成果 - 宮崎大学

授乳期・離乳期における家族の「食と健康」と
次世代への「食の伝承」についての教育プログラム
~宮崎県の農村における高齢者の語りから~
研究の背景及び目的
宮崎県は、農産物・畜産物の宝庫であり、授乳期・離乳期に適した食材の生産が盛んである。しかし、栄養問題として野菜摂取量、果物摂取量、カルシウム摂取量、鉄分摂取量が目標値に達しておらず、カルシウムや鉄の不足は
授乳期や離乳期の栄養に影響するものであり、摂取量の上昇が必要である。
また、児の味覚形成が始まる離乳食は、母親にとって「作るのが苦痛・面倒」、「食べるものの種類が偏っている」と調理の負担が大きく、ベビーフードを「よく使用した」、「時々使用した」を合わせると7割を超えている(厚生労働省平
成17年乳幼児栄養調査)。授乳期・離乳期の児にとっては母乳や離乳食がその後の健康や食行動に影響する。
そこで、宮崎県の農村おける高齢者の語りから、大正末期から昭和初期の授乳期・離乳期における家族の「食と健康」および「食の伝承」について明らかにし、大学生を対象に、次世代に「食の伝承」を進める一貫として、授乳期・
離乳期の食の伝承教育に取り組む。
実施状況
結果
研究方法
1. 研究対象および期間
西都地区に在住の育児経験のある70歳以上の女性を対象に、2016年2月~3月に面接調査を行った。
2. 調査方法および内容
個別もしくはグループインタビューを行う。面接内容は、下記項目であり、これについて半構造化面
接を行い、記述的質的分析を行った。
①属性、②子育て期間の年代、③居住年数、④食に関する活動の有無
⑤授乳期・離乳期の食や食行動、⑥授乳期・離乳期の食に関しての家庭やコミュニティにおける伝承、
⑦ハレ食や行事食について、⑧今後、受継いでいきたい妊娠期・授乳期の食や食行動など
3. 倫理的配慮
同意説明文書を対象者に渡し、文書および口頭による十分な説明を行い、対象者の自由意思によ
る同意を得て行った。承諾を得たうえで会話内容の録音およびメモを取った。(承認番号2015-151)
4. 教育的取組
農村における高齢者の語りから離乳食をアレンジし、学生に体験させる取り組みを行った。
【調査対象者の属性と背景】
① 調査対象者は、70歳代5名、80歳代4名であった。
最低年齢は、72歳、最高年齢は、89歳である。
② 子育て期間の年代は、昭和22年以降であった。
③ 居住年数は、平均最低で30年間、最高で89年間であった。
④ 対象者は、全員が西都市食生活改善推進員の活動を行っていた。
活動期間は、最低で13年間、最高で22年間であった。
【高齢者の語りにおける授乳期・離乳期の「食」と「食の伝承」】
妊娠期
授乳期
離乳期
母親の食事
白米、菜食中心の食事
普段と変わらない食事
「妊娠しても、子が出来てからも、
そんなに(食事内容が)変わらん
かった。」
「あるもんを食べてましたよ。」
コミュニティにおける手本となる人の存在
「味噌汁、煮つけやら、漬けもんやらですね。」
『この辺は、海がないから行商がたまに売りに来て「干物」を1週間に1~2回くらいかな、食べて
た。』
『子が産まれたら、近所ん人がお祝いに「初卵」を持ってきてくれた。』
「1年に1升は「大豆」を食べろって言いよりましたね。「豆腐」は、作りよったね。」
『とにかく、「ご飯」はいっぱい食べてましたね。今ん人が馬鹿じゃないかと思うくらい。』
「住込みの人たちがおったから、小さい頃(8歳から9歳頃)から手伝いよったよ。
おかずやらも1人で作りよったね。じゃないと、人手が足りんかったもんね。」
『私が高校生の時には、姉が嫁いで子どもがいたから、「あぁ、ああしてするん
だ。」って思ってましたね。いい手本がいました。』
「近所に色々詳しい人がいて、その人に習いよった。その人のおかげよ。」
子の食事
現代とさほど変わらぬ食材と工夫
コミュニティによる協力や工夫
「私は、よけい乳が出たからいいけど、足りん人はよくもらい乳に私の所に来よった。」
「(乳が)足りん人ん子はやせちょって、かわいそうやった。」
『足りん人は、もらい乳やら、「米」を煎って挽いたのを薄めてやりよったね。』
「なんでもあるものを取り分けて、あげよったね。」
『「大豆」を煎って、「ゴマ」と挽いたものをふりかけてよく食べさせよった。』
『「いりこ」とかもある時には、挽いてふりかけよったね。」
【農村の高齢者の語りから、乾物を使った離乳食の学生の体験】
乾物を粉砕したものをアレンジし、聞き取った離乳食を5品調理した(図1)。調理した離乳食を学生に試食して貰い、アンケートによりその評価を記入して貰った。
学生は、「香りがよく、素材の味がする。」、「砂糖なしで甘い物を摂取できるのは良い。」、「手間がかからず、簡単でいい。」、「こういう離乳食が自分で作れると良い。」など、市販と比べても
手間がかからず、より美味しいという感想であった(表1)。
表1 学生の感想
図1 乾物の粉砕による離乳食
とっても香ばしい!
