レジュメ

社会保障論講義
第1章「社会保障制度の危機はな
ぜ起きるのか」7~8節
学習院大学経済学部教授
鈴木 亘
7.社会保障全体の世代間不公平の
実態
• 図表1-7は社会保障制度における(
)
• その世代にとって、個別の社会保障分野で
いったいいくらの「損得」をしているかという金
額
• 「生涯に受け取る給付費の総額(
)」か
ら「生涯に支払う保険料の総額(
)」を
差し引いた金額であり、「(
)」と呼ぶ。
社会保障全体の世代間損得勘定(最新版)
―万円
全体
5,210
1940年生まれ
年金
3,460
医療
1,450
介護
300
1945年生まれ
2,340
1,180
260
3,780
1950年生まれ
1,490
930
190
2,610
1955年生まれ
970
670
130
1,770
1960年生まれ
460
520
50
1,040
1965年生まれ
-40
380
0
340
1970年生まれ
-560
260
-40
-340
1975年生まれ
-1,030
130
-80
-980
1980年生まれ
-1,480
-40
-120
-1,640
1985年生まれ
-1,840
-240
-150
-2,230
1990年生まれ
-2,150
-410
-180
-2,740
1995年生まれ
-2,420
-480
-210
-3,110
2000年生まれ
-2,610
-620
-230
-3,460
2005年生まれ
-2,750
-720
-250
-3,730
1940年生まれと2005年
生まれの差額は、8,940
万円、年金だけでも6,210
万円
注)厚生年金、健保組合に40年加入の男性、専業主婦の有配偶者のいるケース。生涯
収入は3億円として計算している。厚生年金は、現状では100年後までの財政均衡は達
成されていないため、保険料率は2017年度に18.3%に達して以降も引上げ続け、
2035年に24.9%まで引き上げてその後固定する改革を行なうと想定した(それに伴っ
て、マクロ経済スライドも2041年度まで適用)。
世代間不公平計算に対する批判
• 厚生労働省OB、取り巻きの(
)。
• ①年金というものは(
)を原則とするものなの
で、損得の観点から論じることは本質的になじまな
い
• →世代間の助け合いという理念の下の制度であっ
たとしても、本当に許容されるべき大きさか。
• 今の子供たちや、まだこれから生まれてくる子供た
ちが、生まれながらにして、本人たちの意思・選択と
は無関係に3千万円(社会保障合計では4千万円)
近い「損失」を背負わされていることを放置すべきか。
• ②「経済学者達がこのような損得計算をするか
ら、若者を中心に年金不信感が広がっている」
といった類の批判
• →「愚かな国民が混乱するので真実は知らせ
ないほうがよい」といっているに等しい、まさに
「(
)」
• ③年金がたとえ世代間不公平を生んでいたと
しても、親から子への支援や(
)も考慮す
れば不公平とは言えないという類の批判
• →論理のすり替え。「年金による損が大きい人
(世代)ほど、親からの所得移転額が年金の移
転額を上回るほど大きい」という事実を提示す
べき。 2012年度末で(
)兆円超の借金
は?
• ④「年金で得をする世代は子供をたくさん生
み、制度の維持に貢献した世代であるからそ
の対価を受けるべき」、「その後の損となる世
代は子供をあまり生まず、少子高齢化を招い
たのであるからその報いを受けるべき」、とい
う因果応報論
• →例えば1940年生まれの人々が出産を開始
したと思われる1960年の合計特殊出生率は
すでに(
)という低水準にある。その後、
1970年には2.13まで回復だが、それがこの
世代に年金で3千5百万円以上もの得を受け
させるほどの貢献であるとは到底言えない。
• ⑤(
)既に高齢者であった人々に対し、
政治的に受給を認めざるを得なかったため、
こうした世代が得になるのは当たり前で、これ
を世代間不公平とは言えない
• →問題にしている例えば(
)の世代は、
創設当初の高齢者ではないことは明らか
• 創設当初の高齢者に受給を認めた途端、「そ
の時の現役が高齢者を支える」という仕組み
をとらざるを得ず、現在のような世代間不公平
が生じるのは当然だという現状肯定論もある
が、これも事実に反する。
公的年金は全ての世代で「得」のト
リック
• 「年金というものは『世代間の助け合い』を原則とす
るものなので、損得の観点から論じることは本質的
になじまない」といっていた厚生労働省が「世代ごと
の年金給付額と保険料負担額の倍率(
)」を
公表。
• その結果は、どのような世代にとっても年金の給付
額は保険料負担額の何倍も得であり、1935年生ま
れの(
)倍から生まれ年が遅くなるごとに倍率
は下がるものの、1985年生まれ以降の世代につい
ても(
)倍も得であるというもの。
コラム 2 図表 厚生労働省が試算した厚生年金の給付負担倍率
倍率
9.0
8.0
8.3
7.0
6.0
6.3
5.0
手取り賃金現在価値
利子率現在価値
4.6
4.0
3.2
3.0
3.2
2.7
2.2
2.0
1.9
1.0
2.4
2.3
2.3
1.7
1.6
1.6
2.3
1.6
0.0
1935
1945
1955
1965
1975
1985
1995
2005
生年
注)厚生労働省試算値より(http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/04/04-16.html)。
倍率
7.0
6.5
6.0
5.0
4.0
3.9
2.9
3.0
2.0
厚生労働省試算
本書試算
2.5
2.3
2.3
2.3
0.78
0.69
0.63
0.60
2.3
2.10
1.22
1.0
0.93
0.58
0.0
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
生年
• 第一の原因は、経済学者が行っている計算で
は、保険料負担として(
)まで加えてい
るのに対して、厚生労働省試算では事業主負
担を「労務費に含まれるが、賃金そのもので
はない」として、負担から除いている 。
• 第二の原因は、(
)を算出する際に非常
に特殊な値を用いている。通常は利子率を使
うが、賃金上昇率を使うなどという話は、前代
未聞である。
年金給付額
年金給付額
2倍!
