迷 惑﹂ 考 九二 堀口 相言 しかし、その事態が、当人をそこれようとする意図が認められる他 人の言動であるばあいや、直接被害を受けた出来事であるばあいな 物を盗まれたり災害に遭ったりしたこと自体を指して、迷惑だと @ どには、この語は用いにくい。たとえば、まともに傷つ けられたり いられるが、それは、ありがたいはずの他人の言動が、 実は当人に ぅ のは普通ではない。とすれば、現代語の﹁迷惑﹂は、常に﹁はた ナ 形容詞︵形容動詞︶ として用 とってありがたいものではなく、かえって迷惑だ 、とい うことを 表 ﹂で片付 ﹁公害﹂という語が定着した ム﹁日でも、日常では﹁迷惑 迷惑﹂の吐格を帯びるということになる。 とって、もともと当人をそこれる意図のないはずの他人の 舌口動や出 してお叱りを受けるであろうが、感じる心情を述べたものとして理 口@@ けることが多いようである。戦闘機の騒音に対して﹁迷惑だ﹂LL より先に口 解は得られよう。﹁迷惑防止﹂とい,三目 が薬 ﹁公害防止﹂ 舌ソ ロ にと えぱ、日夜その騒音対策にたたかり人からは、ピンボケ0%力 いられる ﹁迷惑﹂は、名詞・動詞として、また、形容詞として用 にされるほどに、我々は主観的で情緒的なこの﹁迷惑﹂を愛用して 来事なのに、それが結果として不利益や負担をもたらして迷惑 だ、 が、この語は、ある事態に遭遇した当人が、それから不 利益 ゃ 負担 あ り。 し、その心情をもたらす事態のもつ性格のきまを述べる妾旭市しz ヮ心情、ない を蒙って木灰に思 う ことを述べ、また、そのように思, ということを表す。 す。﹁はた迷惑﹂﹁近所迷惑﹂という語は、はたや近所にいる人に ﹁ありがた迷惑﹂という語がある。 何席口 「 興味の中心は、まことに奔放で勝手気構に愛用されるこ 0%山の 休を明かすことにあるが、それには、近世以来の使用例をくわし 分析する要がある。いまその余裕をもたないが、本稿はその序説 して、現代の用法の発生源である室町期の用法に焦点をあててみ く思う。いうまでもなく、本来の漢語の﹁迷惑﹂には、このよう ひねくれた意味は含まれず、また、現代の用法の源であ8室町期 おける用法は、もうすこしまともで健康であった。 ところで、この語は﹁メィヮク﹂とよまれるが、﹁メィ﹂も﹁ ク﹂も慣用音である。﹁前田本色葉字類抄﹂は、 ﹁へ﹂ 0部に 0迷惑 メイワク とあげ、﹁迷﹂に濁点符を付す。﹁黒川本色葉字類抄﹂は、 ﹁メ 0部に 0迷惑 メイ ワク、又@ 、4 コク とあげる。中 ・近世の字書類にあげる限りはいずれも﹁メイワク とするが、コ重星 星 考 L のみは左訓に ﹁ベイコク﹂を 併記する。 れらは、古来一員して﹁メイヮク﹂が通常のよみであったことを すが、古くは漢音の﹁ベイ コク﹂のよみもあった可能性も示す。 口一ロ コ大漢和辞典 Lによれば、この語の基本の意味は、 正 く い路にま ょふ 。㈲心がま よ ひ きどふ、 日まどはす。 であり、それぞれ次の類の例が示きれている。 ㈱迷惑 八 二天子玄朝ゅ何量子 り ㈲ 彼燕口大乱、君臣 過 。 計 、上下迷惑。 n 戦国策 口 ㈲経衣 浅帯 、矯言偏 行 、以 迷臣悪天下芝生 4 ロ荘子口 この部分は今も門徒の間でよく引かれる所であるが、 沈 没 ﹂と対に 当 該 箇所は 、 九三 である。この部分は古訓に明示がなく、その解読は秘事だったよう 人を迷惑 せむ ﹂となるであろうから、㊤の用法であることは明らか これは受身表現であるが、能動表現にすれば﹁魅鬼心 ら ず 是の邑の 掠り 0 有 。八占云 、是 巨人、必菊二魅鬼 研二迷惑 づ不 。欠如。