千葉県千葉市 - ブックスタート

No.53
Jun 2016
年 4 回発行〔1・4・6・9 月〕
ました!
行ってき
千葉 県千 葉市
人口97万人の政令指定都市、千葉県千葉市。年間7,000人
以上の赤ちゃんが生まれ、6つの行政区からなる同市のブック
スタートは、市の健康支援課が中心となり、各区の健康課や
図書館、市民ボランティアとの連携のもとに行われています。
このような大規模都市で、赤ちゃんと保護者一組一組に向き合
い、丁寧に絵本のひとときを届けるためには、多くの人の協力が
必要です。これまでに300名を超える市民が、ボランティアとし
て事業を支えてきた千葉市。その活動の様子をご紹介します。
【ブックスタート開 始年月】 2 011年 8月 【 対 象月齢 】 4∼5か月 【 対 象者数 】約7,5 00人 【 実施 会場 】 4か月児健診 【 事 務局 】 健 康支援課
【 連 携体制 】健康支援課、各区健康課、図書館、ボランティア
会 場 の 様 子 (美浜保健福祉センター)
【4か月児健診の流れ】 計測 ⇒ オリエンテーション ⇒ 診察前の待ち時間にブックスタート ⇒ 診察 ⇒ BCG接種 ⇒ 個別相談
■ オリエンテーションでは
■ 診察前の待ち時間になると……
ボランティアが 読 みきかせ 用 の 絵 本を持って親 子 のもとへ 。
保 健 師 から 言 葉 か
け・語 りか け の 大 切
さ や 、診 察 前 の 待 ち
時 間 に ボ ラン ティア
による絵 本 の 読 み き
か せ が あ ることなど
を伝えます。
絵本と図書館作成の資料が
入ったブックスタート・パック
■ 絵本の体験 一 組 一 組 の 親 子と対 面しながら読 みきかせ 。赤ちゃんと絵 本を開く時 間 の 楽しさを丁 寧に伝えます。
ブックスタート・ニュースレターNo.53 (1)
■ 多くの関係者が同じ思いで活動するために
を行うのか?」という疑問を持つ保健師もいましたが、
講座を通して、ブックスタートが絵本を介して親子の絆
千葉市でブックスタートが始まったのは2011年8月。
を深め、赤ちゃんの健やかな心を育む活動であること
健康支援課(旧健康企画課)が予算要求を続けていた
や、保護者にとっても心安らぐ時間となることを知り、
中、2009年に新市長がマニフェストにブックスタートの
事業の目的について理解を深めることができたそうです。
導入を掲げたことがきっかけとなり、事業の開始が決定
しました。
さらに、図書館で活動している「地域おはなしボラン
ティア」の協力も得られることになり、地域ぐるみの子
開始前の1年間は、準備期間としてすべての区で事業を
育て支援策として、事業が行われることになりました。
円滑に運営するための体制づくりが行われました。まず
は、担当課である市の健康支援課の呼びかけにより、
<ブックスタート事業連携体制>
関係部署(各区の健康課・図書館)が集まって、事業の
健康支援課(ブックスタートの担当課)
目的や運営方法を共有しました。
各区健康課
次に、活動の充実には大勢の市民の協力が不可欠なこ
とから、読みきかせを担当する「あかちゃんとのふれあ
あかちゃんとのふれあい
絵本ボランティア
い絵本ボランティア」を募集。全6回の講座を行い、ブッ
各区図書館
地域おはなしボランティア
クスタートや赤ちゃんのこと、健診の流れなどを学ぶ機
会を設けました。講座の一部には、保健師全員が同じ思
