解説2 現場改善活動にIoTを有効活用する

解説 2
現場改善活動に IoT を有効活用する
日本能率協会コンサルティング
松本 賢治
IoT が身近なものになりつつある。モノがイン
つの時点でどんな動きをしていたのか、どんな状
ターネットにつながることで、今までできなかっ
態だったのかがわかるようになる。現場で改善を
たことができるようになる。もちろん、モノが直
行う際には、今までは「現状の状態を知るため」
接インターネットにつながるわけではなく、モノ
「ロスを見つけて改善するため」といった目的を果
にバーコードなどの識別タグや、状況を感知する
たすために、必要に応じてデータを収集していた。
センサ、発信機などを取り付けることで、インタ
モノの状態が情報化される IoT により、データ収
ーネットを通してモノに関する情報が伝わり、モ
集が高速化、広域化、常時化、一元化されること
ノの状態を認識したり、対応すべき動作を遠隔操
で、いつでもどこでも誰でも必要なデータを見た
作したり、必要となる処理を自動的に行うことが
り、その分析を行ったりすることができるように
できるようになる。
なる。
モノづくりで IoT は何ができるのか
また、過去のデータや類似の設備や作業のデー
タを大量に持っているため、現状の状態やその変
化を読み取ったデータと比較分析することで異常
モノづくりの世界では IoT はどのように活用さ
発生を検知し、予知・予防を行うことも可能とな
れようとしているのであろうか。IoT の狙うとこ
る。
ろは、大別すると①課題解決、②最適化、③価値
2.IoT の狙う「最適化」領域
創造の3つの領域が考えられる
(図1)
。
工場にあるすべての設備や作業者、ワーク、図
1.IoT が狙う「課題解決」領域
面や品質、設備能力、工程フローなどの基準類、
工場の設備や人やワーク
(材料・部品・製品)
が
生産計画や調達計画といった計画類がすべてデジ
インターネットにつながることで、それぞれがい
タル情報となって一元管理されるようになる。生
産状況だけでなく、設備のトラブルや部品の不良、
工程の生産進捗の遅れといった状況を瞬時に把握
図1 モノづくり IoT が狙う領域
し、品質・納期・コストが最適となる修正計画を
価値創造
・新社会価値
・新事業価値
計算し、作業者に対する指示を与えたり、設備に
は変更された計画をもとに加工を行わせたりする
ことで、工場全体の最適化を図ることができるよ
最適化
課題解決
・サプライチェーン全体の最適化
・工場の最適化
・予知/予防
・高速化/広域化/
常時化/一元化
出典:JMAC SF研究会作成資料
118
うになる。
このような最適化を自社の工場だけに留まらず、
サプライチェーン全体に適用することも可能とな
るのもそう遠くない。これをドイツ国内の産業界
全体で行おうとしているのがインダストリー 4.0 で
ある。
Vol.62 No.8 工場管理
特集 2
3.IoT の狙う「価値創造」領域
見えてきた!生産現場の IoT 活用
図2 スマート設備点検
販売した製品がインターネットにつながる
ことで、自社の製品をユーザーがどのように
使用しているかを知ることができる。これに
点検内容を
確認・報告
・適切な保守サービス提供
点検内容や
ビーコン情報の
登録・編集
クラウド
より、
・故障対応の迅速化
スマート設備点検
管理サーバー
ビーコンで検知した
点検項目を入力
最新点検内容
を取得
点検結果の
確認・分析
作業員からの
報告書チェック
・次回買い替え時の適切なフォローアップ
・次期モデル開発への反映
などを行うことができるようになる。
コマツが行っている、建設機械の情報を遠隔で
確認できる KOMTRAX というシステムはまさに
この考え方である。機械の位置情報や稼働状況、
モニターに表示される注意警告情報などをインタ
ーネットを通して顧客自身やコマツ販売代理店が
確認することができ、より良い製品の使い方を追
・月次報告、年度報告は都度、別途フォーマッ
トに入力して作成
・異常発生時、経験が少ないと適切な対応がで
きない
・過去の点検結果をもとにした予防予知活動に
なっていない
・点検個所と点検項目が多岐に渡り、新人はそ
求できるようになる。
の場で必要な点検表をすぐに行えないことが
このように人やモノがインターネットにつなが
ある
ることで今までにないサービスや新たな事業価値
このような課題を解決すべく、スマートデバイ
を創出することができるようになる。
ス
(本実験で使用したデバイスはタブレット)
を活
また、企業の製品やサービスだけでなく、各種
用したスマート設備点検システムを構築した。
公共機関、教育機関、医療機関、交通機関、行政
点検すべき設備や、その近くにビーコンと呼ば
機関といったところで検知されるすべての情報が
れるブルートゥース発信機を置き、タブレットを
インターネットにつながることで、病気治療・健
持った点検者が設備の近くに来ると、そこで行う
康管理、犯罪防止・事件解決、不正防止、安全確
べき点検表が表示され、点検者は画面指示に従っ
保といった多彩な領域で管理精度アップ、サービ
て入力を行う。入力されたデータはデータベース
スレベルアップが図られ、新たな社会価値の創造
として蓄積され、さまざまな目的に活用できる仕
につながる。
組みを構築した
(図2)
。
現場改善における IoT 活用事例
この仕組みによって、
・重複業務のムダ:点検結果の再入力、点検結
果を使った報告書の作成など
本稿では生産現場における IoT 活用という観点
から、IoT の狙う「課題解決」領域について、具
・管理の手間:膨大な点検結果や報告書の検索、
再分類
体例を示しながら解説する。ここでは筆者が所属
・対応の遅れ:異常発見時の連絡、対応
する㈱日本能率協会コンサルティングと㈱ジェ
・スキルのバラツキ:新人の育成、個人での作
ー・エム・エー・システムが共同で行った開発・
業方法・技能差
実証実験事例について紹介する。
を低減することが可能となる。
1.事例1:設備点検業務の効率化
また、タブレットの特徴を活かして、
ある施設では設備点検に関していくつかの課題
・画面の点検場所周りの見取り図上に、点検個
を抱えていた。
・点検記録は紙に記入し、事務所に戻って点検
結果をコンピューター入力
工場管理 2016/07
所と点検者自身の位置表示
・見取り図上にて、ヒヤリハットの気づき登録
や危険個所などの警告情報表示
119