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特集
集
発疹に対する臨床判断と
健康サポート薬局の制度がスタートした今、来局者の立場に立って健康相談のできる薬剤師が求めら
れています。かかりつけ薬剤師として機能するためには、処方箋調剤のみにとどまらず、セルフメディケー
ション支援から生活指導まで、トータルで患者さんの健康増進に寄与していくことが重要です。そのため
には、健康相談で薬局を訪れた来局者の訴えが、受診勧奨が必要な状態なのか、セルフメディケーション
で対応可能な状態なのか、それとも生活指導で改善可能な状態なのかという、症候からトリアージする
臨床判断力が求められます。今回は来局者の訴えで多い発疹に焦点をあて、症候からトリアージするため
に必要な発疹の基礎知識と、受診勧奨からセルフメディケーション、その後のフォローまでトータルした
患者サポートの形をリポートします。
Credentials No.94 July 2016
5
発疹を知る
監修
末木 博彦 氏
昭和大学医学部
皮膚科学講座 教授
臨床像は多岐にわたり、またその原因もアレルギー、刺
発疹とは?
激、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物、薬物、全身疾患など
多岐にわたるため診断は非常に難しく、皮膚科医でも
皮膚に現れる病変を総称して発疹といいます。発疹
を正確に診断するためには、視診と触診によって情報を
得ることが基本となります。細かく分類される皮膚病変
の分布や配列、色調、形態、硬さなどの他覚的所見と、痒
長年の経験を要します。
原発疹と続発診の種類と発疹の性状
みやほてり、熱感や灼熱感の有無などの自覚症状、さら
発疹は健常皮膚に一次的に出現する原発疹と、他の
に皮膚以外の全身症状の有無など、発疹を系統的に解
発疹から二次的に生じる続発疹に大別されます
(表1、
2)
。
析し、どういう診断になるのか、あるいは原因は何なの
原発疹には色調の変化が主体の斑、10mm以下の隆起
かということに考えを進めていきます。発疹といっても
を認める丘疹、丘疹と同様の隆起性変化で10mm以上
の結節、内容物として水分を含
表1
原発疹
斑
む水疱、膿を含む膿疱、角化物な
原発疹の種類と主な疾患
よくある疾患
見逃してはいけない緊急性の高い疾患
紅斑
細菌感染症(丹毒、蜂窩織炎、壊死性筋
湿疹・皮膚炎群、結節性紅斑、薬疹、
膜炎)
、多形滲出性紅斑、Stevens-Johnson
ウイルス性発疹症
(麻疹、風疹)
症候群、薬剤性過敏症症候群、TEN型薬疹
紫斑
老 人 性 紫斑、特発性色素 性紫斑、 血液疾患に伴う紫斑(白血病、血小板減少
IgA血管炎
(アナフィラクトイド紫斑) 性紫斑病)
白斑
尋常性白斑、老人性白斑
色素斑
──
肝斑、老人性色素斑、扁平母斑、単純
悪性黒色腫
黒子、色素性母斑
浮腫である膨疹などがあります
(図1)。
これらの原発疹が疾患により
複数重なって出現します。薬局
への来局者の訴えとして多い接
触皮膚炎、いわゆるかぶれでは、
原因物質が接触した部位にほぼ
ゆうぜい
一致して紅斑、丘疹、小水疱など
丘疹
湿疹、尋常性疣 贅、伝染性軟属腫、
尋常性痤瘡
結節
老人性疣贅、基底細胞癌
水疱
単純性疱疹、帯状疱疹、水痘、熱傷、
尋常性天疱瘡
虫刺症、足白癬、水疱性類天疱瘡
薬、湿布薬、金属、化粧品、衛生
膿疱
膿痂疹、膿疱性痤瘡、掌蹠膿疱症、
細菌感染症
(蜂窩織炎、壊死性筋膜炎)
皮膚カンジダ症
を認める疾患で発生頻度の高い
嚢腫
粉瘤、粘液嚢腫
疾患としては、アトピー性皮膚炎
膨疹
蕁麻疹
──
悪性黒色腫
表2
──
アナフィラキシーショック
用品など様々です。その他、紅斑
や脂漏性皮膚炎、湿疹、尋常性乾
癬、風疹、麻疹などがあります。
ゆう ぜい
また、丘疹を呈する尋常性疣 贅
(いぼ)や尋常性痤瘡(にきび)、
続発疹とその他の発疹名
続発疹
その他の発疹名(一部)
べん ち
表皮剥離、鱗屑、びらん、痂皮、潰瘍、胼 胝 、 苔癬、膿瘡、苔癬化、痤瘡、疱疹、面皰、天疱瘡、
膿瘍、瘢痕、亀裂、萎縮
