SSTA全国特別研修会 第7期 基調提案

【SSTAの目的】
科学が好きな子どもを育てる教育を推進する会員相互の研究・研修活動の交流を密にし、我が国
の科学教育の振興と科学的文化の進展に寄与する
【全国特別研修会の目的】
1,科学教育の実践者として提言できる研究,先進的な授業実践が行える教師を育成する。
2,地域の科学教育推進の中心となり,これからの科学教育を担う教師を育成する。
3,学校教育現場での指導的な立場になれるような人間性豊かな教師を育成する。
《
研究テーマ
》「科学が好きな子どもを育てる授業の創造」
《
サブテーマ
》「子どもの学びがつながる単元開発」
【テーマ設定の背景】
・これまでの研修において、その内容は教材をどうするかに重点が置かれ、学びの主体である子どもの
学びが不在になりがちであったことがみられました。特に指導要領の移行期に多く見られました。
・子どもたちの発達の段階を踏まえ、小・中・高等学校を通じた理科の内容の構造化が図られ、各単元
における位置付けが明確になったことを意識すべきです。
・「科学が好きな子ども」は、単なる嗜好を表すものではなく、これまでにも育まれてきた科学する心
に立った育みたい人間像を包含しています。
(1)私たちは,日々の授業を通して,どのような人間を育成しようとしているのでしょうか?
テーマを具現し、子どもの学びがつながることで、どのような人間を育成していくことになるの
でしょうか。私たちがめざす人間像を理科の視点を通して考えると、具体的に以下のような姿が浮
かんできます。
□自然の事物現象に感動でき、科学を基盤とする諸問題に興味をもち続けている
□物事を素直にとらえ、自分の利益や周囲の状況如何によらず、真実を決してごまかさない
□自ら問題をもち、その問題を解決しようと努力を続ける
□既成概念による思い込みを排除し、予断無く判断できる(事実に基づいて判断できる)
□多様性を認め、異質なものに学べる
□生命を大切にする
□科学やテクノロジーが人間の努力の賜であり、社会や個別の人への影響を認識している
□俯瞰して全体を見通し、全体最適を指向することができる
□自然に対する見方・考え方が変わることを肯定的に捉え、更に成長しようとする向上心をもち続
ける
(2)子どもが学ぶということは?
次に、サブテーマである「子どもの学び」について、理科の教科特性という観点から考えてみま
しょう。理科の学びは、自分のそれまでもっていた知識や理解、見方や考え方を出発点としながら、
それを科学的に改変していく営みであるといえます。その過程は、「自然(物質、物体、生命、エ
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ネルギー、時間・空間、地球・宇宙)とのかかわり」
「科学とのかかわり」
「生活とのかかわり」そ
して「仲間とのかかわり」を大切にした、問題解決であると考えます。
子どもたちは、それまでの知識や理解、見方や考え方と新たに出会う事物や現象との間にある矛
盾、若しくはその現象の捉え方が仲間とズレていること、生活経験とは異なる違和感などにより自
ら問題解決に駆り立てられていくでしょう。
(3)子どもの学びを「つなぐ」ことが、なぜ重要だと考えるのか?
サブテーマでは、上述したような「子どもの学び」を「つなぐ」ような単元構想を考えることに
なっています。では、
「子どもの学び」が「つながる」ことが、
「科学が好きな子ども」を育てるこ
とになり、
「目指す人間像」を具現することにつながっていくのでしょうか。
「学びがつながる」ということを、次の3つの視点から考えてみます。その3つとは「単元内で
のつながり」
「単元(学んだこと)と生活との間のつながり」
「単元と単元(かつての学びと今学ん
だ事)とのつながり」です。
「単元内でのつながり」(問題解決の活動のつながり)
単元の中で、学びがつながっていくことで、対象となる自然の事物・現象に興味をもち続け、自
分で問題を見出し、主体的にかかわり、問題を解決していくという、自分事の問題解決が具現でき
るでしょう。
指示されて得た表面的な知ではなく、試行錯誤の中で自分の考えが通用しない経験や他から学ぶ
経験、理想値と実験値では差異があることなど身をもって知ることで、物事を素直にとらえ、自分
の利益や周囲の状況如何によらず、真実を決してごまかさないことの大切さ、自ら問題をもち、そ
の問題を解決しようと努力を続けることのすばらしさ、既成概念による思い込みを排除し、事実に
基づいて判断することの重要性を獲得していくことになるでしょう。
「学びと生活とのつながり」
学んでいることと生活との間につながりを見出すことができれば、自然、科学やテクノロジーの
恩恵を受けて、自分たちが生活していることを実感することができ、自然、科学やテクノロジーの
重要性について考えることができるようになるでしょう。それは科学を通して広がった世界を俯瞰
して見ることにもなり、相互関係の中で「活かされている自分たち」を知ることにもなるでしょう。
その中から全体が最適になることがそれぞれの部分をも最適にしていく基盤であることをつかん
でいくでしょう。
「単元と単元とのつながり」(科学概念(内容)のつながり)
単元と単元との間には、時間的な隔たりがあります。しかし、教師の手立てによって、単元間が
つながっているような意識をもつことができれば、さらに、対象となる自然の事物現象についての
興味・関心が高まり、科学的に探究することができるようになるでしょう。また、教師が単元間の
つながりを意識して授業を展開していることで、一見すると関係のないような発言の中にも、重要
な関係性を見出す子どもや生徒もいるでしょう。表面的な部分だけではなく、より深いところで関
係し合っていることをつかむことで自然のすごさや緻密さにも触れ、畏敬の念をもつでしょう。
このように、子どもの学びのつながりを支える単元構想を考え、そのような授業を展開していく
ことは、私たちが目指す人間像を具現することになると考えます。その人間像こそ、「科学が好き
な子ども」ととらえ本テーマを設定しました。
「科学が好きな子ども」を育成するために、今回のサブテーマの視点から迫っていくと、上述し
たように、「単元内でのつながり」「学びと生活とのつながり」「単元と単元とのつながり」といっ
た、いくつかの視点が見えてきます。各班がどのような視点に重心をおいてサブテーマに迫ってい
くかにより、単元の終末で望む子ども像は異なるでしょう。これまでのSSTAの研修では、科学
が好きな子ども像を大きく設定しすぎたため、検証授業において、どのような子どもの姿を具現し
たいのかが曖昧になってしまったことがありました。第7期の研修においては、各班において考え
た「科学が好きな子ども像」(求める人間像)をもとに、単元の過程において科学的なものの見方
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考え方や子どもの様態がどのように変容するのかを具体の姿で示すことができるように研究を進
めたいものです。
【生活】
【生活】
自然
科学
【単元2】
テクノロジー
【単元1】
子ども
生徒
【既習単元】
【既習単元】
(4)先進的な授業づくりとは?
