第 12 回 情報格差(Digital Divide)とその克服(地域)

情報化社会と経済
IT 革命と情報化社会
第 12 回
情報格差(Digital Divide)とその克服(地域)
1、ブロードバンド戦略から利活用へ
(1)ブロードバンド戦略と情報格差
2001 年には政府に発表された「e-Japan 戦略」以降、ブロードバンド=高速
ネットワークインフラの整備の他、電子商取引の推進、電子政府の実現などの
政策目標が掲げられた。その結果、特に FTTH(光ファイバーケーブル)を中
心としたブロードバンドを中心としたネットワークインフラ(情報基盤)の整
備は進んだ(第 1 回、第 11 回参照)。近年ではスマートフォンの普及などに伴
い、無線通信でのブロードバンド化が急速に進んでいる。
図 12-1
ブロードバンド契約数の推移
『平成 26 年度版情報通信白書』より
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一方で、ブロードバンド戦略などの情報化戦略は「民間活力」を中心に進め
られているため、採算性のない地域における情報インフラの格差や、そこから
生じる経済格差、地域格差が心配される。
表 12-2
ブロードバンド普及率の比較
出典:中国地域のブロードバンドサービスの普及状況(平成 27 年 6 月末現在)
総務省中国総合通信局報道発表より
採算性のない地域への情報インフラ整備は今後も求められるが、情報格差の
克服だけで経済格差の克服になるとは限らない。むしろ
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(2)地域情報化:ブロードバンド整備から利活用へ
ブロードバンドの整備を中心とした情報ネットワークインフラの格差克服だ
けが地域経済の活性化にはつながらない。むしろブロードバンド普及による情
報の一方的な需要者になることが、地域経済の空洞化、経済格差の拡大を生み
出すことにつながることが心配される。IT と地域経済を考える際には、単に情
報ネットワークインフラの普及だけではなく、そのインフラの利活用の側面が
重視される。
既にブロードバンドに代表される IT(ICT)を活用した
地域振興、地域経済活性化の取り組みは徳島県上勝町「い
ろどり」における産地情報・生産技術、販売情報の共有化
を図る生産情報ネットワークシステムの構築1、大分県大山
町の CATV によって公共施設を中心とした情報ネットワー
クの構築2、高知県馬路村の特産品の「ゆず」ぽん酢醤油と
して製品化し、これをユニーク
な Web とコールセンターによ
り情報発信力を高め産業と観光振興と、
「村をまるご
と売る」という地域ブランドコンセプト3、など全国
各地でいくつかの先進的な事例が見られる。→課題
また最近ではテレワークの普及(第 11 回)の中で過疎地域でも光ファイバー
を中心としたブロードバンドの整備によって都会の IT 企業の誘致を進め定住化
につなげようとする取組もある。代表的なものが徳島県神山町の「グリーンバ
レー構想」4で、島根県の美保関町でも同様の取組が進んでいる5。→課題
http://www.kaso-net.or.jp/it/kamikatu.htm 参照
http://www.kaso-net.or.jp/it/ohyama.htm 参照
3 http://kokubo.seesaa.net/article/13306866.html
参照
4 神山町の取組は
in Kamiyama http://www.in-kamiyama.jp/about-us/ を参照。
5 クラウドワークス開発合宿 in 美保関
http://engineer.crowdworks.jp/2014/10/30/development-camp-2014.html 参照
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2.IT 革命と地域の課題
(1)電子商取引(e コマース)と地域の課題
電子商取引は中小企業や地理的にハンディのある地方の企業がビジネス・チャ
ンスを拡大する可能性がある。楽天市場に見られるように、少ない資金で、IT
の専門的知識がなくても e コマースを始められる可能性があるが、e コマースの
拡大は同時に競争が激化することも意味し、この分野で生き残っていくために
は耐えざる経営努力は不可欠である。
e コマースによって店舗開設は容易になったものの、実際には単に注文を得る
だけでなく、受注から納入、代金回収に関する体制が整っていないと苦情がす
ぐ寄せられる。また SEO や SEM(第 8 回参照)などへの対応や、顧客情報を
活用してマーケティングに生かすためのノウハウも高度な経営知識が求められ、
顧客ニーズの把握と在庫のコントロールも厳しい課題になっている。
(2)テレワーク・クラウドソーシングと地域の課題
ブロードバンドなどの高速インターネット環境を活用したテレワークによっ
て地理的、年齢、性別、障害の有無などによるハンディを克服し、ソフトウェ
ア、コンテンツ制作などを中心に知的資産・サービスを供給することが可能で
ある。実際にも女性や高齢者、障害者、あるいは過疎地域でテレワークを活用
して仕事を獲得している事例は見られる。
さらに、テレワークを利用した女性の在宅での就労支援は、U・Iターンの
促進にもつながるものである。都会の教育機関や企業などでの就労でスキルを
身につけながら、地方へのU・Iターンを希望している人は潜在的には数多く
いると考えられる。これは就業者数という数字だけには表れない雇用効果と所
得効果を生み出すものであり、また少子・高齢化の流れを押しとどめる可能性
ある。
一方でテレワーク、さらにクラウドソーシング(第 11 回参照)は IT によっ
て可能になる「企業形態」であり「雇用形態」であるが、IT 自体の技術革新と
サービスの普及・拡大を背景としており、これはネットワークの拡大とともに
進む絶えざる技術革新と市場獲得の競争への対応も求められることを意味して
いる。仕事の内容自体もソフトウェア開発やデジタルコンテンツ制作を中心と
した IT 系の業務であり、教育と仕事を併行して行わないと時代の流れに追いつ
けない状況があり、その点で働きながら学び、学びながら働き、技術力を向上
させていくことが強く求められており、これがまたテレワークやクラウドソー
シングを進めていく場合の定住化対策、さらに地域経済振興の課題である。
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