産業組織論 (1) 競争市場の効率性 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2015年10月8日 完全競争市場 アダムスミスの「見えざる手」を表現できる 最も理想的な市場での競争はなんだろう? それが競争市場或いは完全競争市場と呼ばれ る市場だ! 例えば,お米を作っている農家や我々消費者 ある農家の取引量と日本全体の消費量を比較 するとその農家のお米の生産量は小さい 一年間のお米の消費量も日本全体から比べる とほんの小さな部分 産業組織論 1 2 プライステイカー 個々の取引は米の価格に直接的な影響を及ぼせ ない.このような経済は一つのモデルである 完全競争市場とは 多くの売り手と買い手がいて個々の経済主体は 市場で成立する価格に影響を及ぼすことができ ない市場を言う 市場価格を与えられたものとして行動する 完全競争市場での経済主体をプライステイカー あるいは価格受容者と呼ぶ 産業組織論 1 3 個別需要 個々の買い手の購入意欲を最初に分析 プレイした後にイチローはかき氷を食べる 需要は与えられた価格の下で家計や企業が購入 しようとする財サービスの数量を表す 需要は Demand なので D で省略 数量は Quantity なのでQで省略 価格と需要量に注目して他の要因を一定に保つ 産業組織論 1 4 個別需要曲線 安ければ沢山買うが,高ければ余り買わない 個別需要曲線は,ある経済主体の様々な価格 の下で需要量がいくらかになるかをグラフに 表したもの 縦軸に価格 P を取る 横軸に数量 Q を取る イチローがどのくらいかき氷を食べるのか需 要表で表示してみよう 産業組織論 1 5 需要曲線の見方 かき氷の価格 イチローのかき氷 に対する需要曲線 価格から数量を見る 100円 かき氷の数量 6杯 産業組織論 1 6 需要曲線 需要曲線は右下がり=負の相関関係 価格が上がれば需要量は減ることを需要の法則と 言う 価格が上昇すれば購入コストが増え,節約する 縦軸の価格から横軸の数量を見る 各経済主体は個別需要曲線を持っていると考える 甘い物好きと辛い物好きでは需要曲線は異なる 産業組織論 1 7 価格下落の効果 かき氷の価格 イチローのかき氷 に対する需要曲線 200円 右下がりは価格が下落すると 需要が増えることを意味する 100円 かき氷の数量 2杯 6杯 産業組織論 1 8 供給 どのくらいアルバイトをするか?売り手を考える かき氷,アルバイト,労働,資金提供(貸し出し) 供給においても一番重要なのはその価格 供給とは家計や企業が特定の価格で販売したいと 考えている財やサービスの数量 供給は英語で何という? supply 頭文字を取って記号Sで省略する 産業組織論 1 9 個別供給曲線 時給が900円から1000円へアップしたのでアルバ イト時間を増やした 個人や企業の財やサービスの提供行動を図で描写 個別供給曲線とはある経済主体の様々な価格の下 で供給量がいくらになるかをグラフに表したもの これは一種の販売スケジュール 縦軸に価格 P 横軸に供給量(数量) Q 産業組織論 1 10 供給曲線の見方 かき氷の価格 真央のかき氷 に対する供給曲線 価格から数量を見る 150円 かき氷の数量 (杯) 7 産業組織論 1 11 価格の上昇 真央のかき氷に対する供給曲線 かき氷の価格 500円 右上がりは価格が上昇 すると供給が増えること を意味する 150円 かき氷の数量 7杯 10杯 産業組織論 1 12 需要・供給の法則 はさみは二つの刃で仕事する 経済学者は需要と供給の組合せで経済を分析 現実の価格と取引される数量は,需要と供給 が等しくなる水準で決定される 需要曲線と供給曲線を同じ図上に描く 両曲線の交点を均衡(きんこう)という 均衡ではすべてがバランスしている状態 需要と供給が一致している落ち着き先 均衡では経済主体は行動を変える動機を持たない 産業組織論 1 13 市場均衡 P D 市場需要曲線 均衡価格 P* S 市場供給曲線 均衡 E Q* 産業組織論 1 均衡数量 Q 14 消費者余剰とは何か 前から気に入っていた洋服がバーゲンで安く売 っていた!お買い得で嬉しい. 人々は財に異なった満足度を得るが 支払う価格は同じ.取引をした後の満足度は? 実際に価格を支払ったときの財からの満足度 の残りを見たい.残りを余剰という. 洋服が5000円までだったら買ってもよい. バーゲンで3000円で売られていた.この満足度 の残り 5000-3000=2000 が消費者余剰 15 産業組織論 1 アイスショーへの支払意欲 5000円を支払うつもりが支払意欲(支払許容額)だ ある財の支払意欲とは,それ以下の価格なら一単 位購入する.しかし,それを上回れば購入しない という金額を表している.価格が支払い意欲と同 額ならば買っても買わなくても良いと思っている イチローはアイスショーを一回見るか見ないかを 検討している.