@ 被巳其抄 ㈲の例は、﹁日本書紀︵ 欽明 五年十二月︶﹂に見える。 用いられており、迷い込む意であることは明らかであるが、これ 以 ﹁名利の太山にめいわくして﹂と訓じられている。﹁ 不。 喜 。八%定案 之数 @不 。快 。近二頁証左証@可 。恥可 。傷芙 。 惑殿名利 太山 @ 0 誠知 、悲 哉 、愚禿鷲、洗二 没於愛欲 広海 @迷 ﹂ けの例は、司教行信証︵信の巻こに見えるものである。 めて乏しく、ことにけと日については孤例 しか知らない この語がわが国に入ったわけであるが、古い時代の使用側 はきわ た と は に 」 」 こ 示 である。今は普通﹁かならずおにのためにまとはされむ れている。 詞に、仙女に逢った竹取翁の言として記きれたものである。 0非。 慮之外、偶逢 二神仙 イ迷惑左心、無二敗 所, 禁。 ﹁遊仙窟﹂に仙女に逢ったときのことを﹁見。 面精神史迷惑﹂とあ るのに准じた表現であろうが、ここは普通﹁まとふ心あ へてとどむ るところなし﹂と訓じられている。 ﹁小右記︵木酢二年 セ月五日ニに 次の例がある。数日後に亡くな る女児の重病に関する記述である。 0祇園明能師来。令 。 祈払申 小児病﹁無力殊甚。痢病数十箇度、 身熟知。火、寸心迷惑。 次は、﹁玉葉︵ 巻三 ・嘉応元年正月セ日︶﹂に、ある 儀式の作法に ついて質問を受けたが﹁余依 , 随 不二覚悟@分明不。 答﹂ と記し、そ の注に記すところである。 0此事大。 知臣先例Ⅱ自身作法問以暗然、欣二他人 之礼儀 也。愚 ほ迷惑不。 知。 所。 為。 九四 動顕 し、魂が消え、我を矢ぅ ことを 表すの かくも、現代語の﹁まよい﹂や﹁とまどい﹂の類の段階ではな まさに心が錯乱し、 る。これらの漢文は訓読されることを予期するものであり、す キ @ @ ナ @ @サ変動詞﹁迷惑す﹂が成立していたことをうかがわせるO@ 秦舞陽 の 逸話が コ 平家物語口巻王に 見える その意味は 、先の親鸞の例を除けば、すべて㈲の用法に限られ ニ 一口 ム﹁のところ、和文記載の最古の例は のである。朝敵の例を異国に尋ねる記述の中に、 る。秦の始皇帝の威院宮に参内したときに、﹁あまりに内裏のお た ざしきを見て、 秦難場わなと ふるひ ければ﹂ 、そ の 臣下か ﹁舞陽 謀反の心あり﹂と怪しまれるが、そのとき同行した荊軸が のように弁明したという。 0 舞陽まッ たく謀反の心なし。 ッて、皇居になれざるが故に、 たビ 田舎のいやしきにの みな 心迷惑す。二局野本村訓 この例は 、先の竹取翁のばあいと同じく、あまりにもすばらしいも らしい事にしろ、つら里宰にしろ、激しい衝撃を受けて 使用例を他に知らない。 れによった表現なのであろうが、ともかくもこの頃の和文における のに接して心が動頗 したこ とを表す。出典は漢籍であろうから、そ その正常が失われることを表す。それは、古代詰め ﹁まとひ﹂なら これらの﹁迷惑﹂は、いずれも﹁心﹂を表す語を主語とし、すば も る び ち 次 8 ㊧の例として著名なのは、﹁万葉集︵ 巻十六三三 セ九一番歌 の題 る O コ狂言コロンド この語が豊富に見られるようになるのは室町期 であるが 、その頃 の 使用例にも右の意を保つと認めうるものが存在する。 明 本に よる︶ は太郎冠者が主に激しく叱責される場面が多いが、そこにしばしば この語が用いられる。︵以下コ狂言ロロの引例は虎 n呼声 ロ 0 し り、がつきめと 云。太郎くおじや、あつと 云 てとび しさつ て、かぅべ をちに付、めいわくする。 0 いつよりも 御 きしよくがかわって どざる程に、もはや お手 ぅ ちになるかとぞんじてめいわく仕 、身の毛をつめて どざ 二 一千石口 他にも次のように例が見られる。 