z
2
等温位面でのポテンシャル・渦度
qは準地衡風でのPVをあらわす。
P 
ψは流線関数であり、
vg 

x
, ug  

y
  f
  f
1 

~ (  f )
1
p

 z
(
)
g

散逸、非断熱がない場合は、PVが保存される

散逸や非断熱がない時、時間的に一つの(Rossby)モー
ドの、保存的な時間発展の式
この方程式は中・高緯度の対流圏で重要な役割を
もっている傾圧不安定、いろいろな惑星波動の問題
に適用される。1000kmくらいより大きいスケ
−ルの運動にたいしての式であろう.
PVの解析例はあとに、
2−2:物質輸送の1つの表し方
南北および
鉛直方向
中緯度の惑星波動による輸送について、 東西平均量
(over bar)とそれからのずれの波動(’)に分離し、波
動に伴う流体粒子の動きを考慮した、ラグランジュ的
な平均を考える。
Andrews and McIntyre, 1978, J. F. M.
r
 ' 変位
r
波動にともなう、流体粒子の変位を '  (', ', ') とし
東方向

図を参考にして、子午面内のラグランジュ平均の流れは、
v L  v  '



v'' v'' v'  v  v s
x
y
z
w L  w  '



w'' w'' w'  w  w s
x
y
z
波が定常であれば、
'  A exp(ik( x  ict)



u
  (u  c)
t
x
x
1項は場所を固定したオイラー平均、2項は
Stokes Driftと呼ばれる。変位と速度は線形
的に、
(




 u )'  v' (  u )'  w'
t
x
t
x
で、連続の式 '  '  '  0 を使うと
x
v s  '

y
z
のような形になるので、

vs 
v'
v'
v' 

 '
 '

'v'  'v'
x
y
z y
z


 1 2
 u )'' 
'
t
x
t 2
w'
w'
w' 

w s  '
 '
 '

' w'  ' w'
x
y
z y
z
v' '  (
のようになる。


'v' w s  ' w'
z
y
また



 u )'
t
x





 (  u )''  '(  u )'  ''  'v'
t
x
t
x
t
' w'  '(
2−2:物質輸送の1つの表し方(続)
波が定常のときは、
東西平均した物質の変化の式は、平均子午面循
環による流れと波動による輸送によるとして
K 

波動による物質輸送は、保存的とすれば
 




'  '  '   (  u )'v'  w'  0
y
z
t
x
y
z

の形にかけるので、波動による輸送の項は

v' ' y 


w' ' 


z 

K
1
(v' '  w' ')
2
w' '

' v'
0
T ' U

t

1
1
'' 0
 w'' 
''
2 t
2 t

1 2
1
' w'' 
'' 0
2 t
2 t

x
T ' v '
 w' N 2
H
 0
R
T
H
 w' N 2
 0)
y
R
T
H
 v' T '  v ' '
 ' w'N 2
 0
y
R

R

 
ws 
' w' 
v' T '
y
HN 2 y
T ' U

x
T
y
T ' v '
対応した、東西平均の熱力学の式は、

0
前ページの、' w'  t ' '  ' v' から
1 2
'
 2 t
K
1
''
2 t
w' '
0
流体粒子の波動にともなう変位は観測が不可なので、
惑星波動の熱力学の式を変形して、観測しやすいオイ
ラー的量の表現にすると、

' T '
t
1
(v' '  w' ')
2
1
 (v' '  w' ')
2




 (v  v s )  (w  w s )  diffusion  chemistry
t
y
z
steady
0
0
のようなので、対称成分も考えて、以下の
ような近似式が得られるであろう。
' (
テンソルを対称部分と反対称部分に分けると
下のようになる(Holton, 1981, JGR)。
1
(v''  w'')
2
w' '





 (v  v'')
 (w  w'')  0
t
y
y
z
z

t
となる。
v' '
 w' '
で 、物質の変化の式は





 v
w

v'  ' 
w' '
t
y
z
y
z

y 
v' ' 
v' '

 



K



w' '
w' '


z 
0
T
t
T
t
H
w 
R
 N2
H
(w  w s ) 
R
r
v *  (v *, w * )  (v 

v' T '  Q
T
t
 N2
H
w*  Q
R
R 
R 
v'T' , w 
v'T' )
HN 2 z
HN 2 y
運動量の式は、


y
 N2
は残差子午面循
環と呼ばれる
u
R 
u


R
 f (v 
v'T') 
 fv *  
u'v' 
f
v'T'
2
t
HN z
t
y
z HN 2
r
R
F  (u'v', f
v'T') はEliassen-Palm fluxと呼ばれる
HN 2

