転がり軸受の転動体荷重分布が寿命に及ぼす影響

特 集 論 文
特集:材料技術
転がり軸受の転動体荷重分布が寿命に及ぼす影響
永友 貴史* 高橋 研* 岡村 吉晃*
木川 武彦** 野口 昭治***
Effects of Load Distribution on Life of Radial Roller Bearings
Takafumi NAGATOMO Ken TAKAHASHI Yoshiaki OKAMURA
Takehiko KIGAWA Shoji NOGUCHI An external load applied to a radial rolling bearing is distributed among the rolling elements. In many applications, the bearing internal load distribution may be altered by the elastic deformations of bearing rings. This alteration can have effect on bearing life. The objective of this study is to investigate the effect of load distribution
on bearing life both theoretically and experimentally using several housing models which provide different contact conditions between the housing bore and the outer ring. This paper first presents a newly developed method
of determining dynamic load distributions with an optical fiber strain sensor. The measurements of load distribution for the housing models by using this method have shown that the contact condition between the housing
bore and the outer ring affects the load distribution, and the effect of load distribution on bearing life has been
confirmed by the theoretical calculation of bearing life. Furthermore, the endurance tests using dented bearings
were performed to validate the effect of load distribution on bearing life. The results of the tests have substantiated that the bearing life is substantially affected by the load distribution; moreover, it has been shown that there
is a linear relationship between the calculated lives and the experimental ones.
キーワード:転がり軸受,転動体荷重,荷重分布,寿命
本論文は,The American Society of Mechanical Engineers (ASME) の許諾を得て,Transaction of the ASME, Journal of
Tribology, Vol. 134, No. 2, p. 021101, April 2012 を翻訳転載したものです。
受の軌道輪や支持構造は剛体として考えられないことが
1.はじめに
ある。この場合,ハウジングと外輪は相互に影響して弾
転がり軸受の寿命計算方法は ISO 規格
1)
として標準
性変形するため,実際の荷重分布は上述した仮定の下で
化されている。この方法は Lundberg と Palmgren の軸
予測される標準形の分布とは異なる。結果として軸受の
受寿命理論2)3)に基づいており,軸受の定格寿命(L10)
支持構造の剛性が軸受の寿命に影響を及ぼすことがある。
は軸受の動定格荷重と実際に軸受に作用する荷重から与
以上から,軸受の信頼性向上ならびに経済的なハウジ
えられる等価荷重を用いて求められる。転がり軸受に外
ング設計のためには,軸受周辺構造の変形が荷重分布や
部荷重が加わると,軸受の内部では各々の転動体が荷重
