2016 年 6 月 28 日 第 79 号 エコノミスト 千代谷 玲子 中国経済減速の波及効果 <中国経済は減速の一途> 中国の成長率の減速が続いている。実質 GDP 成長率は 2010 年以降から低下傾向にあり、 2014 年は前年比+7.3%、2015 年は前年比+6.9%と+7%を割り込んだ。成長の内訳を見 ると、長らく投資・消費の寄与が同程度だったが、2010 年以降は投資が明確に減速している (図表 1)。今後も、GDP に占める投資の比率は低下が予想されており、これに伴い成長率も 逓減していくと考えられる。 <経済規模は世界第 2 位> IMF のドルベースの名目 GDP データによれば、中国は 2009 年に当時 2 位だった日本を抜い て、米国に次ぐ位置を占め、その後も米国との距離を次第に縮めている。また、購買力平価 でみた GDP では既に 2014 年に米国を抜いて世界 1 位となっている。この様に世界経済にお けるプレゼンスが高まっている中国が減速するとなれば、他国に与える影響は相当程度あ ると懸念される。 (図表1)中国の実質GDP成長率 20 (図表2)各国のGDPに占める投資の割合 (前年比、%) 50 (%) 中国 45 15 韓国 消費 インド 40 10 IMF 予測 35 日本 30 5 25 投資 0 ユーロ圏 20 純輸出 -5 1990 1995 2000 2005 2010 2015 (年) (資料)中国国家統計局 米国 15 85 90 95 00 05 10 15 20 (年) (資料)IMF <減速の影響は増しているか?> 中国経済の減速の影響について、IMF のデータを用いて簡易的に試算すると、各国の成長 率の中国の成長率に対する弾力性(1%の低下に対して何%低下するか)は、米国が▲ 0.43%、ユーロ圏:▲0.31%、日本:▲0.34%となった。これに対して、新興国は総じてより大 きな影響を受けることが示唆されており、特に韓国、インド、台湾がそれぞれ、▲0.72%、▲ 0.71%、▲0.68%となっている。これらの国々は先進国・地域に比べて中国に対する依存度 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の 正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成者の判断に基づくもの で、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 1 大和住銀投信投資顧問 エコノミストコラム がより高い経済であることが窺える(図表 3)。また、主要国経済の世界経済への影響は中 国を含めて全体では▲0.40%ポイントとなっているが、この推計は 1981 年からの長期のデー タに基づくものであるため、最近の状況が過小評価されている可能性がある。このことを考 慮するため、各国の輸出に占める中国向け輸出の割合の推移をみると、2000 年以降総じて 中国向け輸出の割合が高まっていることがわかる(図表 4)。この背景には、中国が 2001 年 に WTO に加盟したことが挙げられるが、とりわけ、豪州、韓国、台湾、ブラジル、日本などは 中国向け輸出の割合が 2000 年以降急速に上昇している。世界に対し圧倒的な影響力を持 つ米国(同試算で▲0.94%ポイントの下押し効果)とまではいかないが、このような各国の中 国との貿易関係の深化を通じて、中国経済の減速の影響は図表 3 に示した推計結果よりも 大きくなる可能性がある。 ( 図表3 ) 成長率の変化が各国に与える影響 (%ポイント、%) 中国の成長率が1%低下したとき 弾性値 先進国 米国 ユーロ圏 日本 新興ア ジ ア 韓国 台湾 BRIC S ブラジル ロシア インド 中国 南ア 資源国 豪州 カナダ 合計 影響 米国の成長率が1%低下したとき (世界のGDPに 占める割合) 弾性値 影響 -0.43 -0.31 -0.34 -0.11 -0.05 -0.02 -1.00 -0.79 -0.79 -0.25 -0.12 -0.04 24.53 15.77 5.64 -0.72 -0.68 -0.01 0.00 -1.68 -1.57 -0.03 -0.01 1.88 0.72 -0.43 -0.46 -0.71 -1.00 -0.40 -0.01 -0.01 -0.02 -0.15 0.00 -0.98 -1.15 -1.63 -2.30 -0.91 -0.02 -0.02 -0.05 -0.35 0.00 2.42 1.81 2.86 15.01 0.43 -0.47 -0.41 - -0.01 -0.01 -1.10 -0.94 - -0.02 -0.02 1.67 2.12 74.85 -0.40 -0.94 (注 1)弾性値は 1981 年~2015 年の推計値。 (注 2)影響は世界の GDP 全体へのマイナスの影響(%ポイント)。 (弾性値)×(世界のGDPに占める割合(名目、2015 年))により計算。 ( 図表4 ) 輸出に占める中国向け輸出割合の推移 35 (%) 豪州 30 台湾 25 韓国 20 ブラジル 日本 15 南ア EU 10 インド 5 米国 カナダ 0 2000 2005 2010 2015 (年) (資料)UN Comtrade、韓国産業通商資源部、台湾財政部 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の 正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成者の判断に基づくもの で、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 2 大和住銀投信投資顧問 エコノミストコラム <中国への輸出割合の高い国に注意> 「中国の成長率が低下する」という事態は現に起きているため、随所にみられる中国の減速 の影響に留意する必要がある。実際に、名目値であることに注意が必要だが、図表 4 に示し た国のうち、中国向け輸出の割合が高い韓国、台湾では中国向け輸出金額は 15 年以降減 少傾向にある。また、豪州、ブラジル、日本でも中国向け輸出は伸び悩んでおり、貿易を通じ た波及効果は現実のものとなっている。また、中国に進出している日本法人の中国国内で の売り上げ(香港含む)は 2015 年度 7-9 月期に前年同期比でみて減少しており(10-12 月期 は増加に転じる)、ここからも中国の内需の弱さが垣間見える。また逆に言えば、ここで輸出 データや日本企業の現地での売上データをみたように、中国と同時に、中国と経済的つなが りの深い国の双方の経済指標を確認することは、中国景気の真の減速度合いを知る手がか りとなる。中国向け輸出の高い国々は中国に対する経済の依存度が相対的に高いため、中 国経済の動向に併せてこれらの国々の動きも注視していくことが肝要と考えられる。(了) 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したものです。情報の 正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成者の判断に基づくもの で、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。 3
© Copyright 2024 ExpyDoc