循環を評価した1つの例
残差子午面循環
v*  v 
w
*
1 R 
(  v' T' / N 2 )
 H z
 w
R 
2
(v' T' / N )
H y
オイラー平均の子午面循環
(v , w )
w 0

w*  0

冬半球
eq.
90N
北半球冬
成層圏下層に熱帯から上昇している循環がみえ
る(Brewer-Dobson循環とよばれる)、上層の方
はHeatingのある夏半球が上昇流で冬半球が下降
流となっている。
eq.
拡散について:
流れ場を与えて、流体粒子をLagrange的に動かし
てー>南北、鉛直の2次元に投影してみる, Kida,
1983, JMSJ
(A)
式で示したように、移流と拡散(波の振幅の
変動で起こりうる)が起こっている。
(A) のXXXは初期の場所、(A)は6ヶ月後の分布図、あと
1年後づつ
核実験後の成層圏の物質分布が上のKidaの数値実
験の結果と良く似ている
Brasseur et al. (1990)では、緯度—鉛直の方向の
輸送として、下のような式が輸送の式として用いら
れている
 *  * 

 

v
w
 P  (Kyy )  (Kzz )
t
y
z
y
y z
z
v *, w *
残差循環
により物質が移流され、
さらに南北、鉛直拡散が考慮される形

中間圏の鉛直拡散は重力波のbreakingによる運動
量の拡散係数が使われている。中間圏で大きな拡
散になっている
南北拡散は準地衡風近似のとき、ポテンシャル渦
度の南北輸送がEP-flux 発散に等しいことで
(Andrews et al., 1987)、
v' q'  divF /   (u' v' )y  ( f v' ' / z )z / 
のように書かれ、
v ' q '   K yy
q
y
K yy
のような拡散の形として

 div F

q / y
のように定義されている。
重力波による鉛直拡散とRossby波による水平拡散
化学反応のもとに、運動の方程式と組み合わせて、物質
の輸送の問題が鉛直緯度2次元の範囲で解けることにな
る
計算されたオゾン分布
ー> 近年は、1章で説明したような、対流圏を
含めた、全球3次元的運動と化学過程を直接解く
3次元モデルによる研究に移行
2−3:化学気候モデル
例えば、NCARの大気大循環モデルをベースにして、成層圏オ
ゾンを主体とした化学過程をモデルに導入して、化学気候モ
デルが作成される。
モデル結果
観測結果
化学反応の例
Rasch et al., 1995, JGR
大雑把には再現、しかし細かいプロセス
までは表現できていないよう。
3DモデルによるCH4分布
Rasch et al., JGR, 1995
3次元モデルであるNCAR GCMで再現されたCH4分
布図:
観測結果
0.4
0.4
3次元モデルで、赤道域では鉛直上昇流、中高緯度では下降流(前に述べた循環に対応) および惑星波動による水
平混合など、平均的な形はおおよそ再現されている。
30度あたりの、低緯度と中・高緯度の境界あたりの構造などがなめらか、
N2OとCH4の寿命の長い物質の水平分布図:中/高緯度で
は成層圏の惑星波動にしたがって運動しているよう。
Roche et al., 1996, J. Geophy. Res. から、21mb(27km)の高
度、CLAES ( cryogenic(低温) limb array etalon
spectrometer)衛星観測
これまでの話しをまとめると、成層圏の惑
星波動に伴う輸送は、大雑把には下図のよ
うなimageでしょうか
Solomon, 1999,
Rev. Geophys.
2−4:成層圏物質輸送のプロセスをいくつか
2005年6月、100hPaにおけるCO分布、Park
et al., JGR, 2009
7月、気候値の100hPaでの水蒸気分布、
Gettleman et al., JGR, 2004
場所に依存していて、地域的な分布が異なる。
ー>個々のプロセスを詳細にしらべる。
1:対流圏からの流入
ーインドネシア域の熱帯圏界面近傍の物質輸送ー
Lagrange的な方法による、
Hatsushika and Yamazaki, 2003, JGR
温位350K以下からの粒子から初めて、390K以上にいった
粒子の軌跡。赤系統から青系統で水蒸気の量は減ってい
く。La Ninaの1月の条件で動かしている。全球に広がる
にはtransient運動が重要とある。
対流圏から成層圏への粒子の移動の概念図
<ー熱帯の圏界面あたりの水平移流の重要性
西風偏差で高圧偏差の構造
2:熱帯域での成層圏から対流圏への物質移動の例
赤道ケルビン波は赤道成層圏において、いろいろの役割
をしている。ケルビン波の構造のみを示しておく。この
波は南北風がほとんどない波である。
東西に伝播する波として
のように仮定すると
exp(ikx  it)
  0 exp(
k 2
y )
2
赤道ケルビン波の水平構造