軸受寿命に及ぼす影響を把握しておくことは重要である。
を分担して支持する。上記の方法では,軸受の軌道輪や
軸受周辺構造によって変形した荷重分布が軸受寿命に
軸,ハウジングは剛体とし,転動体と軌道面の各々の接
及ぼす影響については様々な研究がなされてきた。A. B.
触部においてのみ弾性変形し,軸受の円周半分で荷重を
Jones と T. A. Harris 4)は最初にこの課題に取り組み,遊
受けることを前提としている。このような前提条件の下
星歯車用軸受の外輪の変形を考慮した荷重分布を得るた
での転動体荷重分布をここでは標準形の荷重分布と呼ぶ。
めの理論解析により軸受周辺構造の変形が軸受寿命に及
しかし,多くの用途では,構造上の寸法的制約,軽量
ぼす影響について調べた。その後,T. A. Harris 5)6)は
化や材料費削減,メンテナンス上の都合などの理由で,
いくつかの用途で軸受を長寿命化させる構造設計の最適
ハウジングの形状や荷重支持方法はさまざまであり,軸
化を行った。W. Cheng 7) や P. A. Tibbits 8) は有限要素
* 材料技術研究部 潤滑材料研究室
** 元 財団法人鉄道総合技術研究所
*** 東京理科大学 理工学部機械工学科
RTRI REPORT Vol. 30, No. 6, Jun. 2016
法(FEM)を用いて荷重分布を解析し,軸受寿命への
影響を調べた。R. Grigorescu と M. D. Gafitanu 9) は荷
重分布を評価するために剛体ではないハウジングを考慮
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29
特集:材料技術
した計算モデルを提案し,そのモデルを使った解析結果
円筒ころ軸受が十分な剛性を有する軸とハウジングに適
と実物の軸受による耐久試験結果を比較した。以上の研
正に取り付けられており,荷重が加わる際に,内輪と外
究とは別に,荷重分布を測定する方法について述べた報
輪は共に真円を保ったまま相対変位すると仮定する。な
10)
は軌道輪とハウジングの弾
お,便宜上,最下部にある転動体の番号を 0,頂点から
性変形を定式化してこれらの変形が荷重分布に及ぼす影
反時計回りに 1,2,
・・・ j,時計回りに -1,-2,
・・・
響について調べた。G. A. Papadopoulos11)はポリマー製の
-j とする。
モデル軸受を用いて光弾性実験により荷重分布を求めた。
転動体の弾性変形量と,転動体 / 軌道面の接触点にお
告がある。G. Cavallaro ら
4)~9)
しかし,これらのほとんど
は数値解析あるいは
静的な荷重分布を与える足跡(footprint)法 12) などの
ける変形と荷重の関係から,各転動体の位置 f j での転
動体荷重 Q (f j ) は次のように表される。
実験で求めた荷重分布をもとに計算した寿命を評価して
おり,実物の軸受による実験で得た荷重分布や寿命試験
データを用いて,荷重分布が寿命に及ぼす影響について
実証した例はほとんどない。ここで,足跡法とは軌道面
に化学的に生成させた被膜に転動体を押し付け,接触痕
の大きさから転動体荷重を求める方法である。
そこで,ハウジングと外輪の接触条件を変えて異なる
1


Q (φ j ) = Qmax 1 − 2ε (1 − cos φ j ) 
t
(1)
2π
φj = j Z
(2)
1
ε = 2 (1 − cos ϕ0 )
(3)
荷重分布を与え,荷重分布が寿命に及ぼす影響を理論的
かつ実験的に検討した結果を報告する。また,光ファイ
ここで,Qmax は最大転動体荷重,ε は負荷圏の範囲に依
バセンサを用いて動的に荷重分布を得る新しい方法につ
存する。指数 t は,玉軸受の場合 t = 1.5,ころ軸受の場
いても述べる。
合 t = 1.1 であり,Z は転動体の数,φ0 は負荷圏の半分
の角度である。式 (1) から,転動体荷重の分布は Qmax と
ε で決まることがわかる。
2.理論
次 に,Sjövall に よ っ て 与 え ら れ た ラ ジ ア ル 積 分
2. 1 転がり軸受の荷重分布
図 1 に示すように,軸受に外力として一定のラジアル
荷重 Fr が加わる場合の転動体荷重の分布について以下
に述べる
J r (ε )
14)
を導入すると式 (4) が成り立つ。
Fr = ZQmax J r ( ε )
(4)
13)
。転動体が荷重を支持する範囲を負荷圏と
いう。ここでは,負荷圏側の荷重線上に転動体が位置し,
ここで,
転動体荷重の分布は荷重線について対称とする。また,
J r (ε ) =
ラジアル荷重Fr
転動体荷重
分布曲線
δ(φ -1)
∫
+ϕ 0
−ϕ 0
t
1


1 − 2ε (1 − cos ϕ )  cos ϕ dϕ


(5)
式 (5) よ り, J r ( ε ) の 値 は ε に よ っ て 決 ま り,Fr と