千葉市では、事業開始後もこのような研修会を定期的
いを持つことが大切だとの考えから、各区健康課の保
に行っています。昨年12月にも、
「ブックスタート事業
健師も参加。それ以前は、
「健診でなぜ読書推進の活動
研修会」を開催し、関係者が集まりました。
ブックスタート事業研修会 (2015年12月開催)
【開催目的】ブックスタートの意義の再確認。
グループワークでそれぞれの経験や思いを語り合い、活動へのエネルギーを得る。
【参 加 者】ボランティア、健康支援課、各区の健康課・図書館
保護者アンケートの紹介
3歳児健診で行ったアンケートの結果を紹介。保護者の気持ちが伝わりやすいよう
に、手書きのコメントをそのままスクリーンに映し出しました。
<紹介されたコメント例>
・今でももらった本を読んでいて、当時と違う反応に成長を感じます。当時の思いが
よみがえり、子どもをいとおしく思えます。
・健診で絵本を読んでいただき、少し緊張していた思いがホッとなごみました。
・自分も将来ボランティアに携わって、赤ちゃんとふれあいたいと思いました。
グループワーク
グループに分かれ、保護者役、ボランティア役を体験。保護者の役には「寝不足で疲
れているお母さん」
「不安と寂しさで泣きそうな表情のお母さん」など、コンディ
ションが良くない状況が設定され、声のかけ方や、保護者の立場になってどのよう
に感じたかなどについて、他のメンバーと共有しました。
図書館から
「知っていると役立つ図書館情報」として、図書館の子育て応援コーナーの様子や、
ウェブサイトから貸し出し予約ができることなどを紹介。
NPOブックスタートから
ブックスタートの理念や地域の事例などを紹介。
(2) ブックスタート・ニュースレターNo.53
担当者インタビュー
健康部健康支援課 保健師 伊藤 智重子 さん
◎ 絵本の体験が記憶に残るのは、ボランティアの丁寧な対応があってこそ
3歳児健診でアンケートを行ったところ、
「ブックスタートで絵本を読んで
もらった時のことを覚えている」という声が多く集まりました。その時の
赤ちゃんの様子や保護者自身の気持ちを覚えているということは、現在の
我が子の成長を改めて感じることにもつながると思います。
この結果は、絵本をただ“物”として渡すのではなく、親子一組ごとにボラン
ティアが顔を合わせて、和やかに話をしたり読みきかせをしたりと、丁寧に
手渡してきたからこそだと思います。
◎ 地域の中に、子育てをあたたかく見守る人を増やす
子育てをしていて、例えば、買い物に出かけて赤ちゃんがぐずって困っている時に、周りの人から優しく声を
かけられたり、あたたかく見守ってもらえると、それだけで気持ちが楽になるということもあると思います。
ですから、ボランティアから「散歩の途中に赤ちゃん連れに目がいくようになった」とか、「街中で保護者
から挨拶をされて、成長した赤ちゃんに再会できて嬉しかった」といった
話を聞くと、私もとても嬉しくなります。
担当になる前は、ボランティアの養成は、事業に協力してくれる人を増やす
というイメージを持っていました。しかし担当してみて、実は、子育てを
あたたかく見守る人を増やしていくことなのだということがわかりました。
そうした人たちが地域の中に一人でも多くいてくれるということは、とても
大きな意味があると感じています。
ボランティアに聞きました
Q どんな思いで親子と接していますか?