保険料負担額
保険
料負
担額
年収(万円)
1200
②
①
80
80
1000
160
800
600
400
840
200
人
件
費
1
0
0
0
万
円
920
人
件
費
1
0
8
0
万
円
に
増
加
?
③
80
80
840
0
全額労働者負担
労使折半(厚労省想定)
労使折半(現実)
人
件
費
1
0
0
0
万
円
雇用主負担
労働者負担
手取給与
(1)利子率を使う場合
(2)賃金上昇率を使う場合
損!
利子率で運
用した分を
考慮
得!
賃金上昇
率を考
慮?
比較
比較
保険料額(過去) 保険料額(将来)
年金額(将来)
保険料額(過去) 保険料額(将来)
年金額(将来)
倍率
基本ケース(3.2%利子率割引) 2.5%賃金上昇率割引
4.1%利子率割引
1940年生まれ
2.10
2.14
2.04
1950年生まれ
1.22
1.31
1.13
1960年生まれ
0.94
1.05
0.81
1970年生まれ
0.79
0.91
0.64
1980年生まれ
0.69
0.83
0.56
1990年生まれ
0.63
0.76
0.50
2000年生まれ
0.60
0.72
0.47
2010年生まれ
0.58
0.70
0.45
実態は2つしかない賦課方式下での
改革
• 「社会保障財政」という観点からみると、驚く
べきことに、近年行われた全ての改革は、
たった(
)種類の改革手段のどちらかに
まとめることができる
• 一つ目は「負担の引上げ」で、いわば既定路
線(
)の改革
• 2002年医療制度改革の政府管掌保険(政管
健保)の保険料率引上げ、2004年年金改革
の保険料率スケジュールの決定、2003年、
2006年の介護保険料見直し
• 二つ目は「給付カット」
• 2004年の年金改革で行われた「マクロ経済ス
ライド」という給付カット。1999年改革の「給付
乗率カット」(年金の受給金額を算定する際に
用いられる係数の引下げ)。2002年、2006年
の医療制度改革や、2005年介護保険改革で
行われた様々な形での自己負担(率)引上げ。
診療報酬単価引下げ、介護報酬単価引下げ。
• 2005年の介護保険改革で行われた自治体権
限の強化も、強力な給付カット
• 様々な名前、種類の改革が行われていても、結局それ
は、負担の引上げか、給付のカットを、手を変え品を変
え、国民に迫っているに過ぎない。
• 負担引上げの代わりに、いくら給付カットを行ったとして
も、それは対症療法、あるいは一時的な延命策に過ぎ
ず、本質的な問題解決にはならない。
• なぜならば、第一に、給付カットを行って負担上昇を回
避できたとしても、それは一時的なもので、またすぐに
負担引上げをしなければならない。
• 第二に、給付カットは、世代間の不公平問題を解決する
ことができない。
• 第三に、給付カットはおのずと限界があり、それが行過
ぎると、社会保障制度の(
)がなくなってしまう。
簡単な例え話による説明
• 図1-8は、図1-1を表にしたもの。一番上の行
は、高齢者/現役比率が1:10であった時期
を第1期と名づけ、1:5の時期を第2期・・・以
下順次、第7期以降までの時期に分ける。
• 世代間不公平の大きさをみるために、最後の
行の「給付負担倍率」 。
• 人々の人生の長さは3期間だけであり、現役
を2期間、高齢者を1期間の生きるとする。
図表 1-8 「簡単なたとえ話」の数値例(現状のケース)
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
1:10
1:5
1:4
1:3
1:2
1:1
1:1
高齢者年金(月当たり)
10万円
10万円
10万円
10万円
10万円
10万円
10万円
現役保険料(月当たり)
1万円
2万円
2.5万円
3.3万円
5万円
10万円
10万円
給付負担倍率
3.3倍
2.2倍
1.7倍
1.2倍
0.7倍
0.5倍
0.5倍
高齢者・現役比率
第6期 第7期以降
• 給付カットをしても保険料は引上がる
• 給付カットをしても世代間不公平は解決しない
図表 1-9 給付カットが行われるケース
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