J r ( ε ) がわかれば,式 (4) から Qmax が求められる。
δ(φ 0)=δmax
Q( φ0)=Qmax
δ(φ 1)
Q(φ -1)
1
2π
Q(φ1)
2. 2 軸受寿命計算
Lundberg と Palmgren の理論2)3)より,内輪と外輪の
δ(φ2)
Q(φ-2)
-1
0
-2
軌道面の疲労寿命は,それぞれ次の式より見積もられる。
1
2
軸
φ0
δ(φ 2)
Q(φ 2)
内輪
ハウジング
p
 Qce 
 Qci 
Li =  Q  , Le =  Q 
 e 
 i 
p
(6)
転動体
ここで,L は 106 回転を単位とする寿命,添え字の i と
外輪
e はそれぞれ内輪と外輪を示す。Qc は軌道面の基本動定
格荷重,Q は軌道接触部に作用する等価転動体荷重で
ある。
線接触の場合,荷重指数 p=4 であり,内外輪の Qc は
図1 転動体荷重分布
30
次式で与えられる。
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特集:材料技術
Qci = A
(1 − γ )
29
27
1
(1 + γ ) 4
A-A
2
9
29 7
27 9
a a
1
−
4
γ D l Z ,
29
Qce
(1 + γ ) 27 γ 92 D 2729 l 79 Z − 14
=A
(1 − γ )
a
1
4
(7)
a
Da
γ = d
m
FBG
光ファイバ
切欠き
A
(8)
A
ここで,A は材料による定数,Da はころの直径,dm は
ころのピッチ円直径,la はころの有効長さである。
内外輪の等価転動体荷重 Q は次式によりそれぞれ与
内輪軌道面
えられる。
図2 光ファイバセンサを装着した測定用軸受の内輪
 1
Qi = 
 2π
 1
Qe = 
 2π
∫
+ϕ 0
∫
+ϕ 0
−ϕ 0
1
p

Q p (φ j ) dφ j  ,

0.5mm 程度の貫通孔から挿入し,FBG が切欠き部円周方
向中央部に位置するようにエポキシ系接着剤で固定する。
1
−ϕ 0
w
Q w (φ j ) dφ j 

(9)
3. 2 試験ハウジング
ハウジングの形状や荷重支持位置はハウジングと外輪
ここで,w=pm で,m=9/8 である。以上から,転がり軸
の接触に影響し,限られた領域での接触になる可能性が
受の寿命は次式より計算される。
あるので,荷重分布や軸受寿命に影響を及ぼす。そこで,
ハウジングと外輪の接触条件が荷重分布や寿命へ及ぼす
L = ( Li
−m
+ Le
)
1
−m − m
(10)
影響をより明確に調べるために,図 3 に示す,ハウジン
グと外輪が局部的に接触するような試験ハウジングを準
備した。これらのハウジングは外輪と接触する部分の接
触弦 d の長さを 5,20,40mm とすることによって,異
3.荷重分布の測定方法
3. 1 測定用軸受
呼び番号 N206 の円筒ころ軸受を荷重分布の測定に用
いる。ここで用いた N206 の諸元を表 1 に示す。図 2 の
ように,FBG(Fiber Bragg Grating)を持つ光ファイバ
センサ(以下 FBG センサとする)15)が内輪の切欠き部
ラジアル荷重Fr
ラジアル荷重Fr
d=5
d=20
に取り付けられている。切欠きは内輪の内径側に機械加
工され,切欠き部に相当する内輪軌道面上をころが通過
する際に生じるひずみを FBG センサにより得る。FBG
ラジアル荷重Fr
センサは切欠き部底の近傍に放電加工により設けたφ
表1 測定用軸受の諸元
62
幅 , mm
16
ころ数
13
ころ直径 , mm
7.5
ころ有効長さ , mm
6.5
内部すきま , μm
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接触領域
すきま
A
46
20 ~ 45
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φ 62
30
外径 , mm
130
内径 , mm
ピッチ円直径 , mm
A
d=40
R32
t 26
122
図3 試験ハウジング(単位 :mm)
31
特集:材料技術
ラジアル荷重
ハウジング
測定用軸受
ロータリジョイント
光ファイバ
モータ
LAN
軸
ロータリジョイント
固定用治具
インタロゲータ
PC
図4 荷重分布測定系の概略図
-6
ひずみ [×10 ]
1000
1回転目
エンベロープ
(包絡線)
500
2回転目
0
-500
0
60
120
180
240
300
360
内輪の回転角度 [°]
図5 ひずみの測定例
なる接触領域を持つ。一方,ハウジングと外輪の非接触
正負が決まる。なお,FBG センサからのひずみ出力は,
部分のすきまは約 1mm で,非接触部分を除いてハウジ
内輪一回転あたり一パルスの信号を検出することによっ