素材の味がする!!
1.米の香煎の重湯
お餅のような香りがして、飲みやすく美
味しかった。
お米が香ばしくて、美味しく感じた。
昔ながらのミルクの代用ということで、す
ごい知恵だと思った。
香りが良かったが、食べにくい。
少し粉っぽさはあるが、食べ辛さはなく
良い味だった。
3.かつお節と昆布のスープ
素材のそのものの味で美味しかった。す
ごく繊細な味だった。
香りが良かった。薄めの昆布茶を飲ん
でいるようだった。
薄味でも大人が食べておいしいと思える
味だった。
味が薄いけれど、栄養が摂れるのでは
ないかと思った。
5.マカロニのバナナアチップス和え
甘くておいしく、今後も食べたいと思った。
最も味が分かりやすく、美味しかった。
美味しくて、マカロニの硬さの調節がし
やすいと思う。
甘味があり、とても食べやすく、日常的
におやつとして食べたいと思う。
目標の達成度及び成果
本年度、当初計画では、「妊娠 期・授乳期・離乳期の家族における食や食文化について調査」し、宮崎県において「妊婦、
乳児を持つ母 親への食の健康教育プログラムの実践」を取り組むことを目的としていたが、調査の遅れがあり、大学生を
対象に、次世代に「食の伝承」を進める一貫として、授乳期・離乳期の食の伝承教育に取り組んだが、地域でのプログラ
ムの実践までには至らなかった。現在、食生活改善推進員を対象とする質問紙調査(約650名対象)を配布しており、本
調査インタビューについても、新年度には,調査結果をまとめ、可能な部分 から報告していく予定である。それを踏まえた、
2.いりこと昆布のお粥
お粥とマッチしていた。
見た目も香りも良かった。
味は薄いけれど、栄養が摂れるのでは
ないかと思った。
いりこの味が強く、普通に美味しく感じ
た。
良い香りがした。味がしっかりついてい
る感じがした。
4.きな粉と黒ごまのおにぎり
見た目も味も良く、美味しかった。
風味が良く、お米に合っていた。
手間がかからず、簡単に作ることがで
きそうな一品だと 思う。
きな粉が甘くておいしかった。
砂糖なしで甘い物を摂取できるのは良
いと思った。
6.その他
今後の課題及び展開
調査内容を基に、宮崎県の農産・水産物を活用し、それら栄養の教育のみならず、簡単な調理方法など活用
できるものを考案し、教材化を図っていく。また、地域における現代の母親や子どもおよびその家族が地域の
食や食文化に触れる機会として、食生活改善推進員や保育所などと連携し、食の伝承と食における健康づくり
の推進プログラムを構築し、活動していく。
・
所属 : 宮崎大学医学部看護学科 母性(助産専攻)看護学講座
<問い合わせ先>
・
名前 : 〇松岡 あやか、兵頭 慶子、水畑 喜代子、永瀬 つや子、金子 政時
みやだい COC 推進機構
・
地域志向教育研究経費区分 : 地域教育推進型
Tel: 0985-58-7250
対象となる領域 : 地域志向教育領域
調査地域は農村であり、戦時中なども
米の不足などはなく、米や菜食中心で、
良質のタンパク質を摂取していた。妊娠・
出産におけるお祝いとして、卵などの御
裾分けなどが行われ、コミュニティにおけ
る協力がされていた。授乳においては、
粉ミルクが全国的に普及したのは1950年
代以降であり、第2次世界大戦前や戦中
においては一般的ではなかった。母乳不
足などの場合、米の香煎を熱湯で溶かし
与えており、限られた食材や資源におけ
る工夫がされている。
昭和初期においては、現代の様に育児
に関する情報がない中で、お手本となる
存在が近くにおり、コミュニティにおいて授
乳期・離乳期における「食の伝承」がされ
ている。宮崎県の農産・水産物を活用し、
それら栄養の教育のみならず、簡単な調
理方法など活用できるものを考案し、現
代の母親に伝承していきたい。
こういう離乳食が自分で作れると良い
と思った。
離乳期のおやつは難しいイメージだっ
たが、簡単に美味しく作れそうだと思っ
た。
次世代に向けた「食の伝承」についてのプログラムを行っていく。
・
考察
住所:宮崎市学園木花台西1-1
E-mail: [email protected]