よいき 0 我ヲ セラル、 ト思テ、テヤ ウトメ イワクシタゾ 。 n 毛 詩抄 十六口 0 ︵ 人 ダト 思ツタノガ実 八人形 グトヮ カツ テ︶扱も もをつぶいた。瓜 生かと思ふて、いくせのことを思ひ、迷惑 した。 n 続狂言記・瓜盗人り いずれも激しい恐怖感のあまりに心が動期することを表 大に逢った 動顛や壮大な皇居に接した動顛からは程遠 う な負の性格の伴う動 顛の意味を基点としてこの語は出発し、発達 してきたのである。 同一一一口 室町 期 の使用例には、心の動妖 の 意 とは無関係ではない ものの、 にして、 ややずれた意のものが見られる。次は、四五人の女房を一剛 目指す尾上殿は誰かと迷う場面の描写である。 いづれ か おの へ殿にて 御 わたり う づくしく個人 候 程に、めい わく 仕 0 たビ 一目見申せし事なれば、 候 やらん、 いづれも り候 ところに、・・・ n 伽 ・三人法師・上口 心の平静を失 う ことではあるが、この﹁迷惑﹂には動 顕 して我を矢 うといった深刻さはなく、せいぜい判断がつかずとまどうことをい もうのでしかない。 くして ﹁狂 舌口﹂には、遭遇した事態にど う対処すべきかわから なくてと さどうことを表す例も多いが、右の用法の同類であろ, 隠レ笠ヲカ ブラ セタノ 二︶見えるによって、めいわ 0 ︵ ロ隠笠口 0 ︵大名ニ態勲ナ 挨拶 ラ サ ンテ ︶にはかに 御 いんぎん め いわく いたす。 二 一千石口 ﹂ 何共 めいわ くなき nぬる しひ事 じや。 御 きげんをなをさ ぅと ぞんじて 、むさ とした事を云いだいて、めいわくいたす。 0 ム﹁俄に客がど ざつ たが、きかながなふて、 九五 るち 。 n武悪口 0 ︵縁談ハ︶あなたこなたより申せ共 、とかく む すめが がてん 近 世を通じ 何共 めいわくいた す 。 う 当惑・困惑の意を表し、 いたさいで、もはやせいたけものび、 眉目言 ロ ハ べて処置に窮することをい 使用例が見られる。 ひで、棒におとった物で、迷惑した所に⋮ 口雑兵物証巾 下ロ 0 ︵圭三%胞ヲ預ッタガ︶見かけばかりで、刀の役にはた Ⅰな 0 はや 此魚を料理せいとおしやるによって、迷惑いたして、此 て いでど ざる 。 n 続狂 舌口詞・俄道心口 叉 いや がる 所 只御礼を深く 被 。 成 候 に付 0味噌のそこねたるは、人 どとにめいわくして、 あり。 ロ 子孫 鑑 ・下口 0 摂津守殿は・平生の御律儀の儲に、 葉隠 て、公家方御迷惑にて、御手を御突 、御会釈 被 "成候 。 ロ 片@ 里.五口 n浮世 床 ・初 0 ︵アル語ノ 出典 ハ大学力ドゥ ヵト ︶両方からきかれて、隠居 もとより大学をしらぬゆゑ、 大きにめいわく。 上口 八四口 九六 仁・八a 苦c 悩、あるいは、心を痛めることV ﹁日ポ辞書﹂︵﹁邦訳日葡辞書﹂による︶に次の記述があ 0 目のぎ 、いど ふかくのいわくすべ 一口 き 事を リシ シタン資料にある例の多くは、確かにそのように 解 される。 0 こ つにくののぞみをしたひ のぞむは 、 みもなき 事也 。 rこんてむ つすひ ん地・ 一 -が仁 い ョ 0白 OU 0 よ るづ のめいわくをのがれて、くつろぎにいたらん事 、 やす かるべき事なれども、⋮Ⅰ 同右 ・一・二 0 あるときおおかめ︵Ⅱ 狼 ︶のどに大きな骨をたてて、 天草木工 ソ ポロ ここにきわさって 、鶴のそばへいって 、 ⋮ 口 n 天草本平家・四・二一八口 岸が仁 い 0武士どもうちいってさがすならば、おのおのも㎎ 0ヨ のあらず。 