ドーピングとスポーツ倫理

ラジオ
学習メモ
第 12 回
保健体育
[体育]理論
ドーピングとスポーツ倫理
今回の学習内容
オリンピックや大きな世界大会が行われるたびに、よくドーピング違反で「メダルはく
奪」などというニュースを耳にします。このようなニュースを聞くと「何で」とか「またか」
という気持ちになります。そこで、今回はドーピングとはどういうことなのか、どうして行
われ続けているのか、その行為によってどのような問題が生じるのか、などについて前回に
続き、陸上競技短距離で4度のオリンピックに出場された朝原宣治さんからお話を伺いなが
ら、ドーピングとスポーツ倫理について考えていきましょう。
ゲスト講師
講師
朝原宣治
杉山正明
(北京五輪メダリスト)
(学習メモ執筆)
壇蜜
先生
ドーピングとは
ドーピングというのは「競技能力を高めるために、薬物を使用したり、それらの使用を隠した
▼
りして、意図的に自分だけが優位に立ち、勝利を得ようとする行為」のことをいいます。
ドーピングとはもともとは麻薬や興奮剤の使用を意味していましたが、科学や医療の進歩とと
もに多岐にわたるようになりました。薬物によって筋力や持久力を高める以外に、血液を操作し
たり、尿の質を変えたり、尿をすり替えたりということもあります。
なぜドーピングが行われるのか
いまだにドーピングがなくならない背景として、一番大きいものにスポーツとビジネスが結び
ついている、という現状が挙げられます。「見るスポーツ」の発展により、ビジネスチャンスが
拡大し、
スポンサーが勝利した選手に莫大な賞金を支払うようになり、その結果「勝利至上主義」
に走る選手が後を絶たなくなったことも要因として挙げられます。
求められるスポーツ倫理
ドーピングをなくすための取り組みのことを「アンチ・ドーピング運動」と言います。
このアンチ・ドーピング運動の促進を目的として、「世界アンチ・ドーピング機構」(WADA
ワダ)が設立され、また、日本でも「日本アンチ・ドーピング機構」
(JADA ジャダ)が設立され、
アンチ・ドーピングの取り組みが展開されています。
ドーピング行為は、「フェアなスポーツの精神に反する行為」であり、スポーツの存在意義を
失わせる行為です。そのような視点から、ドーピング問題は「スポーツ倫理」の視点から考える
必要があります。
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column 保健体育
12 [体育]ドーピングとスポーツ倫理
1.ドーピングの語源
大昔、狩りや戦いの際に、恐怖心や眠気を無くすために、人々は、木の根や葉、キノ
コなどを口にしたり、疲労回復のために強い酒を飲んだりしたと言われています。この
ことから、ドーピングとは、もともとは麻薬や興奮剤の使用を意味していました。「ドー
ピング」の語源は、一説には、アフリカ南部のズールー族が、お祭りや戦いのときに飲
んだ「dop」というお酒だと言われており、この「dop」が広く興奮性の飲料のことを
指すようになったようです。
2.スポーツ界におけるドーピングの始まり
スポーツ界でドーピングが行われるようになったのは,19 世紀後半、スポーツが盛
んになったころからになります。それまで競走馬に使っていたヘロインやモルヒネと
いった薬物を、競技者自身が勝利を得るために使うようになりました。ここから、薬を
違法に使うドーピングの歴史が始まりまったと言えます。記録に残っている最初のドー
ピングは、1865 年アムステルダムの運河での水泳競技で、覚せい剤が使用されたこと
でした。
その後、ドーピングは絶えることなく続き、1920 年代以降には、サッカー、ボクシ
ング、陸上競技など、ほとんどの全てのスポーツ種目にドーピングが拡大するようになっ
▼
てしまいました。そしてとうとう、1960 年に行われたローマオリンピックの自転車競
技では、アンフェタミンという興奮剤によって、オリンピックで初の死亡者が出てしま
いました。
3.ドーピング行為の問題点
1 つ目は、ドーピングは本来の力以上のものを薬物にたよって発揮する行為であり、
フェアなスポーツ精神に反する不正行為と考えられるという理由です。これはスポーツ
の持つ固有の価値である「自己を信じて、最善を尽くすこと、仲間を信じること、他者
を尊敬すること」に反する行為であるといえます。場合によってはスポーツの存在意義
を失わせる行為ともいえます。
2 つ目として、一流の競技者の行動は社会に大きな影響を与えています。薬物を使っ
てトップアスリートの地位を得たとしたら、それは子どもたちにも正しいものとしてう
つってしまいます。ですから、社会に大きな影響力をもつ競技者のドーピングは禁止さ
れなくてはいけないと考えられます。
3 つ目は、副作用などの観点から、使用する選手の健康に危害を与えるということで
す。死亡事故まで起きてしまっているわけですから、これはドーピング禁止の大きな理
由になっていてもおかしくありません。特に成長過程である高校生や中学生に対して
は、健康を損ねるということで、これを禁止することは特に必要です。
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