橋爪仙彦.(2007). 「コミュニカティブ・ライティングに向けて――ダイヤログ・ジャーナル・ ライティングの導入」『鳥羽商船高等専門学校紀要』.29 号.pp.5-12 担当 池田有希菜 吾妻亮太郎 武田勇美 吉居薫乃 0. はじめに ・ 「英作文」…伝統的な指導方法である和文英訳など 「ライティング」…コミュニケーション活動のひとつ ○ライティングの具体的指導方法の提案としてダイアログ・ジャーナル・ライティングの活 動を元にしたコミュニカティブなライティング指導の可能性 1. ライティングの意義 1.1 ライティングの定義づけ ・学習指導要領における「ライティング」の位置づけ 「オーラル・コミュニケーションⅠ」「英語Ⅰ」を履修した生徒がそれらの学習の上に継 続して履修するもの →「ライティング」を行う上で既に基礎的な学力が養成されているという前提 1.2 ライティングの指導上の問題 ・教室での現状 綴りや文法の誤り、内容の混乱などが頻発している。 →基礎的な学力が十分に養成されないままライティング活動に移行している。 →そもそも基礎的な学力が「発信」する能力にどのように結びついているのか。 ・教師のライティング指導 学習指導要領の目標達成に至るまでには多くの時間と労力が必要。 ・授業の中のライティング ライティングにもさまざまな段階があり、自由作文の段階まで到達するには根気強く段 階別に活動を継続する必要がある。 1.3 発信させるライティング指導 ・言語教育の中心課題…コミュニケーション能力の育成 →ライティングもコミュニカティブな活動の一環として取り組むべき。 ○「誰かに何らかの情報を伝える」 「双方向に意味のあるやりとりをする」というコミュニ カティブなライティング 1 2. ダイアログ・ジャーナル・ライティング 2.1 ダイアログ・ジャーナル・ライティングの定義 ・ダイアログ・ジャーナル・ライティング(以下 DJW) …学習者と教師とのライティングを通したコミュニケーション(Peyton & Reed(1990)) ① 完全に個人的な内容で、学年や学期を通じて定期的に継続して行う。 ② 不正確な綴りや文法の間違いは問題とせず、メッセージ内容を重視する。 ③ 学習者一人ひとりの言語能力や興味に留意する。 →教師はあくまでもコミュニケーションのパートナーであり、評価を行わない。 ○評価という不安材料をなくすことでまず積極的にコミュニケーションを図ろうとする態 度を育成する。 2.2 DJW 導入の利点 ・Peyton & Reed(1990)による DJW 導入の利点 (1) 生徒と教師のコミュニケーションの機会が増える。 (2) 教師は言語を個々に区別し、学習を充実させることができる。 (3) 教師は学習計画を補助できる情報を得ることができる。 (4) 生徒は本物のコミュニケーションのためのライティングの機会を得る。 (5) 生徒はリーディングの機会が増える。 3. 実践研究 3.1 目的 学習者の現状のライティング能力を測定した後、DJW を導入して定期的なライティング活 動を実施し、学習者のライティング能力や態度にどのような変化が生じたかの観察とその 考察を行う。 3.2 被験者 「英会話」の授業を履修している高等専門学校 3 年生 25 人 ※2 年間、リーディング・文法・リスニングの 3 つの領域についての授業を履修しているが 英作文の学習活動については特に指導を受けてきていない。 3.3 手順 英文で日記を書かせ、授業後 4 日以内に提出させる。 →教師は提出された日記の内容に英語でコメントを加え、次回の授業で返却。 ○約 6 ヶ月間、12 回のやりとり →活動のまとめとしてアンケート形式のレポート 2 ・日記の形式 授業の感想の欄と日常生活に関する出来事の欄 ※文法や構文の誤りについては一切訂正を行わないこと、「書く量が多いほど、評価もよく なる」ことを事前に伝える。 3.4 結果 ・長期間に渡ったため提出を忘れる学習者もいたが殆どの学習者が毎回日記を提出した。 ・かなり多くの学生に基本的な文法などのレベルで誤りがみられた。 ・書く内容がパターン化し、同じような文章表現を繰り返し記述する学習者もいた。 ・評価は DJW の方針に基づいて、文法的な正確さよりも提出した回数・書いた量、内容の 伝わりやすさに応じて行った。 3.5 考察 3.5.1 トピックの選択について ・今回は2つのトピックを提示した →本来は自由に書かせた方がライティングの幅が広がるが、学習者の負担を考えてトピック を限定した。 ・授業に関することを書かせた。 →DJW の利点でもある「個々の学習者への対応」と「学習計画の手助け」の要因になった。 3.5.2 ライティングにおける誤りについて ・自由英作文のライティング…使用すべき文法項目は明示されていない →手段について悩んでしまう。 →英文を最初から考えることは難しい。 →そもそも、日本語で文を書く習慣がない学習者はより難しい。 …書くということ自体が負担、内容が単一的に。 ⇨英文を書くことの楽しさ 3.5.3 正確さと流暢さ ・言語習得における2つの要素 「正確さ」…正しい英語を使用すること 「流暢さ」…なるべく多くの相互作用的なやり取りを続けること ・ 「正確さ」の指摘の影響 →間違いに気づくことで学習を発展させることができる →自由に英語を書く意欲を削がれてしまう ○DJW…心理学的にも、正確さを求めるというよりは、実際に書かせることでその態度を養 うことを優先 →与えられた課題に自主的に取り組むという姿勢を評価 3 ・ 「気づき」の概念 …教師が指摘しなくても、学習者が自分で気づき自らの言語能力を発展させることで自然 と正しい英語を身につけさせる。 3.5.4 コミュニカティブ・ライティングへ ・DJW の利点 教師が生徒に英文でコメントを付けて返却 →コミュニケーションの機会が増す。 →リーディングの機会が増える。 ・ 「意味のあるやりとり」…コミュニケーション能力育成の一要因 4. 結論 ・ 「発信型」の英語→自己表現できる英語、相手とのやり取りができる能力を養う。 ○総合的なコミュニケーション能力の育成 5. 今後の課題 ・DJW…正確さよりも流暢さ→「気づき」による正確さへの学習転移 ・ 「学習者の誤りを訂正しない」指導方法の有意性 <考察> ・DJW を導入した際の教師の負担について …生徒全員の日記を「読む」そして「コメントする」という 2 つの負担が大きい。 →必ずしも教師と生徒の間ではなく生徒間での交換でもよいのではないか。 (生徒間では内容のコメントを、教師からは添削をするとよりよくなるのではないか。) ・学習者の「気づき」による具体的な効果やそれを促す教師の指導法について …DJW においてどの程度「正確さ」をも高めることができるのだろうか。 →コミュニケーションのパートナーという対等な立場から、教師はコメントのみならず 生徒と同じように自ら「発信」することで見本を提示するとよいのではないのか。 →生徒の日記の中で良く書けているものを見本として提示することも、学習者の間では モチベーションなどの点で良い刺激となるのではないか。 ・ライティングのための基礎的な能力の育成方法について …構文や文法などの知識不足によって日記がパターン化してしまう。 →トピックを指定するだけではなく、回に応じて使用する構文や文型などを指定したり、 条件を課したりして教師がある程度の指針を立てることで、パターン化を防ぐことが できるのではないか。 ◎DJW の活動は、内容や方式を工夫することでより意義のある活動になり得る。 4
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