っぱら処置に窮してとまどう ことに重点をおくのに対し 語例との間に明確な一線を引くことはむずかしいが、 は、 更に一歩進んで、難儀な事態に遭遇し、それを解決するすべ て、これ そ れらが、 れるの例も、処置に窮することに通じる意を表すものであり、 先 こ の も なく、ひたすら苦しむことに重点をおくのである。 ら 0 すいこ天王のかたの へみゆき 有て、 明くれ鷹をつかは されし 京内参りといふ程に、此度はきしおか ふ。二千石 口 0よの所へたちこへたらば、たちまちめいわくさせうず れ共、 コ狂言 L にもこの類の使用例は多い。 も す て さしてにげ行を、⋮ ロ 禁野口 る Ⅰほどに、ほげた。 n 附子口 0あのぶすの風があたったれば、たちまちめいわくする 王手 0此御せいたうた ビしひおりから、そのつれな事をいふ てめい わくするな。 n 鰻頭口 武王口 0さやう に未断にしては、民有性のめいわく方 なり。 n 0某が親にて候者、此 ねこ︵Ⅱ守護人ノ愛猫︶をころし申 て候 間、余人きくつけ市上る物ならば、一門谷属 めいわくにおよ び申きうずる。 n 鶏猫ロ 0止草 ハ、ノボリ サカ ハ房 ゾ 。サテ 、下 サカ デハ 迷惑 口四阿入海・十二,一コ 0 年ガ 不熟 デ 迷惑スル ゾ 。 n 蒙求抄・一口 ありけり。 n 伊曽 傑物語・下口 ゑて 、めいはくをいたす 八け 七ト 0 其 かたはらに、たつといふもの、水にはなれてめいはくする 0 この 種 久しくわかしりにかつ 日は今日の物語・下口 n同右 ・下口 0 ある ちご、ぞ んのほかにもちをきこしめし、にねか に はんね つして、めいわくなさる。 n反故実・下口 0我等頼みし人、夫婦ともに樫貫 邪見にして、 明暮 何 % に 逢ひ 迷惑仕り供出。 、面ノⅡ覚悟あしき 故 なり。 も 迷惑 世間 n 0 人 みな常に渡世を油断して、毎年ひとつの胸算用ちがひ、節 季 を仕 廻 かね迷惑するは 使役表現を用いて意図的に他を苦しめることをいうものもあり、ま 多くの例は、心ならずも難儀な目に遭遇して苦しむことをいうが、 た、自らの悪業による因果で苦しむことをいうものもあ る。コ日ポ n浮世床・初中口 スル 処デ 、 此究明 ヲ迷惑シテ 、 ⋮ 円蒙求抄・五口 0 広漠 ガ殺 スマイ八% 殺 タ車ノア ルヲ、元魏相ガ堅 コレ ヲ究明 難儀に思い、つらく思うの意を表すものであろう。 なお、まれに ヲ格をとる他動詞としての用法が見られる。何かを するではあるまいか。 0出刃包丁で人をあやめれば、人にも難儀させ、面 胸算用・一・一口 わくす 辞書﹂の記述はもっぱら精神の苦しみのみをいうが、肉休の苦しみ を表す例もある。 この意の用法も近世を通じて用いられた。 0種々のむさぼりたる仕置なる故、たみこと。くめい る。 n 甲陽軍鑑・ロ 王八口 C水は、人間のたぶるものをしたⅠめ、よるづにてぅ はう なれ ども、おほ水の時はめいわくいたす。 n 同右 ・品十四口 九セ 日五口 珂狂言ロ﹂には次のような例もある。 nしびり 口 0それならば、とうからがひおつきゃつた が よひ 。俄に 中村 ら る Ⅰ所で、めいわくいたす。 n国君 口 ヲ進ズ ルコ ト︶を中村られ てどざる 0 重 ても中村られ う ならば、めいわく致す。 0 一はん了ァナタ三一飯 n 北天牛一口 に 、しん ぜずは身共がめいわくいたせ共、 @ ハ悪功口 0 はがしひことを 云か Ⅰつて、めいわくいたす。 九八 た ﹁迷惑﹂は、遭遇した事態を平穏な 自分をそこれる不都合・不当 なものと捉える点で、ささやかながら自己主張の性格をもつ。