ングと外輪は約 0.025mm のすきまばめである。この形
て,内輪一回転ごとに得られる。転動体荷重分布に対応
するひずみ分布は以下の手順で求められる。
状による以下の測定への悪影響はなかった。
(a) 内輪の回転ごとに測定された複数のひずみ波形を重
3. 3 測定装置と測定方法
図 4 に測定系の概略を示す。本装置では,FBG セン
サを装着した測定用軸受を回転させながら荷重分布が得
られる。図 3 に示す 3 種類の試験ハウジングを用いて荷
重分布を測定する。測定用軸受はモータによって回転さ
ね合わせる
(b)重ね合わせたひずみ波形のエンベロープ(包絡線)
を得る
(c) 内輪周りの各角度位置において,ひずみの最大値と
最小値の差を計算する
れる軸に取り付けられている。FBG センサは,回転体
ここでは,各々の試験ハウジングについて,ラジアル
と静止体の間で光を伝送するロータリジョイントを介し
荷重 4980 N(基本動定格荷重の 20%)を測定用軸受に
てインタロゲータに接続されている。インタロゲータは
負荷して軸を約 200 min-1 一定の速度で回転させ,内輪
広帯域の光源を持ち,FBG にレーザ光を入射し,FBG
約 180 回転分のひずみ波形をサンプリング周波数 1250
からの反射光の波長の変化量からひずみを計測する機能
Hz で計測する。
を有する。また,
インタロゲータはパーソナルコンピュー
これまでに提案された足跡法や光弾性実験などによる
タ(PC)により,計測条件の設定やデータの表示,保
荷重分布測定方法は静的であるのに対し,本方法は軸受
存などができるようになっている。
を回転させて動的に荷重分布を得ることを特徴とする。
測定用軸受を回転させると,転動体が負荷圏を通過す
る際に,内輪の切欠き部に相当する軌道面上を転動体が
4.結果および考察
通過することにより内輪にひずみが生じる。図 5 に内輪
二回転分のひずみ波形の測定例を示す。軸受が回転し
4. 1 転動体荷重分布
ている際の切欠き部と転動体の位置関係によりひずみの
前章で述べた方法を用いて得られたひずみ分布におい
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触長さ d が短いほど Qmax が大きく,また 2φ0(負荷圏)
4000
d =5mm
d =20mm
が狭くなっていることがわかる。これより,軸受に加わ
る荷重が同じであっても,荷重分布は外輪とハウジング
転動体荷重 [N]
3000
の接触状態に依存することがわかる。
d =40mm
2000
4. 2 軸受寿命計算
2.2 節で示した寿命計算方法を用いて,図 6 に示した
各荷重分布に対する軸受寿命を求める。なお,式 (6) 中
標準形
1000
の内輪,外輪の等価転動体荷重 Qi,Qe は,荷重分布を
0
−180 −120 −60 0
60 120
転動体位置 [°]
表す式 (1) に表 2 の各値を代入して,式 (8) から求める。
180
ハウジングと外輪の接触状態が軸受寿命に与える影響
を調べるために,次の二つのパラメータを定義した。一
つは軸受外径 d0 に対するハウジング接触部の弦長さ d
図6 転動体荷重分布の測定結果
の比 d/d0 であり,もう一つは表 2 に示した標準形の荷
て,各転動体の角度位置でのひずみの鉛直成分の合計値
重分布をもつ軸受の寿命 L0 に対する実験で得られた荷
が軸受に与えたラジアル荷重に対応することから求めら
重分布を持つ軸受の寿命 L の比 L/L0 である。図 7 に d/
れる,ひずみを荷重に換算する係数を用いて荷重分布が
d0 と L/L0 の関係を示す。さらに,標準形の荷重分布に
得られる。図 6 は各試験ハウジングに対して得られた荷
対する内輪,外輪の等価転動体荷重をそれぞれ Qi0,Qe0
重分布を示す。各プロットは実験で得られた転動体荷重
とし,d/d0 とそれぞれの荷重分布に対する等価転動体荷
の値である。図中の曲線は,式 (1) を回帰式として図 6
重比 Qi/Qi0,Qe/Qe0 の関係を図 8 に示す。図 7 と図 8 は,
の各プロットについて回帰分析を行って得た。回帰分析
等価転動体荷重は接触弦長さが短いほど大きくなり,等
により得られた式 (1) 中の Qmax と ε の値を表 2 に示す。
価転動体荷重が大きくなると寿命は低下することを示し
図 6 は実験から求められた転動体荷重と式 (1) で表され
ている。以上より,荷重分布は,軸受に外部から加わる
る荷重分布曲線は概ね一致していることを示している。
荷重が一定でも,軸受とハウジングの接触状態により異
なお,図 6 および表 2 には,実験で測定用軸受に与えた
なり,軸受寿命は荷重分布に依存していることがわかる。
荷重と同じ荷重における標準形の荷重分布(ε = 0.5)に
接触弦比の観点から軸受寿命について言及するならば,