忙しい健診の中でも、絵本の時間くらいは、肩の力を抜いて楽しく過ごしてもらえたらと思います。保護者は、
子育てを頑張っていても、それを褒められることはあまりないかもしれません。だからこそ、例えば、読みきかせの
時にお母さんが一緒に声を出してくれたら、
「お母さんの声が加わると、赤ちゃんがよく聞いてくれますね。ありが
とうございます」と伝えるなど、保護者を褒める言葉をできるだけかけていきたいです。
伊藤さんより
親子が自然と笑顔になるような時間を過ごしてもらうという、私たち専門職にはなかなかできない部分を、
ボランティアが担ってくれていると感じます。
<取材を終えて>
「こんにちは」と穏やかに声をかけられ、保護者が次第にくつろいでいく……。会場では、短い時間の中でも、
親子とボランティアが、絵本を間にとても楽しそうに交流していました。そうした様子を見ると、千葉市のブック
スタートは、絵本だけでなく、地域の人とふれあう心地よいひとときの思い出もプレゼントしているように感じ
ました。関係者が大勢いる大規模な自治体でも、思いを共有するための工夫をすることで、こうしたあたたか
な活動が行えるのだなということを改めて学びました。
(大津)
ブックスタート・ニュースレターNo.53(3)
特 集
A市の保護者座談会
∼ ブックスタートを体験して ∼
ブックスタートを体験した保護者は、会場でどのようなことを感じたのでしょうか。また、どのような
子育て支援を求めているのでしょうか。今回は、ある地域(A市)にご協力をいただき、座談会形式で
保護者に直接お話を伺いました。質問紙を使ったアンケート調査では、なかなか明らかにならない
生の声が集まりましたので、ご紹介します。
< A 市のブックスタート実施状況 >
【ブックスタート開始年】2002 年 【対象月齢】3 か月児 【実施会場】健康教室
【実施方法】待ち時間に、ボランティアまたは図書館員が、一組ずつに絵本の読みきかせと趣旨説明を行いパックを手渡す
< 調査概要 >
【対象】A 市でブックスタートを受けた 4 か月児及び 8 ∼ 9 か月児(いずれも第 1 子)の母親 10 人
【方法】座談会形式によるインタビュー(赤ちゃんの月齢別に 2 グループに分け実施)
ブックスタートの様子
身体測定が終わった親子
は、グループに分かれて
グループワークの開始を
待つ。その間にスタッフ
が声をかけてブックス
タートを行う。
会場内の掲示には、
ブックスタートに
つ い て も 案内され
ている。
ブックスタートについて
Q. ブックスタートを受けた時の感想は?
絵本の読みきかせについて
●絵本は家にあったのですが、まだ早いだろうと思って読んでいませんでした。だから、ブックスタートを
受けた時は、“もうやってもいいんだ”と思いました。
●「赤ちゃんは最初、絵本を口に入れたりすることもある」という話を聞いて、そういうものなんだと安心
しました。
●『くだもの』について、
「赤ちゃんがもう少し大きくなったら、描かれている果物を取って
食べさせる真似をしても楽しい」という説明がありました。文章を読むだけではなく、
絵本にそんな使い方があることを知らなかったので、教えてもらえてよかったです。
●スタッフの方が「さあどうぞ」と書かれているところを「さあどうぞ、さあどうぞ」と
2 回読んだのを聞いて、書いてある通りに読まなくてもいいんだと感じました。
『くだもの』
平山和子 さく
福音館書店
●読みきかせの時に子どもが全然絵本を見なかったので、思わず「ちゃんと見て」と言った
のですが、スタッフの方が「見ていなくても気にしないでくださいね」と声をかけてくれて、ホッとしました。
(4) ブックスタート・ニュースレターNo.53
●家に『ぶーぶーぶー』があるのですが、読んでいると、私自身が飽きてしまうことがあり
ました。でもブックスタートで「赤ちゃんは“ぶーぶーぶー”など、ことばのリズムが好き
なんですよ」と説明してもらい、絵本に音の楽しさがあることを知りました。
会場の運営について
●私はブックスタートについて、
“絵本の説明がある”くらいの認識しかなく、健康教室の
『ぶーぶーぶー』
こかぜさち ぶん
わきさかかつじ え
福音館書店
内容も把握していませんでした。だからわけの分からないまま色々な話を聞くことになり、
予想以上に疲れました。でも、不満だったというより“今日は盛りだくさんだったけど、頑張ったぞ”という
感じでした。実のある話だったら長くても聞けるのですね。何度も出向くのは大変なので、一度にまとめ
て話が聞けてよかったです。
●離乳食の話などが続き、
“長いな∼、疲れたな∼”と思っていた時に、スタッフの方から矢継ぎ早な口調で「ブッ
クスタート、もう受けた?話聞いた?」と聞かれました。スタッフの方は焦っていたのかもしれませんが、
正直に言うと“突然何なの? もういいです”という気持ちになりました。健康教室のお知らせに、ブック
スタートのことも書いてあった気がしますが、何をするのか理解できていなかったので、こちらも話を聞く
心づもりができていなかったし、警戒しちゃったんですね。事前告知は丁寧にしたほうがいいと思います。
Q.
