2016 年度日本芝草学会春季大会 - 1

2016 年度日本芝草学会春季大会
研究発表 校庭芝生化が児童の体力と傷害予防に及ぼす効果の実態 ○朝野 聡* ・ 堀川浩之** ・ 中野 淳一 *
杏林大学 ・ **昭和大学 ・***グリーンスポーツ鳥取 キーワード:校庭芝生化、体力、傷害予防 A fact-finding survey of school turf effect on physical fitness and injury prevention in primary school
children
○ Satoshi ASANO*. Hiroyuki HORIKAWA** and Junichi NAKANO***
*
Kyorin University , **Showa University, ***Green Sports Tottori Key words : turf play-ground, physical fitness, injury prevention
要旨:校庭芝生化が児童の体力や傷害予防にどのような影響を与えるかについて検証するために、滋賀県近
江八幡市内の全小学校(12 校)を対象に、体力測定データおよび保健室データについて校庭芝生化実施校(芝
生校)と未実施校(土校)の横断的比較、および芝生化実施前後の縦断的比較を統計分析した。児童の体力は
横断的比較から、芝生校の方が土校より体力測定の成績が統計学的に有意に高い項目が多く検出され、同一校
における縦断的比較では、校庭芝生化による体力測定値の向上が示唆された。年間の校庭での傷害発生率は、
芝生校の方が 7.9〜17.0 ポイントの低値を示し、擦過傷の発生件数は 42.3〜51.5%の減少が観察され、芝生化
の傷害予防効果が示された。
1. 研究目的 滋賀県近江八幡市の小学校を対象として市内全域の校庭芝生化校と土校の体力測定データおよび保健室デー
タを比較することにより、
校庭芝生化による児童の体力の向上や傷害予防の効果を検証することを目的として、
データの統計学的解析をした。 2. 研究方法 (1)調査対象 調査対象とした近江八幡市は、平成 22 年度より校庭芝生化に取り組み、平成 26 年度には市内 12 校中 5 校の
校庭のほぼ全面の芝生化を達成している。 近江八幡市教育委員会の協力を得て、市内の全小学校の体力測定
データ、および保健室データを入手し分析した。 (2)体力測定データの分析 毎年各校で実施されている体力測定データのうち横断的比較の条件に適合したデータを抽出し、平成 26 年
度は、芝生校 4 校、土校 5 校、平成 25 年度は、芝生校 3 校、土校 5 校の各平均値と標準偏差を用い、2群間
の平均値の差の検定をした。また同一校での芝生化実施前後の縦断的比較として 2 校の芝生校の芝生前年度と
芝生化 1 年後のデータを比較検討した。
(3)保健室データの分析
各小学校より提出された保健室来室記録をもとに、外科的な保健室利用について傷害発生の場所と種類を算
出し、年間の傷害発生率を求めた。横断的比較としてこれらの数値の算出が可能であったデータは、平成 26
年度は芝生校 2 校、土校 3 校、平成 25 年度は芝生校 2 校、土校 5 校であった。また、芝生化実施前後の縦断的
比較として、芝生校 2 校の芝生化前年度と芝生化 1 年後のデータを比較検討した。 3. 結果と考察 (1) 体力測定値の平均値の比較 体力測定データについて 4、5、6 年生の男女別の体力測定種目の平均値について芝生校と土校の 2 群間で比
較したところ、26 年度データでは、芝生校が有意に高値だった項目は 15 項目あり、これに対して土校が高値
となった種目は 8 項目、差が検出されなかった項目は 25 項目となった(表 1)
。同様に 25 年度の横断的比較
でも、芝生校が高値だった項目は 14 項目に対して土校が高値だった項目は 9 項目、差が検出されなかった項
目は 25 項目となった。また同一の芝生校について芝生化前後の体力測定値を縦断的に比較したところ、表2
-1-
に示す通り芝生化後の年度の測定値が有意に高い値を示した項目が 12 項目検出された。同様にもう 1 校の芝
生校においても芝生化後に有意に高くなった項目が 18 項目検出され、芝生化後年に体力が向上していること
が示唆された。
(2) 保健室データから見た傷害発生の比較 校庭での 1 人当たりの年間傷害発生率は、平成 25 年度、平成 26 年度のいずれにおいても芝生校の方が低い
値を示した(図-1)
。また芝生校 2 校における芝生化前後の縦断的比較において、校庭での傷害発生の割合は 2
校において 11.9 ポイント(z=4.29;p<0.001)と 9.5 ポイント(z=4.24;p<0.001)の減少を示し、特に擦過
傷の発生件数においては、42.3%と 51.5%の減少が観察され、芝生化が擦過傷の発生を大幅に抑制しているこ
とが示された。 表-1 平成 26 年度の芝生校(4 校)と土校(5 校)の体力測定値の比較 0
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芝>土:有意に芝生校が高値 芝<土:有意に土校が高値 有意水準:p<0.05*, p<0.01** ,p<0.001*** 表—2 芝生化校(A 校)の芝生化前後の体力測定値の比較 6
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前<後:有意に芝生化後が高値 有意水準:p<0.05*, p<0.01** ,p<0.001*** 6 .
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芝
平成 26 年度 8
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平成 25 年度 (
図-1 校庭における児童一人あたりの年間傷害発生率の比較 -2-
)