簡単にできる哺乳動物卵への細胞核導入法と 畜産および生殖医療への

簡単にできる哺乳動物卵への細胞核導入法と
畜産および生殖医療への応用
国立成育医療センター・研究所・生殖医療研究部
室長 宮戸 健二
1.発明の概要
z
精子と卵とが融合して受精卵になるためには、細胞膜間での融合が必須であるが、このメ
カニズムの詳細は不明である。
z
発明者らの哺乳動物の受精メカニズム研究において、この融合(受精)には卵膜表面に膜4
回貫通型蛋白質CD9の非存在領域が形成されることが必須であり、さらに、CD9の細胞内
領域にはβ-チューブリンが結合することを発見した。
この知見に基づき、チューブリン重合阻害物質(具体的にはビンブラスチン)でマウス未受
精卵を処理すると、卵細胞膜表面にCD9の存在しない領域が一過性に形成され、しかも受
精率は20%向上することを発見した。通常、マウス卵子の約20%は未成熟卵(細胞膜表面が
未成熟なため受精できない)であるが、本発明の方法により未成熟卵も受精が可能になっ
たと考えられる。
チューブリン重合阻害物質を用いた哺乳動物卵への精子や細胞外物質の簡便で、効率の
良い方法を完成した。
z
z
ビンブラスチン
処理
精子との混合
融合
膜4回貫通型蛋白質CD9
EC1
EC2
G
CC
N
I
NH2
II
III
IV
COOH
CD9欠損雌マウスは重篤な不妊症を発症する
12
*No litters
10
8
6
4
2
0
Female
Male
+/+
+/-
+/+
-/-
+/+/-
+/-
-/-
*
-/-
+/+
*
-/+/-
-/-/-
CD9欠損卵の受精異常
(モデル図、媒精後6時間)
CD9-/First polar body
Metaphase II-arrested
chromosome
CD9+/+
First polar body
Second polar body
Female pronucleus
Male pronucleus
CD9欠損卵の受精異常
(光っているのは精子DNA)
Staining: H33342
受精の膜融合におけるCD9の機能ドメイン
EC1
EC2
CC
G
N
I
NH2
II
III
IV
COOH
ビンブラスチン処理による受精効率の上昇
121.3
140
No. of 2-cell (%)
120
100
100
100
100
80
45.6
60
40
23.1
20
0
コントロールIgG (50μg/ml)
抗CD9抗体 (50μg/ml)
Vinblastine(20μM)
+ −
− +
− −
+ −
− −
− +
+ −
− +
− +
ビンブラスチン処理卵と未処理卵
未処理卵
処理卵
A1
A2 A3
従来技術とその問題点
既に実用化されているものには、精子頭部
をガラスキャピラリーを用いて卵に導入す
るICSI法などがあるが、
卵膜に穴を開けることによる卵割率の低下
および着床率の低下を引き起こす恐れが
ある。特殊な装置を必要とする。
等の問題がある。
新技術の特徴・従来技術との比較
従来技術
本発明
比較項目1
特殊な装置及び高度な技術習
熟が必要。
化学物質処理だけで実施可能。
比較項目2
精子導入成功率は必ずしも高
くない。
未成熟卵も受精可能となり、精
子導入の成功率は高い。
卵膜に孔を開けるため、胚発
生障害の恐れがある。
自然の受精メカニズムに近いた
め、左記の恐れはない。
比較項目3
本技術の適用により、設備に関わるコストを
削減することができる。
想定される用途
• 有用哺乳動物の繁殖・育種(畜産分野)、稀
少哺乳動物種の繁殖保護、医療(ヒト不妊治
療)への応用が可能である。
• 卵への効率的な精子導入のみならず、体細
胞核、核酸、蛋白質、薬剤などを効率的に導
入する研究手段としての活用も考えられる。
想定される業界
• 想定されるユーザー
畜産関連メーカー
畜産関連の研究所等
競馬関連業界
• 想定される市場規模
導入費用:数万円~数十万円と想定
→主に、畜産業界を想定
実用化に向けた課題
• 現在、精子について卵への導入が可能なとこ
ろまで開発済み。しかし、精子以外の細胞核、
外来性DNAまたは蛋白質の導入については
未解決である。
• 今後、精子以外の細胞核および外来性物質
について実験データを取得し、条件設定を
行っていく。
• 実用化に向けて、マウス以外の動物を用いた
実験法を確立する必要もあり。
企業への期待
• 未解決の技術開発については、畜産関連研
究所との共同研究により克服できると考えて
いる。
• 畜産分野の企業との共同研究を希望。
• また、哺乳動物卵への外来性物質導入法を
開発中または検討中の企業、畜産分野への
展開を考えている企業には、本技術の導入
が有効と思われる。
本技術に関する知的財産権
・発明の名称 : 哺乳動物卵内への細胞外物質の導入
促進剤及び導入方法
・出願番号 : 特願2005-129198
・国際番号 : PCT/JP2006/307772
・出願人
: 独立行政法人科学技術振興機構
・発明者
: 宮戸 健二、宮戸 真美、阿久津 英憲
お問い合わせ先
【技術内容について】
国立成育医療センター(研究所)生殖医療研究部
生殖細胞機能研究室 宮戸 健二
電話:03-5494-7047 FAX:03-5494-7048
E-mail:kmiyado@nch.go.jp
【技術移転について】
科学技術振興機構(JST) シーズ展開課
技術移転プランナー 吉田 長作
電話:03-5214-7519 FAX:03-5214-8454
E-mail : [email protected]