ケルセチン高含有タマネギの認知機能改善効果

1.研究計画
超高齢社会の現代において、日本における認知症
の発症者は65才以上の人口の約10%と推定されており、
認知機能改善に有効な食事メニューや加工食品の開発
が求められている。本研究ではケルセチンの認知機能
改善効果を明らかにすると共に、効果を高める食品成
分との組み合わせ、調理・加工方法及び腸内細菌によ
る代謝の影響を明らかにする。
またタマネギは国内生産量3位の主要な野菜であり、
大きく分けて北海道の春まき作型、府県の秋まき作型で
栽培される品種群の特性が大きく異なっている。そこで、
北海道の春まき用品種であるケルセチン高含有タマネ
ギ「クエルゴールド」の日本各地における適応性を明ら
かにして普及を目指す。さらに産地において種子生産か
ら加工食品販売までのビジネスモデルを構築する。
2.到達目標
介入試験等により、認知機能、生活習慣病
の予防・改善効果を解明
日本各地でケルセチンを高含有する
栽培条件を確立
栄養指導へ導入可能な
有効性の高いメニュー開発
食品開発・産地におけるビジネスモデルの実践
認知機能や生活習慣病改善効果を実証し、食生活を介した健康の維持増進を実現する
ケルセチン高含有タマネギ「クエルゴールド」を安定供給する栽培技術を確立し、
食品開発と流通を実現する
3.研究実施体制
・ケルセチン高含有タマネギ「クエルゴールド」を用いて、
介入試験により認知機能改善効果を明らかにし、栄
養指導に導入可能なメニューを開発する。
・春まき用タマネギ「クエルゴールド」の冬まき栽培にお
ける適応性を検定し、普及可能地域での栽培条件を
確立する。
・種子生産技術及び加工食品を開発し、種子生産から
加工品販売までを統合した6次産業化のビジネスモデ
ルを構築する。
農研機構・食総研
農研機構・北農研
「月交24号」の栽培技術の開発、
栽培試験統括
生活習慣病予防機構、
腸内細菌による代謝性、
組み合わせによる効果の解明
農研機構・東北研
徳島大大学院
ヘルスバイオサイエンス研究部
東北地方での栽培適応性の解明
岐阜県農業技術センター
ヒト摂食試験による生体利用性評価
岐阜県での栽培適応性の解明
岐阜大大学院医学系研究科
鹿児島県農業開発センター
認知機能低下予防機構の解明
ヒト介入試験による機能評価
鹿児島県での栽培適応性の解明
(有)植物育種研究所
北海道情報大
商用種子開発、
食事メニュー・加工食品開発
ヒト介入試験による機能評価
食事メニュー、加工食品開発、 「クエルゴールド」の普及、6次産業化のビジネスモデルの構築を実現
4.結果(ヒト試験)
腸内菌叢によるケルセチンの代謝性(分解性)
2
タマネギ摂取前
1
ab
a
abc
abc
a
0.5
0
cd
d
abc
ab
a
a
a
abc
ab
a
abc abc abc bc
a
a
600
400
200
0
1
0h
1.5 h
3h
タマネギ摂取後
ケルセチン濃度 (μmol/L)
1.5
ケルセチン濃度 (μmol/L)
血中ケルセチン濃度(µM)
タマネギとの食べ合わせが血中濃度に及ぼす影響
2
3
4
5
被験者番号
6
600
400
200
0
1
2
3
4
5
6
被験者番号
タマネギを他の食品と同時に又は異なる献立で摂取した結果、① おからに血中ケルセチン濃度を高める効果があ
った。② スキムミルク・米飯は生体利用性を低下させない。③中華食(タマネギ入り焼飯)で緩やかに吸収された。
また、ヒトの糞便菌叢のケルセチン代謝性(分解性)には個人差が大きく、タマネギ摂取後には6人中3人のケルセ
チン分解性が低くなった。
ヒト介入試験1
ケルセチン高含有タマネギ粉末(10g)を24週間継続摂取して、認知機能改善効果を検討する
プラセボ対照ランダム化二重盲検平行群間比較試験
【対象被験者】 健常及び軽度の認知機能低下が認められる65歳~84歳の男女
ケルセチン高含有タマネギ食(被験食(ケルセチン約50mg))摂取群:30名
白タマネギ(プラセボ食(ケルセチン1mg以下))摂取群
:30名
【主要評価項目】 ミニメンタルステート検査(MMSE)、
認知機能評価尺度(即時再生機能、遅延再生機能、遂行機能、想起機能)
【副次評価項目】 脂質代謝(T-Cho、HDL-Cho、LDL-Cho、TG)、血糖(空腹時血糖値、HbA1c)、
抗酸化マーカー(酸化LDL)、エストロゲン
結果:ミニメンタルステート検査
全体解析(全被験者)
30
29
総得点(点)
