技術・技能教育研究所 代表取締役 第5 回 森 和夫 ものづくり人材育成に学ぶ 原点は「事実」 人材育成を業界の垣根を越えて みていると、いろいろなことに気づ で重視されるのは事実であり、現 状の把握です。 効果をあげる「定式化」 ものづくりの見える化 事実は、ときとして隠れてしま う場合があります。現象は、とき きます。製造業を中心にしたものづ ものづくりは現象と事実の重み として本当の姿をみせない場合が くり人材育成、サービス業を中心に の上に成り立っているといえま あります。ものづくりの根幹がみ したサービス人材育成。それぞれ す。 「いまあることが何に起因す えなくなるわけですから、これは に特徴のある優れた方法で進めら るのか」 、それを解消するには「何 大きな問題です。 れています。それぞれの良さを交 を対象に、どう働きかければよい ものづくり現場では「見える化」 流すれば、もっとよくなるはずです。 のか」という教育が必要になった が重要な課題となります。定式化 ものづくり人材育成について考 のです。 の立場からは、要因分析、魚の骨、 えてみましょう。技術 ・ 技能教育 これをパターン化して「問題解 5S、QC 七つ道具など、手法とし には一定のパターンがあります。 決研修プログラム」が生まれます。 て確立する努力がされました。こ 人間が働きかける相手は機械で これらを手続き化することで、だ れらは見え隠れする事実・現象を あったり、測定器であったり、製 れでもできるようにします。作業 見える化します。見えないものも 品そのものであったりします。見 方法を指導するには、まず作業手 見える化すれば、判断が早く確実 えているものが結果であり、対象 順を明瞭化し、それを内容に教育 になります。 になります。ものは明瞭に存在す を行います。新製品の製造や新し ものづくり人材育成は、このよ るわけです。ものづくり人材育成 い装置 ・ 設備の導入による作業が うな範囲のなかで完成度を上げて の原点といえます。 始まると、まずこれを行います。 きました。しかしこれは画期的な 技術教育では、ものに関する情 教育方法として製造現場で普 成果をあげると同時に、致命的 報を整理して、起こりうる現象を 及している TWI(Training With な弱点となることがあります。条 予め示すことが行われます。失敗 Industry)は、このことをよく表し 件を外れた内容、煩雑・複雑な情 すれば、なぜそうなったかを追究 ています。TWI には、仕事の教え 報(よくいわれる「想定外」など) し、新しい情報として蓄積します。 方(JI) 、仕事の改善の仕方(JM) 、 は現実にあり得ることです。その 飛行機の製造についていえば、航 人への接し方(JR)のコースがあ ような事態には太刀打ちできない 空機トラブルの現場を調査して、 ります。このとおりに進めれば、だ のですね。システム化、パッケー トラブルを起こさないための新し れでも一定の品質をもつ教育がで ジ化には、弱さも入ることになっ い情報を蓄積します。 今日、 優れた きるのです。 たのです。 航空機があるのは、過去の現象、 このようにものづくりでは、一 これを承知したうえで、ものづ 事実に基づいているからです。 定の条件下で一連のやり方をパッ くり人材育成の良さを活かすとよ 技術 ・ 技能教育の根幹では、製 ケージ化することで能率と効率を いでしょう。さて、この弱みをど 品の状態(品質) 、安全の追究、 確保し、コストダウンにつなげる のように克服すべきでしょうか。 構造とメカニズム、方法手段とそ 努力が続けられ、効果をあげてき この手がかりがサービス人材育成 の結果、良好な状態の維持管理な ました。これを「定式化」と呼ぶ にあります。次回はこれについて どが主要テーマになります。そこ ことにしましょう。 考えていきましょう。 企業と人材 2016年5月号 3
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