BOJ Watching

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逆境の金融政策
日本銀行分析レポート
発表日:2016年6月16日(木)
~6月16日の日銀政策会合を受けて~
第一生命経済研究所 経済調査部
担当 熊野英生(℡:03-5221-5223)
6 月の会合は、追加緩和が行われず、円高が一時的に 1 ドル 103 円台まで進んでしまった。FRBが利上げを思う
ように進められず、日銀もその煽りを受けて円高圧力にさらされている状況にある。目先の英国のEU離脱問題で、
日銀が静観を決めたことで、為替市場はどこまで円高に進めるのかを試しにかかっているように見える。
円高との戦い
6 月の決定会合は、現状維持となった。6 月 23 日に英国のEU離脱の国民投票を控えて、為替が円高に向かいや
すい流れにある。事前に、日銀の追加緩和予想はほとんどなかったように思えるが、やはり日銀が現状維持を決め
ると、ドル円レートには円高圧力が働いた。決定会合直後は 1 ドル 103 円台に突入するなど、5 月初のレベルを抜
いてさらに円高が進む動きになった。筆者は、総裁会見で、円高をけん制する発言をすると思ったが、会見を見る
限りは穏当なものだった。円高進行は「物価上昇率 2%の達成に好ましくない」というくらいであった。今回の日
銀の決定は、ひとまず英国の国民投票の結果を見極めたいというものだろう。仮に、EU離脱となって予想外の円
高に見舞われたときには、EU離脱から 1 ヶ月程度が経過した後にはなるが、7 月末の会合で追加緩和に動かざる
を得なくなる。現時点では、米国から通貨切り下げ競争をけん制する縛りが強いとしても、為替レートが誰が見て
も行き過ぎた円高になれば、けん制効果を振り払ってでも、追加緩和に踏み切る大義名分が立つ。もっとも、超円
高を待ってから追加緩和をするのでは、円安圧力は限定的にならざるを得ない。だから、人によっては、日銀には
先手先手で動いて欲しいという期待感を持っているのだろう。そうした先手を打てなくなっているところに、黒田
総裁の神通力が落ちた原因があるように思える。
FRBとの一蓮托生
日銀が逆境にある理由は、FRBの利上げがうまく進まなくなっているからだ。もともと年 8 回の日銀会合の日
程は、FOMCと重ねてあるように見える。ここには日銀がFRBの利上げに合わせて追加緩和を打てば、ドル
高・円安圧力を相乗効果で働かせやすく出来るという思惑が隠れている。反面、FRBの利上げが順調ではなくな
ったときは、しっぺ返しのように日銀は円高圧力を我慢しなくてはいけない状況に追い込まれる。今はまさにそう
した逆境なのだ。
FRBの利上げは 2015 年 12 月に 1 回目が行われて、すでに半年間も 2 度目の利上げに動けずにいる。利上げが
1 回で頓挫することになれば、FRBの歴史でも類をみない出来事になる。日銀は、FRBの逆境も一緒に背負い
込んでしまったところに芽はあった。
では、FRBが 9~12 月のどこかで利上げに踏み切れば、日銀に自由度が生まれるのか。6~8 月までは円高基
調のままで動けずに様子見をするしかないのだろうか。恐らく、秋になれば、安倍政権は大型補正予算を用意して、
景気重視の構えを強める。日銀にもここで歩調を合わせて欲しいと考えるだろう。一方、米国からは余計にドル高
圧力を働かせて欲しくないという意向が、利上げの前後、あるいは米大統領選挙のときに強まっていく。日銀にと
っては、次なる局面もまた「いばらの道」になりそうだ。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載
された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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マイナス金利の時間軸
日銀が逆境にあるもう一つの理由は、マイナス金利政策を止めるに止められなくなっていることにある。筆者は、
マイナス金利政策を前向きに評価する声を全く聞かない。特に、金融機関からは強い批判がある。総裁会見では、
またもや「銀行収益への直接的な影響は限定的であり」、「2015 年度の銀行決算はかなり高収益」という大本営
発表が繰り返された。必要だという意見の多い消費税率の引き上げが先送りされて、必要だという意見がないマイ
ナス金利政策がこのまま 2019 年 10 月まで続くとすれば、これほど矛盾した話はない。日銀が長期金利の機能を働
かないようにしたから、長期金利上昇を警戒することなく、安倍政権が増税延期を決めることができたという批判
は多く見られる。
6 月の会合は、増税延期が決定されてから初めての会合になる。筆者は、マイナス金利政策をここで撤回するワ
ンチャンスがあったと考えていた。それがなかったことで、かえってマイナス金利政策が少なくとも 2019 年 10 月
まで続くのではないかという見方が強まっている。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに
足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載
された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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