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氏名
中島主恵・Kimie Nakashima・ナカシマ キミエ
所属・役職
海洋科学系 海洋環境学部門 環境システム講座 准教授
研究分野
(キーワード)
非線形解析 偏微分方程式 楕円型方程式 放物型方程式 反応拡散系
特異極限 界面運動
写真
研究1:空間非一様な非線型反応拡散系における定常遷移層,スパイクの研究
非線型反応拡散系において拡散係数を微小にすると,方程式系の解が遷移層やスパイクなど
の際立ったパターンを形成することが知られています.遷移層とは解の値がほとんど不連続にみ
えるほど急激に変化している部分をいい,スパイクとは非常に鋭い突起の部分をいいます.この
ような現象を凝集現象と呼びます.本研究では空間的に非一様な非線型反応拡散方程式がうみ
だす凝集現象について研究します.
拡散は一般に均一化を促すと考えられています.実際に単独の自励系においてはこの事実を
裏付ける結果が数多くあります. 70年代から現在に至る国内外におけるさまざまな研究により,
凸領域上の安定定常解は定数解に限ることが明らかになりました.``安定定常解なら自明解であ
る“というこれらの結果は, 単独方程式において拡散はパターン形成を抑制する働きをもつことを
示唆しています. 一方反応項が空間に対して非一様な場合には``安定定常解なら自明解である”
という事実は成り立たず, 定常解は安定であっても実にさまざまな形状をもちうることもよく知られ
ています.空間非一様性が拡散と微妙なバランスをとり空間パターンをうみだすのです.方程式
の空間非一様性は,定常解全体の構造を豊かなものにすると期待し,本研究では``非一様性”を
研究テーマにします.如何なる空間非一様性を方程式にあたえると如何なる変化が解にもたらさ
れるのか?この問題にたいし次のようなアプローチを用いて研究を進めます.
1. 空間非一様性と定常遷移層や定常スパイクのあらわれうる状況,あらわれえない状況を明ら
かにし,それを数学的に記述します
2. 定常遷移層や定常スパイクのあらわれる位置と定常解の安定性がどのような関連性をもつか
を研究します
研究2:反応拡散系の解が形成する遷移層の運動に関する研究
双安定型とよばれる反応拡散方程式系において拡散係数を微小にすると,解はきわめて短時
間のあいだに遷移層を形成します.いったん形成された遷移層はある法則にしたがい運動をはじ
めますが, この運動は拡散係数を極小とした特異極限下であらわれる界面方程式により決定され
ます.界面方程式がどのようなものであるかは,もとの反応拡散系によります.例えばもっとも単純
な双安定型拡散方程式に現れる遷移層の運動を決定する界面方程式は微分幾何学における平
均曲率流方程式になります.この事実は物理学においては1979年に発見されていましたが, これ
らのことが数学的に厳密に扱われるようになったのは比較的最近のことです.単独の方程式に関
しては国内外でさまざまな研究がすすめられており,現在までに多くのことがわかってきました.し
かしながら連立系(2つ以上の未知関数に関する反応拡散方程式)にたいしての研究はまだ少な
く,これからいろいろな研究が発展することが期待されます.この研究では競争関係にある2種の
生物の個体数密度を記述した競争系とよばれるモデルを扱います.競争系は双安定型に分類さ
れます.この競争系を空間非一様な状況で考え,形成過程,運動過程をとおして解の一連の挙動
を数学的に厳密に記述することを目標とします.
研究3:Corner Layer に関する研究
以上のように拡散係数を無限小とした状況下での遷移層に関する研究は国内外ですすめられています
が,競争系において現れるのは遷移層だけではありません.競争係数を無限大とすると「Corner Layer(角
遷移層)」 をもつ解が現れます. 遷移層とは解自身がもつギャップのことですが,Corner Layer とは解の微分
がもつギャップのことです.拡散係数を0とした極限下では解の微分は不連続となり解自身は角をもちます.
この現象のごく初期段階において Corner Layer が形成され.その後 Corner Layer はある運動をはじめます.
この運動はある自由境界問題の解につかさどられるのですが,これら一連の現象を数学的に厳密に証明
します.
教育
学部での教育内容:1.微分積分学,
2.線形代数学
3.偏微分方程式(熱拡散方程式,波動方程式,ラプラス方程式)
大学院での教育内容: 反応拡散方程式系とその応用
学生の
みなさんへ
数学といえば「基礎からの積み重ねが大切」「わからないところまで戻って勉強しなおせ
ばできるようになる」などといわれますよね.もしかしたらこうした言葉にディスカレッジ
されてしまったのかもしれませんが,生物は好きだけど数学は嫌いという学生さんに時々会
います.勿論積み重ねは非常に大切ですし,知識があるのに越したことはないのですが,実
際に数学を勉強したり研究したりするには,そんなに広範囲な知識が必ずしも必要というわ
けではないと思います.わからないところは、そのことをよく知っている人に聞いたり,ある
いは調べる方法を教えてもらったほうが,家で最初から教科書を読みなおすより早いと思い
ます.数学のよくできる学生さんは勿論大歓迎ですが,数学が得意でない人もぜひ話しに来
てください.