その 事態は多く上位者によってもたらされ るが、そのばあいには抵抗の 怠 きえうかがわれる。 新しい自己主張の﹁迷惑﹂は、古い自己喪失のそれとともに近世 を通じて用いられ、現代語にはもっぱらこの新式のもののみが伝わ ったようである。もっとも、遭遇する事態は 、右のように当人めあ ての他人の舌口動によるものから、しい だに当人めあてではない他人 の言動や出来事によるものが多くなり、そこにまたこの語の新たな 0 ︵ 師ハ私ノコトヲ︶木竹のきれ め や う に、杖にもならぬ柱に 変質があっ仁のである。 といえるが、その主体である当人の難儀には余裕があろぅ 。すなわ これらの表すところも難儀することの意であり、先の諸例 と同じだ ち、難儀するといっても、どうにもならず決定的に苦しむというも はム ﹁日の物語・下口 0内にあまをねさせてきたが、も し声のたかきに目がきめれば 口 同右・柿山伏し 0なにといたしてやら、︵ 柿ノ木一こ鳥がついて迷惑いたす。 が、酔狂をしられて迷惑をいたします。 n狂言記・ 買 ひ豊口 0われらがつれやい、なにともかともならぬ さ Ⅰのみで 御 ざる の中なしで候はん。 n 同右 ・下 0なにともめいはく壮快。これ︵Ⅱ息子二関スル 悪ィ噂 ︶は 人 もならぬと朝夕申 され、なによ りノⅠめいはく仕候。 n昨 日 そ れによって のではない。遭遇した事態は、当人にとって望ましいものではない が 、それを不都ム ロないし不当だと断じる余裕があり、 不利益や負担を蒙り、平穏な自分がそこなわれて困ることを表し、 また、その結果として不快な思いをすることを表すものである。 この類の用法は、もとの意を大袈裟に用いたことになるが 、これ は、ようやくに﹁迷惑﹂の語を自由に駆使して自家薬籠中のものに した室町人の所産である。もとの﹁迷惑﹂は、遭遇した事態にただ ひたすら圧倒されて自己喪失することを表すが、この新 しく誕生し めいわく。 n 軽口 露 がはなし・ ニ ・セロ や舌 ひもの なお、当人の感じる﹁迷惑﹂を他人がするという表現もあった。 稟 申して お供致 0 ︵使用人二︶あのや う なる病者ををこして、迷惑をさ しやる ヱ八口 事 じや。 n狂言記・ 婚 し 縄口 0は n 察化 し るムⅠの所を、太郎くわじ ゃ がむさとした 司狂言旦 には、また次のような例も見られる。 て 参って、めいわく仕った。 現在は、このようなばあいに そのものの語義としては先の例と同じであろうが、このように柏手 の感じる﹁迷惑﹂の用法も存在した。 が残っている地方もあるよしである。 ロ万 は﹁迷惑をかける﹂などの形を用いるが、﹁迷惑をする﹂の舌い 八七口 以上の﹁迷惑﹂の用法は、辞書の記述なら八名・動 サ変 Vとして 示されるものである。その意味を再揖すれば次のとおりである。 山道に迷うこと。また、道に迷ってあらぬ所に入り込むこと。 ㈲心が迷い乱れること。衝撃を受けて我を矢うこと。動顛。 n 察化 し 0 人 たがひ 致て 、めいわくつかまった。 ところで、この語にも、人の心情のはたらきに関連する動きを表 ㈹柏手に不都合をもたらして、申しわけなく思う こと。 ㈲不都合な目に会って、不快に思うこと。 ㈲ひどい目に逢って苦しむこと。難儀。 ㈹どうすべきかわからず、とまどう こと。当惑。困惑。 八Ⅰ 白 0 ね いの山のかみがすこしの間もはなさぬに依て、 参る 事 がな らいでめいわく仕った 口花子 ロ 借金返済 -も 申さひで、 め 0 北中は久しう御見廻 ら中 きひで、めいわく致てどざる 母が 酒口 0仰のむとく、久々さん用 T す意から転じ、それによって生じる心情のきまを述べるナリ活用の 情意性形容詞の用法が生じた。