絵本をもらったことをどう思いますか?
●本屋さんに行っても、赤ちゃんにどんな絵本を選んだらいいか分からなかったので、もらえたことで、それを
自然に使うようになりました。
●『くだもの』は、絵が写実的で“なんだかリアルだな∼”と感じたのですが、子どもはよく見ていました。私は
もう少しかわいい感じの絵本を手に取りがちなので、自分では選ばないような絵本をもらえてよかったです。
●図書館の本ではなく自分の本なので、子どもが好きなように扱えます。
Q. パックに入っていた資料の中で、印象に残っているものは?
●絵本リストは見ました。絵本の内容に関する簡単な説明もあって、参考
パックに入っている A 市作成の資料
・絵本リスト・図書館利用案内
・貸出カード申込書・図書館カレンダー
になりました。本屋さんで一冊ずつ絵本を開くのは大変ですからね。
●絵本リストの中にあった図書館の情報を見て、赤ちゃんでも本を借り
ていいんだと思いました。
カラー印刷された絵本リスト
家庭での絵本の時間
Q. 自宅で絵本を開いていますか?
●寝る前の習慣になるように、毎日読んでいます。
●雨の日の遊びの一つとして読んでいます。
●うちでは、おもちゃ箱に絵本も入れています。おもちゃに飽きたら読むという感じです。
●読んでもすぐに投げてしまいます。目に当たりそうで危ないので、今は紙の絵本ではなく布絵本を楽しんで
います。
次ページにつづく→
ブックスタート・ニュースレターNo.53 (5)
特 集
Q. 赤ちゃんとの生活の中で、絵本はどのような存在ですか?
●3 か月くらいの赤ちゃんと一緒にいると、まだ寝返りもできないし、どう遊んであげたらいいか分からなく
なることがあります。そんな時に絵本があるといいと思います。
●絵本を読むのは我が子のためですが、自分自身がリラックスしたり、癒されたりすることもあります。
●おもちゃは子ども一人でも遊べるもの。一方で、大人と一緒に楽しめるのが絵本だと思います。
Q. ご家族は絵本を活用していますか?
●健康教室からの帰宅後、もらった絵本を机の上に置いておいたら、早速パパが読みきかせをしていました。
●パパは子どものお世話がまだあまり上手ではないので、絵本であやし方のレパートリーが一つ増えたようです。
●パパが読むと、子どもも何か新鮮なものを感じるようで、私が読むときとは子どもの反応が違いました。
それがわかって楽しかったです。
市の子育て支援に期待すること
Q. 赤ちゃんとお出かけしたいですか? どんな子育て支援があるといいですか?
●子どもが 3 か月くらいになると、
余裕が出てくるのでお出かけしたいです。その方がストレス解消になります。
●出かけたいと思いますが、赤ちゃんを連れていると、どこに行くにも勇気がいります。“予約が必要なのかな。
おむつ替えや授乳ができるかな”などいろいろ考えると、行ける場所はすごく限られてしまいます。
●赤ちゃんとの生活は日々単調なので、ちょっとした変化がほしいんです。児童館や子育てセンターに行った
こともあるのですが、赤ちゃんと何をしたらいいのか分からなくて……。おもちゃを手当たり次第なめて
終わり、という感じになってしまいます。だから、イベントに参加するなど、目的をもって出かけたいです。
●知り合いの親子と子育て支援センターに行きましたが、一人だったら何のきっかけもなく足を運ぶ勇気は
持てなかったかもしれません。出かけたいけれど、最初の一歩が踏み出せない。だからイベントをたくさん
企画してもらいたいです。
●市内に設置されている授乳室の一覧があったらありがたいです。
Q. 市の子育て支援情報をどのように収集していますか?
●市で発行している紙の資料や広報誌で、赤ちゃん連れでも参加できるイベントをチェックしています。
パソコンを開いてウェブサイトを検索する時間がないので、紙の資料は便利です。
●ブックスタートでも、子育て支援情報をもっと教えてほしかったです。
今回の調査に参加した保護者の中には、
“絵本の楽しみ方とは、書かれている文章を読むこと”と捉えていた
人もいましたが、ブックスタートでのスタッフの声かけが、それ以外の楽しみ方を知るきっかけになったよう
でした。また、子育て支援施設が必要とされる一方で、実際には利用をためらう保護者がいることもわかり
ました。地域からのより踏み込んだ働きかけが求められているのではないでしょうか?