総得点(点)
30
28
27
29
プラセボ食品
28
ケルセチン高含有
タマネギ
27
26
26
25
25
摂取前
層別解析(年齢が若い群)
摂取前
摂取24週後
ミニメンタルステート検査
(MMSE)とは:一般的に
使用される認知機能検
査。11の質問からなり、
見当識、記憶力、計算
力、言語的能力、図形的
能力について口頭で質
問し、被験者に回答させ
る(最高30点)。
摂取24週後
ミニメンタルステート検査の全体解析では、群間比較で変化量に有意差は認められないが、年齢中央値の層別
解析では、年齢が若い群で、摂取24週後で有意に得点変化量数が上昇した。
ヒト介入試験2
ケルセチン高含有タマネギ粉末(18g:ケルセチン約80mg)及びプラセボ白タマネギ粉末(18g:ケルセチン5mg以下)を4週間
継続摂取して、認知機能改善効果を検討するプラセボ対照非ランダム化単盲検試験
【対象被験者】 発症早期のアルツハイマー病患者 5名
【主要評価項目】 改訂長谷川式簡易知能評価、ミニメンタルステート検査(MMSE)
【副次評価項目】 一般身体所見(身長、体重、腹囲,血圧)・神経学的所見、脳MRI、脳血流シンチ、肝機能(AST、ALT、
γ-GTP)、脂質代謝(T-Cho、TG)、血糖(空腹時血糖値、HbA1c)
想起評価項目得点(点)
結果:改訂長谷川式簡易知能評価
16
1
12
8
4
1
2
3
45
2
3
45
プラセボ食品
ケルセチン高含有
タマネギ
改訂長谷川式簡易知能
評価とは:認知症のスク
リーニングに使用される
日本で作成された検査。
設問は、年齢、単語の復
唱、見当識、計算、数詞
の逆唱、想起(3単語、5
つの品物、野菜の名称)
で構成され、口頭で質問
し、被験者に回答させる
(最高30点)。
0
介入前
介入後
長谷川式簡知能評価の総点数変化では、ケルセチン高含有タマネギ摂取前後で有意差は認められないが、
想起評価項目(3単語、5つの品物、野菜の名称)において、ケルセチン高含有タマネギ摂取後に点数が有意に
増加した。
1.栽培試験
「クエルゴールド」は春まき用品種として開発されており、秋まき栽培では栽培期間中の低温により「抽だい」し、商品収量が低く
なる。そこで、「クエルゴールド」を本州で生産するために、開発中の冬まきの作型で栽培試験を実施した。
本州におけるクエルゴールドの栽培暦 (冬春まき栽培)
冬まき栽培
秋まき栽培
本州
春まき栽培
北海道
育苗
育苗
生育
生育
肥大・収穫
肥大・収穫
北海道札幌市
(N43°E141°)
低温期
育苗
生育
肥大・収穫
9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月
岩手県盛岡市
(N39°E141°)
クエルゴールドのケルセチン含量
試験地
岐阜県岐阜市
(N35°E136°)
北海道
岩手県
栽培試験における
試験地
鹿児島県鹿屋市
(N31°E130°)
岐阜県
鹿児島県
ケルセチン含量 (mg Q/gDW)
クエルゴールド もみじ3号(対照)
4.5
5.0
4.6
5.9
裸地栽培、2ヶ年平均
2.2
1.9
2.0
2.6
左:クエルゴールド、右:もみじ3号(対照)
ケルセチンを高含有する「クエルゴール
ド」では可食部が黄色を呈する
低温遭遇期間を減少させる冬まき作型であれば抽だいの発生が抑制され、いずれの地域でも「クエルゴールド」
の生産は可能であった。しかし、球肥大時期に降雨の多い地域では、雨よけ等の対策が必須である。
全ての試験地、複数の年次においても、「クエルゴールドの」ケルセチン含量は安定して高かった。
2.商用種子生産技術および加工食品の開発
植物育種研究所ホームページより
商用種子生産技術を開発し、平成27年12月より種子販売を開始した。また、加工食品の開発を行っている。
問い合わせ先:
1) 「クエルゴールド」種子販売
植物育種研究所 (URL: http://ikushu.com/)
2) 品種(「クエルゴールド」に関して)
農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 水田作研究領域 室 崇人 (電話:011-857-9306 )
3) その他全般
農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食品機能研究領域 小堀 真珠子 (E-mail: [email protected]