﹁1を迷惑に思ふ﹂などの用法がそ 致て御 ざる。 n入句連歌口 これらの例は 、 先の例とは うら はらに、当人が柏手に不利益 ゃ 負担 コ口ポ辞書Lには次のように記述がある。 動 ナリVと示されるものである。 の端緒であったと考えられるが、辞書の記述ならさしずめ八名・形 ﹁迷惑﹂ に 用いる。 を与えて不快の念をもたらすことを表す。多く﹁迷惑っ かまつる﹂ ﹁迷惑いたす﹂の形で、話者が柏手に失礼を詫びる表現 柏手の感じる﹁迷惑﹂を当人がする意を表すものであり 九九 0 緑のぎき巨 ㏄ 八心を痛ませるような︵ことⅠまたは 、苦悩を 引き起こすような︵こと︶ V 一OO う ずる。さりながら、はや申し出だしたことなれば、 されも致されず、迷惑これに過ぎぬことちゃ 。 取 り返 第三例は先の㈹の用法そのものであるが、第一・二例6 基本的には その名詞で たしかに、連休修飾の形で名詞に上接するばあいには、 あることとあ n 狂 舌口・塗師 口 何共 めいわくに ぞ んずる あひだ セラ ルヘ任重ゾ ハ甲陽軍鑑・合戦一口 0大事 ノ経ヲ講ゼサ かくして成立した ノ御意 ヂヤホ ドニ 、 々リ活用形容詞﹁迷惑なり﹂は、さまざまの 表 ト中スゾ 。 n蒙求抄・ セ口 貴人 ゾ 。 是ヲ 大事 ト迷惑ニ百 ズ ルホドニ 、心ガ酔タ如 クアル 。天子 やう にもてなされるれども、ないしんほ 大方ならずして 0暗宿、甘利備前 う ち死を迷惑におも ひ、ぅは 気はき げ んよき 円狂言ロ・どぜ 座頭 口 0 此 としまでつまをもたひで、 ぬる物も御 ざな ふて、めいわくに 有 る。 しで ・ 0 われらがや う なる 昔細工は、いらぬによって、はやら 、 この形の表現例は珍しくない。 心情そのものを述べる語に転じたと考えられる。 いまって、それがそのまま、当惑してつらく苦しく思,っというその ぅ表現だったと考えられる。﹁ 1 に 思ふ﹂という形で らず当惑するように思い、また、花楓殿も同様に思うだろ う 、とい 同じ用法であろう。遭遇した事態によって、どう対処すべきかわか ある。 表される物事の届性を表すことが多いが、常にそうで るとは限ら ず、基本的には、その ょう な心情を述べるもののはず 形容詞の用法として室町田のものに使用例が認められるのは、 光 し㈲に対応 、㈲も多用 の動詞におけるⅢ| ㈹の用法のうちの、㈹| ㈲に対応 す るものであ な る 。 nは一般化しなかった用法であるから当然である されたわけではないから無いのもう なずけよ う 。㈹ するものと、㈲に対応するものとの二つの用法がもっ ら 認められ る。 もど とく なお、㈹に対応する用法は、室町期 のものは 未 見であ るが、江戸 期 のものは散見される。 口八口 ︶ いづれ めき 機嫌も良からりと 存 じて申 きぞ 花 楓殿 はど迷惑に思し ノ︶ ど 申すまいものを。︵ 花松殿ハ ぢ 次は 、古作能﹁丹後物狂﹂の間狂言に見える例である。 O ど折濫 にて候は 器用なと申したらば︵父君 し 出だして、迷惑に存ずる。 現に用いられることになる。 0 何とめ ひわくなりとも、子をうり すつる事なかれ。 十の人穴の草子 口 へば、 きる 物 ひとつをさむきよる 伽 ・富 n 竺一一人し 0 其 せつ真大将になりて行人は、かならず手 くばりまは るものなり。たと てきてね るやう にて、なに 共 めいわくなる 儀おほ からん 。n甲 陽軍鑑 ・品 十一口 0 春 、民 ノ迷惑 ナ時分 ニ良二千サル、 ヲ、 米デキ テ返 ソマラヮハ ルゾ 。 