KIYOTA Lab., Institute of Industrial Science, University of Tokyo

降水量分析と乾湿繰り返しに起因する
泥岩斜面不安定化に関する研究
新井逸郎
Geo-disaster Mitigation Engineering
研究概要
泥岩系の地盤材料は、乾湿繰り返し作用により風化が進行する(図1)。本研究では、
降雨に起因する国内外112箇所の斜面災害事例を収集し、各事例について、熱帯降雨
観測衛星(TRMM)で得られた斜面災害発生日から過去3年間の降水情報を整理し、発
災箇所の地質との関連性を調べた。さらに、せん断応力一定条件で乾湿繰り返しを受け
る泥岩礫質土の変形特性を一面せん断試験により検討し、斜面地盤の強度低下モデル
を構築して実際の斜面災害事例へ適用した。
図1 乾湿繰り返し前(左)と後(右)の泥岩
降水量分析
崩壊事例は、誘因が降雨であり、現場調査が行われ、発生日、場所、地質(図2)が明確なものを抽出した。過去3年間で
既に大きな降雨を多数経験していた崩壊事例が多数存在し、その大部分が乾湿繰り返し風化しやすい地盤(泥岩・片岩・
頁岩・凝灰岩)で発生していた(図3)。これは、過去の環境による風化の進行により地盤強度が徐々に低下していったこと
を示唆する。また、風化しやすい地盤では、無降水日率(降水量1mm/day未満の日)が高く、かつ崩壊時の降水量が低い
ケースが多く存在している(図4)。これらの崩壊事例は降水量そのものではなく乾燥度合いとの関連性が考えられる。
泥岩
片岩
頁岩 凝灰岩 砂岩 花崗岩 その他
図2 各地質における斜面崩壊事例数
(色付き:乾湿繰り返しにより風化しやすい)
350
泥岩
泥岩
片岩
斜面崩壊時の降水量 (mm/day)
40
35
30
25
20
15
10
5
0
斜面崩壊時以上の降水量を記録した回数
事例数
1000
頁岩
凝灰岩
100
砂岩
花崗岩
その他
10
片岩
300
頁岩
250
凝灰岩
砂岩
200
花崗岩
その他
150
100
50
1
0
0
25
50
75
100
125
150
斜面崩壊時の降水量 (mm/day)
175
200
0
10
20
30
40
50
60
70
無降水日率 (%)
80
90
100
図4 無降水日率と斜面崩壊時の降水量の関係
図3 斜面崩壊時の降水量と降水履歴の関係
乾湿繰り返し一面せん断試験およびモデル化
一面せん断試験(図5)により、クリープ載荷中の泥岩
礫質土に乾湿繰り返しを与え、せん断変位を測定した。
その結果、飽和直前の飽和度が低いほどクリープせん
断変位が増加した(図6)。この知見から構築した泥岩
図7 斜面崩壊事例 (2010年 パキスタン)
礫質土の強度低下モデルを以下に示す。
図5 一面せん断試験機
、Sr :降雨直前の飽和度、𝑅𝑅0 : 𝛼𝛼に対応するせん断抵抗
このモデルを実際の斜面崩壊事例(図7)に適用した。
この事例は2010年2月にパキスタンで発生したもので、
乾期と雨期が明瞭な地域(図8)であり、崩壊発生時の
降水量はそれほど多くなかった。モデルにより、泥岩斜
面地盤の強度低下に及ぼす降水パターン(乾湿繰り返
し)の影響を示すことができた(図9)。
クリープせん断変位の増分 (mm)
降雨時のせん断抵抗、α:係数(岩種、斜面の勾配など)
3.5
3
2.5
図8 斜面崩壊前過去3年間の降水量
2
100
1.5
90
1
0.5
0
0
0.5
1
飽和直前の飽和度
1.5
図6 飽和直前の飽和度と飽和に
よるクリープせん断変位の関係
斜面地盤の強度
𝑅𝑅N = 𝑅𝑅N−1 − 𝛼𝛼𝑓𝑓 Sr 𝑅𝑅0
𝑅𝑅N :N回目の降雨時のせん断抵抗、𝑅𝑅N−1 :N − 1回目の
崩壊発生
斜面地盤の強度
80
70
60
50
40
30
0
200
400
600
経過日数
800
1000
図9 泥岩斜面不安定化の様子
KIYOTA Lab., Institute of Industrial Science, University of Tokyo
2016