のような、南北(y=0が赤道)にガウス分布となる
構造をもっている。

鉛直方向には、N2=一定大気の場合には、
  exp( imz)
下降変位
ζ<
0
のような伝播性をもち、近似的に下式の関係になる。


鉛
直
波
長
2
π
/m
Nk
m
東西風に相対的な振動数が小さくなると、鉛直波長は
短くなる。

東西波長2π/k
ケルビン波の東西鉛直構造、小さな矢は
u', w'
熱帯域におけるケルビン波による輸送
Fujiwara and Takahashi, 2001, JGR
34E, 8月15日、オゾンの緯度高度図、Kelvin波
のガウス的南北の広がりがみえる。
Kelvin波の下方変位に伴って成層圏から対流圏の
方にオゾンが輸送されているよう。
オゾンと東西風(影が東向き)の経度/高度断面図
二重の圏界面になっている
3:中緯度圏界面付近の輸送の複雑さ
Pan et al., 2009 JGRを例として
2007年4月11日の色は最小のdΘ/dz、赤実線は
6PVunit線、赤点線は衛星track
オゾンの緯度高度図
150hPa
60N
60N
40N
30N
Potential
Vorticity
P ~ (  f )

z
90W
1PV unit =
10-6
m2s-1K
kg-1
10日のbackward trajectory, 緑6067N, 赤50-57N,13-16km高度
4:2002年突然昇温によるオゾン変動
http://ozonewatch.gsfc.nasa.gov/monthly/index.html
10月平均オゾンホールの変化
0
°
1979
1982
1985
1991
1994
1997
2002
2003
2006
1988
2000
2009
南半球(オゾンホール)の様子(1998-2003年、 9月25日のみ)、全オゾン
1998
2001
1999
2002
2000
2003
基本の構造は南極で少なく、オーストラリアの南の方で多いという波数1的パターンが多い。
オゾンホールの形は年によりすこしづつ異なっている。
2002年はかなり形態が異なっている ー> この年は major な突然昇温現象
2002年は突然昇温が起きたこと
廣岡、森、他 (2004) から
突然昇温の現象;図は南緯60度、50hPaの20
02年4月から10月までの東西に平均した温度
の時間変化を示したもの。冬から春への温度変化
のなかで(低温からだんだん温度が上がりつつあ
るとき)、たまに急に温度が上がっている。この
様な突然の温度増加現象を成層圏突然昇温と呼ん
でいる。また極の高温は温度風の関係から東風に
なる可能性があるので(夏の状況)、10mb以
下で60度から極向きに温度が増加して東風が出
来るとそれを major warming と呼んでいる。
惑星波動の全球東西波数s=1の振幅
波数s=2
MAY
JUN
JUL
AUG
SEP
OCT
南半球の10hPa等圧面高度図(約30kmの高
度) 。単位はm、等値線間隔は200mの高さの
違い。
2002年オゾンホールの急激な変動(9月19-29日)
オゾン全量
9月19日
9月25日
波数1ー>2
9月23日
9月29日
オゾン偏差χ’と高度偏差の近似的な関係
 ' ~ 
v~

D
v
y
Dt
ik
'
f
~
v ~U
ik
'
' ~
ikUf
Uf


x
v ~ ikU
 ' ~ (
 1
)
'
y Uf
fv ~

'
x
補足:オゾンホールの気候変化
180
°
Thompson and Solomon, 2002, Science
76S, 27Wでの
オ
ゾ
ン
量
0
°
11月のオゾン変化:年々で変
動しつつ、減少しつつある
12-5月、地表の温度(色)と950hPaで
の風のトレンド、南極で冷たく、周り
の風(矢)が強化されている
圧力低下
約15km
温度低下
11月
11月
温度と圧力の低下傾向をしめす
補足:オゾンホールの予測
将来どのようになっていくかの、モデルによ
る、オゾンホールの予測実験が行われている
Austin and Wilson, 2006, JGR
温暖化(成層圏では低温化)に
関わって、北極域のオゾン回復
の戻りが大きいという話しも出
てきている
AMTRAC
気候センター/環
境研モデル
成層圏の低温化により、オゾン生成の
効率化が上がりオゾンが増えるであろ
うが、南極の方ではこのように極端な
ことはおこっておらず、その差は北半
球は循環がはやく少ないフロンが極に
くるためと考えられている
5:成層圏の水蒸気の気候変化
Rosenrof et al., GRL, 2001
上部成層圏の水蒸気変化
HALOEによるH2O分布例
水蒸気の変化、21.5mb, Boulder, コロラド(40N,
105W)のバルーン観測 HALOEは35-45N, 95-115W
衛星観測
より高い高度での変化、8mb(上), 2mb(下)、
月平均の変動
論文では、対流圏から成層圏への輸送の変化
が一つの可能性とある
気候モデルによる水蒸気変化:Austin et
al., JAS, 2007
化学気候モデルを1960-2005まで走ら
せる。SST変化などは観測データを利
用、また温暖化物質なども増加させ
るー>水蒸気の気候変化をしらべる
成層圏の水蒸気が増加、要因としては、
CH4の酸化と書かれてある。
のような反応(cf., Le Texier et
al., 1988, QJRMS)
CH4の増加は循環の強化のよう
水蒸気の時間変化、青はモデル結果、赤は
衛星観測(HALOEによる)の結果、Blackは
Boulderでの観測結果である。
77hPaでの上方質量輸送の変化