公式コンセンサス法

推奨作成における
consensus development
理論 - 研究者の視点に立って -
アジェンダ
1.
推奨策定におけるコンセンサス
2.
コンセンサスを数量化すると
3.
多様化と集約
4.
“非公式“コンセンサス法の問題点
5.
“公式”コンセンサス法とその適用
6.
“原則に基づく”コンセンサスのススメ
診療ガイドライン
の必要性
臨床現場では
しばしば困難
医療は,選択・決断の連続

どのような選択肢があるのか?


効能に関するクエスチョン
どの選択肢が最も高い価値をもたらすか?


ガイドライン
効果に関するクエスチョン
どの選択肢が最も高い価値/努力
(価値/代価)をもたらすか?

効率に関するクエスチョン
「価値判断」の基準?

単一の臨床疫学的エビデンスがある場合
エビデンスの階層
統計学的有意性
アウトカムの妥当性
エフェクトサイズ



機械的に判断可能
コンセンサスが必要!
臨床疫学的エビデンスがない場合
相反する同レベルのエビデンスがある場合
利益と害の両方がある場合
生物医学的エビデンス
専門家の経験知(expertise)
コンセンサスが必要!
アジェンダ
1.
推奨策定におけるコンセンサス
2.
コンセンサスを数量化すると
3.
多様化と集約
4.
“非公式“コンセンサス法の問題点
5.
“公式”コンセンサス法とその適用
6.
“原則に基づく”コンセンサスのススメ
同意とは:個人の場合
0
反
対
7
9
賛
成
同意とは:集団の場合
25
パーセンタイル
反
対
中央値
25
パーセンタイル
賛
成
コンセンサスとは
グループ全体として到達した意見ないし姿勢
A案
B案
アジェンダ
1.
推奨策定におけるコンセンサス
2.
コンセンサスを数量化すると
3.
多様化と集約
4.
“非公式“コンセンサス法の問題点
5.
“公式”コンセンサス法とその適用
6.
“原則に基づく”コンセンサスのススメ
意見の多様化と集約
1/2
1/2
アジェンダ
1.
推奨策定におけるコンセンサス
2.
コンセンサスを数量化すると
3.
多様化と集約
4.
“非公式“コンセンサス法の問題点
5.
“公式”コンセンサス法とその適用
6.
“原則に基づく”コンセンサスのススメ
戦略がないと
時間を浪費…
結論が出ない…
支配者がいると
結論を誤る…
多様性がない…
支配者が二人いると
意地の張り合い…
落としどころ…
根回しがあると…
突然結論が
変わる…
アジェンダ
1.
推奨策定におけるコンセンサス
2.
コンセンサスを数量化すると
3.
多様化と集約
4.
“非公式“コンセンサス法の問題点
5.
“公式”コンセンサス法とその適用
6.
“原則に基づく”コンセンサスのススメ
公式コンセンサス法


Delphi法
Nominal Group Technique: NGT


Consensus Development Conference (米NIH)





何れもガイドライン策定に適している ⇒ 後述
10名のグループ
種々の利害関係者やエキスパートがエビデンスを提示する数日間の
公開会議に出席
非公開会議で非公式コンセンサス法でコンセンサスを形成する
「陪審制」に近い考え方
Glaser法




State-of-the-Art(Best Practice)を定義する
非専門家によるファシリテート
5回のdraft
60名による8回のpeer review
Delphi法
「Delphiの神託」に由来

Delphiの神託は,将来を予測する能力があると信じられている
1.
クリニカルクエスチョンに基づき,重要なcueをいくつか
含む臨床的シナリオを準備する
2.
シナリオの症例に対して,可能性のある選択肢を列挙
する(グループとは別に行っても良い)
グループメンバーに,各選択肢への同意の程度を評点
づけてもらうアンケートを送付
3.
(ただし言葉のあいまいさで有名!)
 「全く同意できない」を 0,「完全に同意する」を 9 とする
4.
5.
前回のアンケートの集計結果を含めて,再度アンケート
を行う
点数を集計し,全体の合意の程度を検討する.ある程
度のコンセンサスが得られれば終了,まだコンセンサス
が得られていなければ 4 を繰り返す
アンケート用紙:1回目
シナリオの患者(合併症のない急性上気道炎)に対する治療法と
して,次の各選択肢にどの程度同意されますか?
a.
(合併症の発症を減らすとのエビデンスはないが,特に害はないと考
えられる)水分の摂取を勧める
0
9
b.
(症状が半日早く消失するとのエビデンスがある)抗生剤を投与する
0
9
c.
(発熱や咽頭痛症状を軽減するとのエビデンスがあるが,治療まで
の期間を延長させるとのエビデンスがある)消炎鎮痛剤を処方する
0
9
d.
何もしない
0
9
アンケート用紙:2回目以降
a.
(合併症の発症を減らすとのエビデンスはないが,特に害はないと考
えられる)水分の摂取を勧める
0
9
b.
(症状が半日早く消失するとのエビデンスがある)抗生剤を投与する
0
9
c.
(発熱や咽頭痛症状を軽減するとのエビデンスがあるが,治療まで
の期間を延長させるとのエビデンスがある)消炎鎮痛剤を処方する
0
9
d.
何もしない
0
9
Nominal Group Technique(NGT)
またはExpert Panel
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
クリニカルクエスチョンに基づき,重要なcueをいくつか含む
臨床的シナリオを準備する
個々のメンバーが,個別に自分の案を記録する
全ての案が出尽くすまで,順に一人ひとりが案を提出する
全ての案について順に議論する
個々のメンバーが独立して個別に個々の案について評点
付け,ないし全ての意見をランクづけする
集計結果をフィードバック
さらなる議論
再度評点づけないしランクづけ
集計してグループとしての案,ないしグループとしてのラン
クづけを決定
NGTの特徴