イチローの一回のアイスショーの 視聴に対する支払意欲は10,000円としよう アイスショー価格が7,000円ならば見る.12,000円 ならば見ない 産業組織論 1 16 買い手 支払意欲(円) イチロー 10000 ダルビッシュ 8000 石川遼 5000 北島康介 4000 亀梨和也 3000 産業組織論 1 17 消費者余剰 消費者余剰は取引をした後の満足度を表す 実際に価格を支払ったときの財からの支払い意欲の 残り(余剰) 正確には支払ってもよいと考えている金額から実際 に支払った金額を差し引いた値が消費者余剰 消費者余剰=支払い意欲ー価格 英語で Consumer Surplus と言う 消費者余剰をCS と略す 支払い意欲のグラフから消費者余剰を図示しよう 産業組織論 1 18 支払い意欲のグラフ 支払い意欲(円) イチローの支払い意欲 ダルビッシュの支払い意欲 10000 石川遼の支払い意欲 北島康介の支払い意欲 8000 5000 亀梨和也の支払い意欲 4000 3000 枚数 1 2 3 4 5 産業組織論 1 19 アイスショーのチケットは何枚売れる 価格が低ければ沢山売れる 価格<支払い意欲 → 購入 価格>支払い意欲 → 購入しない 実際に売れる枚数 → 価格=支払い意欲 価格が7000円だったら何枚売れる? 産業組織論 1 20 支払い意 欲のグラフ は需要曲 線である 支払い意欲のグラフ 支払い意欲(円) イチローの支払い意欲 ダルビッシュの支払い意欲 10000 8000 7000 5000 価格は7000円 4000 3000 需要量 枚数 1 2 3 4 5 産業組織論 1 21 需要曲線=支払い意欲曲線 最後の一個の支払い意欲と費用(価格)が同じときは それを購入すると考える 支払い意欲を大きいほうから並べる 価格と支払い意欲が一致している支払い意欲の個数 この個数が需要量になる 価格=支払い意欲⇒購入量 価格に対して購入しようとする数量=需要曲線 支払い意欲曲線は各数量から1単位増えたときに支 払っても良い金額 産業組織論 1 22 支払い意欲と消費者余剰 支払い意欲(円) イチローの消費者余剰=10000-7000=3000 ダルビッシュの消費者余剰 =8000-7000=1000 価格は7000円 10000 8000 7000 5000 4000 3000 需要量 枚数 1 2 3 4 5 産業組織論 1 23 消費者余剰 支払ってもよいと考えている金額から実際に支払 った金額を差し引いた値が消費者余剰 消費者余剰を表す面積=△ABCの面積 価格 A 価格 P 消費者余剰 B 需要曲線 C 数量 Q 産業組織論 1 24 生産者余剰とは何か アルバイトをするとアルバイト代が貰えて嬉しい. しかし,疲れたり他の活動ができなくなる 企業は財を販売することによって収入を得る しかし,財を生産するには費用がかかる ここで考えている費用は既に学んだ機会費用の概念 で捉えたもの. 生産のために諦めたものの価値が機会費用 収入が費用を上回れば生産を行う 真央のアイスショーの費用が2000円とする. 収入が4000円出演する.1000円だと出演しない 産業組織論 1 25 アイスショーのチケットは何枚売れる 各人の費用を小さい額から並べた 価格>費用→ 販売を増やす 価格<費用 → 販売を控える 価格が高ければ沢山販売できる 実際に売れる枚数(数量) → 価格=費用 価格が7000円だったら何枚売れる? 売り手の費用から供給表を作る 産業組織論 1 26 費用と供給量 費用(円) 10000 8000 7000 5000 真央,羽生,明子が供給 明子の 費用曲線の枠線が供給曲線 羽生の 費用 費用 真央の 費用 価格は7000円 3000 2000 供給量 枚数 1 2 3 4 5 産業組織論 1 27 供給曲線(価格から数量へ) 価格 P 供給曲線 数量 Q 産業組織論 1 28 供給曲線=費用曲線 最後の一個の費用が収入(価格)よりも下回る或いは 等しいときに販売する 価格と費用が一致している費用を持っている売り手 は限界的売り手.その販売個数が市場での供給 価格=費用→販売量 これは供給曲線と同じ 価格に対して販売しようとする数量 この費用曲線は各数量から1単位増えたときに増加 する費用.これは限界費用と同じ 産業組織論 1 29 生産者余剰 生産者余剰は売り手の収入から生産のための費用を 差し引いた額である 生産者余剰=収入ー費用 生産者余剰を英語で Producer Surplus と言う 生産者余剰を記号 PS で省略して表す 産業組織論 1 30 費用と生産者余剰 費用(円) 総生産者余剰 10000 8000 7000 5000 真央のPS=7000-2000=5000 羽生のPS=7000-3000=4000 明子のPS=7000-5000=2000 真央 羽生 明子 のPS のPS のPS 価格7000円 供給曲線 3000 2000 供給量 枚数 1 2 3 4 5 産業組織論 1 31 供給曲線と収入/2 価格 供給曲線 7000 四角の面積=収入 数量 0 3 産業組織論 1 32 供給曲線と費用 価格 供給曲線 7000 台形の面積=費用 数量 0 3 産業組織論 1 33 供給曲線と生産者余剰 価格 供給曲線 生産者余剰 7000 数量 0 3 産業組織論 1 34 消費者余剰,生産者余剰,総余剰 価格 総余剰=消費者余剰+生産者余剰 総余剰 供給曲線 消費者余剰 P 生産者余剰 需要曲線 数量 Q 産業組織論 1 35 経済厚生 経済学では自由な競争は効率をもたらすと考える 価格制限は余剰や不足をもたらした.そのような事 態がないだけでなくある種の優れた点を持つ 経済厚生あるいは総余剰とは取引をしている全ての 主体の望ましさを表す 買い手と売り手がいた 総余剰は消費者余剰と生産者余剰の和 政府がある場合はそれに政府税収をさらに加える 需要曲線と供給曲線の交わる点である完全競 争市場の均衡では総余剰が最大化される 産業組織論 1 36
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