1:10
1:5
1:4
1:3
1:2
1:1
1:1
高齢者年金(月当たり)
10万円
10万円
10万円
9万円
8万円
8万円
8万円
現役保険料(月当たり)
1万円
2万円
2.5万円
3.0万円
4万円
8万円
8万円
給付負担倍率
3.3倍
2.0倍
1.4倍
1.1倍
0.7倍
0.5倍
0.5倍
高齢者・現役比率
第6期 第7期以降
• 給付カットをしても世代間不公平は解決しな
い
図表 1-10 保険料を固定するケース
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
第6期
第7期以降
1:10
1:5
1:4
1:3
1:2
1:1
1:1
高齢者年金(月当たり)
10万円
10万円
10万円
7.5万円
5万円
2.5万円
2.5万円
現役保険料(月当たり)
1万円
2万円
2.5万円
2.5万円
2.5万円
2.5万円
2.5万円
給付負担倍率
3.3倍
1.7倍
1.0倍
0.5倍
0.5倍
0.5倍
0.5倍
高齢者・現役比率
低福祉・高負担か、中福祉・超高負担
か
• 近年の社会保障改革では、年金を筆頭に、医療保険、
そして介護保険もが、「保険料引上げ」一辺倒の改革
から、「給付カット」を併用するという改革手法の舵を
切るが、そろそろ限界。
• 特に、国民年金(基礎年金)については、2013年度現
在の満額支給額は月(
)円だが、これは既に
都市部においては生活保護の(
)を下回っ
ている水準。
• いずれにせよ、「(
)それとも
(
)か」などという選択肢は幻想に過ぎない。
社会保障費・国民所得比の比較
50.00%
44.10%
45.00%
39.20%
40.00%
35.00%
11.27%
30.00%
4.55%
20.00%
12.00%
19.90%
27.40%
25.70%
25.00%
39.40%
20.60%
10.04%
11.00%
福祉その他
医療
年金
合計
10.29%
9.88%
3.43%
8.49%
15.00%
8.58%
8.54%
10.00%
5.00%
16.90%
17.10%
ドイツ
フランス
12.62%
8.55%
8.82%
アメリカ
イギリス
14.36%
0.00%
日本
スウェーデン
高齢化率の比較
%
45.0
40.0
35.0
30.0
日本
25.0
ノルウェー
スウェーデン
20.0
デンマーク
15.0
10.0
5.0
0.0
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
2030
2040
2050
積立方式へ移行せよ
• そもそも社会保障制度の前提となっているこの
「世代間の助け合い」という財政方式自体を変え
てしまうという改革:「コペルニクス的発想転換」
こそが、急速に進むわが国の少子高齢化を乗り
切る唯一の方法。
• 「現役時代に自分の老後に使うための社会保障
費を積み立てておく」という積立方式導入が必要。
• 積立方式で制度が運営されるのであれば、社会
保障財政は少子高齢化の影響を全く受けない。
• 積立方式では、自分の世代だけで財政が完
結している。高齢者/現役比率がどうなろうと、
保険料引上げや給付カットを行う必要はない
図表 1-11 積立方式で運営されるケース
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
第6期
第7期以降
高齢者・現役比率
1:10
1:5
1:4
1:3
1:2
1:1
1:1
高齢者年金(月当たり)
-
10万円
10万円
10万円
10万円
10万円
10万円
現役保険料(月当たり)
5万円
5万円
5万円
5万円
5万円
5万円
5万円
1倍
1倍
1倍
1倍
1倍
1倍
1倍
給付負担倍率
• 本書の結論を前もって言っておくと、
• ① 社会保障制度の全てをこの積立方式に
すべきである
• ② 現在の賦課方式からでも十分に積立方
式への移行がスムーズに可能である
• ③ 積立方式への移行をなるべく早く行うこと
こそが、少子高齢化による悲惨な未来を避け
る唯一の道である。