アイデアの創出と議論を完全に分ける

アイデアを順に出すことにより,アイデアの
「ただ乗り」を防ぐ

ファシリテータにより,全てのアイデアが順に
議論される

全てのメンバーが意見を述べるようセッション
がコントロールされる
RANDバージョンのNGT
メンバーは9名
 1(著しく不適切)~9(極めて適切)までの9ポ
イント評価(5は利益と害がほぼ同等)
 最初の評点はディスカッション前に個別に行
う
 評価の結果がディスカッションに提示される
 議論の後,再評点
 1-3,4-6,7-9の何れかに7名が入れば合意と
みなし,また3名以上が入れた段階が2つ以
上あれば合意なしとする

例
1~3
4~6
7~9
解釈
8
1
0
不適切で合意
1
7
1
不明で合意
1
1
7
適切で合意
3
2
4
合意なし
0
4
5
合意なし
Point 1:課題提示の方法

シナリオにどのようなcueを含めるか
cue: 症状の持続期間,年齢,検査結果など,
判断に影響する重要な要素



文献的に重要なcue
& メンバーが重要と考えるcue(最初のセッションで議論)
文脈的cue(医療資源は無制限と仮定するのか,限られてい
ると仮定するのか,など)も含める
課題の焦点を明確化する


特定の状況のマネジメントの場合
特定の介入法の適用の場合
 他の介入(特定の介入を明示しても良い)と比較してより適切かどう
かを検討するように明記する

シナリオの数

多過ぎると,臨床現場ではより頻度の低いケースについて議
論することになり,信頼性は低くなる
Point 2:参加者の選定ー1

メンバーに特定の個人を入れるべきか?


メンバーの多様性


メンバー数が十分ならば,考慮の必要はない
対象集団からさまざまな意味のある特徴を持つメンバーを選定すると,
ガイドラインの信頼性や広い範囲での受け入れを促進できる.この際,
オーガナイザーの知人ばかりを選ぶなど,選択にバイアスがあると見な
される選び方は避ける
グループの人数

人数が6名以下になると急速に結果の信頼性が損なわれるが,12人を
越えて人数を増やしても結果の改善は期待できない
「専門家」だけが集まると…
極論に
走ることも…
意見が偏る…
Point 2:参加者の選定-2

メンバー構成


共通認識を明らかにすることが目的ならば,同種のメンバーで構成する
共通認識のない部分で合意点を探ることが目的ならば,異種のメンバー
で構成する
» コンフリクト管理の手法を導入することを考慮する


メンバー間の地位の違いがあるときは,その影響を避けるために匿名
法の利用などを検討する
適用に関する判断では,医学的な専門性が最も影響が大きい要素
» 同じ専門を持つメンバーが集まると,結論はより極端になる
» 異なる専門を持つメンバーが集まった場合,意見の相違が拡がるか狭まる
かは,下位集団内の凝集性(結束)の強さによる
» コンセンサスに基づく推奨は,メンバーの専門性の構成の文脈で解釈する
必要がある ⇒ したがって,コンセンサスに基づく推奨とエビデンスに基づく
推奨は区別すべき
潰瘍性大腸炎ガイドラインの
推奨グレード基準:
治療
治療
エ
ビ
デ
ン
ス
レ
ベ
ル
Delphi 採点中央値
8点以上
7点
6点
5点
4点以下
I
A
A
I
C
C
II
A
B
C
C
C
III
B
I
C
C
C
IV, V
I
C
C
C
D
NHO東京医療センター尾藤誠司先生提供
潰瘍性大腸炎ガイドラインの
推奨グレード基準:
検査・リスク・フォローアップ
検査・リスク・フォ
ローアップ
エ
ビ
デ
ン
ス
レ
ベ
ル
Delphi 採点中央値
8点以上
7点
6点
5点
4点以下
I
A
A
I
C
C
II
A
B
I
C
C
III
A
B
I
C
C
IV, V
I
C
C
C
D
NHO東京医療センター尾藤誠司先生提供
Point 3:科学的情報の採用と処理