(6) ブックスタート・ニュースレターNo.53
イベント参 加 報 告
みなさんのまちでも
座談会を取り入れてみませんか?
多くの対象者から得た評価を数値として表す、アン
シンガポール
Asian Festival of Children’
s Culture
(アジア子どものコンテンツ・フェスティバル)
に参加しました
ケートなどの定量調査は、全体的な傾向を把握する
上で大変有効です。一方、今回のような座談会形式
などの定性調査では、対象者の感想や意見を、その
理由も含め、深く聞くことができます。
保護者から寄せられた率直な意見は、活動をさらに
充 実 さ せ る た め の ヒ ン ト に な る か も し れ ま せ ん。
みなさんのまちでも、取り入れてみてはいかかでしょ
うか?
会場となったシンガポール国立図書館
2016 年 5 月 24 日∼ 29 日にシンガポール国立図書館
で開催された、Asian Festival of Children’s Culture
(日本語名称:アジア子どものコンテンツ・フェスティ
< 調査にあたっての工夫 >
今回は、保護者の本音を引き出すことを目的とし、
座談会形式で調査を行いました。こうした手法では、
参加者が気兼ねなく話せるような工夫が必要です。
バル)に、NPO ブックスタートから 2 名が参加しました。
このイベントは、アジアを中心に子どもに関する活動に
携わる、作家・イラストレーター・図書館員・美術館員・
出版関係者、教育関係者などが、交流し、学び合い、
ビジネスの機会を発見する場を提供することを目的に、
毎年開催されています。
2016 年は“日本年”として、日本のコンテンツをアジア
や世界の人たちに紹介する機会が設けられました。
参加の募集チラシ
市職員から保護者に直接手
渡して参加者を募りました。
左:いわさきちひろさんのイラストがポスターなどに使われていました。
右:日本の絵本の歴史を紹介する展示があり、貴重な原画を間近にみる
ことができました。
会場の様子
お茶やお菓子も用
意 し て、リ ラ ッ ク
スした雰囲気作り
を心がけました。
NPO ブックスタートは、5 月 26 日、図書館の会議室
を会場に日本のブックスタートを紹介。映像や写真を交
えながら、日本の市区町村での実際の活動や、全国的な
広がりについてプレゼンテーションを行いました。
当日は、シンガポール、マレーシア、中国、オーストラ
リア、日本などから、約 50 名の方が参加。質問タイム
託児コーナー
保護者が話に集中
で き る よ う、託 児
を 行 い ま し た。備
品は市の児童セン
では、
「赤ちゃんの絵本
の 楽 し み 方 に つ い て」
「国 の 事 情 に 合 わ せ た
ブックスタートの展開
ターからの貸し出
方法について」などの質
しです。
問があがり、活発なやり
とりがなされました。
ブックスタート・ニュースレターNo.53 (7)
コラム
すべての子どもに本との出会いを
専修大学文学部・大学院法学研究科 教授
日本子どもの本研究会 会長
野口 武悟
今年の4月から、障害を理由とする差別の解消の推進に
文字を大きくして読みやすくした
「拡大写本」
、あそびなが
関する法律
(障害者差別解消法)
が施行となりました。この
ら作品を楽しめる
「布の絵本」
も各地のボランティアグルー
法律によって、
行政機関等には、
障害者
(もちろん、
子どもも
プなどで作られています。さらに、近年では、絵本の作品を
含みます)
への合理的配慮の提供が義務づけられました。
手話で読みきかせたDVD
「しゅわ絵本」
も出ていますし、
背景にあるのは、
「障害をもつ人を他の市民と対等平等
「マルチメディアデイジー※2」
という形式で製作された絵本