ついても示す。標準形の分布は式 (4) の関係が満たされ
ここで得られた知見より,軸受の組立ての実情を考慮し,
るよう Qmax を求め,式 (1) により表した。図 6 より,接
可能な限り d/d0 = 1 とすることにより,最大転動体荷重
を小さく,かつ負荷圏を広くでき,軸受の信頼性を向上
できると考えられる。
表2 荷重分布のパラメータ
d [mm]
5
20
40
Qmax [N]
3511
3156
2398
1562
4. 3 圧痕を付与した軸受の寿命試験
ε
0.077
0.090
0.210
0.500
前節に示した軸受寿命の基礎理論による寿命評価で
φ0 [° ]
32.2
35.0
54.5
90.0
は,軸受内部の荷重分布が寿命に影響する結果が得られ
標準形
た。ここでは,実際の軸受を用いて寿命試験を行い,荷
0.5
2
等価転動体荷重比Q/Q0
寿命比 L/L0
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0.2
0.4
0.6
接触部弦長さの比 d/d0
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Qe /Qe0
Qi /Qi0
0
0.8
図7 接触部弦長さの比と寿命比の関係
1
0
0.2
0.4
0.6
接触部弦長さの比 d/d0
0.8
図8 接触部弦長さの比と等価転動体荷重比の関係
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特集:材料技術
軸方向
0.05mm
円周方向
3mm
1mm
図9 外輪軌道面に付与したロックウェル圧痕
120.7
182.0
2
81.3
124.1
243.6
3
88.5
141.0
277.8
4
98.4
153.7
335.3
5
99.0
215.7
361.4
6
124.1
270.7
366.9
7
131.2
278.2
379.1
8
210.9
285.6
389.4
9
231.5
317.1
457.3
10
313.6
326.9
打切り
m
5m
m
=
0m
40m
m
40
65.8
d=
20
1
=2
5
d
d [mm]
No.
破損確率 [%]
はく離発生までの時間 [h]
95
90
80
70
60
50
40
30
d
表3 寿命試験結果
20
10
5
50
100
200
300 400 500
はく離発生までの時間 [h]
図 10 寿命試験結果のワイブルプロット
表4 ワイブル解析結果
重分布の寿命への影響について検証する。
d [mm]
5
20
40
4. 3. 1 方法
L 10 [h]
154.7
108.3
209.1
寿命試験は,荷重分布の測定に用いた軸受と同じ円
L 50 [h]
137.9
221.4
352.1
筒ころ軸受 N206 を使用した。各試験軸受には,ロック
ワイブル勾配
12.04
22.63
23.62
ウェル硬さ試験機を用いて C スケール用のダイヤモン
ド圧子を外輪軌道面に荷重 1.47kN で押し付けて,円周
4. 3. 2 結果
方向 1 箇所において軸方向に 2 つの圧痕を形成し,初期
寿命試験データについて,ジョンソン法 16)に従って
の疲労はく離を起こりやすくした。圧痕中心間の距離は
ワイブル解析を行った。表 3 に寿命試験結果を示す。接
約 3mm である。圧痕の外観と断面形状を図 9 に示す。
触弦長さ d=40mm の荷重分布条件において,中途打ち
2 つの圧痕とも同様の形状・寸法である。図 3 に示した
切りしたデータが 1 つ含まれている。寿命試験結果の
試験ハウジングを用いて,外輪に付与した圧痕の位置が
ワイブルプロットを図 10 に示す。図中の各直線は荷重
荷重線上に位置するように試験装置に取り付け,寿命試
分布条件ごとのプロットについて最小二乗法により求め
験を行った。
た回帰直線であり,推定母集団を示す。表 4 に図 10 か
軸受に加えた荷重は一定の純ラジアル荷重 4980 N(基
ら求められる L10 および L50 とワイブル勾配の値を示す。
本動定格荷重の 20%)で,軸の回転速度は 2000 min-1
はく離が発生するまでの時間と荷重分布の間には良い関
である。試験軸受は添加タービン油 ISO VG68 で潤滑し,
係があることが図 10 より明らかである。すなわち,軸
潤滑方式は循環給油である。
受に加わる外部荷重が同じであっても,接触弦長さ d が
各試験ハウジングでの試験軸受数を 10 個とした。試
小さくなるほど寿命は減少することがわかる。
験は圧痕を起点としてはく離が生じるまで,または,打
2.2 節で記述した理論寿命は健全な軸受の内部起点は
切り時間として設定した 500 時間に達するまで,連続し
く離による寿命である。しかし,近年,軸受材料の清浄
