解説3 トヨタ生産方式におけるIoT活用

解説 3
トヨタ生産方式における IoT 活用
アムイ
山田 浩貢
トヨタ生産方式は目で見る管理が中心だが、グ
くなる一方で、グローバル化の進展による生産拠
ローバル化の進展によるエリアの拡大や熟練工、
点が増加している。今までの人間力に頼るやり方
熟練管理者の退職による現場管理力の低下により、 では限界があり、モノづくりのデータの継続的な
IT および IoT の活用が求められている。
収集・分析による未来への情報活用が不可欠とな
本稿ではトヨタ生産方式の課題と IoT の活用方
る。
法および設備保全管理における最新技術を用いた
IoT 活用の具体例について紹介する。
トヨタ生産方式の課題
トヨタ生産方式とは
自動車部品メーカーには素材加工
(金属加工、樹
脂成形、ゴム加工など)の工程が多く存在し、そこ
トヨタ生産方式は2つの思想から成り立つ(図
では機械作業によるロット生産が中心となり歩留
1)。
りが悪く不良率も高いという特性がある。たとえ
1つ目はかんばん、からくりを使用したジャス
ば、プレスの工程では加工を開始する前に材料の
ト・イン・タイムによる人作業の生産性向上のた
金属板やコイルを設定し、金型を取り付ける。そ
めの改善が中心である。また、1個流しの混流生
こからすぐに連続して打ち始めるのではなく、何
産やかんばんによる小ロットをベースとしている。 個か試し打ちをして金型や材料が正しくセットさ
2つ目はあんどんを利用した自働化により、品
れているか確認をする。打ち終わりの時点でも何
質は工程でつくり込む
(後工程に不良は流さない)
個か試し打ちをする。必要な数分をつくることが
考えである。特に三現主義
(現地、現物、現実)
に
難しく、スクラップも発生する。今は右と左を一
基づく考えが基本だが、モノづくりの難易度が高
緒に型抜きをすることが一般的になっているため、
片方に不良が発生するともう片方が端数在庫とし
て別管理となる。これも捨てるタイミングの判断
図1 トヨタ生産方式とは
■トヨタ生産方式の概念
1.J
I
T
(ジャスト・イン・タイム)
生産性を向上
2.自働化
問題を顕在化、
見える化
課題
1.人と設備の融合による
モノづくりに進化
(無人化ではない自働化
人>設備→人<設備)
2.市場クレームの未然防止
3.災害時の復旧迅速化
が難しい部分である。
多能工化による人中心のモノづ
くり
後補充による在庫極小化
ニーズ
1.最新技術活用による
生産のレベルアップ
2.高い品質を低コストで
供給し続ける仕組づくり
⑴コスト削減と品質向上の実現
⑵サプライチェーン在庫の見える化
市場の要求と変化に安定かつ柔軟に対応し続ける
強固なサプライチェーンを確立
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樹脂成形やゴム加工の場合は、成形やゴム加工
の始めには材料のムダが必ず発生する。この量も
意外と多く、季節変動により量が変化する。
自動車部品の世界では流用設計の比率が高く、
製品設計、工程設計時点では適正な品質、コスト
の確保が求められる。素材の質量、不良率、設備
の可動率
(べきどうりつ)
の実力値を見ながら、顧
客の要求仕様を満足する素材、部品を選択し工程
の流れをつくり込むことにより実現する。しかし
Vol.62 No.8 工場管理
特集 2
ながら、現状は以下に挙げる環境の変化に伴い、
見えてきた!生産現場の IoT 活用
図2 トヨタ生産方式の課題
安定した設備稼働や適正な品質の確保が難しくな
■トヨタ生産方式の課題
ってきている(図2)
。
1.車体のコンパクト化や軽量化に伴い、工法の難易度が高
まっている
2.部品の一体化による大型化により、保有スペースの拡大
3.開発期間の短縮により短期での品質確保(設計品質、製
造品質)が必要
4.部品の保証期間の長期化による生産設備の老朽化と金型
管理点数の増加
5.海外の人件費の高騰により、人海戦術での対応が成り立
たなくなっている
①車体のコンパクト化や軽量化に伴い、形状が
複雑になる、または素材質量もより少量にな
り工法の難易度が高まっている。
②部品の一体化による大型化により、1部品当
たりの保有スペースが多く取られる。
③開発期間が約2年から3カ月∼半年程度前倒
しになっており短縮されている。基本は試
作・生産準備の段階で、目標の不良率やサイ
生産は設備中心になり、人は作業よりも意思決定を迅速に行
うことが求められる。ますます自働化が加速する
クルタイムによる生産の検証ができた段階で
量産工程に引継ぎをする。期間短縮により十
分な検証時間がとれず、量産に入る段階で目
課題に対する解決策
標値を確保できず、量産工程に入ってからも
目標値の達成に向けて改善を続けている場合
前述した課題に対応するために、次の解決策に
もある。
ついて説明する。
④国内では部品の保証期間が長くなっている。
①設備保全管理を強化し予防保全を実現する
打ち切りがないまま、10 年以上も生産の依頼
設備保全管理のあるべき姿は故障発生を未然に
が続いているものもある。そのため、生産設
防ぐために次の施策を行い、予防保全を行うこと
備が老朽化していることと、金型を処分する
である
(図3)
。
ことができないため金型の管理点数が多くな
設備保全計画の立案→定期点検の実施→設備稼
り設備や金型故障の発生頻度が増えている。
働の管理→設備停止の対策立案。
⑤海外では人件費の高騰と立上げ時期の短期化、 ②検査工程の自働化と製造条件の傾向分析によ
工法の難易度の高まりにより、人海戦術での
る品質保証体制の強化
対応が成り立たなくなっている。海外では国
品質保証を強化するには次の施策を行い、検査
内の設備を移設して現地作業者による加工を
精度の向上と良品をつくる製造条件のコントロー
行うのが一般的である。国内よりも不良率が
ルを行うことである。
高く加工に時間がかかっても、数 10 倍にもな
品質基準のデータベース化→部品構成表と製品、
る圧倒的な人件費の差でカバーをしていた。
工程、品質特性情報の共有化→検査工程の自働化
今は立上げ時期の短期化や工法の難易度が高
とリアルタイムなデータ収集→抜き取り検査から
くなっており、品質の確保が困難な状況下に
全品検査への移行→製造条件の傾向分析による品
ある。人件費も高騰しているため、ある程度
質基準値の定期的な見直しと改訂→クレーム発生
安定的な生産体制を日本で確保してから現地
時の要員解析のスピードアップと精度向上
に移転する傾向にある。
③現場発生情報によるモノづくりの見える化と
上記のような状況下により、ますます自働化が
原価管理の精度向上により原価改善活動を強
加速することになり、生産は設備中心になり、人
化
は作業よりも意思決定を迅速に行うことが求めら
原価管理の精度向上と改善ポイントを明確にす
れる。
ることにより具体的なアクションにつなげること
があるべき姿である。
原価管理の業務標準作成→生産活動からの情報
収集と原価算出→原価算出の結果を共有し改善活
工場管理 2016/07
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