第7期では、「子どもの学びがつながる単元開発」に視点を当て、先進的な授業づくりをするこ
とが研究内容となります。
では、「先進的」をどうとらえたらよいでしょうか。
ここで述べる「先進的」とは、学習指導要領を大きく逸脱して、今まで誰も取り組んだことのな
いような奇抜な単元を開発してほしいという意味ではありません。大切にしたいのは「日本の子ど
もが来るべき日本や世界の未来に寄与できるようになるためにどのような力をつけていくべきな
のかさらに一歩踏み込むこと」と考えて頂ければと思います。この研修は、2年間の中で、実際に
考えた構想にしたがい、自校にて授業を行い、その子どもの姿をもとに、自分たちの主張を再考す
ることになっています。実現不可能な計画を立てても、自分たちばかりでなく全国の理科教員には
活用して頂くことができません。みなさんの構想をみた先生方が「よし、これは科学が好きな子ど
もを育成するうえで、有効かもしれない。取り組んでみよう」と思わなければ全国から集まって頂
いた甲斐もありません。
「先進的」とは、明確に整理されていなかったことや、新しい視点を盛り込んだ単元構想(実施
可能なもの)、今の理科教育の課題に視点を当てたものなどを指します。各班において「先進的」
という意味を考えながら、提案をしていただきたいと思います。
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「先進的」ということを考えた時、「先行事例」にどのような実践があったかを知ることは非常
に大切なことです。
「温故知新」
。SSTAの先輩たちが考え出した単元構想、授業構想もぜひ振り
返ってみましょう。歴史と同じように、全く同じではありませんが形を変えながら似たような取り
組みは以前から繰り返しおこなわれていることが多くあります。それらを真似てはいけないなどと
言うことではありません。有効的に掘り起こし、手を加えることは大切な事です。その経過の中で
先人に敬意を表し、謙虚な気持ちで研究を進めたいものです。
これまで全国特別研修会では、粒子単元やエネルギー単元などを中心に単元開発をおこなってき
ました。本年度は、生物分野にも焦点をあてて取り組んでいきたいと考えます。
まずは、自分たちの班が担当する単元において子どもの意識と学びがどのようにつながり、その
ことによって目指す子ども像に近づくよう追究をおこなうように願います。それぞれの単元が系統
でどのようにつながっていくのか、生活とどのようにつながっていくのかについては単元の追究過
程でもしくは単元の終了時に考えるとよいでしょう。その際には系統内で前からのつながりや次へ
のつながりがどのようなものであればよいか十分話し合う必要があります。
生命
地球
エネルギー
粒
子
生活科
生命に関する題材
3学年
身近な自然の観察
太陽と地面のようす
光の性質
磁石の性質
4学年
季節と生物
天気のようす
5学年
発芽・成長・結実
天気の変化
電流のはた
らき
6学年
生物と環境
電気の利用
中学校
植物の世界
光の世界・
音の世界
生物の変遷
天気とその変化
電流と磁界
自然の中の生物
自然環境の変動
いろいろなエネルギー
ここまで述べてきた「科学が好きな子どもを育てる授業の創造」を目指す「子どもの学びがつな
がる単元開発」は「科学教育の実践者として提言できる研究、先進的な授業実践が行える教師を育
成する。」という目標に関わる取り組みです。
本研修会はさらに地域の科学教育の中心となり、これからの科学教育を担い、学校教育現場での
指導的な立場になれるような人間性豊かな教師の育成も目指しています。当然、単元開発をおこな
う中で互いが影響しあい、高めあっていくことでこれらの目標がある程度達成されることは第6期
まででもみられました。これに加えて今期は具体化した取り組みを考えたいと思います。
本会の趣旨を踏まえて各支部の支部長が送りだしていただいた皆さんは、各地域から集まった
「これからを担う精鋭」として期待をかけられている方々と言えます。既に地域の中心的な存在と
して活躍されている方もいらっしゃると思いますが、ここで自分たちがそれぞれの地域に戻った時
にどのようなことができるのか、どのように輪を広げていくことができるか、人を集め、あるべき
理科教育を広げるにはどうすればよいのか、考えて頂きたいと願っています。そのような実践や行
動の事例を発表しあい互いに影響を及ぼしあうことも重要と考えます。
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