て行い,はく離発生までの時間を記録した。はく離の発
度が著しく改善されたことから内部起点はく離よりも異
生はハウジングに取り付けた振動加速度計を用いて加速
物をかみ込むことで発生する圧痕を起点としたはく離,
度レベルを連続してモニタすることにより検出した。
すなわち表面起点はく離が顕在化してきた。これにより,
34
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図 11 に理論計算寿命と実験によって得られた寿命 L10
実験による寿命 [h]
500
および L50 の関係を示す。各直線は最小二乗法により得
400
た。相関係数はそれぞれ 0.992,
0.985 である。実験によっ
L50
て得られた寿命 L10 および L50 は,それぞれ理論計算寿
300
命の約 10% および 20% にまで減少しているものの,理
論計算寿命と実験から得られた寿命の間には良好な相関
200
があることを示している。
L10
図 12 に実験による寿命と最大転動体荷重の関係を示
100
0
す。同図より,最大転動体荷重の増加に伴い寿命が減少
していき,両者には直線的な関係があることがわかる。
0
500
1000 1500 2000 2500
計算寿命 [h]
図 11 計算寿命と実験による寿命の関係
関係を示す。図 12 と同様に,それぞれの等価転動体荷
重の増加とともに寿命が直線的に減少していくことがわ
かる。以上から,軸受の寿命は荷重分布の影響を明らか
4000
最大転動体荷重Qmax [N]
図 13 に実験による寿命と内外輪の等価転動体荷重の
に受けることが寿命試験により実証された。
5.結論
L10
3000
L50
円筒ころ軸受を用いて,ハウジングと軸受外輪間の異
なる三つの接触条件で軸受の荷重分布を測定し,軸受の
寿命に及ぼす荷重分布の影響について理論的に調べ,実
験により検証した。得られた知見は以下のとおりである。
2000
(1)FBG センサを装着した内輪を用いて荷重分布を得
0
200
実験による寿命 [h]
400
図 12 実験による寿命と最大転動体荷重の関係
とハウジングの接触状態が荷重分布に影響すること
を示すとともに,軸受寿命に及ぼす荷重分布の影響
2000
等価転動体荷重 Q [N]
る方法を示した。
(2)外部から軸受に加わる荷重が同じであっても,外輪
Qi,
Qe,
Qi,
Qe,
を軸受の理論寿命計算によって確認した。
L10
L10
L50
L50
(3)圧痕を付与した軸受を用いて,異なる荷重分布の下
で寿命試験を行った結果,軸受の寿命は荷重分布の
影響を大きく受けることが実証された。さらに実験
1500
で得られた寿命と理論計算による寿命との間に直線
的な関係があることがわかった。
文 献
1000
0
200
実験による寿命 [h]
400
1) ISO, 2007. ISO 281:2007 Rolling bearings
- Dynamic load
ratings and rating life. International Organization for Stan-
図 13 実験による寿命と等価転動体荷重の関係
dardization.
2) Lundberg, G., and Palmgren, A., 1947.“Dynamic capacity of
潤滑剤の汚れが軸受性能へ及ぼす影響への関心が高まっ
rolling bearings”. Acta Polytechnica Mechanical Engineering
ている。この観点から,人工的に付与した圧痕や汚れた
Series, 1(3).
潤滑剤に起因する軸受寿命の減少について,実験から得
られる寿命と理論計算寿命を比較することで検討されて
いる
17)
。以上から,ここでの実験で得られた寿命に基づ
く評価は圧痕による軸受寿命減少を理解する上で有益で
3) Lundberg, G., and Palmgren, A., 1952.“Dynamic capacity of
roller bearings”. Acta Polytechnica Mechanical Engineering
Series, 2(4).
4) Jones, A. B., and Harris, T. A., 1963.“Analysis of a rolling-
ある。そこで,次に表 4 に示した寿命試験結果と理論計
element idler gear bearing having a deformable outer-race
算寿命を比較する。
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RTRI REPORT Vol. 30, No. 6, Jun. 2016
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