n毛詩抄・十四口 などの例は 、物が欠乏して苦しみ窮する心情を述べるものである。 何人 海 ・三 ,四 U むね がやくる事なにともめ 0 調 セラ ルヘ ハ講モメイ ワクナ事ヲ 、口中華若木 詩抄 ・上口 0 みち にて餅をしいられて、 ひ士 @ ち ゃ。 n 昨日は ム﹁日の物語・上り とふ 人もない。 何とも くじや 0 いかほど偉が入っても、訴訟のことが叶はねばめいわ が、 ⋮Ⅰ続狂言記・土産の鏡口 n岡君・柑子佳日 0是に道が二筋有 。北山中で日はくれ、 めいわくじや。 ロユⅡハ口 ﹁狂言 口﹂には、次のような対話の場面が頻出する。 や程に、いそいで申 あげい。 八加賀 ノ目性Vそ れはめいわく 0八奏者V歌を一首づ L御年貢によそへて申 あげ いとの御事じ むろんそれにとどまらず、さまざまの苦しさを述べる側 があり、 ま た、そのような心情をもたらすものの属性として述べる側 もある。 無理な言い付けに対して拒絶する意を述べる舌口であ。 る別の言い方 く、おそうしゃのおほせあげられい。 n 筑紫の 奥 U 申 あげ い。八百珪Vそれはめいわくでどざる。 かれいのどと で、申 あぐる事がならぬ。汝ら罷出て、拍子に かⅠ 9 色々を しなを申せと仰いだされたれども、身共はぐど んなそ う しや 0ハ奏者 Vやい両国の百 珪、これへまいれ。 みれ ん ぐの色 で御ざる。 n 節酒口 0 ︵奉公スル者ガ ︶わたくし一人にては迷惑にあらふと思 召す じ ゃ 。 n狂言ロ・鼻取相撲 か、新座の者をおいてこひと何らるⅠは、かたじけなひ こと 身共が鬼 n狂言ロ・抜殻口 0 な ふかなしや。清水に鬼が有かと思ふたれば、 になった。さてめいわくな事かな。 n甲陽軍鑑・ 品 十四口 0 火と 三物 は、 是も人をたすくる てぅ は う なれども、 す ぐれ ば じゃうもと中て迷惑なり。 Ⅱ ノ。戸田 0 此間八居処モ 窄テ 百種二、客人 ノ来 そ迷惑 二ア ッシ - 一O 一 でもさまざまに用いられる。 0 ︵馬虻ナレト ︶迷惑な事御意なさる ふ。 n 人馬口 0畜類になる事はめいわくに ど ざれ 共、 そればどにおぼしめせ ば 、是非もど ざなひ 。 n周君 口 0 ︵大名ニ猿 ヲ打チ殺スョ ウニ強要 サレ タ猿引 ノ言︶ 近比めい わくな所へ参りかⅠつて、ぜひに及ばね、う つてあげまらせ ぅ 。 n靱猿 口 いずれも﹁つらく苦しい﹂心情と無関係ではないが、先に㈲につい て述べたように、けっして遭遇した事態に圧倒されるのではなく、 余裕をもってその事態を不都合・不当なものと断じ、それによって 戸雑兵物語・下口 夷歌集・一口 一O 二 0 めいわく や公人門の 口みえず糸をぐるりとまきし青 牛 ばかりハ例多智・初口 0御頭︵持 ︶へ菊もらはるⅠめいわくき目炭俵・上口 0 めいわくな貝は祭で 0めいわくさ土栗 で玄関泥だらけ門柳麦笛・一一一コ コ狂 @L の例のほとんどは、上位者の言動によって生じた事態が当 当 人 めあての @ ロ= 人 にとって﹁迷惑﹂であることをいう ものである。 そ 小舌 リ口 勤 は 、必 ずしも当人をそこれようとする意図はないものの、 動 である。当人に負担がかかるのは明白なのに、それに頓着するこ 初 のすがたであった。しかし、右の諸例を見ると、その事態は 、当 とのない上位者への抵抗の念をこめていうのが、この用法の発生生 この用法は近世を通じて用いられて現在にい打っているが、その 人 めあてではない他人の言動の副作用として生じたも のや、当人と 不利益や負担を蒙って不快に思い、いやに思う心情を表す。 