に存在させる社会こそノーマルであり、そのような社会に
の作品もあります。障害のある子どものニーズに応じて適
※1 を目指そうとするノーマライゼーショ
変革していくこと 」
したものを用意してほしいと思います。なお、バリアフリー
ンの思想です。合理的配慮は、
ノーマライゼーション実現
化された作品が販売等されておらず入手できない場合、公
のための実践的な方法の一つなのです。
立図書館では原本の著作権者に許諾を得ることなく複製
では、
合理的配慮とは、
何なのでしょうか。簡潔にいえば、
障害者一人ひとりのニーズをもとに、状況に応じた変更や
調整を、行政機関等にとって負担のかかり過ぎない範囲に
おいて行うことです。障害のある子どもの読書に関する
(媒体変換)
することが認められています
(著作権法第37条
※3
第3項 )
。
障害のある子どもの保護者の中には、
うちの子は一生本
以下のような対応も、
合理的配慮に含まれるでしょう。
を楽しめないのではないかと不安に思っている人がたくさ
一つは、作品を楽しめるように工夫することです。例え
性を高めるためにも、前述したような対応のもとに、本との
ば、読みきかせの際に、手話や歌、手遊びなどを取り入れる
ことで、障害のある子どもも
(そうでない子どもも一緒に)
んいます。保護者の不安をやわらげ、子どもの発達の可能
出会いの機会を早いうちにしっかりと作ってあげたいもの
です。それをできるのは、
ブックスタートに他なりません。
よりいっそう楽しむことができます。こうしなければダメと
いう画一的な対応法はありません。障害のある子どもの
ニーズを見きわめて、
臨機応変に工夫していきましょう。
もう一つは、
バリアフリー化された作品を用意することで
す。絵本を例にすると、
「 さわる絵本」があります。指でさ
わって分かるように浮き出た絵や点字がついています。ま
た、点訳シートを市販の絵本に貼った
「てんやく絵本」
、絵や
※1 事典刊行委員会編『社会保障・社会福祉大事典』旬報社、
2004 年、
p.433
※2 電子書籍の一種で、文を音声で読み上げることが可能です。読
み上げにあわせて文に色(ハイライト)が付くようになってい
るため分かりやすく、とくに知的障害や発達障害のある子ども
の読書に有効です。日本障害者リハビリテーション協会や伊藤
忠記念財団などが製作と頒布を行っています。
※3 詳しくは「図書館の障害者サービスにおける著作権法第 37 条
第 3 項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」
(http://www.jla.or.jp/portals/0/html/20130902.html)
を参照ください。
今年3月発行の別冊ブックスタート・ハンドブック
「障がいのある方への対応を考えるために∼視覚・聴覚の障がいを中心に∼」
では、
絵本のバリアフリーに関する情報なども紹介しています。関係者の皆さんでぜひご活用ください。
新刊
案内 「 子ども・社会を考える」講演会シリーズ ②
訪問記録
『赤ちゃん∼ゆりかごの中の科学者∼』
榊原洋一 (小児科医/お茶の水女子大学副学長) 2014年7月に名古屋市で開催した
イベントの記録集を刊行しました。
実施自治体の事務局ご担当者様
に1部ずつお届けしましたので、
ぜひ皆さんでご覧ください。
※NPOブックスタートウェブサイトから
購入いただけます。
(8) ブックスタート・ニュースレターNo.53
4月
5月
6日 埼玉県杉戸町
8日 福島県白河市
11日 愛知県名古屋市
12日 佐賀県武雄市
13日 群馬県前橋市
24日 東京都小平市
24日 兵庫県芦屋市
24∼27日
シンガポール(AFCC)
25日 静岡県御殿場市
11日 静岡県静岡市
13日 栃木県野木町
兵庫県芦屋市(24 日)