科学的情報の提供

科学的情報は早い段階で全員に提供する
» セッションには科学的情報のレビュー(メンバー個人がメモを書き込んだ
もの)を持参するよう促す

科学的情報の提示


論文や要約より,表などにまとめられたものが利用されやすい
科学的情報の準備

研究の質に関する専門家であるMethodologistを入れることが望ま
しい(エビデンスはない)
» 研究の質をグレード表示することはレビュアーによるバイアスを減らすこ
とはできるが,完全になくすことはできない

個人の判断のフィードバック


Delphi法およびNGTでは,2回以上のラウンドによりある程度の判
断の集約が得られる
フィードバックは中央値とばらつきと同時に,理由や意見もフィード
バックすると良い
Point 4:対話の構造化

公式コンセンサス法と非公式コンセンサス法
 一般的に公式コンセンサス法(Delphi法とNGT)が優れる
» オリジナルの方法に沿って行うほど結果は良い
–
–
–
–

NGTが行われる環境


全てのメンバーが自分の見解を述べる機会がある
全ての意見が議論される
「フィードバック」と「各個人による判断」を繰り返す
「各個人の判断」の秘匿を守る
会議が快適な環境で行われることにより議論が促進する(エビデンス
なし)
NGTのファシリテータ


良いファシリテータは合意形成を促進すると考えられるが,エビデン
スはない
良いファシリテータは正確な手順で進めることができる
Point 5:個々人の判断の統合
より詳細な推奨を行う場合,明示的手法(Delphi法やNGT)
を用いる方が良い
 どの程度の合意をコンセンサスと見なすか



個々人の判断の重みづけ


明確な理由がある場合以外は行うべきではない
外れ値


あまり厳密すぎると,ほとんど意味のない結果になる
外れ値を除外することは,ガイドラインの内容に大きく影響する
統計法

一般に,中央値と4分割境界の提示が外れ値の影響を受けにくい
公式コンセンサス法の利点/欠点

パワーゲームを回避できる
 他の参加者に巻き込まれない
 途中で意見を変えることが容易

「常識 (norm)」の圧力が少ない

ある意味「多数決」


メンバー構成で結果が左右される
グループダイナミクスが限定的

創造的なアイデアは生まれにくい
グループ・ダイナミクス
次元の高い
結論!
次元の高い
アイデア!
アジェンダ
1.
推奨策定におけるコンセンサス
2.
コンセンサスを数量化すると
3.
多様化と集約
4.
“非公式“コンセンサス法の問題点
5.
“公式”コンセンサス法とその適用
6.
“原則に基づく”コンセンサスのススメ
診療ガイドライン作成における
「価値基準」の視点
 医療者の視点
 患者の視点
 社会経済の視点
⇒ 「異なる価値観」を
どう取り入れるのか?
厚生労働研究「中山班」
コンセンサスとは?

同じ価値観を持つ場合




どの方法が最も大きく価値をもたらすか?
「技術的」クエスチョン
潜在的に「正解」が存在する
ランクづけが可能
⇒ 公式コンセンサス法の良い適応
 異なる価値観を持つ場合




異なる種類の利害関係者が関与
異なる価値観を満足させるのはどれか?
「価値」クエスチョン
「正解」は存在しない
⇒ 公式コンセンサス法は必ずしも適さない
コンセンサスとは
グループ全体として到達した意見ないし姿勢
A案
B案
同じ価値観に基づく
複数の案がある場合
③
A案
①
B案
C案 ②
ランクづけ
が可能
異なる価値観に基づく
複数の案がある場合
医療者
患者
ランクづけできない!
両論併記
社会経済
(選択肢として提示)
次元の高い解決策
“原則に基づく”コンセンサス

公式コンセンサス法成功の条件
全てのメンバーが自分の見解を述べる機会がある
⇒ ファシリテータを置く
 全ての意見が議論される
⇒ ファシリテータを置く
 「フィードバック」と「各個人による判断」を繰り返す
⇒ 意見を変えることができる柔軟性
 「各個人の判断」が秘匿される
⇒ グループ外へは個人の判断を漏らさない

非公式コンセンサス法でも,
これらの条件を満たすことが
できれば良い
“原則に基づく”コンセンサス

その他の条件
 傾聴する
 意見の相違をチャンスととらえる
 相手の意見の裏にある感情に配慮する
 「取引き」を用いない
 合意のための妥協を避け,論理的に対処する
ファシリテータやメンバーの
事前のトレーニングが重要!
まとめ
(特に)あるクエスチョンに対して質の高いエビデン
スが見当たらない場合,コンセンサスに基づく推奨
が必要となる
 グループの構成員が同じ価値基準を持つ(=同じ
専門家の集団)場合,公式コンセンサス法(Delphi
法,NGT)の利用が望ましい
 グループの構成員が異なる価値基準を持つ(=患
者の視点の代表者,社会経済的視点の代表者など
を含む集団)場合,むしろ原則に基づく非公式コン
センサス法の利用が望ましい