毛瘡、膿痂疹、紅皮症
木内祐二編. アルゴリズムで考える薬剤師の臨床判断. 南山堂. 2015
Credentials No.94 July 2016
を生じ瘙痒を伴います。原因物
質は植物、染毛剤、消毒薬、外用
木内祐二編. アルゴリズムで考える薬剤師の臨床判断. 南山堂. 2015
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どを含む嚢腫、一過性の真皮の
水疱を呈する足白癬や虫刺症、
熱傷、膨疹を呈する蕁麻疹など
も薬局への来局者で多い疾患と
考えられます。
発疹に対する臨床判断とスキンケアサポート
■ 色調の変化による斑
紅斑
毛細血管拡張
紫斑
赤血球漏出
■ 丘疹
色素斑
白斑
メラニンの
沈着
メラニンの
減少
■ 水疱
角化性丘疹
充実性丘疹
毛孔一致性丘疹
■ 膿疱、嚢腫、膨疹
表皮内水疱
表皮下水疱
小水疱
膿疱
好中球
図1
漿液性丘疹
嚢腫
膨疹
(蕁麻疹)
角質など
浮腫
原発疹の模式図
清水宏著. あたらしい皮膚科学 第2版. 中山書店を一部改変
緊急性・重症度の高い疾患
には感染症を疑う必要があります。痛みを伴う水疱や丘
疹を呈する単純ヘルペスウイルス感染症、水痘、帯状疱
疹などのウイルス感染症や、痛みを伴う紅斑や腫脹、発
病変が広範囲にわたっていたり、腫れや痛み、発熱が
赤を呈する丹毒、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎などの細菌感
あるなど、患者さん自身でも重症感を感じるような場合
染症などでは、いずれも専門医による治療が必要ですの
は皮膚科を受診すると思われますが、発疹の訴えで薬
で緊急に受診する必要があります。
局を訪れる患者さんに対応するにあたっては、緊急を要
尋常性天疱瘡:中高年に好発する疾患で、有痛性の口腔粘
する状態についても知っておく必要があります。特に発
膜のびらん、潰瘍が突然発生し、皮膚に大小様々な水疱が
熱や痛みを伴う広範な発疹、眼や口腔内などの粘膜症
発生します。さらに口腔内から食道粘膜にかけて生じるび
状などには注意が必要です。中でも粘膜症状は本人も
らんが原因となって摂食障害をきたします。治療としては
見逃していることがありますので、唇がひりひりするこ
ステロイドの全身投与を行い、難治性の場合は免疫グロブ
とはないか、眼が充血していないか、眼脂(目やに)がで
リン大量静注療法や血漿交換療法を併用して行います。
ていないかなどを確認することも重要です。緊急受診を
アナフィラキシーショック:全身の膨疹、紅斑、眼瞼や口
勧奨すべき疾患には以下のようなものがあります。
唇の血管性浮腫とともに、嘔吐などの消化器症状、呼吸
Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症
(TEN)
:
困難、血圧低下、意識障害など急速に全身症状が悪化し
一般用医薬品
(OTC)
を含む医薬品を服用後、口周囲、眼の
ます。原因としてはハチ刺症、食物(そば、ピーナツ、甲
周囲に炎症の強い発疹や痛み、発熱を伴う広範囲の発疹
殻類、果物、小麦など)
、薬剤、ラテックスなどが挙げられ
があるというような場合は、重症薬疹のStevens-Johnson
ます。原因食物摂食後に運動することで誘発される食物
症候群や中毒性表皮壊死症(TEN)の可能性もありますの
依存性運動誘発性アナフィラキシーにも注意が必要です。
で緊急に医療機関を受診する必要があります。原因薬剤
としては、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)
、サルファ剤、
抗てんかん薬、抗生物質などが多いとされていますが、
対応が難しい顔の症状
どんな薬でも発症しうると考えられています。
顔の皮膚は他の部位よりも表皮が薄く、化粧品や衛
ウイルス・細菌感染症:痛みを伴う発疹が見られた場合
生用品、汗や皮脂、紫外線、ハウスダストや花粉など
Credentials No.94 July 2016
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