使用例を見ると、右のような﹁狂 舌口﹂の 例と はやや異なった意味あ は無関係な出来事によるものもある。不利益や負担を蒙 って不快に を述べるものとは思えない。柏手の不当な言動に対して 、この 妾 旧る 側 は、当人が窮し苦しむほどのきびしい心情にあって、 その苦しさ しむ心情を述べる語 として成立したが、この項で示し たコ 狂言ロL の そもそも形容詞﹁迷惑なり﹂は、対処すべきすべがなく て窮し苦 うかがえない。 思う心情を述べるという点は共通するが、そこには抵 抗 の念などは いも生じたことがわかる。 ぶし、是は ノ Ⅰ といへ 0私事二合戦 ラ サセラル、 ゾ 。 是ハ 迷惑 カナ 。 n毛詩抄・六口 0 ︵片心賓ヲ 剃り落サ ン︶化人きもをつ 共 かなはず 0きて言語だ ぅ だん、 めいわくちゃとて、は ら をたつる。 n 昨日は今日の物語・ 上 さぞ 0 惣 じて喰ものに念を入 て、嚥 うまくは あんべいけれども、 ︵ソノ 博二トッ テ馬ガ ︶埴馬になるがきぞ迷惑だんべい。 用いて大袈裟な表現をすることで、きムやかながら抵 抗の念を表す と、これが大袈裟な言い万であるという点は無視され、 ものであったと考えられる。しかし、ひとたびこの用法が成立する 当人が不利益や負担を蒙って不快に思う心情があれば、 それがたと え眉をしかめる程度の軽い不快感であっても、この語で表すように もなったのである。そして、それと並行して、本来の窮し苦しむ心 情を述べる用法は衰退し、この語によってまともにつらく苦しい気 n 好色 持を述べるということはなくなり、この語はいわゆる ﹁はた迷惑﹂ を表す語 と化していくのである。 何千田 先の ㈲に対応する形容詞として は、 次のような使用例がある。 ノ Ⅰ迷惑なり。 ちかごろ 0すこしの事に遠く歩ませき して、追出 一代女・四・一口 貰ィ 乳ノ タメ三戸を抽くも迷惑なが 0次第にふけ行程に 、 ︵ ら 、もはや 御 やすみなされ ましたかといふては念仏申 、・ ロ西鶴織留・六・一己 心中万年草・中口 n 0 こんなこと 念 どちなかたへ しらすれば、はなむけのし @r ぎ,の と、やつかいかけるがめい わ くじや。 当人が柏手に不利益や負担をもたらして、申しわけなく思う 心情を 表すものである。 口抽緯口 ﹁迷惑﹂の原義は、まことにきびしい精神作用を表す 語 であった が、その意で表きれるような事は、日常生活ではそう頻 繁 に経験す るものではなかろう。まず疎意した用法は、日常生活で頻繁に経験 する困惑や難儀の意でいうものであるから、使用例が多いのは当然 である。ここにおいて、きびしさにかなりゆるみは生じたが、まだ み をふり それなりに客観的なきびしさをその意味にもつものであ つ@ ナ@ ト 。 司狂言目口に見える新しい﹁迷惑﹂は 、 多く無能で権力の かざす上位者の不当な言動に対して用いるものであった。かならず しも本当の困惑や難儀の域に達していなくても、上位者の不当な @ 動 に対して大袈裟に﹁迷惑﹂と言う態度には、下剋上 の健康な精神 が認められる。この用法において、語の意味のもつきび しさはきら を 伴 う ものであったであろう。 にゆるんだではあろうが、その使用にほ、また別のそれなりの緊張 ところが、時が移り世が変り、その緊張も失われ、﹁迷 惑 ﹂は 、 語の意味として心のきびしさを表すという点はまったく暖味なまま に、もっぱら情緒的に他に対する不快感を表す語 として ふるまうよ うになってきたのである。 一O 三
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